訪問薬剤管理指導の料金と算定要件 2024 介護保険

訪問薬剤管理指導の料金まとめ
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2024年報酬改定

単一建物診療患者数による点数区分が細分化。1人650点、2〜9人320点など厳格に。

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保険の優先順位

介護保険(居宅療養管理指導費)が原則優先。認定申請中の切り替えトラブルに注意。

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実費請求の落とし穴

交通費は「実費」が原則。一律料金の設定や事前説明不足は返金トラブルの原因に。

訪問薬剤管理指導と料金の算定要件

訪問薬剤管理指導における料金体系は、医療保険と介護保険の区分、さらには患者の居住環境によって複雑に変動します。特に2024年の診療報酬・介護報酬改定を経て、算定要件はより厳格化されました。ここでは、現場の薬剤師が迷いやすいポイントを中心に、料金構造を深掘りします。

[基本] 医療保険と介護保険の料金比較

 

訪問薬剤管理指導の料金を理解する上で最大のハードルとなるのが、「医療保険」と「介護保険」の使い分けとその優先順位です。原則として、介護認定(要支援・要介護)を受けている患者に対しては、介護保険の「居宅療養管理指導費」が優先されます。医療保険の「在宅患者訪問薬剤管理指導料」を算定できるのは、介護認定を受けていない患者、または特定の疾病(末期の悪性腫瘍など)を有する患者に限定されます。

区分 医療保険(在宅患者訪問薬剤管理指導料 介護保険(居宅療養管理指導費)
対象 介護認定なし / 特定疾病患者など 要支援・要介護認定者
優先順位 第2位 第1位(原則優先)
単一建物1人 650点(1割負担で650円) 517単位(1割負担で約517円〜)
単一建物2-9人 320点 378単位
自己負担 年齢・所得により1〜3割 原則1割(所得により2〜3割)
月間回数制限 原則月4回まで 月4回まで

この「優先順位」は絶対的なルールであり、患者が「医療保険のほうが安いからそっちで算定してほしい」と希望しても、法的に認められません。特に注意が必要なのは、介護保険の限度額(区分支給限度基準額)です。居宅療養管理指導費は区分支給限度基準額の枠外(管理対象外)であるため、他の介護サービス(ヘルパーやデイサービス)の利用枠を圧迫することはありません。この点はケアマネジャーへの説明でも重要なポイントとなります。

また、2024年の改定では、医療保険・介護保険ともに「単一建物診療患者数」による区分が再編されています。特に集合住宅での算定においては、居住者の人数だけでなく「その薬局が何人の患者を訪問しているか」で単価が大きく変わるため、月ごとの患者数管理が収益に直結します。

#027 在宅訪問における介護保険と医療保険の違い – 参考リンク

このリンクでは、医療保険と介護保険の具体的な使い分けフローチャートや、算定不可となる例外ケースについて詳しく解説されています。

[加算] 麻薬管理指導加算などの料金変動要因

基本料金に加え、患者の状態や処方内容に応じた「加算」が料金を大きく変動させます。特に在宅医療において頻出するのが麻薬管理指導加算です。これは、がん性疼痛のコントロールなどで医療用麻薬を使用している患者に対し、保管状況の確認や残薬管理、返納指導を行った場合に算定できます。

  • 麻薬管理指導加算: 100点(医療保険) / 100単位(介護保険)
    • 算定要件:麻薬の保管管理状況、服薬状況、残薬の状況、注射剤の併用等の確認を行うこと。さらに、処方医へ情報提供することが必須です。
    • 単に麻薬を交付するだけでは算定できず、金庫での保管指導や、家族への廃棄方法の指導実績を薬歴に残す必要があります。
  • 乳幼児加算: 100点
    • 6歳未満の乳幼児に対して算定。小児在宅のケースで適用されます。
  • 在宅患者オンライン薬剤管理指導料: 59点
    • 対面訪問の補完として、情報通信機器を用いた指導を行った場合。月1回算定の患者に対しては月1回までなど、回数制限が厳しいため注意が必要です。

    見落としがちなのが、「ケアマネジャーへの情報提供」が算定要件に含まれているか否かです。介護保険の居宅療養管理指導費においては、ケアマネジャー(介護支援専門員)への報告書提出は算定の必須要件であり、これを行わないと指導費自体が算定できません。一方、医療保険の在宅患者訪問薬剤管理指導料では、医師への報告は必須ですが、ケアマネへの報告は必須ではありません(ただし、連携の観点からは推奨されます)。この「報告の手間」と「料金」の関係性を理解しておくことが重要です。

    麻薬管理指導加算とは?算定要件・タイミング – 参考リンク

    麻薬管理指導加算の具体的な算定タイミングや、患者が亡くなった後の麻薬回収時の算定可否など、現場で迷うケースが詳述されています。

    [注意点] 単一建物診療患者数のカウント方法

    料金算定で最も計算ミスや返戻(レセプト返却)が起きやすいのが、「単一建物診療患者数」のカウントです。これは「その建物に住んでいる患者の総数」ではなく、「その薬局が訪問薬剤管理指導を行っている患者数」を指します。

    例えば、50人の入居者がいる有料老人ホームであっても、あなたの薬局が訪問している患者が1人だけであれば、「単一建物診療患者数1人」の高い点数(650点)を算定できます。しかし、翌月に新規患者が増えて2人になった瞬間、2人とも「単一建物診療患者数2〜9人」の区分(320点)に下がり、1人あたりの売上は半減近くになります。

    • カウントの単位期間:
      • 医療保険: 「訪問した日」の人数ではなく、「同一月内」に訪問した人数で判定するケースと、訪問診療料の概念に引っ張られて混同しやすい部分ですが、調剤報酬点数表では「単一建物診療患者」の定義をしっかり確認する必要があります。原則は「対象となる建物の居住者のうち、当該保険薬局が訪問薬剤管理指導を行っている人数」で決定します。
      • 介護保険: 同一月内の利用者数で判定します。
    • 居住場所による判定の罠:
      • 同一敷地内の別棟: 渡り廊下で繋がっている場合などは「同一建物」とみなされる可能性が高いです。
      • グループホームのユニット: ユニットが異なれば別建物とみなせるかどうかの解釈は、自治体や厚生局によって判断が分かれることがありますが、原則は「建物全体」でカウントします。ただし、認知症対応型共同生活介護(グループホーム)などは例外規定が設けられている場合もあるため、必ず地域の解釈通知を確認してください。

      この人数カウントを誤って請求すると、後日、保険者からの指導で数年分の差額返還を求められるリスクがあります。特に、月途中で患者が入居・退去した場合のカウント方法は、事務スタッフと共有し、月末に必ずダブルチェックを行う体制が必要です。

      算定における「単一建物診療患者数」とは? – 参考リンク

      「単一建物」の定義について、図解を交えて視覚的に解説されています。特に集合住宅や施設への訪問を行っている薬局には必須の知識です。

      [独自] 交通費や遡及請求など料金トラブルの事例

      教科書的な算定要件には書かれていない、しかし現場で頻発する「泥臭い」料金トラブルについて解説します。特に多いのが「交通費(実費)」「保険切り替え時の遡及(そきゅう)請求」の問題です。

      1. 交通費の実費請求問題

      訪問薬剤管理指導において、薬剤師の訪問にかかる交通費は「患家の負担」とされています。しかし、この「交通費」の解釈を巡ってトラブルが絶えません。

      • 原則: 公共交通機関の運賃、タクシー代、ガソリン代などの「実費」相当額。
      • NG例: 「訪問料」として一律500円を徴収する。これは実費を超えた利益とみなされ、混合診療の禁止に抵触する恐れがあります。
      • トラブル事例: 「前の薬局は交通費なんて取らなかった」「近所なのに数百円も取るのか」というクレーム。
        • 対策: 契約時に「ガソリン代として1kmあたり〇〇円」という明確な規定を設け、文書で同意を得ること。自転車や徒歩で訪問した場合に交通費を請求できるかはグレーゾーン(消耗品費として認められるか等)であり、基本的には請求しない薬局が多いです。

        2. 介護保険認定待ち期間の「遡及請求」

        「今は自立(認定なし)だが、急に倒れて介護申請中」という患者への訪問時、暫定的に医療保険で請求し、後から介護認定が下りて介護保険に切り替えるケースがあります。

        • リスク: 介護認定の効力は「申請日」に遡ります。つまり、医療保険で3割負担として徴収していた期間が、後から介護保険(1割負担)に変わることで、レセプトの取り下げと返金処理が発生します。
        • 現場の負担: 患者さんには「認定が下りたら差額をお返しします(または追加でいただきます)」と事前に説明しておかないと、「なぜ後からお金の話が変わるのか」と不信感を招きます。特に、月をまたいで認定が下りた場合の事務処理は煩雑を極めます。

        3. 「配達」と「指導」の認識ギャップ

        「薬を持ってきてくれるだけでいいのに、なんで毎回長い話を聞かされて料金を取られるんだ」という患者・家族からの苦情です。

        • これは「居宅療養管理指導」の本質が「配達代」ではなく「管理指導料」であることを理解されていないために起こります。
        • 玄関先で薬を渡すだけの対応になってしまっている場合、指導料の算定要件(服薬状況の確認、保管状況のチェック等)を満たしていないとみなされ、指導監査で返還対象になる最も危険なケースです。

        介護現場におけるハラスメント対策マニュアル – 参考リンク

        金銭トラブルから発展するペイシェント・ハラスメントへの対応策が記載されています。料金説明のこじれはハラスメントの入り口になりやすいため、自衛のためにも一読を推奨します。

        [対策] 患者家族への料金説明と同意のポイント

        トラブルを未然に防ぐためには、サービス開始時の「契約」と「説明」が全てです。重要事項説明書には、単なる点数表だけでなく、具体的な「1回あたりの支払額目安」を明記しましょう。

        • 説明すべき具体的項目:
          1. 基本料金: 「1回訪問すると約〇〇円かかります」と円換算で伝える。
          2. 変動の可能性: 「同じ建物で他の方も利用することになった場合、料金が少し下がります」と、単一建物診療患者数の概念を噛み砕いて説明。
          3. 交通費: 「1回につき〇〇円」と明記。
          4. キャンセル料: 当日キャンセルの規定がある場合は必ず説明。
          5. 介護保険優先の原則: 「要介護認定が出たら、料金体系が変わります」と予告。

        特に、独居の認知症患者の場合、キーパーソン(家族や後見人)への説明と同意文書の取り交わしが必須です。口頭での「わかりました」は、金銭トラブルにおいては何の効果も持ちません。また、お薬手帳や領収書には、医療保険と介護保険のどちらで算定されたかが分かるように記載し、ケアマネジャーとも「今月はどちらの保険で動いているか」を常に共有する体制を作りましょう。

        「高い」と言われないためには、料金に見合う「価値」を提供できているかも重要です。残薬調整で薬代を減らした実績や、副作用の早期発見事例などを具体的に家族やケアマネに報告することで、「訪問薬剤師が入ってくれて良かった、料金以上のメリットがある」と感じてもらうことが、継続的な契約の鍵となります。

        患者様への在宅患者訪問薬剤管理指導の説明について – 参考リンク

        患者向けの説明資料の実例として参考になります。専門用語を使わず、どのようなメリットがあるかを平易な言葉で伝える工夫が学べます。


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