dna転写と翻訳
dna転写 翻訳のセントラルドグマとmRNA
医療の現場で「遺伝子発現」という語が出てきたとき、多くはDNA→RNA→タンパク質という情報の流れ(セントラルドグマ)を前提にしています。DNAに保持された情報は、まずRNA(とくにmRNA)へ写し取られ、次にタンパク質へ変換されます。mRNAは「タンパク質をコードするRNA」であり、リボソームで翻訳されてタンパク質合成の設計図として機能します。
ここで重要なのは、DNAは「保存媒体」、mRNAは「可搬性のある作業指示書」という役割分担です。mRNAは必要な量・タイミングで作られ、必要に応じて分解され、タンパク質産生量の調整点にもなります。国立がん研究センターも、DNA情報がRNAを介してタンパク質となり、RNAが産生量調整にも関与することを解説しています(RNAの種類と機能の項)。

臨床寄りの観点では、mRNA量が増えている=タンパク質が必ず増える、とは限らない点に注意が必要です。翻訳効率、mRNAの局在、分解速度、さらにスプライシングや核外輸送など、RNA段階の“通過試験”が複数あるからです。つまり「DNA変異がないのに表現型が変わる」「mRNAはあるのにタンパクが少ない」といった現象は、転写と翻訳の間(および翻訳後)を疑う論理が役立ちます。
dna転写 翻訳の転写と翻訳の違いとリボソーム
転写と翻訳は、似た言葉でも現場(場所)と目的が異なります。転写はDNA上の遺伝子配列をRNAへ写す工程で、翻訳はmRNAの塩基配列(コドン)をアミノ酸配列へ変換し、タンパク質を合成する工程です。翻訳はリボソームという分子装置で進み、mRNAを読み取りながらポリペプチド鎖を伸ばしていきます。
翻訳の要点は「3塩基=1単位」で読むことです。mRNA上の3塩基の並びをコドンと呼び、そのコドンに対応するアミノ酸を運んでくるのがtRNAです。tRNAはアンチコドン(コドンに対応する配列)を持ち、mRNAのコドンと塩基対合することで正しいアミノ酸を選択します。国立遺伝学研究所の用語集でも、tRNAがmRNAのコドンと相補的なアンチコドンを持ち、対応するアミノ酸を結合して運ぶことが説明されています。
医療従事者が押さえると得をするポイントは、「翻訳は“読み間違い”を許さない仕組みを持つ」一方で、「ゼロにはできない」ことです。コドン‐アンチコドンの照合、アミノアシルtRNA合成酵素による“適切なアミノ酸の装着”など多重のチェックがありますが、ストレス条件や薬剤、変異でエラー率や停止(翻訳抑制)が変動します。抗菌薬の一部がリボソームを標的にするのは、翻訳が生命維持の中心であり、かつリボソーム構造に生物種差があるためです(原核と真核で選択毒性を作りやすい)。
dna転写 翻訳のスプライシングと核外輸送とポリA
真核生物(ヒトを含む)では、転写産物はすぐに翻訳に回りません。まずmRNA前駆体(pre-mRNA)が核内で加工を受け、成熟mRNAになってから細胞質へ輸送され、翻訳の鋳型となります。日本生化学会の解説では、mRNA前駆体は核内でキャップ付加・ポリA付加・スプライシングを受け、成熟mRNAとして細胞質へ輸送され翻訳に使われること、さらにスプライシングが完了するまで核に繋留されることが明確に述べられています。
この「核内の品質管理」は、臨床的にも重要な含意があります。もし未完了のmRNA前駆体が細胞質へ漏れると、イントロン由来配列が翻訳されて短縮タンパク質が生じうるだけでなく、イントロンに多い反復配列が二本鎖RNA様構造を作って自然免疫センサーを刺激し、翻訳抑制などのウイルス応答を誘発し得る、と同解説で議論されています。つまり、スプライシングと核外輸送は「正しいタンパク質を作る」だけでなく「不要な免疫反応を起こさない」安全装置としても働く、という見方ができます。
また、国立がん研究センターのRNA解説でも、snRNAがスプライシングを担うスプライソソームを構成することが説明されています。RNAの種類(mRNAだけでなく、tRNA、rRNA、snRNAなど)が“転写と翻訳を支えるインフラ”である点は、検査レポートでncRNA(miRNAやlncRNAなど)が話題に出たときの理解の土台になります。

dna転写 翻訳のtRNAとrRNAとアンチコドン
翻訳を「リボソームがmRNAを読む」とだけ覚えると、臨床応用や研究ニュースを追うときに情報が足りなくなります。翻訳には、mRNA(鋳型)に加えてtRNA(運搬・対応付け)とrRNA(リボソームのRNA骨格・触媒)が直接関与します。国立がん研究センターは、tRNAがクローバー葉状の二次構造をとり、アンチコドンアームにコドン対応配列を持ち、3’末端のCCAにアミノ酸が結合すること、さらにrRNAがリボソームを構成し触媒活性を持つことを説明しています。

この“rRNAが触媒”という視点は意外に重要です。タンパク質合成は「タンパク質が作る」と思いがちですが、ペプチド結合形成の中心はリボソーム内のRNA成分(リボザイム的性質)に依存する、という理解は、リボソーム標的薬やリボソーム病(ribosomopathy)の議論に接続します。医療従事者としては、病態を「DNA変異→異常タンパク」だけでなく、「RNA装置の異常→翻訳の質と量が崩れる」と捉えられると、説明力が上がります。
また、tRNA由来の小分子RNA(tsRNA)など、従来は分解産物と見なされがちだったRNAが、生物学的プロセス(細胞増殖、遺伝子発現制御など)に関わると報告されている点も、国立がん研究センターの解説に含まれています。翻訳の“部品”だったtRNAが、その断片として新たな調節因子になり得る、というのは臨床研究のホットトピックに直結する「意外性のある事実」です。

dna転写 翻訳の独自視点:スプライシング阻害と免疫と翻訳
検索上位の解説は「転写→翻訳」の教科書的説明で完結しがちですが、医療従事者向けには“なぜ途中で止めるのか”が腑に落ちると現場で強いです。スプライシングが未完了のmRNA前駆体が核内に繋留されるのは、単に手順だからではなく、細胞質でイントロンが翻訳され短縮型タンパク質が生じるリスクを避ける狙いがある、という点が日本生化学会の解説で強調されています。さらに、イントロンに多い反復配列が二本鎖RNA様構造を作ることでPKRなど自然免疫系センサーを活性化し、翻訳抑制などの“ウイルス応答”を引き起こし得るため、不要な免疫応答を防ぐ意味でも核内繋留が重要だと述べられています。
この視点を臨床に引き寄せると、「遺伝子発現異常」には二系統あると整理できます。
✅ ①“情報”の異常:DNA変異、転写因子異常、エピジェネティクス異常などで、作るべきmRNAが変わる。
✅ ②“装置”の異常:スプライシング、核外輸送、翻訳装置の異常で、mRNAが成熟しない/場所が違う/翻訳が止まる。
そして意外に見落とされがちなのが、②が免疫系やストレス応答と密接につながることです。翻訳は細胞のエネルギー消費が大きい工程なので、細胞は「怪しいRNAが出た」「二本鎖RNAっぽい」と感じると、翻訳を抑えて被害を最小化しようとします(ウイルス感染時に合理的)。その結果、炎症や腫瘍、治療介入(薬剤)によって“翻訳のブレーキ”が踏まれ、mRNA量だけでは説明できないタンパク質量のズレが生じる、という理解ができます。
(権威性のある日本語参考リンク:RNAの分類(mRNA、tRNA、rRNA、snRNA等)と役割、がんとRNA異常の関係の基礎整理に有用)

(権威性のある日本語参考リンク:スプライシング未完了mRNAの核内繋留、核外輸送、免疫センサー活性化と翻訳抑制の関連など“途中工程の臨床的意味”の理解に有用)
https://seikagaku.jbsoc.or.jp/10.14952/SEIKAGAKU.2022.940814/data/index.html

DNAトランスアクションと核ダイナミクス: 複製・修復・転写の相互作用核構造とDNA機能 (実験医学 増刊号 13-11)