第一類医薬品を本人以外が購入する条件と留意点
第一類医薬品を本人以外へ販売できるかの法的整理
第一類医薬品は「副作用などにより日常生活に支障を来す程度の健康被害が生ずるおそれがある一般用医薬品」であり、薬剤師による情報提供が義務付けられている高リスクカテゴリーです。
一方で要指導医薬品は、リスク評価がまだ確定していないなどの理由で「原則、使用者本人以外には販売できない」と明確に制限されており、多くの自治体資料や日本薬剤師会の確認フローチャートでも「要指導医薬品は本人以外に販売できません」と強調されています。
行政資料では「要指導医薬品・第一類医薬品については、購入者が使用者本人であるか確認し、正当な理由がなければ使用者本人以外に販売・授与できない」と規定されており、第一類医薬品も本人以外への販売が一律に禁止されているわけではありません。
参考)https://www.pref.hiroshima.lg.jp/uploaded/attachment/135686.pdf
ここでいう「正当な理由」としては、大規模災害時など使用者本人が薬局に来られない特別な事情が例示されており、自治体の資料では巻末に「正当な理由」の具体例を示して現場判断を補助しているのが特徴です。
参考)https://www.kpa.or.jp/docs/download/6ef8075b9ee65d7e44a582d4f40a6306.pdf
実務では、薬剤師が「使用者は誰か」を必ず確認し、家族や介護者など代理購入の場合には、その事情を丁寧に聴取した上で販売可否を判断することが求められます。
さらに、他店での購入状況や既往歴などを確認し、第一類医薬品については必要量(一包装単位)にとどめることが義務付けられており、多店舗購入や濫用が疑われる場合には販売を差し控える判断も想定されています。
参考)https://www.nichiyaku.or.jp/static/uploads/pr-activity/press/20230920_03.pdf
第一類医薬品を本人以外が購入する具体的な「正当な理由」と実例
自治体の制度解説では、「使用者本人でなければ、正当な理由がない限り販売できない」とした上で、「大規模災害等」を正当な理由の代表例として挙げており、本人が薬局に来られない客観的事情があるケースを想定しています。
これに加え、現場の運用では、重度の身体障害や認知症などで移動が困難な高齢者、小児、終末期患者などについて、介護者や家族が安定的に代理購入するケースも、合理的な範囲で「正当な理由」として取り扱われています。
興味深いのは、災害時や感染症流行下での一時的な制度運用の柔軟化で、自治体によっては「感染拡大防止の観点から、発熱者本人の来局を控えさせること」を正当な理由の一つとして例示し、代理購入を認める姿勢を示した事例も報告されています。
また、慢性疾患に対して継続的に同じ第一類医薬品を使用している患者が入院や施設入所中である場合に、家族が外泊・一時帰宅に合わせて必要量を購入するケースも、医療機関との情報連携があれば、一定の正当性が認められやすいとされています。
参考)要指導医薬品とは?一覧と販売方法に関する規定などを紹介
一方で、「忙しくて本人が来られない」「ポイントを貯めたいからまとめ買いしたい」といった単なる利便性のみを理由とした代理購入は、正当な理由には該当しないと解釈されることが多く、自治体資料でも「正当な理由がない場合は販売してはならない」と明記されています。
参考)https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11120000-Iyakushokuhinkyoku/sinseido.pdf
同様に、若年者が友人のために第一類医薬品を購入しようとする場合や、大量購入を希望する場合は、濫用や転売のリスクが高い状況として慎重な対応が求められ、必要に応じて販売拒否や医療機関受診勧奨が推奨されます。
第一類医薬品を本人以外が購入する際の薬剤師の確認ポイント
薬剤師会の「一般用医薬品販売の確認リスト」では、第一類医薬品や要指導医薬品を販売する際に、「使用者本人かどうか」を最初に確認し、本人ではない場合は理由を聴取した上で販売可否を判断することが示されています。
その際、使用者の年齢や既往歴、併用薬、症状の程度などの基礎情報を確認し、「お薬を適切に使っていただくために」といった話法例を用いて、必要な情報提供や受診勧奨を実施することが推奨されています。
第一類医薬品の販売では、「文書による情報提供」が原則義務付けられており、消費者から不要の申出がない限り、書面を用いて説明することが求められています。
このため、代理購入の場合でも、代理人に対して用法用量、重大な副作用、受診が必要な症状などを文書と口頭の両方で確実に伝え、使用者本人に情報が届くように説明内容を工夫する必要があります。
参考)なぜ要指導医薬品や第1類の市販薬は薬剤師が販売しなければいけ…
さらに、販売した薬剤師の氏名、薬局名、連絡先を購入者に伝えることも義務化されており、第一類医薬品については「情報提供を行った薬剤師名」を明示することが求められます。
これにより、使用者が後日副作用や疑問を感じた際に、同じ薬剤師や薬局へ相談しやすくなるようなトレーサビリティの確保が図られており、医療安全の観点からも重要な仕組みとなっています。
参考)薬剤師・医薬品登録販売者~どんな薬のことが相談できるの?|く…
第一類医薬品と要指導医薬品の本人以外販売の違いとグレーゾーン
一般向けの解説サイトでは、「要指導医薬品は原則、本人以外はたとえ家族でも購入できない」と説明されており、第一類医薬品よりも厳格な管理が必要とされています。
要指導医薬品は、初めて一般用として販売されるなどリスク評価が確定していない薬が多く、インターネット販売も認められていないことから、対面での本人確認と文書提供が必須のカテゴリーです。
一方、第一類医薬品はリスクは高いものの、一定の条件下でのインターネット販売が認められており、制度上は要指導医薬品よりも柔軟な運用が可能とされています。
ただし、厚生労働省や自治体の資料では、第一類医薬品についても「購入者が使用者本人であるか確認し、正当な理由がなければ使用者本人以外に販売できない」とされており、現場に高い判断力が求められている点は共通しています。
グレーゾーンになりやすいのが、「遠隔地に住む高齢の親のために、子がまとめて第一類医薬品を購入する」ケースや、「留学中の子どものために常備薬として購入する」ケースであり、生活背景や既往歴、医療機関との関係性などを踏まえて個別に判断せざるを得ません。
参考)薬の分類と選び方
こうした場面では、第一類医薬品に固執せず、必要に応じて第二類・第三類医薬品で代替可能かを検討したり、受診につなげたりすることで、安全性と利便性のバランスを取ることが現実的な対応の一つとなります。
第一類医薬品を本人以外に勧められるかという医療従事者の独自視点
医療機関で働く医師や看護師、薬剤師が、診療の場で第一類医薬品のセルフメディケーション利用を提案することは増えつつありますが、「本人が薬局に来られない場合に、家族に第一類医薬品の購入を勧めてよいか」という問いは意外と議論の少ないテーマです。
制度上は、販売可否は薬局側の薬剤師の裁量に委ねられているため、医療機関側が「この第一類医薬品を家族に買いに行ってもらってください」と具体名まで指示すると、薬局でのリスク評価を事実上拘束しかねない点には留意が必要です。
より安全なアプローチとしては、「必要であれば、第一類医薬品を含めて薬局で相談してください」「要指導医薬品は本人しか買えないことが多いので、来院・来局が難しければ処方箋で対応する」など、カテゴリーの違いを踏まえた一般的なアドバイスにとどめる方法が考えられます。
また、医療従事者が患者や家族に対し、「第一類医薬品を本人以外が購入できるかどうかは、薬剤師が正当な理由の有無を含めて判断する」という制度の趣旨を事前に説明しておくことで、薬局窓口でのトラブルや不信感を減らす効果が期待できます。
最近では、薬局と医療機関がICTを用いて情報共有し、第一類医薬品の使用状況も含めた服薬情報を一元的に把握する取り組みも始まっていますが、本人以外による購入が絡むと情報の非対称性が生じやすくなります。
その意味で、医療従事者が「第一類医薬品を本人以外が購入する」状況に気付いた時には、単に是非を論じるだけでなく、処方薬への切り替えや受診間隔の調整、地域薬局との連携強化など、多職種連携の視点から介入することが、今後の重要な役割と言えるでしょう。
第一類医薬品と要指導医薬品の定義や販売方法のより詳細な制度解説として、厚生労働省の一般用医薬品販売制度資料が参考になります(法令上の区分と販売時の留意点の理解に有用です)。
要指導医薬品・第一類医薬品の確認項目や話法例を含む現場向けツールとしては、日本薬剤師会の確認リストが実務に役立ちます(薬局現場での聴取・説明のポイントの補強に有用です)。
