受容器と受容体の違い
受容器の定義と刺激と電気信号
受容器は、外界や体内の刺激(機械刺激・温度・化学刺激など)を受け取り、神経活動(電気信号)として中枢へ伝えるための“構造(器官・神経終末・受容細胞を含む概念)”として扱われることが多い用語です。
高校生物の文脈でも「外界からの刺激を受容する器官を受容器という」と説明され、目や耳などが例として挙げられます。
疼痛領域では「侵害受容器」という言い方で、痛みを起こす刺激(侵害刺激)を受け取る受容器が明確に区別され、侵害受容器を介する痛み(侵害受容性痛)という分類にも直結します。
臨床で役立つポイントは、「受容器=刺激を神経信号へ変換する“入口”」という理解です。
参考)かゆみ受容器
たとえば皮膚感覚では、触覚・圧覚・温覚・冷覚・痛覚・痒覚など“感覚の種類”に応じて受容器が整理され、受容器と神経線維の対応を押さえると症状の説明がしやすくなります。
以下は誤解を減らすための簡易整理です(厳密さより現場での使い分け優先)。
・受容器:刺激→電気信号(活動電位)へ「変換」する場(自由神経終末、小体、感覚器官など)。
・受容体:刺激(リガンド)を「選択的に結合」し、細胞内反応を起動するタンパク質(分子)。
参考)受容体(レセプター)
受容体の定義とタンパク質
受容体(レセプター)は、神経伝達物質・ホルモン・生理活性物質などのシグナル分子を“選択的に受容するタンパク質”で、細胞膜に存在するものが多い一方、細胞質や核内にあるものもあります。
この「受容体が細胞膜だけでなく細胞質・核内にもある」という点は、受容器(末梢の構造物)と区別するうえで地味に効くポイントです。
また、受容体は結合しただけで終わりではなく、Gタンパク質活性化やイオン透過、キナーゼ活性化、遺伝子発現調節など“情報変換の方式”が複数あることが、薬理作用の違い(即効性/遅効性、副作用プロファイル)にもつながります。
東邦大学の用語集では、細胞膜受容体を大きく4種類(Gタンパク質結合型、イオンチャネル型、サイトカイン受容体スーパーファミリー、固有の酵素活性をもつ受容体)に分類しています。
さらにステロイドホルモンや甲状腺ホルモンの受容体は細胞質または核内にあり、結合複合体が転写やmRNA安定性を調節すると説明されています。
現場で混乱が起きやすいのは、「受容体」という語が“広めに”使われる場面があるからです。
参考)https://www.wdb.com/kenq/dictionary/receptor
研究用語辞典の説明では、目や耳のような器官レベルから分子レベルまで「受容体」と呼ばれることがあるとされ、文脈依存で意味が揺れます。
医療従事者向けの文章・患者説明では、薬理の話題なら“受容体=分子”、感覚生理なら“受容器=末梢の入口”と決めて使い分けるのが安全です。
受容器と受容体の違いと皮膚と神経
皮膚領域は「受容器」と「受容体」を同じ文脈で扱うため、混同が起きやすい代表例です。
管理薬剤師.comでは、受容器は刺激を電気信号に変換するところ、受容体は刺激によりホルモン分泌や細胞増殖など生理活動を活性化させるもの、と明確に区別して注意喚起しています。
同ページでは、受容器を“器官としてのまとまり”と捉え、その内部にヒスタミン受容体やTRPVなどの受容体(分子)が存在し、リガンド刺激で受容器が電気信号へ変換する、という整理が提示されています。
皮膚の感覚を例に、「受容器(構造)」と「受容体(分子)」を二段階で考えると理解が安定します。
参考)受容体と受容器の違い – を教えてください。 – Yahoo…
・受容器:マイスナー小体、パチニー小体、ルフィニー小体、自由神経終末など、感覚入力の“装置”。
・受容体:TRPチャネルなど、刺激(温度・化学物質など)に応答して電気的変化を起こす“分子部品”。
意外と重要なのが、症状の言語化です。
「皮膚の受容器が過敏」という表現は、末梢入力(神経終末・小体など)側の問題を示唆しやすい一方、「H1受容体が関与」は薬理学的標的(分子)を示すニュアンスになります。
この“指している階層(器官/構造なのか、分子なのか)”がズレると、同じ「かゆみ」でも説明や介入(保湿・物理刺激回避 vs 抗ヒスタミン薬の選択)の話がかみ合いません。
受容器と受容体の違いと痛覚と侵害受容器
疼痛の説明では「侵害受容器」という語が頻出し、これは“痛みを起こす刺激(侵害刺激)を受け取る受容器”と定義されます。
日本ペインクリニック学会は、痛みを「侵害受容器を介する痛み(侵害受容性痛)」と「介さない痛み」に大別すると説明しており、受容器という概念が病態分類の根幹に置かれています。
ここでの受容器はあくまで“刺激入力の窓口”であって、薬理学で言う「受容体(例:オピオイド受容体)」の話とは階層が違う点がポイントです。
また、生化学側のレビューでは、体性感覚の受容器が外受容・内受容・固有知覚に分類され、温刺激・冷刺激・触刺激・圧刺激、そして痛覚も外受容に含まれることが述べられています。
参考)Journal of Japanese Biochemica…
この整理は、疼痛の問診で「どの刺激で増悪するか」を系統立てるのに役立ち、たとえば温度刺激優位か機械刺激優位かで“末梢入力の型”を考えやすくなります。
一方、受容体の分類(GPCR、イオンチャネル型など)は「細胞内シグナルがどう立ち上がるか」を扱うため、薬効発現速度や副作用の説明のほうに向きます。
臨床コミュニケーションでの使い分け例です。
✅「侵害受容器が刺激を拾って痛みが出る」=受容器(末梢入力)の話。
参考)日本ペインクリニック学会
✅「ニコチン型アセチルコリン受容体はイオンチャネル型」=受容体(分子機構)の話。
受容器と受容体の違いと用語と翻訳(独自視点)
独自視点として押さえたいのは、「receptor」の日本語訳が文脈で揺れ、混乱の原因が“翻訳の粒度”にある点です。
研究用語辞典では「受容体」が器官・受容細胞・分子など広い対象に使われ得ると説明され、辞書的には“受容体=receptor”が必ずしも分子に限定されないことが示唆されます。
Weblio国語辞典でも、受容器の項目に「英訳・同義/類義語:receptor」や、受容体を「多くの場合は…分子をさす」とする説明が併記され、一般語としては境界が曖昧になりがちです。
このズレは、職種間連携で特に問題化します。
・薬剤・薬理の会話:受容体=分子標的(例:H1受容体)になりやすい。
・解剖・生理の会話:受容体/受容器が“感覚入力の装置”寄りに使われることがある。
そのため、カンファレンス記録や院内資料では「受容器(末梢の感覚入力構造)」「受容体(分子:レセプター)」のように括弧で補う運用が事故を減らします。
もう一段踏み込むと、同じ「かゆみ」でも“受容器”と“受容体”を分けて考えると、非ヒスタミン性のかゆみを説明しやすくなります。
管理薬剤師.comの記述では、受容器内にヒスタミン受容体やTRPVなどが存在し得る、という見立てが示されており、抗ヒスタミン薬が効きにくいケースで「入力装置は動いているが、標的受容体が違う可能性」などの説明につなげやすい構造になっています。
(参考:受容体の分類の根拠として有用:GPCR/イオンチャネル型/サイトカイン受容体/酵素活性受容体、核内受容体の説明)
(参考:受容器と受容体を皮膚・かゆみの文脈で切り分け、TRPVやヒスタミン受容体を含めて説明している)
