乏精子症と精液検査と基準値の診断

乏精子症と精液検査

乏精子症の臨床で押さえる要点
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まず精液検査を「複数回」

精液所見は変動が大きいので、禁欲期間を揃えたうえで最低2回(必要なら3回)で判断するのが基本です。

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基準値はWHO 2021を目安に

精子濃度1,600万/mLなどの「正常下限」は、自然妊娠集団の下位5%であり「正常=容易に妊娠」ではありません。

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原因検索は泌尿器科と連携

身体診察・陰嚢エコー・ホルモン・遺伝学的評価を組み合わせ、可逆的原因(例:精索静脈瘤、内分泌異常)を拾い上げます。

乏精子症の精液検査と基準値の読み方

 

乏精子症は「精子数(特に精子濃度や総精子数)が基準を下回る状態」を指し、診断の入口は精液検査です。日本生殖医学会の一般向けQ&Aでも、男性側の最も基本的な検査は精液検査であり、女性側の評価と並行して進める重要性が示されています。

検査条件としては禁欲期間(2〜7日)を揃えること、射精後なるべく早く評価することが望ましいとされます。 さらに、精液所見は体調などで変動するため「2回以上(傾向が掴めなければ3回)」で総合判断する推奨が明記されています。

WHOラボマニュアル2021(第6版)に基づく正常下限の代表例は、精液量1.4mL以上、精子濃度1,600万/mL以上、総運動率42%以上、正常形態率4%以上、白血球数100万/mL未満などです。 ただし、この「下限」は自然妊娠集団の分布における5パーセンタイルという位置づけで、正常範囲内でも「容易に自然妊娠できる」とは限らない点を、説明として必ず添えるべきだと日本産婦人科医会の解説でも注意喚起されています。

参考)精子の数が少ない原因と治療法を解説 – 銀座リプロ外科

臨床での伝え方の工夫としては、患者の受け止めを二極化させないのがコツです。例えば「基準値は合否ではなく“確率の目安”で、複数回の結果と背景(禁欲期間・採精条件・発熱・薬剤など)を合わせて判断する」と伝えると、再検の納得感が上がります。

参考)https://ivf-kyono.jp/column/3302/

また、結果票の「精子濃度」だけに視線が固定されがちなので、総精子数(精子濃度×精液量)、運動率、形態、白血球(炎症の示唆)までセットで確認する運用が重要です。

乏精子症の原因と泌尿器科的検査の進め方

精液検査で基準を下回った場合は、泌尿器科的検査へ進みます。日本生殖医学会のQ&Aでは、問診・身体診察・陰嚢超音波・ホルモン検査・染色体検査などで原因レベル(視床下部〜下垂体〜精巣)を切り分ける流れが整理されています。

問診では、停留精巣や精巣捻転、性感染症、精巣外傷、手術歴、薬剤歴(例:男性型脱毛症治療薬など)、生活習慣(喫煙・飲酒・ストレス)や性機能(勃起・射精)まで確認項目に含めることが推奨されています。

身体診察は、精巣容積・硬さ・左右差、精索の怒張から精索静脈瘤を疑うなど、診断と治療適応の“分岐”を作る工程です。 陰嚢超音波は非侵襲で、精巣容積評価や腫瘍・萎縮の確認に加え、精索静脈瘤の血流・逆流評価にも有効とされています。

ホルモンはLH、FSH、テストステロン、プロラクチン、エストラジオールなどを測定し、障害部位の推定に使います。 そして、無精子症や高度乏精子症では染色体異常やY染色体微小欠失の関与が増えるため、遺伝学的検査を含めた評価が必要になる点も示されています。

見落としやすい観点として、患者が持参する前医データの扱いがあります。日本産婦人科医会の記載では、精液検査は測定法が一律でないため、前医結果との単純比較が難しいことがあるとされ、同一施設・同一条件での再評価の価値が示唆されます。

現場では「同じ条件で取り直す理由」を言語化できるかが、検査継続率の差になります(例:禁欲日数の揺れ、持参時間、温度管理など)。

乏精子症の治療と薬物療法と生殖補助医療

治療選択は「原因に対する治療」と「妊娠達成のための手段(ART含む)」の二本立てで設計します。日本生殖医学会Q&Aでも、精液検査で異常が見られた場合には詳細な検査が必要とされ、原因精査を踏まえた次ステップが前提になっています。

臨床上は、可逆性のある原因(例:精索静脈瘤、内分泌異常、炎症、薬剤性など)が見つかるかどうかで、介入の優先順位が変わります。

薬物療法については、患者向け資料でも「ホルモンの数値が低い乏精子症に対してクロミフェンクエン酸塩の有効性が期待される」旨が述べられています。 一方で、乏精子症全体に対する薬物療法は“万能”ではなく、ホルモン背景や病態で効果の見込みが変わる点を、医療従事者側が先に整理しておく必要があります。

参考)https://mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/report_pdf/202327003B-sonota1.pdf

また、治療のゴールは精液所見の改善だけではなく、カップルの時間軸(女性年齢、卵巣予備能、治療歴、心理負担、保険適用回数など)を含めた妊娠確率の最大化です。

生殖補助医療(AIH/IVF/ICSI)の選択は、精子濃度・運動率などの所見だけでなく、採精の再現性、精子回収後の運動性、パートナー側因子の有無も含めて決めます。 説明時は「検査値→治療」ではなく「原因→治療(+必要なら近道としてART)」と並列に提示すると、患者が“遠回りさせられている感”を持ちにくいです。

論文引用(関連領域として、ホルモン介入の考え方の背景理解に)。

NEJM(日本語要約):原因不明不妊に対するレトロゾール/ゴナドトロピン/クロミフェンの比較

参考)原因不明の不妊症に対するレトロゾール,ゴナドトロピン,クロミ…

※これは女性側の排卵誘発の話題ですが、「薬剤で“数字を動かす”こと」と「出生に結びつくアウトカム」の距離感を説明する際の思考整理に役立ちます。

乏精子症の精子DNA断片化と酸化ストレスの位置づけ

近年、精子の「数」だけでなく「質」を評価する検査として、精子DNA断片化や精液中酸化ストレスなどが話題になります。日本産婦人科医会の解説では、精子DNA断片化など“精子の質”に関する検査の報告はあるものの、妊孕性との関連については「いまだ強いエビデンスがあるとは言いがたい」と記載され、結果の解釈には慎重さが必要とされています。

同じく、スマートフォンアプリなど簡易検査は現状では参考値として扱うべきだと明記されており、患者が自己検査結果を過大評価しないよう注意が必要です。

医療従事者向けの実務としては、精子DNA断片化の結果を“治療のトリガー”にするのではなく、「通常の精液検査で説明しきれない反復不成功や背景因子がある場合の追加情報」として位置づける方が安全です。

また、白血球数(炎症の示唆)や生活習慣(喫煙・ストレス)など、酸化ストレスに結びつきやすい要因は問診で拾えるので、先にそこを整えるだけでも患者満足度が上がることがあります。

“意外に効く”現場の工夫として、禁欲期間の統一だけでなく「採精後の持参時間・温度管理」を聞き取って次回に是正することがあります(運動率のぶれの説明がしやすくなる)。

乏精子症の独自視点:検査前禁欲と採精環境の実装

検索上位では「原因」「治療」「基準値」が中心になりがちですが、現場で差がつくのは“再現性のある検査運用”です。日本生殖医学会Q&Aでは禁欲期間2〜7日の保持、院内採精の方が正確な結果が得られやすいこと、精液所見は変動するため複数回検査が推奨されることが具体的に記載されています。

つまり乏精子症の診療は、薬や手術の前に「検査プロトコルの最適化」という改善余地が残っているケースが一定数あります。

実装のポイントは、患者の行動に落とし込める形にすることです。例えば初回から説明書に「禁欲は2〜7日、できれば前回と同じ日数」「採精は可能なら院内」「自宅採精なら提出までの時間と保温を徹底」など、手順を箇条書きで渡すと、2回目の検査の“解釈可能性”が上がります。

加えて、患者の心理的ハードルにも言及し、精液検査が重要であること、そして現時点で妊孕性評価のスクリーニングとして精液検査が中心であることを明確に伝えるのが有用です。

  • 検査前の確認:禁欲期間(2〜7日)、発・体調不良、服薬、採精方法(院内/自宅)
  • 結果説明の型:「正常下限=合格」ではなく「自然妊娠集団の下位5%が基準」
  • 次の一手:異常があれば泌尿器科的検査(身体診察、陰嚢エコー、ホルモン、染色体)

検査運用を整えるだけで「偽の悪化(条件の差による見かけの低下)」を減らせるため、不要な不安や不要なART前倒しを避けられる可能性があります。 逆に、何となく1回だけ測って“乏精子症”ラベルが貼られると、本人の自己効力感が落ち、通院中断や夫婦関係の摩耗につながりうるため、最初の説明設計が重要です。

日本語の参考リンク(精液検査の基準値と複数回検査の推奨、追加検査の全体像)。

日本生殖医学会:生殖医療Q&A「不妊症の検査」

日本語の参考リンク(WHO2021基準値の意味づけ、精液検査の解釈上の注意点、DNA断片化などの位置づけ)。

日本産婦人科医会:(3)男性不妊症の検査・診断

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