アスペルギルス属と特徴と形態と同定方法

アスペルギルス属と特徴

アスペルギルス属の特徴:現場での要点
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顕微鏡での「分生子頭」が核

分生子柄の先端が膨らむ「頂のう」と、そこに並ぶフィアライド、連鎖する分生子の構築が属レベルの同定の軸になります。

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培地と温度で「色調」が変わる

色調は有用ですが、培地選択や培養条件で出方が変化し、サブロー培地では特徴が出にくい点が落とし穴です。

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形態だけでは誤同定が起きる

A. fumigatus近縁種など、薬剤感受性が異なる重要群は遺伝子配列(β-チューブリン等)での区別が臨床上の意味を持ちます。

アスペルギルス属の特徴:分生子頭と頂のうとフィアライド

 

アスペルギルス属(Aspergillus)の「属としての強い特徴」は、空中に伸びた分生子柄(conidiophore)の先端が膨らんで頂のう(vesicle)となり、その表面にフィアライド(phialide)が並び、先端から分生子(conidia)を形成する一連の“分生子形成構造”にあります。

この分生子頭(conidial head)の構造は、肉眼でのコロニー色よりも再現性が高く、臨床検体からの分離株を「アスペルギルス属として捉える」第一歩になります。

また、医療現場で報告書に落とし込む際は、「頂のうの形(球形・フラスコ形など)」「フィアライドが頂のうの全面か上半分か」「単列(uniseriate)か複列(biseriate)か」を文章で記載できると、後工程(菌種推定・再同定・相談)で情報価値が上がります。

【実務メモ(観察の言語化の例)】

  • 「頂のう:フラスコ形、フィアライド:頂のう上部1/2に形成、分生子頭:円柱状」→ A. fumigatusを強く示唆する書き方に近い

    参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/mmj/52/3/52_3_193/_pdf

  • 「頂のう:球形、フィアライド:全面、分生子頭:放射状」→ A. niger群などの方向性が見えやすい​

アスペルギルス属の特徴:色調とコロニーと培地

アスペルギルス属の同定では、コロニーの色調(緑・黒・黄緑・褐色など)が手がかりになりますが、培地によって特徴が出にくいことが重要な注意点です。

例えば、同定目的ではツァペック・ドックス寒天培地や麦芽エキス寒天培地で25℃・7〜14日培養が推奨され、簡易的にはPDAでも代用できますが、サブロー・ブドウ糖寒天培地では色調の特徴が出にくいとされます。

このため、臨床で「SDAで緑っぽいからfumigatusだろう」と早合点すると、条件差による見かけの変化を拾ってしまい、後から矛盾が生じやすくなります。

【落とし穴チェック(現場で起きやすい)】

  • 培養初期は白色コロニーで、分生子形成に伴い色が出るため「観察日数」が短いと判断がぶれる​
  • 色だけで確定せず、分生子頭(放射状・円柱状など)とセットで評価する​

アスペルギルス属の特徴:形態と菌種(fumigatusとflavusとniger)

医療上問題となりやすい代表種の形態的特徴は、分生子頭の形状、分生子柄の表面(滑面・粗面)、単列/複列、分生子の大きさ・表面性状などで整理できます。

A. fumigatusは、コロニーが濃緑色〜青緑色で、分生子頭が密な円柱状、分生子柄は滑面、アスペルジラ(分生子形成構造)は単列、頂のうはフラスコ形(20–30 μm)で上部1/2にフィアライドを形成し、分生子は球形で刺状突起を持ち直径2–3.5 μmと記載されています。

A. flavusは、黄緑色〜緑色のコロニー、放射状〜緩い円柱状の分生子頭、分生子柄は粗面、単列と複列が混在し、頂のう上部1/2〜2/3にメトレ・フィアライドを形成、分生子は球形〜亜球形で刺状突起(3–6 μm)で、アフラトキシン産生菌としても重要とされています。

A. nigerは、黒色コロニー、放射状〜分岐した複数の円柱状の分生子頭、複列、頂のう全面にメトレ・フィアライドを形成し、分生子は球形で刺状突起(3.5–4.5 μm)とされ、食品分野ではオクラトキシン問題とも関連づけられています。

【医療従事者向けの要点】

  • 「fumigatusっぽい形態」でも近縁種が紛れうるため、重症例や治療抵抗例では“形態で完結させない”発想が必要です。​

アスペルギルス属の特徴:同定と遺伝子と薬剤感受性(独自視点)

検索上位の概説では「形態で見分ける」が中心になりがちですが、臨床で意外に効いてくるのは“形態が似ていて薬剤感受性が違う群がいる”という視点です。

A. fumigatusの関連種としてA. lentulusなどが新種報告され、これら関連種はアンホテリシンBやアゾール系薬剤に対して低感受性を示すことがあり、正確な種同定の重要性が指摘されています。

さらに、β-チューブリン、カルモジュリン、アクチン遺伝子の塩基配列で明確に区別可能であること、形態的にも分生子表面などに差があることが述べられており、治療方針や相談の質を上げるには「どのタイミングで分子同定を検討するか」を検査室・感染症チーム間で共有しておく価値があります。

【現場に落とす運用例】

  • 侵襲性アスペルギルス症が疑われ、分離株が形態上A. fumigatus相当でも、臨床経過や反応性が非典型なら「近縁種・誤同定」を前提に再評価(分子同定の相談)を組み込む​
  • 報告書のコメント欄に「形態同定でA. fumigatus相当。近縁種との鑑別は遺伝子解析で可能」と添えると、主治医側の次アクションが明確になる​

アスペルギルス属の特徴:マイコトキシン(アフラトキシンとオクラトキシン)

アスペルギルス属は医療領域の深在性真菌症だけでなく、マイコトキシン(カビ毒)産生という公衆衛生上の側面でも重要で、同一属の中に「臨床感染」と「食品汚染」をまたぐ問題が共存します。

総説では、アフラトキシンやオクラトキシン、ステリグマトシスチンなどのマイコトキシン産生菌が含まれることが述べられており、生活環境・食品から高頻度に分離される“普遍的真菌”である点が背景になります。

農林水産省の解説でも、アフラトキシン類が穀類・落花生・ナッツ類などに寄生するアスペルギルス属の一部が産生すること、オクラトキシンAは動物試験などで肝臓や腎臓への毒性が確認されたことが示されています。

【医療従事者としての意外な接点】

  • 免疫抑制患者の生活指導(食材のカビ・粉塵)を考える際、“アスペルギルス=病棟内”ではなく“生活環境・食品にも広い”という認識がリスクコミュニケーションを滑らかにします。​

権威性のある日本語の参考リンク(形態同定の基礎:分生子頭・頂のう・フィアライドの説明が具体的)。

栄研化学「新・真菌シリーズ」:Aspergillusの顕微鏡的形態(頂のう・フィアライド・分生子形成)の解説

権威性のある日本語の参考リンク(主要菌種の形態・培養条件・近縁種と薬剤感受性の話までまとまる)。

Medical Mycology Journal(2011)「Aspergillus属」:形態学的特徴、主要菌種の差、A. fumigatus近縁種と低感受性の注意点

HEALTHFUL HOME 5分間カビ検査キット アスペルギルス属菌、ペニシリウム属菌、スタキボトリス属菌を検出 (インポート)