ユルトミリス薬価
ユルトミリス薬価の薬価基準と薬価収載の位置づけ
ユルトミリス(一般名:ラブリズマブ)は、日本では2019年9月に薬価収載され、当時の薬価(2021年4月時点の記載を含む)は「ユルトミリス点滴静注300mg:730,894円」と整理されています。
この「薬価収載(薬価基準への収載)」は、保険診療で用いる医薬品の公定価格を定める行政的プロセスであり、医療機関の購買価格ではなく診療報酬上の算定価格として機能します。
現場で混乱が起きやすい点として、薬価は改定・調整で変わり得るため、院内の採用資料、薬剤部の説明資料、患者向け文書で「適用時点」を合わせることが実務上の安全策になります。
また、薬価収載時点の価格形成は複数要素(算定方式、補正、加算など)から成りますが、少なくともユルトミリスは薬価収載に関する公的資料で「類似薬効比較方式に基づき、有用性加算(II)(A=5%)が算定」と説明されています。
参考)https://c2h.niph.go.jp/results/C2H1903/C2H1903_Summary.pdf
つまり、薬価は単に原価や海外価格を当てはめた数字ではなく、制度的に「類似薬」「有用性」「市場規模」などの枠組みで議論される値である、という前提を共有しておくと、医師・薬剤師・事務で会話が噛み合いやすくなります。
ユルトミリス薬価と費用対効果評価(HTA)による価格調整
ユルトミリスは費用対効果評価の対象となり、中央社会保険医療協議会(中医協)の枠組みで価格調整が議論されたことが公的資料で確認できます。
その結果として、現行薬価「730,894円」から調整後薬価「699,570円」へ、薬価全体で4.3%の減額が示されています。
この点は「薬価が下がった=薬としての価値が下がった」という意味ではなく、あくまで制度上の評価(費用対効果評価の運用)を価格へ反映したという理解が適切です。
さらに、調整後薬価「699,570円」への変更は、厚生労働省保険局の事務連絡資料でも、規格(300mg30mL1瓶)とともに「現行薬価 730,894/調整後薬価 699,570」と明確に一覧化されています。
参考)https://www.ajha.or.jp/topics/admininfo/pdf/2021/210519_4.pdf
医療機関の説明では、「いつからその薬価が適用か」も重要で、実務では請求月・改定適用日に合わせて情報更新する必要があります。
制度の誤解を避けるために補足すると、費用対効果評価制度は「保険償還の可否を判断するため」ではなく、「いったん保険収載したうえで価格調整に用いる(薬価制度の補完)」という趣旨が厚労省資料で説明されています。
参考)https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/000852903.pdf
つまり、現場が知りたいのは“採用できるか”よりも、“価格がどう変わり、説明・請求・予算にどう効くか”であり、その観点でHTA情報を使うと有用です。
参考:価格調整の根拠(制度趣旨・ユルトミリスの現行薬価と調整後薬価)
ユルトミリス薬価と用法用量(投与間隔)から見る医療資源への波及
ラブリズマブは、発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)の第III相試験で、維持投与が「Day15、その後8週ごと」のレジメンとして記載されており、体重別に3,000~3,600mgの維持量が示されています。
同じ試験報告で、エクリズマブが「2週ごと」の維持投与であることも明記されており、投与頻度の差は臨床運用の差(点滴枠、通院回数、薬剤調製回数)として直感的に理解しやすい部分です。
この“投与間隔の違い”は、患者負担だけでなく、点滴室や外来化学療法室を持つ施設ではキャパシティ設計にも影響し得るため、薬価(薬剤費)単体ではなく医療資源全体の文脈で語られることがあります。
「意外に見落とされやすい論点」として、海外の薬物動態・薬力学(PK/PD)解析では、ラブリズマブの長い投与間隔が「少ない通院・点滴回数」を通じて生活への干渉を減らし得る、という方向で議論されることがあります。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10188401/
薬価の話題は金額に焦点が集まりがちですが、医療従事者向け説明では「投与回数(例:8週ごと)」「投与枠」「薬剤部・看護部の業務量」まで含めた“運用コスト”を分解して示すと、会議体(薬事委員会・経営会議)での説得力が上がりやすいです。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10865503/
参考:PNH試験での投与スケジュール(8週ごとの維持投与、体重別投与量)
Ravulizumab vs eculizumab in PNH(Blood/PMC)
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC6367644/
ユルトミリス薬価と安全対策(髄膜炎菌)を患者説明に落とすコツ
補体C5阻害薬であるラブリズマブは、機序上「髄膜炎菌感染症の感受性が増す」ことが注意点として示されており、欧州の公的文書でもワクチン接種でリスクを低減することが記載されています。
米国の情報ですが、MedlinePlusには「治療開始の少なくとも2週間前までに髄膜炎菌ワクチン接種が必要」「緊急開始の場合は可能な限り早期に接種し、医師が推奨する期間は抗菌薬を内服する」といった実務的な記載があります。
CDCも、補体阻害薬使用者の髄膜炎菌感染症リスク管理に関する臨床ガイダンスを公開しており、リスク説明の根拠資料として使いやすいです。
薬価の説明は「高額薬剤」になりがちですが、患者・家族の関心はしばしば「高い薬=強い薬=副作用が怖い」に直結します。
参考)Ravulizumab-cwvz Injection: Me…
そのため、医療者向けブログとしては、💴薬価の話→🛡️安全対策(ワクチン・受診目安)→📅投与間隔(生活設計)の順に組み替えて説明すると、患者応対で実際に役立つ“話法のテンプレ”になります。
参考:補体阻害薬と髄膜炎菌感染症リスク(医療者向けガイダンス)
参考)Clinical Guidance for Managing…
ユルトミリス薬価を院内合意に変える「独自視点」:薬価だけでなく“点滴枠”を原価化する
検索上位の解説は「薬価がいくら」「費用対効果で下がった」といった“価格そのもの”に寄りやすい一方で、院内の意思決定では「点滴枠(チェアタイム)」「調製回数」「受診同伴の家族負担」など、数字になりにくい負担がしばしば論点になります。
そこで独自視点として、ユルトミリス薬価を語る際に、薬価(1瓶あたり)に加えて「年間投与回数の差」を業務KPIへ落とすと、薬事委員会や経営層の理解が一段進みます。
たとえばPK/PD解析の文脈では、エクリズマブが2週ごと(年26回)に対し、ラブリズマブが8週ごと(年6回)という“回数差”が示されており、ここを起点に「看護配置」「予約枠」「無菌調製の山谷」「患者の就労継続」などへ議論を接続できます。
さらに、個別化投与(TDMを含む)の可能性をモデル化して「投与間隔を延長できればコストが下がる余地がある」と示唆する研究もあり、単純な薬価比較では見えない“最適化の余白”が議論されています。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8359320/
もちろん実臨床で直ちに適用できる話ではありませんが、医療者向け記事に「将来的に、投与設計の最適化が医療資源を変える可能性がある」と一段深い視点を入れると、単なる薬価まとめ記事との差別化になります。
参考:TDM/投与間隔最適化のモデル研究(患者負担・コストの観点)
The potential of individualized dosing of ravulizumab to improve patient-friendliness…(PMC)