トリクロール 小児
トリクロール小児の適応と鎮静の位置づけ
トリクロール(トリクロリールシロップ10%:一般名トリクロホスナトリウム)は、添付文書上「脳波・心電図検査等における睡眠」「不眠症」が効能又は効果として記載されています。
医療現場で「小児の鎮静」として語られることが多い一方、目的は“鎮静そのもの”というより「検査に必要な睡眠状態(体動抑制を含む)を得る」点にあります。
日本小児神経学会のQ&Aでも、検査は原則鎮静なしが望ましいが、幼少児では体動抑制や睡眠時脳波の確保のために鎮静剤を使用することがある、と整理されています。
小児領域でよく遭遇するのは、次のような意思決定の場面です(医師・看護師・検査技師の共通言語にすると事故が減ります)。
- 「睡眠が必要な検査」か:「睡眠時所見が必要」なのか「体動を止める必要」なのかを分けて考える。
- 自然睡眠の工夫(入眠誘導・スケジュール調整・睡眠剥奪など)で代替できるかを先に検討する。
- 薬剤を使うなら、観察体制(特に呼吸)を先に設計してから投与する。
また、学会情報として日本小児神経学会は、内服の鎮静剤としてトリクロホスナトリウム(トリクロリール)や、坐剤・注腸液として抱水クロラール製剤が用いられることが多い、と具体的に記載しています。
参考)医療用医薬品 : トリクロリール (トリクロリールシロップ1…
この「内服(トリクロホス)と坐剤/注腸(抱水クロラール)」の整理は、保護者説明の誤解を減らす実務上のコツです。
トリクロール小児の用法用量と体重25kg未満の上限
添付文書では、成人は通常1回1〜2gを就寝前または検査前に経口投与、幼小児は年齢により適宜減量としつつ、実務上は「20〜80mg/kgを標準、総量2gを超えない」ことが明記されています。
さらに重要なのが「体重25kg未満では、総量として体重×80mg/kgを超えない」という“上限の上限”で、過量投与を避けるための赤線ルールとして扱うのが安全です。
添付文書には体重別の1回量の目安(例:体重10kgで200〜800mg=シロップ2〜8mL、体重20kgで400〜1600mg=4〜16mL等)も具体的に書かれています。
現場で起こりやすい落とし穴を、あえて言語化します。
- 「体重換算で計算した量」と「製剤の総量上限(2g=20mL)」の両方を同時に満たす必要がある。
- 体重25kg未満では“80mg/kgの上限”が先に効くため、漫然と「最大80mg/kgまでOK」と理解すると危険になる。
- 前回の効き方(効きすぎ、覚醒遅延など)を踏まえて次回量を相談する、という運用が学会Q&Aでも推奨されています。
「思ったより効かない」ケースに対して、追加投与で帳尻を合わせたくなることがあります。
ただしトリクロホスは活性代謝物(トリクロロエタノール)を介して作用し、また排泄が遅い代謝物(トリクロル酢酸)が血中に残留し得る、という薬物動態上の特徴が添付文書に記載されています。
参考)https://pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00054087.pdf
この背景を踏まえると、追加投与は“単に足し算”ではなく、後から効きが立ち上がって過鎮静になるリスクも念頭に、観察体制込みで判断する必要があります。
トリクロール小児の副作用と呼吸抑制のモニタリング
添付文書の「重要な基本的注意」では、呼吸抑制等が起こり得るため患者状態の十分な観察が必要で、特に小児では呼吸数・心拍数・経皮的動脈血酸素飽和度(SpO2)などのモニタリングに注意するよう明記されています。
また「小児等」の注意には、無呼吸・呼吸抑制・痙攣は低出生体重児、新生児、乳幼児での報告が多いこと、無呼吸・呼吸抑制が起こり心肺停止に至った症例報告もあることが書かれています。
重大な副作用としても無呼吸・呼吸抑制が挙げられ、呼吸状態の観察を十分行うよう記載されています。
ここは“薬剤の知識”だけでなく“運用設計”が重要です。
- 投与前:既往(気道・呼吸器疾患、未熟性、てんかん等)と当日の体調を確認し、少量から開始する姿勢を徹底する。
- 投与後:SpO2低下は遅れて出ることがあるため、入眠したら終わりではなく、検査中〜回復まで連続性のある観察を組む。
- 帰宅判断:学会Q&Aでも、検査終了後や帰宅にあたって意識・覚醒・呼吸状態を十分確認し、帰宅後の連絡方法も確認するよう注意喚起があります。
副作用対応の言い換えとして「気道確保・酸素投与・監視」という基本に立ち返るのが有用です。
添付文書の過量投与の処置でも、呼吸・脈拍・血圧・SpO2の監視と気道確保等の適切な処置が明記されています。
トリクロール小児と相互作用と併用注意(抱水クロラール等)
添付文書では、抱水クロラールは本剤と同様に生体内で活性代謝物トリクロロエタノールとなるため、併用により過量投与になるおそれがあり注意、と明確に記載されています。
つまり、名称が違っても「同じ活性代謝物に収束する薬」を重ねると、意図せず“効き”が強く出る可能性がある、という理解が必要です。
また併用注意として、中枢神経抑制剤(フェノチアジン誘導体、バルビツール酸誘導体等)やMAO阻害剤で作用が増強する可能性があることが示されています。
意外と見落とされがちなのが、アルコールに関する記載です。
添付文書には、アルコール脱水素酵素を競合的に阻害しアルコール血中濃度が高くなる、という機序が記載されています。
小児本人が飲酒する状況は基本ありませんが、「アルコール含有のシロップ剤・含嗽剤」「家庭内での誤飲」など安全管理の視点として、説明テンプレに入れておくと事故予防に役立ちます。
もう一点、クマリン系抗凝血剤(ワルファリン等)について、代謝物トリクロル酢酸が蛋白結合部位からワルファリンを遊離置換し遊離型濃度を増やし得る、と記載があります。
小児でも先天性心疾患等で抗凝固療法中のケースがゼロではないため、「鎮静=単独投与で完結」と決めつけず、併用薬まで含めた薬歴確認が安全です。
トリクロール小児の独自視点:外来検査の説明と「覚醒遅延」対策
検索上位の解説は「用量」「副作用(呼吸抑制)」「適応」が中心になりがちですが、実務では“検査が終わった後”の運用でトラブルが起こります。
日本小児神経学会Q&Aにも、薬の効き方には個人差があり、睡眠状態やふらつきが長く続くことがある、以前の検査で効き目が強かった場合は担当医と容量を相談した方がよい、という記載があります。
添付文書にも「覚醒遅延」がその他の副作用として挙げられており、検査室だけでなく回復スペースでの観察設計が重要になります。
そこで、医療従事者向けに“外来運用のチェック項目”として、次を提案します(施設ルールに落とし込みやすい形)。
- 投与前に「帰宅手段(自転車同乗、公共交通、車など)」と「帰宅後の見守り者」を確認し、単独帰宅を避ける説明を統一する。
- 回復評価は「声かけで開眼」だけでなく、呼吸状態と歩行時ふらつきを含めた観察にする(“寝起き直後の転倒”が典型的なヒヤリ)。
- 次回の改善のために、投与量・入眠までの時間・検査中の体動・覚醒までの時間・副作用の有無を簡単に記録してチームで共有する。
また、MRIなど“体動抑制がより厳しい検査”では、短時間作用の静脈麻酔が用いられることも少なくない、と学会Q&Aに記載があります。
このため「トリクロールで必ず成立させる」より、「検査要件・安全体制・観察困難性(MRIは直接観察しづらい)」を踏まえた鎮静計画を、早めに麻酔科・放射線科とすり合わせる方が結果的に安全です。
—権威性のある日本語の参考リンク(適応・鎮静の位置づけ、患者説明の論点)
担当医の説明の受け方、検査後〜帰宅時の注意、鎮静薬(トリクロホス等)の位置づけがまとまっています。
—権威性のある日本語の参考リンク(添付文書:用法用量、25kg未満の上限、呼吸抑制、併用注意)
用量(20〜80mg/kg、総量2g上限、25kg未満80mg/kg上限)と、呼吸抑制・無呼吸など重大な副作用、抱水クロラール併用注意が確認できます。