電子処方箋 疑義照会 記載
電子処方箋の疑義照会は電話で行い記載で残す
電子処方箋が普及しても、疑義照会そのものは「電子化された照会フォームに入力して送る」方式にはなっていません。厚生労働省のFAQでも、疑義照会は従来どおり電話などで医師・歯科医師に行う、と明記されています(電子処方箋管理サービスで疑義照会を行う仕組みはない)。
一方で「記載(記録)の残し方」は電子処方箋ならではの変化があります。紙の処方箋であれば備考欄に手書きして保存していた疑義照会の結果は、電子処方箋では薬局が作成する調剤結果情報の中に含めて登録し、処方元医療機関が後から参照・取込できる形になります。これは、疑義照会の内容を“伝える”だけでなく、“後で追える”状態にするのが狙いです。
現場で起きやすい誤解は、「電子処方箋=疑義照会のやり取りもチャットのように残るはず」という期待です。実際は、やり取り(照会行為)は電話、残るのは結果(記載)という分離が起きています。この分離を前提に、電話のメモをどの粒度で調剤結果(備考欄相当)に落とし込むかが品質差になります。
電子処方箋の備考欄と調剤結果登録の記載ポイント
電子処方箋運用で「備考欄」という言葉が出てくるとき、二つの意味が混在しがちです。
- 紙の処方箋の備考欄(手書きで記載する欄)
- 電子処方箋の“備考欄相当”=調剤結果登録で残す疑義照会結果の記録領域
厚生労働省のFAQでは、疑義照会で処方内容と異なる内容で調剤された場合、薬局が備考欄に疑義照会結果を記載した上で、変更を反映した調剤結果を作成し、電子処方箋管理サービスに送信するとされています。つまり「備考欄に記載」は、電子運用でも“やるべきこと”として残っています。
では、何をどこまで書くべきか。紙運用時代からの実務を踏襲しつつ、電子化で監査の視点が変わる点を押さえると、次が実装しやすいです。
- 誰に照会したか(処方医/当直医/代行者など、相手の属性が分かる程度)
- 何を照会したか(用法用量、規格、日数、相互作用、重複投薬等チェックで検出された疑い等)
- どの根拠で疑義が生じたか(患者聴取、薬歴、検査値情報の有無、過去処方・調剤情報など)
- どう決着したか(変更なし/変更あり、変更内容、指示の要点)
- いつ決着したか(同日内か、翌日以降か:薬の交付時点と整合するように)
意外と見落とされるのが、「変更なし」のケースです。疑義照会をしたが最終的に処方どおりで進めた場合でも、照会した事実と回答の要旨は残すべきです。電子処方箋だと“変更がないなら痕跡不要”と判断されやすいのですが、後から医療機関側が調剤結果を参照する際、照会の意図が見えないと再照会や患者説明の齟齬につながります。
電子処方箋の処方内容修正と記載の役割分担
疑義照会で変更が生じたとき、医療機関側が「発行済みの電子処方箋の処方内容を修正すべきか」は頻出論点です。厚生労働省のFAQでは、現行運用同様、処方箋自体を書き換えるわけではないため、医療機関側が電子処方箋管理サービス上のデータを修正する必要はなく、電子カルテシステム上に変更内容の記録のみ行う、と整理されています。
ここは、医療機関・薬局双方の“責任境界”が明確になるポイントです。
- 医療機関:発行した処方箋(元データ)は原則そのまま、カルテに変更の事実を記録
- 薬局:疑義照会の結果を踏まえた調剤内容として調剤結果登録に反映し、備考欄相当へ記載
この分担が生きるのは「重複投薬等チェック等において調剤結果のデータを活用する」という運用設計にあります。疑義照会で最終的に患者が受け取った薬(調剤内容)を、次の安全性チェックに使うのは合理的だからです。FAQでも、疑義照会結果を反映した調剤結果を送信し、そのデータを重複投薬等チェック等に活用するとされています。
なお、例外的に「やむを得ず」修正が必要になる場合もFAQで触れられており、その際は薬局側が受付取消処理をした後に医療機関側で修正できるが、引換番号が変わるため患者へ必ず新しい引換番号を伝達する必要がある、とされています。ここは運用事故が起きやすいので、疑義照会の記載にも「引換番号変更が発生したか」を残せるとトラブル予防になります。
電子処方箋の記載が監査で見られる観点
紙の処方箋では、監査・指導で「処方箋の備考欄に疑義照会の内容が書いてあるか」「訂正線が適切か」など、物理的な証跡が焦点になりやすい傾向がありました。電子処方箋では、証跡は“調剤結果登録データ+薬局内の調剤録・薬歴”の整合で見られやすくなります(紙のように、処方箋の原本だけで完結しない)。
ここで重要になるのが、電子処方箋の運用ガイドラインが示す「薬局の薬剤師は、必要に応じて処方内容の照会を行った上で調剤し、確認した内容等の必要事項を含め調剤結果を作成する」という流れです。疑義照会で確認した内容は、調剤結果に含めるべき「必要事項」の代表格であり、抜けると調剤結果の説明力が落ちます。
https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/000936480.pdf
実務上は次の“整合ポイント”が弱点になりがちです。
- 調剤結果登録の記載と、薬歴の記載の粒度が違いすぎる(片方が極端に薄い)
- 疑義照会による変更があるのに、患者への説明(服薬指導)の記録に反映されていない
- 変更内容が「代替薬へ変更」なのに、変更理由(供給不安・販売中止・規格誤り等)が不明
- 医療機関側が参照したときに、変更の“確定情報”が読み取れない(誰が承認したか等)
電子化で意外に効いてくるのは「二次利用される前提の書き方」です。つまり、人間がその場で読むだけでなく、後から処方元がシステムで取り込んで見返す、重複投薬等チェック等に使われる、という前提で曖昧語を減らす必要があります。「医師OK」より「○○医師より△△へ変更可の回答」など、最低限の具体性が安全です。
電子処方箋の疑義照会を減らす独自視点:記載を“次の処方”へ返す
検索上位の記事では「電子処方箋でも疑義照会は電話」「記録は調剤結果登録」といった手順整理が中心になりがちです。ここでは一歩進めて、疑義照会の“件数そのもの”を減らすために、記載を医療機関の次回処方へ還流させる視点を提案します(独自視点)。
電子処方箋運用ガイドラインでは、薬局が処方内容の照会や後発医薬品への変更などを含む調剤業務を行い、その結果を医療機関に戻し、次の処方情報作成の参考にできる、といった情報の有効利用がメリットとして述べられています。つまり、疑義照会の記載は“過去の処理メモ”ではなく、“次の処方の品質改善データ”にもなり得ます。
https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/000936480.pdf
具体的には、疑義照会の記載を次の3カテゴリにタグ付けする発想が有効です(システム機能がなければ、文章の冒頭に短いラベルを付けるだけでも可)。
- ✅形式不備(記載漏れ・日数矛盾・規格不明など)
- ✅薬学的(相互作用、腎機能、重複投薬等チェックでの検出など)
- ✅供給・運用(採用外、流通停止、後発品変更、院内採用差など)
このタグ付けを薬局内で集計すると、「どの診療科・どの曜日・どの処方パターンで形式不備が多いか」が見え、医療機関へ“プロトコル化”の提案につながります。院外処方の問い合わせ簡素化プロトコル(いわゆる疑義照会簡素化)と組み合わせれば、形式的疑義照会を減らし、電話の負担を薬学的疑義へ振り向けられます(ただしプロトコル導入には施設間合意と院内ルール整備が前提)。
さらに意外な論点として、電子処方箋はシステム応答が平均数秒という情報が公開されており、通信の遅さより「HPKIカード読み取り等の付帯時間」や「人の作業時間」がボトルネックになりやすい、と示唆されています。つまり疑義照会の削減は、DXの“通信高速化”ではなく、“記載の標準化と再利用”が効く領域です。
有用:疑義照会の運用(電話で実施、医療機関側の修正不要、備考欄記載と調剤結果活用の方針)
有用:電子処方箋の運用全体像(照会→調剤結果作成、情報連携のメリット、セキュリティ前提)
https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/000936480.pdf

自分の居場所を見つける50のヒント 仕事に行き詰まったとき、自分の人生に悩んでいるときの処方箋【電子版】