抑うつ 読みと抑うつ状態
抑うつ 読みと抑うつの意味:用語解説
「抑うつ」の読みは「よくうつ」とされ、医療文書・紹介状・看護記録でも頻出します。根本は「気分が落ち込み、憂うつになる状態」を指し、うつ状態/抑うつ状態は明確に区別されず“ほぼ同義”として扱われることが多い点が重要です。たとえば、患者が「抑うつって病気名ですか?」と尋ねたときは、「症状(状態)を示す言葉で、原因疾患はいろいろあり得る」と説明すると、過剰な自己診断を抑えられます。
一方で、抑うつは“どの疾患にも乗る症候”になり得ます。厚労省系の用語解説では、うつ病だけでなく、不安障害、統合失調症、適応障害、パーソナリティ障害など多様な精神疾患で見られる症状だと整理されています。つまり「抑うつ=うつ病」ではなく、「抑うつ=症状」「うつ病=診断」という二層構造を、スタッフ間でも患者向けでも統一しておくと、問診・鑑別・連携の質が上がります。
(参考:用語定義の根拠)
抑うつ状態(うつ状態)の定義(同義性、さまざまな疾患でみられる点)→ https://kokoro.mhlw.go.jp/glossaries/word-1699/
抑うつ 読みと抑うつ状態とうつ病の違い:症状と病名
臨床で最も多い混乱は、「抑うつ状態(症状)」と「うつ病(診断名)」が同一視されることです。医療系の解説でも、抑うつ状態は“気分の落ち込みを表す症状名”であり、うつ病は“診断基準がある精神疾患(病名)”として区別されます。患者側は、健常反応としての落ち込み・燃え尽き・睡眠不足による気分低下もまとめて「うつ」と言いがちなので、まず“言葉のレイヤー”をそろえるのが実務的です。
現場向けの説明テンプレとしては、次が扱いやすいです。
- 「抑うつ状態」:落ち込み、憂うつ、興味低下などの“状態・症状”の総称。
- 「うつ病」:抑うつ症状が一定の期間・数・重症度でそろい、生活機能低下なども踏まえて診断される“疾患名”。
- 「抑うつエピソード」:診断分類(ICD/DSM)上の“エピソード概念”で、症状の組み合わせと期間が鍵。
ここで押さえたい“意外に見落とされる点”は、抑うつ状態が軽症に見えても、背景に身体疾患や薬剤性、あるいは双極性障害のうつ相が混在する可能性があることです。言葉の整理は単なる国語の問題ではなく、鑑別の入口の安全設計だと位置づけると、チーム内で優先順位が上がります。
(参考:抑うつ状態とうつ病の位置づけ差)
抑うつ状態は症状名、うつ病は病名で診断基準がある→ https://www.aburayama-hospital.com/blog-abu/2022-9-4
「抑うつ」と「うつ病」の違い(臨床QA)→ https://ubie.app/byoki_qa/clinical-questions/symptom/54p2n0fn_i
抑うつ 読みと診断基準:ICD-11とDSM-5の考え方
医療従事者向けに一段深く整理するなら、診断基準の“閾値”の話が外せません。ICD-11の抑うつエピソードについて、専門誌の概説では「特徴的な10症状のうち少なくとも5つが、2週間以上にわたり、ほとんど1日中、ほぼ毎日、同時に出現していること」が要求され、ICD-10より閾値がわずかに上がったと説明されています。つまり、同じ「抑うつ」と記録していても、ICDの版や運用で“どこから診断に寄せるか”の感覚がズレる余地があります。
この“閾値”の視点を持つと、患者説明にも奥行きが出ます。たとえば「落ち込みはあるが日内変動が大きい」「症状が1週間程度で波がある」などは、抑うつ状態の記述としては妥当でも、抑うつエピソードの診断要件に直結しないことがあります。逆に、食欲・睡眠・易疲労感のような身体症状が前面に出るケースでは、患者本人が「気分は落ち込んでいない」と言っても、抑うつエピソードに近い状態が隠れていることがあるため、症状を“数で数える”視点が役立ちます。
医療現場での実務ポイントを、短く表にすると次の通りです(チームでの言語統一に便利)。
| 用語 | 現場での意味 | 注意点 |
|---|---|---|
| 抑うつ(よくうつ) | 落ち込み・憂うつなどの症状(状態) | 原因疾患は多様で、うつ病に限定しない |
| 抑うつ状態(うつ状態) | 抑うつが続く状態の記述 | 同義扱いが多いが、診断名ではない |
| 抑うつエピソード | ICD/DSM上のエピソード概念 | 症状数・期間(例:2週間)など閾値が重要 |
(参考:ICD-11の抑うつエピソード閾値)
ICD-11の抑うつエピソード要件(10症状中5つ、2週間以上など)→ https://journal.jspn.or.jp/Disp?style=ofull&vol=123&year=2021&mag=0&number=8&start=506
抑うつ 読みとPHQ-9:スクリーニングと問診のコツ
抑うつの評価を“属人的”にしない工夫として、PHQ-9の導入は現場適性が高い方法です。Progress In Mind Japanの解説では、PHQ-9で気分症群のスクリーニング評価を行う際に、①問診(「抑うつ気分」と「快感消失」による確認)、②身体疾患および薬物の関与による鑑別、③PHQ-9によるスクリーニング評価、④症状レベルの評価、というステップを踏むと整理されています。ここが実務上の“段取り”として優れているのは、PHQ-9を配る前に「まず二大症状と鑑別」を置ける点です。
さらに、国内研究でもPHQ-9の有用性が示唆されています。緩和ケア病棟を対象にした日本語論文では、入院時にPHQ-9を実施し、10点以上を抑うつありとして精神科医の診断と照合したところ、感度81.8%、特異度82.1%だったと報告されています。一般外来・病棟・産業保健など現場は違っても、「短時間で一定の性能が期待できる道具」としての価値は共有できます。
医療従事者向けの“運用のコツ”を、抑うつの読み・用語問題とつなげると次のようになります。
- 📄 問診で「抑うつ(よくうつ)」という語を使うときは、患者が理解できる表現(落ち込み、気分の重さ)に必ず言い換える。
- 🧩 PHQ-9はスコアよりも「希死念慮項目」「機能障害の程度」の拾い上げに価値がある。
- 🧪 甲状腺機能異常、貧血、睡眠障害、薬剤(ステロイド等)など、身体・薬剤性の抑うつを“必ず一度は疑う”運用にする。
- 🔁 同じ患者でも環境変化でスコアが揺れるため、「1回の点数」ではなく「推移(2〜4週など)」を見てチームで共有する。
(参考:PHQ-9のステップ、国内データ)
PHQ-9運用ステップ(問診→鑑別→スクリーニング→症状評価)→ https://japan.progress.im/ja/content/phq-9%EF%BC%88patient-health-questionnaire-9%EF%BC%89
緩和ケア病棟におけるPHQ-9(感度・特異度の報告)→ https://www.jstage.jst.go.jp/article/jspm/13/1/13_69/_html/-char/ja
抑うつ 読みと記録:連携で誤解を減らす独自視点
検索上位の多くは「読み方」「うつ病との違い」「症状」が中心ですが、医療従事者にとって盲点になりやすいのは“記録の粒度”です。たとえば看護記録や多職種カンファで「抑うつあり」とだけ書くと、読む側は「気分の落ち込み(軽〜中等度)」を想像する人もいれば、「大うつ病性障害の疑い」を想像する人もいます。ここでのズレは、治療方針の誤解だけでなく、患者への説明の不一致(医師は“状態”、看護は“病名”のつもり等)につながります。
そこで、記録では「抑うつ(よくうつ)」という単語を残しつつ、最小限の追加情報を添える運用が有効です。おすすめは“3点セット”で、文章量は増やさず情報量を増やします。
- 🕒 期間:いつから(例:2週間以上/数日など)
- 🧠 中核:抑うつ気分/快感消失の有無(どちらが主か)
- 🧩 機能:仕事・家事・対人の支障(できている/できない)
この3点があれば、精神科紹介の妥当性、身体疾患の鑑別優先度、職場・家族への説明の整合性が上がります。加えて、ICD-11のように閾値が示される領域では「症状数の見当」を短く書く(例:睡眠、食欲、易疲労、集中など複数)だけでも、受け手の理解が一気に揃います。意外な効果として、患者本人が「抑うつ=性格の弱さ」と誤解している場合でも、症状を構造化して共有することで“病いとして扱う”土台ができます。
(参考:抑うつ状態は多様な疾患でみられ、同義語扱いが多い点=記録のズレが起きやすい根拠)
抑うつ状態(うつ状態)用語解説→ https://kokoro.mhlw.go.jp/glossaries/word-1699/

マンガでわかる!うつの人が見ている世界