アセトアルデヒドアルコール
アセトアルデヒドアルコールの吸収と分解とALDH2
アルコール(エタノール)は体内で代謝され、まずアルコール脱水素酵素(ADH)によりアセトアルデヒドへ、続いてアルデヒド脱水素酵素(ALDH)により酢酸へ変換されます。
臨床上のキードライバーはALDH2で、アセトアルデヒドを分解する主要酵素として位置づけられています。
このため「アセトアルデヒドが溜まりやすい人」は、同じ飲酒量でも症状(顔面紅潮、頭痛、嘔気、眠気など)や翌日の不調の出方が変わり、患者説明の納得感が大きく変わります。
医療者向けに整理すると、最低限の理解は次の3点です。
- アセトアルデヒドは「エタノールの代謝産物」であり、代謝の通過点ではなく症状の原因物質として扱う。
- ALDH2活性が低いとアセトアルデヒド分解が遅く、少量飲酒でも血中濃度が急増し得る。
参考)https://www.asahibeer.co.jp/csr/tekisei/health/mechanism.html
- 体質差は遺伝要因が大きく、努力や慣れだけで安全域が広がるわけではない(慣れは症状の見え方を変えることがある点が落とし穴)。
また、現場で誤解が起きやすいのは「赤くなる=飲めないから安全」という短絡です。
実際には、ALDH2低活性でも環境要因で飲酒を継続し“大酒家化”するケースがあるとされ、ここが発がんリスク説明の入口になります。
アセトアルデヒドアルコールとフラッシング反応
フラッシング反応(顔面紅潮など)は、ALDH2の働きが弱い場合にアセトアルデヒドが体内に蓄積しやすいことと整合します。
厚労省系の解説では、少量飲酒で赤くなる体質はALDH2低活性と関連し、赤くなる人ではアセトアルデヒドが食道・頭頸部のがん原因となると結論づけられています。
さらに「コップ1杯のビールで顔が赤くなる体質が、現在または飲酒開始初期にあった人は、約9割でALDH2低活性タイプ」といった推定指標も提示されています。
問診での使い方は、患者の羞恥や自己責任論に寄せない言い回しが有効です。
例えば、次のような聞き方だと情報が取れ、介入の糸口になります。
- 「最初の1〜2年目は顔が赤くなりましたか?」(後年は耐性で赤みが目立たなくなる可能性があるため)
- 「動悸・吐き気・頭痛が出やすいですか?」(フラッシング反応の随伴症状)
- 「飲酒量が増えたきっかけは職場・会食でしたか?」(社会文化的に飲酒が“鍛えられる”記載があるため)
意外に見落とされるのが「赤くならない=安全」でもない点です。
ADH1Bが弱い人ではアルコールが長時間残りやすく依存症リスクに関係し得る、という整理も同ページで触れられており、患者によって注意の主語が変わります。
アセトアルデヒドアルコールとがんリスク
飲酒は複数がん(頭頸部、食道、肝臓、大腸、女性の乳がんなど)の原因となると認定されており、代謝産物のアセトアルデヒドも含めて発がん性が論点になります。
同資料では、ALDH2低活性の人が飲酒家になると「頭頸部・食道の発がんリスクが特に高い」とされ、飲酒と喫煙は相乗的に多発がんリスクを高めるとも記載されています。
がん予防の観点では「安全な飲酒量はなく、最も望ましいのは飲まないこと」という強いメッセージが明記されています。
医療従事者向けの実務では、リスク説明を“脅し”にしないために、説明の骨格を固定しておくとぶれにくいです。
- 何が問題か:エタノールそのものと代謝物アセトアルデヒドの双方に発がん性が関与する。
- 誰が高リスクか:少量で赤くなる体質(ALDH2低活性)が飲酒を継続する場合。
- 何が増悪因子か:喫煙、野菜果物摂取不足などが同部位のリスクをさらに高め得る。
「あまり知られていないが臨床で効く」観点として、多発がん(同部位に複数発生)の話は行動変容に刺さりやすい一方、心理的負担が大きいので説明の順序が重要です。
まずフラッシング反応の有無で体質推定→次に“同じ量でも負荷が違う”→最後に禁酒・減酒や禁煙など具体策、の順が現実的です。
アセトアルデヒドアルコールとALDH2欠損の頻度
日本人ではALDH2の働きが弱い(低活性または非活性)人が約40%程度にみられる、と整理されています。
また、2本とも弱いホモ欠損型は日本人の1割弱、1本が弱いヘテロ欠損型は3割強で、ヘテロ欠損型の酵素活性はホモ活性型の約1/16と説明されています。
この数字は、健診・外来・産業保健で「飲酒の話は一部の人だけの話ではない」ことを裏づける根拠として使えます。
さらに興味深い点として、ALDH2ヘテロ欠損者は社会文化的影響を受け、1970年代は依存症患者の3%だったが現在は13%以上という記載があります。
ここは医療者が介入できる余地(飲酒圧力、同調、職場文化)を示唆し、単なる体質論に終わらせない材料になります。
患者指導では「体質が悪い」のではなく「分解のボトルネックが違う」こととして扱うと、自己否定を回避しながら減酒支援につなげやすくなります。
アセトアルデヒドアルコールの独自視点:職場文化と多発がんリスク説明
検索上位の一般向け記事は「赤くなる=弱い」「二日酔いの原因」までで終わりやすい一方、医療従事者が踏み込めるのは“飲酒が鍛えられる状況”を含めたリスクコミュニケーションです。
ALDH2ヘテロ欠損者は耐性によりフラッシング反応が弱まり大酒家になる人も少なくない、という記述は、まさに「見た目の赤みが消えても体内負荷が消えたとは限らない」ことを示す臨床の落とし穴です。
さらに、飲酒と喫煙が相乗的に多発がんの危険性を高め、ALDH2低活性だと多発がんが特に多いとされるため、「飲酒+喫煙+赤くなる体質」の組み合わせは優先的に拾うべきハイリスク像になります。
実務での伝え方の例(産業保健・健診後面談・外来で使える形)です。
- 🗣️「昔、少量で赤くなっていたなら“分解が遅い体質”の可能性があります」
- 🗣️「赤くならなくなっても、体が強くなったとは限らず、慣れで症状が目立たないことがあります」
- 🗣️「飲酒に加えて喫煙があると相乗的にリスクが上がるので、優先順位としては禁煙が最短距離になることが多いです」
この独自視点のポイントは、患者の“行動の背景”を臨床情報として扱う点です。
職場の飲酒圧力が強い患者には「断り方の台本」や「ノンアル飲料の選択」「飲まない日を固定」など、環境調整を治療計画の一部として提案すると継続率が上がります(体質の話だけでは変わりにくいためです)。
有用:アルコールとがんの関係、ALDH2低活性と食道・頭頸部がん、飲酒に安全量はないという公的整理
有用:ALDH2の定義、日本人に多い遺伝的低活性、ホモ欠損・ヘテロ欠損の頻度とフラッシング反応、社会文化的要因の記載
https://kennet.mhlw.go.jp/information/information/dictionary/alcohol/ya-007.html

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