マルトフィリアと抗菌薬と感受性と治療

マルトフィリア 抗菌薬

マルトフィリア 抗菌薬:最初に押さえる要点
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第一選択はST合剤が基本

S. maltophiliaは選択肢が限られ、経験・in vitro活性の蓄積があるST合剤が中心になります。

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βラクタムが効きにくい理由がある

L1/L2 βラクタマーゼなどの内因性耐性があり、カルバペネムや多くのβラクタムは基本的にカバー外になりがちです。

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感受性結果の読み方が重要

自動機器の誤判定やブレイクポイントの事情で、結果をそのまま信じると治療選択を誤ることがあります。

マルトフィリアの抗菌薬感受性とブレイクポイント

医療現場で「マルトフィリア(Stenotrophomonas maltophilia)が出たが、どの抗菌薬を選ぶべきか」が難しくなる最大の理由は、そもそも“感受性判定が整備されている薬剤が少ない”ことにあります。日本語でまとまった解説として、CLSIでは(少なくとも2021年時点で)ticarcillin-clavulanate、ceftazidime、cefiderocol、minocycline、levofloxacin、ST合剤、chloramphenicolの7薬剤にブレイクポイントがある一方、EUCASTはST合剤のみ、といった差が指摘されています(施設の運用もこの差に影響されます)。この背景を理解しておくと、微生物室から返ってきたレポートの「S/I/R」をどこまで治療意思決定に使えるかが整理しやすくなります。

基礎から臨床につなぐ薬剤耐性菌のハナシ(28)|中外医学社Online
[第28回]S. maltophiliaの抗菌薬感受性および治療 西村 翔 にしむら しょう 神戸大学医学部附属病院感染症内科 (初出:J-IDEO Vol.5 No.5 2021年9月 刊行)  前回に引き続き,今回はStenotroph...

さらに厄介なのが、S. maltophiliaは“内因性耐性(intrinsic resistance)”が多層的で、感受性の見かけが揺れやすい点です。βラクタム系はL1(メタロβラクタマーゼ)とL2(セリンβラクタマーゼ)が関与し、カルバペネムを含む多くのβラクタムが効きにくい、という機序が総説でも繰り返し説明されています。加えて多剤排出ポンプなども絡むため、同じ薬剤でも菌株によりMIC分布が広がりやすいのが実態です。

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現場での実務としては、次の視点が役立ちます(絵文字は視認性のため最小限に付与します)。

  • 🔎「ブレイクポイントがある薬剤か」をまず確認する(特にST合剤ミノサイクリンレボフロキサシンは議論の中心になりやすい)。
  • 🧪「検査法・機器」を確認する(自動機器か、微量液体希釈法か、など)。
  • 🧭「検体の意味」を確認する(定着か感染か、無菌部位か、臨床像と整合するか)。

意外と見落とされますが、“検査の世界でのS/I/R”は「患者の体内での有効性」と同義ではありません。マルトフィリアは肺・気道での検出が多く、定着(colonization)と感染(true infection)の見極めが遅れると、抗菌薬選択以前に治療適応がぶれます。特に免疫不全やデバイス留置など高リスク背景では、無視してよい検出かどうかが転帰に関わる可能性があります。

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マルトフィリアの抗菌薬治療でST合剤を選ぶ場面

マルトフィリアの治療薬として、ST合剤(トリメトプリム・スルファメトキサゾール)が「基本」とされ続ける理由は、in vitro活性が比較的安定し、臨床経験が蓄積しているためです。米国施設由来の近年の感受性データでも、選択肢が限られること、そしてTMP-SMX(ST合剤)が一般にpreferred agentとして扱われることが明記されています。とはいえ重症感染に対する無作為比較試験のデータが乏しい点は、医療従事者向けに明確に共有しておくべき“弱点”です。

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作用機序としては、スルファメトキサゾールが葉酸生合成を、トリメトプリムが葉酸の活性化を阻害し、2段階阻害で相乗効果が期待される、という古典的理解が今も重要です。現場では「なぜ単剤よりST合剤なのか」を説明する場面(チーム内説明、薬剤部との確認、患者説明)で効いてきます。

スルファメトキサゾール - トリメトプリム (Sulfamethoxazole - Trimethoprim):抗菌薬インターネットブック

一方で、ST合剤は副作用・相互作用・腎機能に応じた投与設計など“運用コスト”が高い薬でもあります。臨床では次の点で躓きやすいので、初動でチェックリスト化すると事故が減ります。

「ST合剤が第一選択」と知っていても、“投与できる患者か”を見誤ると代替薬へ切り替えざるを得なくなります。マルトフィリアに限らず、抗菌薬適正使用の考え方として、適応・投与量・期間・副作用監視をセットで設計する重要性は公的資料でも繰り返し強調されています。

https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001168457.pdf

マルトフィリアの抗菌薬選択でミノサイクリンとレボフロキサシン

ST合剤が使いにくい(副作用、相互作用、禁忌、治療失敗、耐性など)場合に、現実的な候補として挙がるのがミノサイクリンとレボフロキサシンです。日本語の解説でも、SENTRYの大規模データとして、ST合剤95.6%、ミノサイクリン99.5%、レボフロキサシン81.5%といった感受性率が紹介され、ミノサイクリンの強さが目立ちます。こうした“数字での感触”は、当直・ICUでの初期選択の議論を早くします。

基礎から臨床につなぐ薬剤耐性菌のハナシ(28)|中外医学社Online
[第28回]S. maltophiliaの抗菌薬感受性および治療 西村 翔 にしむら しょう 神戸大学医学部附属病院感染症内科 (初出:J-IDEO Vol.5 No.5 2021年9月 刊行)  前回に引き続き,今回はStenotroph...

レボフロキサシンについては、近年の米国医療施設由来データで、CLSIの感受性ブレイクポイント(例:≤2 µg/mL)で約8割弱が阻止された、という報告があり、選択肢として一定の存在感があります。ただし、同じフルオロキノロンでもシプロフロキサシンは阻止率がかなり低い、という差も示されており、「キノロンなら何でもよい」という誤解は危険です。

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ミノサイクリンは、近年ブレイクポイント改訂が話題になり、施設データでは新しい基準でも高い感受性が維持されている旨のレターが出ています。こうした“ブレイクポイントが動く領域”では、過去データ(前年のアンチバイオグラム)と現在の判定基準がズレて見えることがあり、感染対策チーム(ICT/AST)と微生物室の連携が重要です。

Minocycline susceptibility in Stenotrophomonas maltophilia: a closer look at institutional data amid CLSI breakpoint revisions - PubMed
In this letter we respond Bakthavatchalam et al's brief report on susceptibility of Stenotrophomonas maltophilia to Mino...

治療設計の実務ポイントを短くまとめます。

  • 🧠ST合剤が使える:原則ST合剤を軸に、感染巣(肺/血流/尿路/デバイス)に応じてソースコントロールを並走。
  • 🔁ST合剤が難しい:ミノサイクリン、レボフロキサシンを“感受性+臨床像”で検討。
  • 🧪キノロンを使う:耐性化・治療中耐性(treatment-emergent resistance)のリスクも念頭に、培養フォローや臨床反応で再評価。

ここでの“意外な落とし穴”は、肺の臨床像でマルトフィリアが出たとき、すでにカルバペネム等が投与されているケースが少なくない点です。カルバペネム曝露はマルトフィリア検出のリスク因子として総説で挙げられており、広域薬の連用が「結果的にマルトフィリアが優位になる」構図を作り得ます。つまり、抗菌薬選択は「目の前の菌」だけでなく、「そこに至った抗菌薬歴」まで含めて調整しないと再発・遷延につながります。

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マルトフィリアの抗菌薬でβラクタムが効かない理由

マルトフィリアでβラクタムが“効きにくい”のは、単なる経験則ではなく、分子機序が比較的はっきりしています。代表は2つの誘導性βラクタマーゼで、L1はクラスB3のメタロβラクタマーゼ(MBL)としてカルバペネムを含む多くのβラクタムを加水分解し、しかも現在利用可能なβラクタマーゼ阻害薬で阻害されにくい、と整理されています。L2はクラスAのセリンβラクタマーゼとして、セファロスポリン等に関与し、阻害薬で抑えられる場合がある一方、誘導や他機序も絡むため臨床予測が難しい局面があります。

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この「L1/L2がいる」という事実は、抗菌薬選択の現場で次の誤りを防ぎます。

  • ❌「グラム陰性桿菌=とりあえずPIPC/TAZやMEMでカバー」→マルトフィリアは基本的に守備範囲外になりやすい。
  • ❌「カルバペネム耐性なら新規BL/BLIで何とか」→マルトフィリアは一部の新規βラクタム/阻害薬配合でも限界があり得る。
  • ❌「セフタジジム感受性なら安心」→感受性測定の誤差、耐性化、治療失敗の余地を残す。

また、総説では“アズトレオナムはL1で分解されない例外”として触れられる一方で、L2がアズトレオナムに関与し得る点も説明され、単純な例外扱いでは危ういことが示唆されています。現場で「アズトレオナムならMBLに強い」という一般論を、そのままマルトフィリアへ当てはめない方が安全です。

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さらに、マルトフィリアの耐性はβラクタマーゼだけでは説明できず、排出ポンプ、外膜透過性、鉄取り込み(TonB関連)など“複数ルートで逃げる”ことが議論されています。近年薬(例:cefiderocol)の話題が出るとき、TonB変異が関与し得る、といった分子レベルの話が臨床転帰に直結する可能性があります。新薬を「最後の切り札」にするほど、こうした耐性化の道筋の理解が必要になります。

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マルトフィリアの抗菌薬と院内水回りとバイオフィルム(独自視点)

検索上位の多くは「ST合剤が第一選択」「ミノサイクリン/レボフロキサシンが代替」「βラクタムは基本無効」といった治療薬の話に寄りがちです。けれど、医療従事者向けの実務として“意外に差がつく”のは、マルトフィリアが「湿った環境に強く、バイオフィルムを作りやすい」ことを、感染管理と処方設計に繋げて語れるかどうかです。総説でも、シンク排水口、蛇口、水、スポンジ、コンタクトレンズケースなど湿潤環境がリザーバーになり得ること、そしてバイオフィルム形成で定着し得ることが述べられています。

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この視点を抗菌薬選択に落とすと、次の「臨床あるある」が説明できます。

  • 🚰「同じ病棟で繰り返し検出される」:抗菌薬を変えても、環境リザーバーが残れば再汚染が起こり得る。
  • 🧴「デバイス関連で遷延する」:中心静脈カテーテルなど“表面”が絡む感染では、薬だけでなく抜去・交換が効く。
  • 🫁「気道で定着→増悪」:COPD/気道疾患では、検出が単なる汚染でなく、全身状態の指標になっている可能性がある。

実際、総説ではカテーテル等の留置デバイスがリスク因子として挙げられ、感染の成立が“抗菌薬だけの問題ではない”と整理されています。つまりマルトフィリアの抗菌薬戦略は、①適切な薬、②適切な検査解釈、③ソースコントロール、④環境・デバイス管理、を一体で設計するのが合理的です。

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もう一つ、臨床で役に立つ“意外な情報”として、自動機器の感受性判定が薬剤によってはブレる可能性が指摘されています。日本語解説では、微量液体希釈法との一致率が薬剤・機器で十分でないことが報告され、特に「ST合剤が耐性と出たが臨床的に違和感がある」場面では再確認の余地がある、という示唆が述べられています。環境・定着の問題と組み合わさると、「耐性だから効かない」のか「感染ではなく定着」のかが混線しやすいため、チームでの再評価が重要になります。

基礎から臨床につなぐ薬剤耐性菌のハナシ(28)|中外医学社Online
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有用:日本の抗菌薬適正使用の基本(用量・投与設計の考え方)

https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001168457.pdf

有用:S. maltophiliaの感受性・治療と検査の注意点(日本語でまとまった解説)

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有用:内因性耐性(L1/L2)や環境リザーバー、リスク因子まで俯瞰できる総説

https://academic.oup.com/jacamr/article/4/3/dlac040/6580717