モノバクタム構造
モノバクタム構造のβラクタム環の特徴
モノバクタム(monobactam)の最大の特徴は、βラクタム系の中で「単環(monocyclic)のβラクタム環」を核にしている点です。多くのβラクタム(ペニシリン系・セファロスポリン系など)はβラクタム環に別の環が縮環していますが、モノバクタムは“βラクタム環が単独で存在する”ことが構造的な個性になります。
臨床で流通している代表(実質的に唯一の市販薬として扱われることが多い)はアズトレオナムで、モノバクタム系薬剤として位置づけられます。
この「単環」という違いは、単なる化学の話では終わりません。βラクタマーゼは“酵素反応として基質(薬剤)を認識して分解する”ため、環の張力・置換基・立体障害などが変わると、分解されやすさ(=耐性化のされやすさ)が変化します。メタロ-β-ラクタマーゼ(MBL)に対してアズトレオナムが分解されにくい可能性がある、という説明は、この「構造の違いが基質特異性に影響する」という考え方そのものです。
参考)http://www.kanazawa-med.ac.jp/~kansen/situmon3/metaro-beta.html
モノバクタム構造とアズトレオナムの作用機序
モノバクタム系薬剤はβラクタム系抗菌薬に含まれ、殺菌的に作用します。
アズトレオナムは主に好気性グラム陰性桿菌に活性を示し、セフタジジムと同様の活性を示す対象がある、と整理されています。
一方で重要な注意点として、アズトレオナムは嫌気性菌には無効であり、グラム陽性菌は(セファロスポリン系とは対照的に)アズトレオナムに耐性とされています。
参考)モノバクタム系 – 13. 感染性疾患 – MSDマニュアル…
したがって、感染巣が混合感染(嫌気性菌の関与が疑わしい腹腔内感染、口腔・歯科領域、誤嚥性肺炎など)になり得る場面では、モノバクタム“単独”という発想が危険になりやすく、疑われるグラム陽性菌または嫌気性菌をカバーするために他剤追加が必要、という基本方針につながります。
モノバクタム構造とβラクタマーゼとESBL
「モノバクタム=βラクタマーゼに強い/弱い」を一言で決めるのは危険で、βラクタマーゼのタイプ(ESBL、AmpC、KPC、MBLなど)ごとに“相性”が違う、という理解が実務的です。
たとえば厚労省資料では、ESBL(基質特異性拡張型β-ラクタマーゼ)は、通常、ペニシリン系・第1~3世代セファロスポリン系・モノバクタム系抗菌薬を分解できる一方、セファマイシン系やカルバペネム系は分解できない、という特徴が明記されています。
つまり、「ESBLが関与している感染症」では、アズトレオナムを“βラクタムアレルギーがあるから”という理由だけで選ぶと、構造以前にESBLの基質に入ってしまう可能性があり、期待した効果を得にくくなり得ます。
逆に、MSDマニュアル(医療者向け)では、アズトレオナムは嫌気性菌に無効・グラム陽性菌に耐性という限界がある一方で、メタロ-β-ラクタマーゼの作用を受けにくいことがある、という臨床上の位置づけが示されています。
モノバクタム構造と交差過敏反応
医療現場で「モノバクタムが選択肢になる」典型は、βラクタム系抗菌薬への重篤なアレルギーがあるが、それでもβラクタム系で治療したい、という状況です。
MSDマニュアル(医療者向け)では、アズトレオナムと構造的類似性を有する他のβラクタム系薬剤はほとんどなく、(類似のR-1側鎖をもつセフタジジムおよびセフィデロコルを除き)交差過敏反応を起こす可能性は低い、と述べられています。
ここで構造の話が再び効いてきます。交差過敏反応は「βラクタム環そのもの」だけで単純に決まるのではなく、側鎖(特にR-1側鎖)の類似が関与することがあるため、同じ“βラクタム系”という括りだけで一律判断しないことがポイントになります。
実際、アズトレオナムは“例外としてセフタジジム(CAZ)との側鎖類似が問題になり得る”という整理が、医療者向けの解説でも繰り返し言及されます。
参考)【感染症内科医監修】今すぐ役立つ「抗菌薬の種類」ガイド|医師…
モノバクタム構造の独自視点:検査室と臨床の「S/Rギャップ」
検索上位の記事は「単環βラクタム」「アズトレオナム」「グラム陰性に効く」「βラクタマーゼ」までで止まりがちですが、現場ではもう一段やっかいな論点があります。
それは、薬剤感受性試験でアズトレオナムが“S(感性)”に見えても、同じ菌が「MBL以外のβラクタマーゼ(ESBLやAmpCなど)も併せ持つ」場合に、臨床効果がぶれる(あるいは治療中に状況が変わる)可能性がある、という“読み替え”問題です。
金沢医科大学の解説では、MBL産生菌であってもアズトレオナムの感受性結果は原則そのまま報告する一方で、MBLだけでなくAmpCやESBLも保持している場合があり、その場合モノバクタム耐性(R)になり得る、という注意が述べられています。
つまりモノバクタム構造を理解することは、「MBLには比較的分解されにくい“構造的理由”がある」一方で、「ESBLはモノバクタムを分解し得る」という別の現実も同時に頭へ置く、という二重管理の思考訓練になります。
有用:ESBLがモノバクタム系抗菌薬を分解できること(耐性の前提)
https://www.mhlw.go.jp/content/10906000/001161620.pdf
有用:アズトレオナムの位置づけ(嫌気性菌に無効、交差過敏反応、MBLの影響を受けにくい可能性)