corynebacterium sp とは
corynebacterium sp とは:sp と属の報告の意味
corynebacterium sp とは、検体から「Corynebacterium属」であることは分かったものの、菌種(例:C. striatum、C. jeikeium など)まで確定できていない、または確定する必要性が低いと判断されて「sp(speciesの略)」で報告される状態を指します。
この表記は「よく分からない菌」という意味ではなく、日常検査の同定系(生化学的性状、簡易同定キット、施設の運用)では種同定が難しい・コストに見合わない・臨床的意義が低いと判断される、などの現場都合が反映されることがあります。
一方で、Corynebacterium属は皮膚常在菌として血液培養のコンタミネーションに含められることがあるため、「sp」表記のままでも臨床判断が進みがちです。
ただし、Corynebacterium属の中には日和見感染やデバイス感染で問題になりやすい菌種があり、状況によっては「spのまま流してよい報告ではない」ケースがあります。
医療者が押さえるべきポイントは、sp表記そのものよりも、①検体の種類(無菌材料か)、②血液培養のセット数と陽性ボトルの数、③患者背景(免疫不全、人工物、血管内カテーテル)、④同菌の反復検出、をセットで評価することです。
参考)https://www.kankyokansen.org/other/edu_pdf/3-3_33.pdf
corynebacterium sp とは:グラム染色と形態の特徴
Corynebacterium属はグラム陽性桿菌(GPR)で、グラム染色では棍棒状の菌体がN字・Y字・V字状に配列するなど、いわゆる“coryneform”の形態をとることが知られています。
臨床現場では「GPRが1本だけ見えた」「ブドウ球菌っぽく見える」など、形態の揺らぎが解釈を難しくしますが、実際にCorynebacterium属が球菌様の形態変化を呈し得ることが報告されています。
この形態変化は、血液培養ボトルの条件(嫌気条件など)や培地環境の影響を受け得るため、「グラム染色の第一印象」だけでCNS等と断定しない姿勢が安全です。
また、Corynebacterium属は「皮膚常在菌として採血時に混入しやすい」こと自体が臨床上の重要情報であり、だからこそ採血手技(皮膚消毒、採血セット数の確保)が診断精度に直結します。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjsnr/advpub/0/advpub_20210512140/_pdf/-char/ja
corynebacterium sp とは:血液培養でコンタミか菌血症か
血液培養では、Corynebacterium属はコンタミネーションの原因菌として扱われやすく、複数セット提出されている状況で「1セットのみ」陽性ならコンタミと判定する運用が一般的です。
しかし、デバイス関連感染や易感染宿主ではCorynebacterium属が起炎菌になり得るため、「1セットだけだから無視」と単純化すると、カテーテル関連血流感染(CRBSI)などを見逃すリスクがあります。
特にC. striatumやC. jeikeiumは血流感染の原因になり得る代表例として言及され、重症患者や人工物留置の文脈では“ありふれたコンタミ”の枠を超えて評価が必要です。
実務的には、次の所見がある場合、sp表記でも「起炎菌の可能性」を高めに見積もる方が安全です。
参考)https://www.jscm.org/journal/full/02203/022030207.pdf
・血液培養で複数ボトル/複数セットから同じCorynebacterium属が検出される。
・血管内デバイスがあり、発熱や炎症反応が一致する(抜去カテ先培養や同部位所見があればなお強い)。
・無菌材料(血液、髄液、人工物周囲)からの検出で、他に説明できる原因が乏しい。
corynebacterium sp とは:同定(MALDI-TOF・16S rRNA)と検査室への依頼
Corynebacterium属では、日常検査の生化学的性状だけでは菌種同定が難しいことがあり、MALDI-TOF MSや16S rRNA遺伝子解析が有用になる場面があります。
実際に、通常法では同定困難だったCorynebacteriumが、MALDI-TOF/MSと16S rRNA broad-range PCRで菌種同定に至った症例報告もあります。
一方で、MALDI-TOFは主にタンパク質プロファイルに基づくため、近縁菌種の識別が難しい傾向がある点も知られており、「必要なら遺伝子解析で確定する」発想が重要です。
臨床側が検査室に追加依頼を出すなら、以下のように“目的”を明確に伝えると話が速くなります。
・「血液培養で反復陽性、デバイス関連が疑わしいため種同定を希望」
・「治療薬選択に影響する可能性があるため、可能なら感受性試験を含めて評価したい」
・「公衆衛生上の確認が必要な菌種の可能性はあるか(例:毒素産生性菌種など)」
参考)ジフテリア毒素産生性Corynebacterium ulce…
corynebacterium sp とは:薬剤耐性と治療の落とし穴(独自視点)
Corynebacterium属の臨床的な“意外な落とし穴”は、「コンタミ扱いされやすい一方で、当たる抗菌薬の選択肢が狭い株が存在する」ため、判断が遅れると治療が難化しやすい点です。
C. striatumでは多剤耐性化が問題となり、経口薬でカバーできる薬剤に耐性を示しやすく、結果として静注抗菌薬の使用が増えることが報告されています。
国内報告でも、C. striatumは多剤耐性であることが多く、感受性結果に基づく抗菌薬選択の必要性が述べられています。
さらに、ダプトマイシン耐性C. striatum菌血症の報告もあり、「とりあえず抗MRSA薬」でも常に盤石ではない点は臨床上の注意事項です。
C. jeikeiumについても、耐性度が高くバンコマイシンやテイコプラニンなどが治療選択肢になり得る、という教育的な指摘があります。
参考)グラム陽性桿菌(GPR)
また、C. jeikeium感染性心内膜炎に対してテイコプラニンを用い、TDMを活用して治療した症例報告では、目標トラフ濃度を高めに設定して効果を得た経過が述べられています。
参考)https://www.chemotherapy.or.jp/journal/jjc/05604/056040475.pdf
ここでの独自視点として強調したいのは、「sp表記の段階から、治療が長期化しやすいシナリオ(デバイス+バイオフィルム+経口選択肢乏しい)を想定して動けるか」が転帰と業務負荷に直結する点です。
参考)Multidrug-Resistant Corynebact…
ハードウェア関連感染では治療が長期化し得ることが示されており、抗菌薬だけでなく“抜去・交換”を含むソースコントロールの意思決定が遅れると、結果的に入院延長や静注継続が増えやすくなります。
つまり、corynebacterium sp とは「軽い菌」ではなく、「軽く見える表示で来ることがある、判断負荷の高い菌」と捉えるのが安全です。
公的・日本語の参考(血液培養でのコンタミ判定の考え方がまとまっている)
https://www.kankyokansen.org/other/edu_pdf/3-3_33.pdf
公的・日本語の参考(Corynebacterium ulcerans症例でMALDI-TOFと16S/rpoBで同定した流れが分かる)
ジフテリア毒素産生性Corynebacterium ulce…
論文(多剤耐性C. striatumと静注治療の増加に関する疫学的示唆)
Multidrug-Resistant Corynebact…

Handbook of Corynebacterium glutamicum