準先発品とは
準先発品の定義と長期収載品との違い
医療現場において「準先発品」という言葉は頻繁に使われますが、その正確な定義を法令レベルで即答できる医療従事者は意外と多くありません。準先発品とは、昭和42年(1967年)以前に承認・薬価収載された医薬品のうち、価格差のある後発医薬品(ジェネリック医薬品)が存在するものを指します。これは厚生労働省の通知や薬価基準収載品目リストにおいて定義されている区分です。
一般的に「先発医薬品」とは、新規の有効成分を含有するものとして承認された医薬品を指しますが、昭和42年以前の古い医薬品に関しては、現在の承認制度のような「先発」「後発」という明確な区分けがなされる前のものが多く存在します。そのため、便宜上「先発医薬品に準じるもの」として扱われているのが準先発品です。
一方で「長期収載品」とは、後発医薬品のある先発医薬品で、後発医薬品が初めて収載されてから5年を経過したもの、または後発医薬品への置き換えが進んでいないものを広く指します。つまり、図式としては長期収載品という大きな枠組みの中に、準先発品の一部も含まれるという関係性になります。
参考リンク:厚生労働省 薬価基準収載品目リスト及び後発医薬品に関する情報について(準先発品の定義)
両者の違いを理解する上で重要なのは、「再審査期間」の有無です。通常の先発医薬品には再審査期間があり、その間は後発品が発売されませんが、準先発品はそもそも非常に古い薬であるため、特許や再審査期間といった概念が適応されない状態で現代まで販売され続けています。
臨床現場での実務的な違いとしては、処方箋上の表記や一般名処方の扱いにおいては、準先発品も「先発医薬品」と同様に扱われることがほとんどです。しかし、後述する診療報酬上の加算算定や薬価改定のルールにおいては、通常の先発医薬品とは異なる独自の扱いを受けることがあるため、管理薬剤師や事務担当者はこの区分を明確に把握しておく必要があります。
準先発品と選定療養の対象外ルール
2024年10月から開始された「長期収載品の選定療養」制度は、医療現場に大きな混乱と業務負荷をもたらしています。この制度において、準先発品がどのように扱われるかは非常に重要なポイントです。結論から言えば、準先発品も長期収載品と同様に、選定療養の対象となります。
具体的には、患者が「医療上の必要性がないにもかかわらず」準先発品を希望した場合、後発医薬品との価格差の4分の1相当額を、選定療養費(特別の料金)として患者自身が負担することになります。
しかし、すべての準先発品が対象となるわけではありません。以下のケースでは選定療養の対象外となります。
- 医療上の必要性がある場合: 医師が当該準先発品の使用が必要と判断した場合。
- 供給不安がある場合: 後発医薬品の在庫がなく、提供が困難な場合。
- バイオ医薬品: 準先発品という枠組みとは少し異なりますが、バイオシミラーがある先行バイオ医薬品は対象外となることが多いです。
- 後発品との価格差がない場合: 薬価改定により、準先発品の薬価が後発医薬品と同額、あるいはそれ以下になっている場合は、差額が発生しないため選定療養費も発生しません。
特に注意が必要なのは、「昭和42年以前の薬だから対象外だろう」という誤解です。制度上、準先発品は「後発医薬品のある先発医薬品」の枠組みに含まれて処理されるため、安易な自己判断は禁物です。薬局のレセコン(レセプトコンピュータ)の設定においても、準先発品マスタが正しく選定療養対象としてフラグ付けされているかを確認する必要があります。
また、選定療養費の計算においては消費税も関わってくるため、患者への説明時には「薬代の差額」だけでなく「課税対象となる特別料金」であることもしっかりと伝えるコミュニケーションスキルが求められます。
参考リンク:厚生労働省 後発医薬品のある先発医薬品(長期収載品)の選定療養について
準先発品は後発医薬品使用体制加算に含まれるか
病院や薬局の経営において、「後発医薬品使用体制加算」や「後発医薬品調剤体制加算」の算定は収益に直結する重要事項です。この計算式において、準先発品が「分母」や「分子」に含まれるかどうかは、カットオフ値をクリアできるかどうかの瀬戸際に関わります。
原則的な計算式(数量ベース)は以下の通りです。
後発医薬品の使用割合=後発医薬品のある先発医薬品の数量+後発医薬品の数量後発医薬品の数量
ここで問題となるのが、分母の「後発医薬品のある先発医薬品」に準先発品が含まれるか否かです。診療報酬改定の時期や通知によって微妙な変遷がありますが、現行のルールでは、準先発品は基本的にこの計算式の分母(後発医薬品のある先発医薬品)に含まれます。つまり、準先発品を使い続けることは、ジェネリック使用率(置換率)を下げる要因となります。
ただし、重要な例外があります。「経腸成分栄養剤(エレンタールなど)」や一部の「特殊な製剤」については、計算対象から除外される規定があります。また、後述する「基礎的医薬品」に指定されている準先発品についても、計算対象から除外されるケースがあります。
現場でよくあるミスとして、レセコンの設定ミスにより、準先発品が「先発品」としてカウントされず、かといって「後発品」でもない「その他」として集計から漏れている、あるいは逆に不当に分母を増やしているケースがあります。特に古いマスタを使用している場合、昭和42年以前の薬が正しく「後発品のある先発品(準先発品)」として認識されていないことがあるため、定期的なマスタメンテナンスと集計ロジックの確認が必須です。
さらに、薬価が後発医薬品と同額まで下がった準先発品については、扱いが「先発医薬品」から外れる(計算対象外となる)場合があるなど、薬価改定ごとの細かいルール変更にも追随する必要があります。
基礎的医薬品と準先発品の薬価の関係
準先発品を語る上で外せないのが「基礎的医薬品」というカテゴリーです。基礎的医薬品とは、臨床上の必要性が高いにもかかわらず、薬価が下がりすぎて採算が合わず、供給継続が困難になることを防ぐために指定される区分です。
準先発品は昭和42年以前から存在する「超・長期収載品」であるため、度重なる薬価改定(市場実勢価格に基づく引き下げ)によって、薬価が非常に低くなっているものが多数存在します。これらは製薬企業にとって「作れば作るほど赤字」になりかねない製品です。
そのため、多くの準先発品が「基礎的医薬品」に指定され、薬価の下支え(薬価維持特例)を受けています。ここで重要なのは、基礎的医薬品に指定された準先発品は、選定療養の対象や、G1・G2ルール(長期収載品の薬価引き下げルール)の対象から外れる場合があるという点です。
- G1品目・G2品目との関係: 長期収載品は、後発品への置き換えが進まない場合、強制的に薬価を引き下げる「G1・G2ルール」が適用されます。しかし、基礎的医薬品に指定されている準先発品は、このルールの対象外となり、薬価が維持されます。
- 選定療養との関係: 前述の通り、選定療養は「後発品があるのに先発品を選ぶ」場合のペナルティですが、基礎的医薬品はその公益性から、選定療養の対象外となる品目が多く含まれています(ただし、すべてではありません。個別の告示を確認する必要があります)。
このように、同じ「準先発品」であっても、「基礎的医薬品に指定されているかどうか」で、薬価の動きや患者負担のルールが天と地ほど変わります。医師や薬剤師は、処方しようとしている準先発品が基礎的医薬品リストに載っているかどうかを常に意識する必要があります。
準先発品の供給停止リスクと代替薬選定
検索上位の記事ではあまり触れられていませんが、現場の薬剤師にとって最も頭を悩ませるのが、準先発品の「突然の供給停止」リスクです。これは準先発品特有の構造的な問題に起因しています。
準先発品は、発売から50年以上経過しているものが多く、製造設備や製造プロセスも古い規格のまま維持されていることがあります。近年のGMP(製造管理・品質管理の基準)の厳格化に伴い、古い製造ラインの改修が必要になった際、メーカー側が「改修コストを回収できない」と判断し、製造中止(撤退)を決定するケースが後を絶ちません。
特に、以下のようなパターンで供給危機が発生します。
- 原薬の調達困難: 海外の原薬メーカーが、採算の合わない古い規格の原薬製造を中止する。
- 不純物混入問題: 分析技術の向上により、昔は検出されなかった微量の不純物(ニトロソアミン類など)が見つかり、自主回収・出荷停止になる。
- 後発品メーカーの撤退: 準先発品に対抗する後発品メーカーが採算悪化で撤退し、需要が準先発品に集中。しかし、準先発品メーカーも増産体制が取れず、共倒れで出荷調整に入る。
独自視点として提案したいのは、「準先発品は、先発品というよりも『古い標準薬』として捉え、能動的なフォーミュラリー(推奨薬リスト)の見直しを行うべき」という考え方です。
漫然と「昔から使っているから」という理由で準先発品を処方し続けることは、供給リスクを抱え続けることと同義です。例えば、同じ薬効群で、より供給が安定している新しい世代の薬剤への切り替えを、医師と薬剤師が連携してプロトコル化しておくことが、最大のリスクヘッジになります。
また、準先発品の供給停止は、代替薬の選定が非常に困難な場合があります。成分そのものが古すぎて、同一成分の他メーカー品が存在しない(オンリーワン製品になっている)ことがあるためです。この場合、薬理作用が類似した全く別の成分への処方変更が必要となり、医師への疑義照会や情報提供の負担が跳ね上がります。
日頃から、採用している準先発品の「基礎的医薬品区分」や「市場シェア」、「原薬の供給国」などの情報をDI(医薬品情報)担当者が収集し、供給アラートが出た瞬間に代替案を提示できる体制を整えておくことが、現代の医療機関には求められています。