her2陽性乳癌 完全消失と術前治療と長期予後

her2陽性乳癌 完全消失をめざす治療戦略

HER2陽性乳癌 完全消失への臨床的ポイント
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pCRが意味するもの

術前薬物療法での病理学的完全奏効(pCR)はHER2陽性乳癌における長期予後改善と強く関連し、治療方針決定の重要な指標となる。

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二重HER2ブロックのインパクト

トラスツズマブとペルツズマブなどを併用した二重HER2ブロックは、従来レジメンと比較してpCR率を有意に高めることが試験で示されている。

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完全消失後の個別化フォロー

画像診断・VACB・術後薬物療法を組み合わせ、完全消失例でも再発パターンとリスクを踏まえた個別化フォローが求められる。

her2陽性乳癌 完全消失と病理学的完全奏効(pCR)の定義と予後

 

HER2陽性乳癌における「完全消失」は臨床的完全消失(cCR)と病理学的完全奏効(pCR)を区別して理解する必要があり、pCRは通常「原発巣および腋窩リンパ節から浸潤癌が検出されない状態」と定義される。

JBCSガイドラインではHER2陽性乳癌で術前薬物療法によりpCRが得られた症例は予後が良好であることが示されており、non‑pCR症例では再発リスクが明らかに高いため、pCRの有無が術後治療戦略を分ける分岐点となる。

実臨床のレトロスペクティブ解析でも、pertuzumabを含む術前レジメンでypT0/is率が約60%に達し、pCRに到達した群では無再発生存や全生存が良好であることが報告されている。

her2陽性乳癌 完全消失を高める二重HER2ブロックと術前レジメン

NeoSphere試験ではdocetaxel+trastuzumabにpertuzumabを上乗せすることでpCR率が29.0%から45.8%へと有意に上昇し、二重HER2ブロックの上乗せ効果が明確に示された。

日本乳癌学会ガイドラインのCQ12でも、HER2陽性早期乳癌の術前薬物療法においてドセタキセル+トラスツズマブ(TH)にペルツズマブを加えたTHP療法を強く推奨し、pCR率の向上とそれに伴う予後改善をエビデンスレベル「強」として評価している。

また進行・再発乳癌に対してもトラスツズマブ+ペルツズマブ+タキサンが一次標準治療とされ、転移巣の臨床的完全消失や長期CR(complete remission)を得た症例報告が蓄積しつつあり、局所・全身レベルで「完全消失」を狙う治療概念が現実的になってきている。

術前薬物療法としての二重HER2ブロックは、腫瘍縮小により乳房温存率を高めつつ、pCR達成によって腋窩郭清縮小や術後放射線照射範囲の最適化につながる可能性がある。

参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjsa/81/6/81_1036/_pdf

さらに近年の国際試験では抗HER2抗体薬物複合体(ADC)であるtrastuzumab deruxtecan(T‑DXd)が術前領域で病理学的完全奏効率を既存レジメンよりさらに上回る成績を示したと報告され、今後の標準治療シフトが予想される。

参考)ESMO2025から 特にHER2陽性乳がん(Luminal…

her2陽性乳癌 完全消失例の画像診断とVACBによる手術省略の可能性

トリプルネガティブ乳癌とHER2陽性乳癌では、術前化学療法でpCRを達成すると予後が非常に良好であることが知られており、経皮的画像ガイド下吸引補助式乳房組織生検(VACB)でpCRを正確に判定できるかどうかが検討されている。

MDアンダーソンがんセンターの試験では、術前化学療法後に画像ガイド下VACBでpCRと判定されたTNまたはHER2陽性早期乳癌について、乳房手術を省略し放射線単独で治療可能かを前向きに評価しており、「完全消失=手術省略」が現実味を帯びるかどうかが国際的な関心事となっている。

現段階では手術省略はまだ標準治療ではなく臨床試験の枠組みにとどまるが、将来的には「画像+VACBでpCR証明→乳房手術回避」というアルゴリズムがサブセットで許容される可能性があり、HER2陽性乳癌 完全消失の定義とマネジメントが再構築される余地がある。

画像診断の面では、MRIによる造影効果の消失や超音波での腫瘍像消失がcCRを示唆するが、線維化や治療後変化との鑑別が難しいケースも多く、病理学的評価なしにpCRを断定することは依然としてリスクを伴う。

参考)術前化療で完全奏効のTN or HER2+乳がん、手術省略で…

今後、拡散強調MRI、PET/CT、リキッドバイオプシーなどを組み合わせた多モダリティ評価が、HER2陽性乳癌 完全消失のより精緻な判定に貢献すると考えられる。

her2陽性乳癌 完全消失後の長期フォローと再発パターンの「意外な落とし穴」

HER2陽性乳癌でpCRを達成した症例は全体として良好な予後を示すものの、完全消失例からでも脳転移を含む再発が一定割合でみられることが症例シリーズで報告されており、「完全消失=再発ゼロ」ではない点に注意が必要である。

例えば、転移再発HER2陽性乳癌に対するpertuzumab+trastuzumab併用療法の報告では、臨床的完全消失を維持していた症例のうち一部で後に脳転移が出現しており、血液脳関門を越えにくい抗HER2抗体の特性から、脳がサンクチュアリサイトとして残る可能性が示唆されている。

このため、pCRや長期CR例でも神経症状の聴取や頭部画像検査のタイミングを工夫し、中枢神経再発の早期検出に努めることが重要となる。

参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjsa/80/3/80_480/_pdf

術後補助療法としてのトラスツズマブ投与が10年生存率を約75%から84%へ改善させたとの報告がある一方で、長期フォロー中の「遅発再発」も完全には避けられず、サブタイプやホルモン受容体の有無ごとに再発パターンを意識したフォロー計画が求められる。

参考)HER2陽性の乳がん治療 – 乳がんセミナー

また、pCR非達成例に対するT‑DM1へのスイッチ(KATHERINE試験)により侵襲的無病生存率が有意に改善したことから、「完全消失に至らなかった症例」こそ積極的な術後治療強化を検討すべき対象であり、完全消失例とのフォローの濃淡をどうつけるかが実地臨床の課題となる。

参考)CQ13   術前薬物療法で病理学的完全奏効(pCR)が得ら…

患者説明では「完全に消えた」という表現が過度な安心感を与えないよう、pCRの意義とともに残存リスクや再発様式を具体的に共有するコミュニケーションが重要である。

her2陽性乳癌 完全消失を目指す個別化治療と今後の研究トピック(独自視点)

HER2陽性乳癌 完全消失を最大化するには、HER2シグナルだけでなくホルモン受容体、腫瘍浸潤リンパ球(TILs)、ゲノム変異プロファイルなどを統合し、「どの患者がどのレジメンで高確率にpCRを得られるか」を予測する個別化アプローチが鍵となる。

ホルモン受容体陽性・HER2陽性(Luminal B‑HER2)では、化学療法+二重HER2ブロックに内分泌療法をどう組み合わせるか、あるいは内分泌療法+抗HER2療法で化学療法を一部省略できるサブグループが存在するのかが今後の重要な研究テーマになっている。

さらに、ADC(T‑DXdや次世代抗HER2 ADC)や免疫チェックポイント阻害薬との併用により、従来はpCRが得られにくかった高リスク症例でも完全消失が現実的な目標になる可能性があり、「pCRを得られる症例の母数そのものを広げる」方向の開発が進行している。

一方で、高度な治療にアクセスできない地域格差や、高額薬剤に伴う経済的毒性(financial toxicity)は日本でも課題となり得るため、ガイドライン推奨と現場のリソースのギャップをどう埋めるかというヘルスサービス研究的視点も、HER2陽性乳癌 完全消失を社会的に達成するうえで見逃せない論点となる。

参考)CQ29   HER2陽性・ホルモン受容体陽性転移・再発乳癌…

このような背景から、医療従事者に求められるのは、最新の試験結果を追うだけでなく、自施設の患者背景・リソース・合併症リスクを踏まえた「現実的な完全消失戦略」を設計し、アウトカムを継続的にモニターしてフィードバックする循環型の診療体制である。

参考)CQ12  術前薬物療法を行うHER2陽性早期乳癌に対して,…

院内カンファレンスや地域連携の場で、pCR率や再発パターンを指標としたベンチマーキングを行うことは、HER2陽性乳癌 完全消失を単なる個々のケースレポートではなく、組織として再現性を持って達成していくための重要な一歩となる。

術前薬物療法選択とpCR後/非pCR後の戦略に関する参考として、日本乳癌学会ガイドラインの該当CQを確認しておくと、推奨度やエビデンスレベルを含めた整理がしやすい。

日本語でHER2陽性乳癌治療全体を俯瞰したい場合には、乳癌専門クリニックによる解説ページが患者説明にも応用しやすい図表付きでまとめられており、チーム内での共通認識の形成にも役立つ。

HER2陽性術前薬物療法における二重HER2ブロックとpCR率のエビデンスの詳細解説です。

日本乳癌学会診療ガイドライン CQ12(HER2陽性早期乳癌の術前薬物療法)

HER2陽性乳癌全般の治療方針と長期予後、トラスツズマブ導入前後の比較などを患者向けにわかりやすく整理したページです。

HER2陽性の乳がん治療 – 乳がんセミナー(東京ブレストクリニック)

転移・再発HER2陽性乳癌に対する二重HER2ブロック療法と完全消失・長期CR症例を含む日本語原著論文です。

HER2陽性転移再発乳癌に対するpertuzumab+trastuzumab併用療法の検討

乳癌の臨床 Vol.28 No.5 2013年10月 特集 HER2陽性乳癌の治療戦略