向精神薬と保管と区別
向精神薬の保管の基本と施錠
向精神薬の保管でまず押さえるべきは、「施設内保管」と「施錠」の2本柱です。大阪府の手引では、譲り受けた向精神薬は病院・診療所・飼育動物診療施設の施設内に保管すること、そして医療従事者が盗難防止に必要な注意をしている場合以外は、かぎをかけた設備内で保管することが示されています。
ここで重要なのは、施錠が“常に絶対”というより、「実地に盗難防止の注意をしている場合を除き施錠」という“条件付き義務”の形になっている点です。 つまり、ナースステーションや調剤室で「人が常時いて目が届く」状況をどう定義し、夜間・休日にどう切り替えるかが運用の焦点になります。
実務では、例外(施錠不要)運用を広げすぎると、盗難・紛失などの事故時に説明が苦しくなります。東京都の手引でも、盗難防止の注意が十分払われている場合を除き鍵付き設備内で保管すべきとした上で、病棟ナースステーション等の具体例を挙げて「必要な注意がない場合は引出し等を施錠」と具体化しています。
参考)https://www.mhlw.go.jp/bunya/iyakuhin/yakubuturanyou/dl/kouseishinyaku_01.pdf
したがって、監査対応としては「原則施錠、例外は限定」を基調に、例外を使うなら“注意体制(誰が・どこで・どう監視)”を文書化しておくのが安全です。
向精神薬の区別:麻薬と保管庫
向精神薬の「区別」で最も事故りやすいのが、麻薬保管庫との関係です。東京都の手引は、向精神薬は麻薬と区別して保管しなければならず、麻薬保管庫内に麻薬と向精神薬を混置できない、と明記しています。
現場では「麻薬金庫は頑丈だから、つい同じ金庫にまとめたくなる」ことがありますが、区別義務の観点では“頑丈さ”と“混置禁止”は別問題です。
対策としては、保管設備を完全に分けるのが最も説明が簡単です。もしスペース制約などで同じ部屋に置く場合でも、少なくとも“別鍵・別区画・別トレー・別ラベル”など、第三者が見ても混在しない構造にし、運用ルール(鍵管理者、開閉ログ、取り出し手順)を整備すると、指摘の芽を摘みやすくなります。
また、盗難リスクが高い注射剤等は特に厳重管理が望ましい旨も東京都手引に記載があり、乱用・盗難のおそれが高い製剤(例:ペンタゾシン、ブプレノルフィン等)で管理の強度を上げる合理性が示されています。
向精神薬の区別:毒薬劇薬と表示
向精神薬は、麻薬だけでなく毒薬・劇薬とも区別して保管する必要があります。東京都の手引では、向精神薬は毒薬・劇薬と区別して保管しなければならないことが明示されています。
ここでの落とし穴は、病棟配置薬や救急カートなどで「毒薬・劇薬の引出し」と「向精神薬」を同じ“危険薬棚”にまとめてしまう運用です。区別は“棚が違う”だけでなく、誰が見ても取り違えない配置・表示・収納単位(トレーやボックス)まで落とし込むと事故が減ります。
表示の面では、向精神薬の外箱等に「○向」表示があることも、東京都の手引に記載されています。 この表示は監査・棚卸での“見分け”に役立つ一方、外箱を廃棄してPTPだけで保管すると視認性が落ちます。
そのため、外箱廃棄運用をしている部署ほど、保管容器に「向精神薬」表示を付ける、採用品目リストを引出し内に貼る、ハイリスク品に注意札を付けるなど、表示を“再構築”する工夫が有効です。
向精神薬の管理:記録と在庫確認
区別と保管が形だけ整っていても、在庫が合わなければ事故(盗難・紛失・不正使用)の疑いを招きます。大阪府の手引では、第一種および第二種向精神薬を譲り受け・譲り渡し(患者交付等を除く)・廃棄した場合、品名・数量・年月日・相手方営業所等を記録し、2年間保存することが示されています。
東京都の手引でも、第一種・第二種の記録義務と2年間保存、そして第三種は義務ではないが在庫管理の観点から同様の記録が望ましい、という整理がされています。
加えて東京都の手引は、定期的に在庫確認を行うことが望ましいとも記載しています。 ここは“意外と軽視されがち”ですが、実務的には棚卸頻度がそのまま事故の早期発見力になります。
例として、次のような運用が監査・安全両面で強いです(施設規模に応じて調整)
- 第一種・第二種:週次(または払出し都度)で在庫照合し、差異は当日中に一次報告。
- 第三種:月次で棚卸しし、数量の急変(特定病棟だけ異常に減る等)を監視。
- 払出しは「必要最小限(適正在庫)」を原則とし、病棟側責任者を明確化。
記録は「紙帳簿」でも「伝票綴り」でもよいとされますが、伝票で代替する場合は向精神薬が記録された伝票を他の伝票と分けて綴る必要がある点も大阪府手引で注意されています。 “綴り分け”ができていないと、実地指導で「記録はあるが、すぐ出せない」状態になりやすいので、保管場所と索引(年月・業者別など)を決めておくと運用が安定します。
向精神薬の保管と区別:監査で刺さる独自視点(例外運用の設計)
検索上位の解説は「鍵をかける」「麻薬と分ける」で止まりがちですが、現場で本当に揉めるのは“例外運用”の設計です。東京都の手引は、盗難防止の注意が十分払われている場合を除き施錠、と書いているため、逆に言えば「注意が十分」なら施錠しない余地が残ります。
この余地を曖昧にすると、部署ごとに独自解釈が生まれ、看護師交代・夜勤帯・応援勤務でルールが崩れます(ルールの崩壊は、そのまま事故リスクです)。
そこで、次のような“例外を管理するための例外ルール”を作ると、運用が締まります。
- 「施錠例外」は“時間帯”でなく“状態”で定義(例:施錠例外は、担当者が当該場所を視認でき、部外者が立ち入らない状態に限る)。
- 例外状態が崩れたら即施錠(例:カンファで無人になる、救急対応で詰所が手薄になる、休憩交代が発生する等)。
- 鍵の所在を固定(例:キーボックス、鍵当番、持ち出し禁止)し、鍵が行方不明になった時点でインシデント扱い。
大阪府の手引でも、夜間・休日など注意する者がいない場合に出入口やロッカー等に施錠する、という具体例が示されており、例外運用は「夜間・休日で強化」が基本線だと読み取れます。
つまり、監査で説明しやすいのは「例外を広げる」より「例外を潰す」設計で、結果として教育コストも下がります。
(参考リンク:向精神薬は麻薬・毒薬劇薬と区別、施錠の考え方、事故届や記録の要件まで1つのPDFで確認できる)
(参考リンク:病院・診療所での保管具体例(調剤室、ロッカー、ナースステーション)と、第一種・第二種の記録保存2年がまとまっている)