マイスナー神経叢とアウエルバッハ神経叢
マイスナー神経叢 アウエルバッハ神経叢の位置と筋層と粘膜下層
消化管壁は概ね、内腔側から粘膜・粘膜下層・筋層(輪走筋と縦走筋)という層構造をとり、その「層と層の間」に神経叢が配置されています。腸管神経系(enteric nervous system; ENS)は、縦走筋と輪走筋の間にある筋層間神経叢(アウエルバッハ神経叢)と、粘膜下組織にある粘膜下神経叢(マイスナー神経叢)から構成される、と整理すると位置関係が一気に明確になります。
現場の説明では「アウエルバッハ=筋層間」「マイスナー=粘膜下」と短く言い切れることが重要で、これは解剖学的な語感(myenteric / submucosal)とも一致します。
注意点として、粘膜下神経叢は部位差があり、小腸・大腸で神経節が認められ、食道・胃では観察されないことがある、という記載があり、単純な暗記だけだと混乱の原因になります。
医療従事者の「説明用」には、以下のようなミニ表現が便利です(患者向け説明では噛み砕く)。
- アウエルバッハ神経叢:縦走筋と輪走筋の間(筋層間神経叢)。
- マイスナー神経叢:粘膜下層(粘膜下神経叢)。
- 両者:腸管神経系(ENS)として消化管壁内でネットワークを作る。
マイスナー神経叢 アウエルバッハ神経叢の機能と蠕動運動と分泌
機能の大枠は、アウエルバッハ神経叢が「運動(motility)」、マイスナー神経叢が「分泌・吸収・血流(secretion/transport/blood flow)」と捉えると臨床推論に乗せやすくなります。
筋層間神経叢は解剖学的位置からも分かる通り、消化管運動の制御に主に関与し、食道から肛門まで連続したネットワークを形成している、という説明が専門辞典側にあります。
一方、粘膜下神経叢は、粘膜上皮における電解質・水分泌制御や粘膜の小動脈の血流制御に関与する、とされ、ここを押さえると「下痢(分泌)」「虚血(血流)」などの連想が可能になります。
もう一段、医療者として押さえておきたいのは「ENSは中枢を介さず反射弓を作れる」という特徴です。腸管神経系のみで反射弓が構成され、消化管運動や粘膜での水・電解質輸送の制御が、中枢神経系を介さず自律的に行える、と説明されています。
そのうえで、交感神経系・副交感神経系など外来神経がこの自律的制御を修飾する、という階層構造で理解すると、薬理(抗コリン薬やオピオイドなど)との接続がスムーズになります。
参考)腸神経系
覚え方(教育・指導で有用)。
マイスナー神経叢 アウエルバッハ神経叢と腸管神経系と第二の脳
腸管神経系(ENS)は、食道から肛門までの消化管壁に内在する神経ネットワークで、筋層間神経叢(アウエルバッハ)と粘膜下神経叢(マイスナー)からなる、と脳科学辞典で明確に定義されています。
また、ENSは反射弓を局所で構成できる点や、中枢神経系に類似する機能を持つ点、さらにニューロン数が脊髄のニューロン数に匹敵するとされる点から「第二の脳」とも称される、と解説されています。
この「第二の脳」という表現は一般向けに独り歩きしがちですが、医療従事者の文章では「局所反射」「自律的制御」「外来神経で修飾」という3点セットで補足し、過剰な擬人化を避けると信頼性が上がります。
現場で役立つ“深掘り”として、ENSの構成要素はニューロンだけではありません。腸管神経節には神経細胞に加えてグリア細胞も存在し、中枢神経系の構造に類似する点がある一方で、血液脳関門のような構造は存在しない、という記載があります。
つまり「腸の神経=自律神経の末端」ではなく、「局所で情報統合し出力するシステム」と捉える方が、病態(炎症、術後、薬剤)を説明しやすくなります。
参考(腸管神経系の定義、位置、機能、ニューロン数や“第二の脳”の根拠)。
腸管神経系の全体像(筋層間神経叢・粘膜下神経叢、局所反射、第二の脳)https://bsd.neuroinf.jp/wiki/%E8%85%B8%E7%AE%A1%E7%A5%9E%E7%B5%8C%E7%B3%BB
マイスナー神経叢 アウエルバッハ神経叢とヒルシュスプルング病
臨床で「神経叢」を強く意識する代表例がヒルシュスプルング病で、先天的な腸管運動障害として理解されます。ヒルシュスプルング病は、直腸生検などの組織学的評価で、粘膜下(Meissner)と筋層間(Auerbach)の神経叢における神経節細胞の欠如(aganglionosis)を確認することが診断の柱、と解説されています。
さらに、無神経節部では神経線維の肥厚(hypertrophy)を伴うことがある、という病理学的特徴も合わせて述べられており、単に「神経がない」ではなく「神経叢構築の破綻+代償的変化」と捉えると病理像が頭に残ります。
「マイスナー神経叢とアウエルバッハ神経叢のどちらが重要か」というより、両者の神経節細胞が欠如すること自体が典型像、と押さえるのが安全です。
医療者ブログとしての実務ポイント(説明責任に直結)。
- 症状(便秘・腹部膨満)を「蠕動が弱い」で終わらせず、ENSの欠損として説明する。
- 検査(直腸生検)の意義を「神経節細胞の有無を見る」と短い言葉で言えるようにする。
- 所見はAuerbach/Meissner両方の“無神経節”が典型であることを明示する。
参考(ヒルシュスプルング病の病理:Auerbach/Meissnerの無神経節、神経線維肥厚)。
病理診断の要点(aganglionosisの場所と付随所見)https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK562142/
マイスナー神経叢 アウエルバッハ神経叢と腸管グリアと上皮バリア(独自視点)
検索上位の多くは「位置と機能(運動/分泌)」で止まりがちですが、現代的には“神経叢=ニューロンだけ”ではなく、腸管グリア(enteric glial cells; EGC)を含む微小環境として理解すると、炎症・腫瘍・バリア障害との接続がしやすくなります。脳科学辞典でも、腸管神経叢にはグリア細胞が存在し、粘膜直下にも腸管グリアが存在する、と述べられています。
さらに興味深い報告として、腸管グリアが上皮バリア機能の調節に関与しうることが示されており、ヒトの粘膜下神経叢や粘膜下(subepithelium)において、15-deoxy-Δ12,14-prostaglandin J2(15dPGJ2)合成に関わる酵素発現が検討された研究があります。
その研究では、腸管グリア由来因子が上皮細胞(IEC)の増殖抑制や分化関連遺伝子発現に影響し、PPARγ経路との関連も示唆された、と要約できます(詳細は原著参照)。
この視点を「マイスナー神経叢・アウエルバッハ神経叢」の記事に入れる利点は、単なる解剖暗記を超えて、次のように臨床の問いへ接続できる点です。
- 「粘膜下(マイスナー周辺)のグリアと上皮が近い」という空間的納得が、バリア障害や炎症の説明に役立つ。
- 機能を“分泌”だけでなく“上皮の恒常性”まで広げると、IBDや感染後の症状理解に繋がる仮説が立てやすい。
- 患者説明では踏み込みすぎない一方、医療者教育では「腸の神経=運動」だけではない、と視野を広げられる。
論文(腸管グリアと上皮バリア関連:15dPGJ2、PPARγ、粘膜下神経叢での所見を含む)。
権威性のある補足(医療者向けに“消化管の壁在神経叢”を概説し、アウエルバッハ神経叢・マイスナー神経叢の位置づけが確認できる)。
消化管の基本構造と壁在神経叢(位置づけの確認)第35回 消化管の基本構造を知ろう!