老人性眼瞼外反症 症状診断治療と生活上の注意点

老人性眼瞼外反症の病態診断治療

老人性眼瞼外反症の概要
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病態とリスク

下眼瞼の加齢性弛緩を基盤に、角膜・結膜障害や流涙を起こすメカニズムと、ドライアイ・角膜感染症などの併発リスクを整理します。

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診察と検査の要点

Pinch testやSnap back testなどの理学所見、原因分類、重症度評価のポイントを確認し、類似疾患との鑑別のコツをまとめます。

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治療戦略とチーム連携

水平眼瞼短縮術・lateral tarsal strip術などの手術オプションに加え、保存的治療、自宅ケア指導、多職種連携の実践的ポイントを解説します。

老人性眼瞼外反症の病態と症状の特徴

老人性眼瞼外反症は、加齢に伴う下眼瞼支持組織の弛緩により、まつげを含む瞼縁が外側へ反転し、結膜が常時露出する病態を指す。加齢性あるいは退行性眼瞼外反症とも呼ばれ、主因は瞼板と内外眼角靱帯、下眼瞼リトラクターの支持力低下であり、水平方向の弛緩が中心であるとされる。

症状としては、持続的な流涙、結膜充血、眼脂、異物感、眼表面乾燥感などが目立ち、慢性結膜炎や角膜上皮障害を契機に医療機関を受診することが多い。眼球側へまつげが向かう内反症と異なり、まつげは外向きであるが、結膜露出による涙液不安定化と曝露角膜症様の障害が問題となる。

参考)1.眼瞼・眼窩 3)眼瞼外反症 (眼科 59巻10号)

老人性眼瞼外反症は高齢者のQOLに直結し、読書・テレビ視聴・外出時の視機能不快感だけでなく、角膜潰瘍や感染のリスクも増加させる。特に認知機能低下や手指巧緻性低下を伴う患者では、点眼自己管理の困難さから、眼表面障害が進行しやすい点に留意が必要である。

参考)内反症(逆さまつげ)・外反症・顔面神経麻痺 – 台東区蔵前 …

老人性眼瞼外反症の診断所見とピットフォール

診断では、病歴聴取として罹患期間、片眼か両眼か、外傷歴・眼瞼手術歴・顔面神経麻痺の有無を系統的に確認する。瘢痕性や麻痺性の眼瞼外反症は治療アプローチが異なるため、老人性(退行性)と明確に切り分けることが重要である。

理学所見として、下眼瞼の水平弛緩を評価するSnap back test(下眼瞼を牽引して放し、元の位置に戻るまでの時間を観察)やPinch test(皮膚のたるみ量の評価)、medial/lateral distraction test(内外側への可動性評価)が用いられる。これらは手術術式選択(水平眼瞼短縮の要否、lateral tarsal strip術の適応など)とも直結するため、眼形成外科医だけでなく一般眼科医・看護師も所見の意味を共有しておくと、チームでの説明が一貫しやすい。

ピットフォールとして、下眼瞼の外反が軽度でも、角膜上皮障害が高度な場合や、ドライアイや麻痺性兎眼を併存する場合には症状が強く出る点が挙げられる。また、下眼瞼外反症と同時に上眼瞼下垂や老人性眼瞼内反症を併発している症例もあり、片方のみの矯正では涙液動態がかえって不安定化するケースがあるため、眼瞼全体のバランス評価が重要となる。

参考)逆さまつげ(眼瞼内反症、睫毛内反・乱生症)|川越眼科手術とま…

老人性眼瞼外反症の治療選択:保存療法から手術まで

治療は、眼表面保護を目的とした保存療法と、解剖学的異常を是正する手術療法に大別される。軽度で自覚症状が乏しい場合や、全身状態の問題で手術が困難な場合には、人工涙液点眼、潤滑性の高い眼軟膏、夜間のアイパッチやテーピングなどにより、結膜・角膜の乾燥と曝露を抑制する。これらは根本治療ではないが、手術までの「ブリッジング」や再発例の管理として有用である。

手術は、水平眼瞼短縮術、lateral tarsal strip(LTS)法、皮膚切除や皮弁を組み合わせた術式が中心であり、退行性眼瞼外反症では主に水平弛緩の矯正がターゲットとなる。下眼瞼の一部を紡錘形に切除し縫合することで「たるみ」を減らす水平眼瞼短縮術は比較的シンプルであり、局所麻酔で施行可能なため高齢者にも適しているとされる。

参考)内反症・外反症の概要・原因と主な治療方法

一方、LTS法は外側眼角部の瞼板を離断し、外側靱帯を再構築して瞼縁を眼球側へ適切に接着させる術式であり、退行性外反症に対して良好な長期成績が報告されている。瘢痕性外反や顔面神経麻痺に伴う外反を合併する症例では、皮膚移植や筋皮弁、静的再建術を組み合わせる必要があり、形成外科ガイドラインでも再建術の有効性が示されている。

参考)(旧版)形成外科診療ガイドライン6 頭頸部・顔面疾患 – M…

老人性眼瞼外反症と類似疾患:老人性眼瞼内反症・麻痺性外反症との違い

老人性眼瞼内反症は、同じく加齢性変化を背景としつつ、まつげが角膜側へ向かう点で老人性眼瞼外反症と対照的である。皮膚弛緩や支持組織の脆弱化により、眼輪筋や瞼板が内向きに回転することで逆さまつげと角膜刺激症状を呈し、高齢者の3〜5%程度にみられると報告されている。

臨床現場では、内反・外反が同一患者の左右眼で混在していたり、同一眼で部位により内反と外反が共存する「混合型」がみられることがあり、画一的な術式では対応しきれない。内反部位にはLER advancementやWheeler法変法を、外反部位には水平眼瞼短縮やLTSを組み合わせるなど、セグメントごとのカスタマイズが必要になる。

麻痺性眼瞼外反症は、顔面神経麻痺に伴う眼輪筋の緊張低下が主因で、瞼板支持性の低下と兎眼がしばしば共存する。退行性外反症と比較し、角膜曝露が高度で、眼閉不全や麻痺性流涙を伴うことが多く、ゴールドウェイト挿入や静的吊り上げ術などの再建術を併用しなければ十分な眼表面保護が得られないことも少なくない。

老人性眼瞼外反症患者への生活指導と多職種連携の実際(独自視点)

老人性眼瞼外反症では、手術そのものと同じくらい、術前後の生活指導と多職種連携が予後に影響する。高齢患者では、点眼操作の不慣れさ、認知機能低下、手指の関節疾患などにより、処方された点眼を十分に使えないことがしばしばあり、看護師や薬剤師による具体的な指導(実演、家族同席、写真付き説明書の活用)が重要となる。

術前には、まぶたをこすらないこと、洗顔時に眼瞼を強く引っ張らないこと、就寝時の眼表面保護(アイマスクや簡易テーピング)の方法を説明し、角膜上皮障害の悪化を防ぐ。術後は、縫合部に負荷をかけない姿勢や洗顔方法、出血・感染徴候の観察ポイントを家族と共有し、必要に応じて在宅医療チームへの情報提供を行うことで、トラブル発生時の早期対応が可能になる。

また、老人性眼瞼外反症患者は、しばしば白内障手術後や緑内障点眼治療中など、他の眼疾患のフォローアップ中に見つかることが多い。外反に伴う涙液不安定化は、視力検査や視野検査の再現性低下の一因となり得るため、検査担当者とも情報共有し、検査前の潤滑剤点眼やまばたき指導を行うと、検査の信頼性向上にもつながる。こうした細かな配慮が、高齢患者の全体的な視機能管理において見逃されがちながらも、現場で大きな差を生むポイントである。

老人性眼瞼外反症の基本的な病態と治療方針

済生会「眼瞼外反症とは」:病態・症状・診断と治療の概説

眼瞼外反症・内反症の手術療法の概要

田村眼科「内反症・外反症の概要・原因と主な治療方法」:水平眼瞼短縮術などの説明

頭頸部・顔面疾患における再建術の位置付け

Minds 形成外科診療ガイドライン:眼瞼再建術に関する推奨