夜間・休日等加算
医療事務や薬剤師の実務において、判断に迷いやすいのが「時間」に関連する加算です。その中でも「夜間・休日等加算」は、日常的に発生する頻度が高く、かつ患者さんからの問い合わせも多い項目です。
この加算は、医療機関や薬局が地域医療に貢献する体制を評価するものですが、その算定要件は非常に細かく設定されています。特に、類似する「時間外加算」との混同は、レセプトの返戻(へんれい)や個別指導での指摘事項になりやすいため、正確な理解が不可欠です。
本記事では、令和6年度(2024年度)の診療報酬・調剤報酬改定の内容も踏まえ、夜間・休日等加算の基礎知識から現場での運用ポイントまでを深掘りして解説します。
夜間・休日等加算の算定要件と対象となる診療時間
夜間・休日等加算を算定する上で最も基本的かつ重要なのが、「対象となる時間帯」と「施設の開局・診療状況」の組み合わせです。この加算は、単に遅い時間に開いているからといって無条件に算定できるわけではありません。
まず、大前提として「標榜(ひょうぼう)している診療時間・開局時間内であること」が必要です。つまり、看板やウェブサイトで「営業中」と公表している時間帯の中で、以下の特定時間をまたぐ場合に算定が可能となります。
- 平日: 午後7時(19:00) ~ 午前8時
- 土曜日: 午後1時(13:00) ~ 午前8時
- 休日(日曜・祝日): 終日
- 年末年始(12/29~1/3): 終日
ここで注意が必要なのは、点数の設定です。調剤報酬においては、処方箋受付1回につき40点(400円相当)が加算されます。これは、処方内容の日数や薬剤の種類に関わらず一律です。
具体的な例を見てみましょう。
平日9:00〜20:00まで営業している薬局の場合、19:00以降に受け付けた処方箋については、通常の調剤料などに加えて、この「夜間・休日等加算」の40点を算定します。
「受付時間」か「会計時間」かという疑問が現場でよく挙がりますが、原則として「処方箋を受け付けた時間(患者が来局した時間)」を基準とします。したがって、18:55に患者が来局し、服薬指導が終わって会計をしたのが19:10だったとしても、受付時間が19:00前であれば算定はできません。逆に、このルールを厳格に運用し、受付時刻の記録を電子薬歴等に正確に残しておくことが、監査対策としても非常に重要になります。
また、土曜日の扱いも間違えやすいポイントです。土曜日は午後1時(13:00)を過ぎると算定対象になります。「午前診療のみ(~12:30など)」のクリニックや薬局ではあまり関係ありませんが、通しで夕方まで営業している場合、13:00を境に加算が発生することをスタッフ全員が周知しておく必要があります。
厚生労働省:令和6年度診療報酬改定について(各加算の定義詳細)
夜間・休日等加算と時間外加算の違いと使い分け
実務担当者を最も悩ませるのが、「時間外加算」との違いです。名前が似ていますが、適用の前提条件が正反対であるため、ここを混同すると不正請求につながる恐れがあります。
両者の決定的な違いは、「標榜時間(公表している営業時間)の内か外か」という点です。
| 項目 | 夜間・休日等加算 | 時間外加算(時間外・休日・深夜) |
|---|---|---|
| 前提 | 標榜時間内 | 標榜時間外(閉まっているはずの時間) |
| 平日 | 19:00 ~ 翌8:00 | おおむね 8:00前、18:00以降 |
| 土曜 | 13:00 ~ 翌8:00 | おおむね 8:00前、18:00以降 |
| 点数 | 一律 40点(調剤) | 基礎額の100%〜200%増し |
| 性格 | 利便性確保への評価 | 緊急対応・輪番制などへの評価 |
時間外加算は、本来は診療を行っていない時間に、急患などのために特別に対応した場合に算定するものです。例えば、「営業時間は18:00までだが、急変した患者さんから連絡があり、18:30に特別に開けて調剤した」といったケースが該当します。
ここで発生するのが「魔の空白時間」と呼ばれる問題です。
「時間外加算」の定義上の時間帯は、一般的に「午前8時前および午後6時(18:00)以降」とされています。しかし、「夜間・休日等加算」の平日の開始時間は「午後7時(19:00)」です。
もし、平日の営業時間を「9:00~19:00」としている薬局があったとします。
この場合、18:00~19:00の間はどうなるでしょうか?
- 営業時間内なので、「時間外加算」は算定できません。
- 19:00前なので、「夜間・休日等加算」も算定できません。
つまり、この1時間はどちらの加算も取れない時間帯となります。これを理解していないと、「18時を過ぎたから何かしらの加算がつくはずだ」と誤認してしまいがちです。レセコンの設定によっては自動算定されてしまうケースもあるため、マスタ設定の確認が必要です。
また、「深夜加算」(22:00~翌6:00)との関係も整理しておきましょう。
深夜加算は、標榜時間内であっても外であっても、要件を満たせば算定の優先順位が高くなります。もし24時間営業の薬局で深夜23時に調剤した場合、より点数の高い「深夜加算(基礎額の200%)」を算定し、「夜間・休日等加算」は併用して算定することはできません(重複算定不可)。
m3.com:時間外等加算と夜間・休日加算の明確な区別について
夜間・休日等加算の施設基準と院内掲示の重要性
夜間・休日等加算を算定するために、特別な「施設基準の届出」を地方厚生局に行う必要はありません。要件に該当する時間に営業していれば、基本的には算定が可能です。
しかし、「掲示(けいじ)」については極めて重要です。
厚生労働省の定めるルールにおいて、医療機関や薬局は、算定する加算の内容や診療時間について、患者さんにとって見えやすい場所に掲示することが義務付けられています(療養担当規則)。
特に夜間・休日等加算は、患者さんから見れば「開いている時間に来ただけなのに、なぜ高くなるのか」と感じやすい項目です。そのため、以下のような内容を待合室や受付窓口、入り口の目立つ場所に掲示しておくことが強く推奨されます。
- 平日19時以降、土曜13時以降は夜間・休日等加算(40点)が加算される旨
- これは厚生労働省の定める算定基準に基づくものである旨
- 具体的な対象時間帯
掲示がない状態で算定を行っていると、個別指導(監査)の際に「患者への情報提供が不十分」として指摘を受ける可能性があります。また、ウェブサイトを持っている場合は、サイト上にも同様の記載を行うことが望ましいとされています。
掲示物の例:
「当薬局は、厚生労働省の基準に基づき、以下の時間帯に受付をされた患者様に対して『夜間・休日等加算』(40点:3割負担で約120円)を算定しております。
平日:19:00以降 / 土曜:13:00以降」
このように、具体的な金額(負担額の目安)を併記しておくと、患者さんの納得感を得やすくなります。
また、「地域支援体制加算」などの他の施設基準を届け出ている薬局の場合、夜間・休日等の対応体制が整っていることが前提条件となっていることがあります。夜間・休日等加算自体の届出は不要でも、他の加算の要件として「夜間・休日等加算の実績」がチェックされる場合があるため、自施設の届出状況とリンクさせて管理する必要があります。
薬局における夜間・休日等加算の点数と注意点
薬局における夜間・休日等加算の運用には、病院・診療所とは異なる独自の注意点がいくつか存在します。
1. 処方箋の持ち込みタイミング
薬局の場合、患者さんの都合だけでなく、発行元である医療機関の診療終了時間に大きく影響を受けます。門前のクリニックが診療を延長し、19時を過ぎてから処方箋を持った患者さんが殺到するケースは珍しくありません。
この際、「クリニックでは19時前に会計が終わった(加算なし)」のに、「薬局に来たら19時を過ぎていた(加算あり)」というタイムラグが発生します。患者さんから「病院では追加料金なんて言われなかった」と不満を持たれる原因になりやすいため、「薬局での受付時間が基準になる」という原則をスタッフ全員が理解し、説明できるようにしておく必要があります。
2. かかりつけ薬剤師指導料との関係
「かかりつけ薬剤師指導料」や「かかりつけ薬剤師包括管理料」を算定している患者さんについては、これらの点数の中に時間外対応の評価が含まれているという解釈にはなりません。要件を満たせば、かかりつけ機能の点数と夜間・休日等加算は併算定が可能です。
3. 分割調剤の扱い
リフィル処方箋や分割調剤の場合でも、2回目以降の受付時間が対象時間内であれば、その都度算定が可能です。ただし、意図的に時間をずらして算定するような誘導は厳禁です。
4. レセプト摘要欄への記載
通常、夜間・休日等加算の算定には、レセプト摘要欄への特別な注釈記載は不要です。しかし、時間外加算の特例などを利用する場合や、緊急的な対応で時間が前後した場合などは、理由を記載しておくと返戻リスクを下げることができます。
特に注意したいのが、レセコンの自動設定です。「19:00」と設定していても、時計が数分ずれていたり、入力完了のタイミングで判定されたりするシステムの場合、18:59の受付分に誤って加算がついたり、逆に19:01なのに加算が漏れたりするシステムエラーが起こり得ます。定期的にジャーナル(入力履歴)と加算状況を突き合わせるチェックが必要です。
夜間・休日等加算での患者クレーム回避と説明義務
このセクションでは、検索上位の記事ではあまり触れられていない、「現場のスタッフを守るための説明スキル」について解説します。
夜間・休日等加算に関するトラブルは、金銭的な負担増そのものよりも、「知らされていなかった」「不意打ちされた」という心理的な不満から発生します。特に、「仕事帰りに急いできたのに、さらに罰金を取られるような気分だ」と感じる患者さんも少なくありません。
こうしたクレームを未然に防ぐためには、以下の「3段階の説明プロトコル」を導入することをお勧めします。
- 視覚的周知(入り口・受付):
前述の掲示に加え、受付機やカウンターに小さなPOPを置きます。「19時以降は夜間加算の対象となります」と一言あるだけで、心理的な準備ができます。
- 受付時の口頭確認(重要):
19時を過ぎて受付をした際、事務スタッフが必ず一言添えます。
- × 悪い例:「夜間加算がつきます。」(事務的で冷たい)
- ○ 良い例:「19時を過ぎましたので、厚生労働省の決まりで夜間・休日等の加算が追加となりますが、よろしいでしょうか?」
ここで「決まりであること」を伝え、同意を得るプロセスを挟むだけで、後の会計時のトラブルは激減します。
- 会計時の明細説明:
領収書を渡す際、「こちらが夜間の加算分です」と明細書を指し示して説明します。隠そうとせず、透明性を持って説明する姿勢が信頼に繋がります。
独自視点:クレーム対応の「キラーフレーズ」
もし、「いつもこの時間に来ているが、そんなの払いたくない」と言われた場合、どう返すべきでしょうか?
ここで効果的なのは、「職員の体制確保のための費用」という視点を伝えることです。
「この加算は、夜間や休日でも患者様にお薬をお渡しできるよう、スタッフを配置し体制を整えていることに対して、国が定めた公的なルールとなっております。」
「私たちが勝手に決めた値上げ」ではなく、「地域医療を守るための公的な仕組み」であることを丁寧に伝えることで、多くの患者さんは納得してくれます。逆に、「コンピューターで勝手に出るんです」といった機械任せの言い訳は、火に油を注ぐため避けるべきです。
また、監査(個別指導)においても、「患者から苦情が出ないようにどのような説明を行っているか」を確認されることがあります。院内マニュアルに「夜間加算算定時の説明手順」を明記し、スタッフ間でロールプレイングを行っておくことは、経営防衛の観点からも非常に有用な施策と言えるでしょう。
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面白いほどよくわかる!調剤報酬 vol.6 時間外加算等 夜間・休日等加算 編【令和6・7年度対応】【Newレイアウトver】: 【薬剤師】【薬局事務】【保険薬局】 面白いほどよくわかる!調剤報酬(令和6・7年度対応)