臨床工学技士告示研修と実技研修
臨床工学技士告示研修の目的と対象者の考え方
告示研修は、「臨床工学技士の業務範囲追加」に伴い、厚生労働大臣指定の枠組みで実施される研修として位置づけられています。研修の設計思想は単純な“追加手技の練習”ではなく、①知識、②技能、③態度(患者への心理的配慮や医療安全を含む)をセットで到達目標化している点にあります。
この「態度」まで含めた到達目標は、現場の教育で軽視されがちな“報告のタイミング”“禁忌の見抜き方”“合併症の初期兆候の拾い方”を、標準化した学習項目として固定する役割を持ちます(到達目標の表には、患者の状態・心理的配慮、禁忌事項、感染管理、針刺し事故などが明記されています)。参考:日本臨床工学技士会:研修の到達目標と必要時間数
現場目線で重要なのは、「告示研修を受けた=すぐに単独で実施できる」ではないことです。到達目標は“概説・シミュレーション”を含む表現になっており、修了後は自施設の体制(医師の指示系統、手順書、監督の範囲、夜間対応の設計)に合わせて、OJTで段階的に実装していく必要があります。
また、告示研修の存在価値は個人のスキルアップだけでなく、病院全体のタスク・シフト/シェアを設計する際の「共通言語」になる点です。医師や看護部が“どこまでを任せられるか”を議論する時に、研修の到達目標という外部基準があると、属人的な議論から脱却しやすくなります(働き方改革の文脈でも多職種連携・タスク・シフトが整理されています)。参考:厚生労働省:勤務環境改善に向けた好事例集(タスク・シフト/シェア等)
臨床工学技士告示研修の到達目標と必要時間数(静脈路・動脈表在化・心カテ・清潔操作)
告示研修の“芯”は、到達目標が具体的な行為に紐づき、必要時間数が分単位で提示されていることです。たとえば静脈路関連では、上肢皮下静脈の解剖、手技・使用器具、患者状態と心理的配慮、合併症(神経損傷を含む)や禁忌、感染管理、針刺し事故を含む医療安全と緊急時対応までが到達目標に入っています。必要時間数も「180分以上」など、項目ごとに下限が明記されています。参考:日本臨床工学技士会:研修の到達目標と必要時間数
この“下限が明記されている”という仕様は地味ですが、教育設計にはかなり効きます。院内教育はどうしても「忙しいから短縮」「指導者により濃淡」が生じますが、告示研修で得た時間感覚を院内の教育計画に逆輸入すると、手技教育が“イベント”から“システム”に近づきます。例えば、静脈路の確保・抜針・止血は、単に穿刺の成功率だけではなく、禁忌や出血傾向、抗凝固薬の影響、血栓症などの合併症までを含めて一連の業務として学習設計できるようになります(止血の原理、凝固機能検査、抗凝固薬の影響まで到達目標に記載)。参考:日本臨床工学技士会:研修の到達目標と必要時間数
さらに意外と見落とされがちなのが、鏡視下手術(カメラ保持・操作)や清潔操作も研修の柱として大きく割かれている点です。鏡視下手術関連は必要時間数が「420分以上」と長く、実技動画視聴・実技指導も「1人当たり220分以上」と、研修の中でも比重が大きい領域になっています。これは、スコープ操作が単なる“手の器用さ”ではなく、視野の死角理解、術式ごとの術野、清潔、合併症、医療安全まで含む複合技能として扱われていることを示します。参考:日本臨床工学技士会:研修の到達目標と必要時間数
臨床工学技士告示研修のeラーニングと実技研修タイムテーブル(2日間)
告示研修は、eラーニング(基礎研修)と、会場での実技研修(集合・対面)を組み合わせる構造で運用されています。実技研修は2日間で、時間割が公開されており、1日目は「手術における清潔操作」「鏡視下手術のカメラ保持・操作」が中心、2日目に「静脈路からの薬液投与」「静脈路の確保・抜針・止血」「動脈表在化の穿刺」「心・血管カテの電気的負荷」などが並びます。参考:日本臨床工学技士会:実技研修のタイムテーブル
タイムテーブルから読み取れる“意外な現実”は、1日目が午後開始(受付12:20開始)で、鏡視下手術のカメラ保持・操作が長時間(14:10〜19:00)に設定されていることです。ここは体力勝負になりやすく、事前に「立位での保持」「モニタを見続ける集中」「清潔保持のルール」を、頭だけでなく身体感覚として準備しておくと当日の学習効率が上がります。参考:日本臨床工学技士会:実技研修のタイムテーブル
また2日目は短いセッションが連続し、静脈路・動脈表在化・心カテ電気的負荷へと切り替わっていきます。ここで差が出るのは、各手技を“別科目”として覚えるのではなく、「合併症→兆候→初期対応→報告→記録」という共通の安全フレームで横断的に整理しているかどうかです。告示研修の到達目標自体が、感染管理・医療安全・緊急時対応を各項目に必ず含めているため、この横断整理が研修設計と一致します。参考:日本臨床工学技士会:研修の到達目標と必要時間数
臨床工学技士告示研修修了後に現場で活かす手順書・教育・監査(独自視点)
告示研修の“本当の成果”は、修了証を得ることよりも、院内の手順書と教育を更新できるかにあります。特に静脈路や抜針・止血のように、患者状態(認知機能、転倒転落の可能性等)や心理的配慮が到達目標に入っている行為は、手技だけでは完結しません。つまり、現場導入では「誰が、どの条件の患者に、どの環境(手術室/ICU等)で、どの監督のもとで」実施するかを、手順書に明文化しないと安全も説明責任も担保できません。参考:日本臨床工学技士会:研修の到達目標と必要時間数
ここで使えるのが、病院の働き方改革の枠組みでよく使われる「業務の標準化」「タスク・シフト/シェア」の考え方です。告示研修で得た能力を個人技能で終わらせず、①業務の棚卸し、②リスク評価、③教育計画、④実施記録の監査(インシデント/ヒヤリハット含む)までを回すと、タスク・シフトが“人手不足の穴埋め”ではなく“質と安全の再設計”になります。参考:厚生労働省:勤務環境改善に向けた好事例集
独自視点として提案したいのは、「告示研修修了者台帳」を“教育のため”に作ることです。人事台帳ではなく、①修了日、②どの領域を院内で実施しているか、③単独可/指導下可/見学のみ、④年次のリフレッシュ(院内勉強会・シミュレーション)を紐づける運用にします。告示研修は到達目標と時間数が明確なので、院内側も更新基準を作りやすく、監査対応や新人教育(異動者の立ち上げ)にも転用しやすいのが利点です。
最後に、現場が最も困りやすいのは「研修で学んだことを、どこから導入するか」です。優先順位の付け方としては、(1)既にCEが周辺業務を担っている領域(手術室/ICUなど)、(2)インシデントリスクが高く標準化メリットが大きい領域(輸液ポンプ・シリンジポンプ周り等)、(3)医師・看護との情報共有が仕組み化しやすい領域、の順に検討すると、導入後に形骸化しにくくなります。
※権威性のある参考リンク(制度の一次情報)
告示研修の到達目標・必要時間数の根拠(通知抜粋)について:https://ja-ces.or.jp/kokuji-kenshu/mokuhyo/
※権威性のある参考リンク(実技研修の具体スケジュール)
実技研修2日間のタイムテーブル(当日の流れの把握)について:https://ja-ces.or.jp/kokuji-kenshu/timetable/

Clinical Engineering2023年7月号 Vol.34No.7: 特集1医師の働き方改革に伴うタスク・シフト/シェアへの取り組み 特集2臨床実習指導者育成への取り組み