在宅薬剤管理指導料の算定要件と薬学的管理指導計画のポイント

在宅薬剤管理指導料の算定要件

在宅薬剤管理指導料のポイント
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医師の指示が必須

算定には医師からの訪問指示と患者の同意が不可欠です。

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計画書の策定

訪問前に薬学的管理指導計画を策定し、定期的な見直しが必要です。

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人数による点数区分

単一建物の診療患者数によって650点、320点、290点に分かれます。

在宅医療の推進に伴い、薬局薬剤師による在宅訪問業務は地域医療において欠かせない役割を担っています。「在宅薬剤管理指導料」は、通院が困難な患者に対して、薬剤師が医師の指示に基づき自宅を訪問し、薬学的管理や指導を行った場合に算定できる重要な報酬です。しかし、その算定要件は細かく規定されており、正しく理解していないと査定(返戻)の対象となるリスクもあります。

基本的な算定要件として、以下の条件を満たす必要があります。

  • 対象患者: 在宅で療養を行っている患者であって、通院が困難なもの。
  • 医師の指示: 保険医(医師)が薬剤師に対して訪問薬剤管理指導を行うよう指示していること。
  • 患者の同意: 訪問指導を行うことについて、患者またはその家族等の同意を得ていること。
  • 計画の策定: あらかじめ「薬学的管理指導計画」を策定していること。

特に注意が必要なのは、「通院が困難」という要件の解釈です。単に「待ち時間が辛いから」といった理由では認められず、身体的・精神的な理由で自力での通院が困難であるという医学的な根拠が必要となります。また、2024年度(令和6年度)の診療報酬改定では、在宅業務に関する評価が見直され、より質の高い在宅医療が求められるようになっています。

本記事では、これらの要件を深掘りし、実務で役立つ具体的なノウハウを解説します。

在宅薬剤管理指導料の対象患者と医師の指示

在宅薬剤管理指導料を算定する上で、最初の一歩となるのが「対象患者の選定」と「医師の指示」です。ここは算定の根幹に関わる部分であり、曖昧なまま業務を開始すると後々のトラブルに繋がります。

まず、対象患者についてですが、厚生労働省の規定では「在宅での療養を行っている患者であって通院が困難なもの」とされています。具体的には以下のようなケースが想定されます。

  • 独歩での通院ができず、家族や介助者の送迎が必要な患者
  • 認知症や精神疾患により、単独での通院が困難な患者
  • 末期がん等で、自宅での緩和ケアを受けている患者

ここで重要なのは、「医師の指示」が書面等で明確に残されているかという点です。薬剤師が独自に「この患者さんは通院が大変そうだから訪問しよう」と判断して訪問しても、在宅薬剤管理指導料は算定できません。必ず医師からの「訪問薬剤管理指導指示書」または処方箋の備考欄への記載など、公的な指示が必要です。

医師の指示には、以下の内容が含まれていることが望ましいです。

  • 訪問の目的(服薬コンプライアンスの改善、副作用のモニタリング等)
  • 訪問の頻度や期間
  • 特に注意すべき点

また、意外と見落とされがちなのが「患者の同意」の記録です。口頭での同意だけでなく、同意書等の書面を取り交わし、薬歴に「〇月〇日、患者(または家族)に説明し同意を得た」と記載しておくことが、監査対策としても非常に有効です。同意を得る際は、費用の負担(介護保険か医療保険か)についても明確に説明し、納得を得ておくことがクレーム防止に繋がります。

さらに、医師の指示は「訪問の都度」必要というわけではありませんが、定期的な確認は必要です。患者の状態が変化し、通院が可能になった場合には、速やかに訪問指導を終了し、外来へ移行する判断も求められます。このように、医師と密に連携を取りながら、患者にとって最適な医療提供体制を構築することが、この指導料の本質的な目的と言えるでしょう。

在宅薬剤管理指導料における薬学的管理指導計画の策定

在宅薬剤管理指導料の算定要件の中で、事務的な負担が大きく、かつ不備が指摘されやすいのが「薬学的管理指導計画」の策定です。この計画書は、行き当たりばったりの訪問を防ぎ、継続的かつ効果的な薬学管理を行うための羅針盤となるものです。

規定により、「薬学的管理指導計画は、原則として、患家を訪問する前に策定する」と定められています。つまり、初回訪問の前に、処方内容や患者情報を基に「どのような指導を行うか」を計画し、文書化しておく必要があります。訪問後に「結果としてこれをしました」と記録するだけでは不十分なのです。

参考)【薬局の在宅訪問】薬学的管理計画を徹底解説!様式ダウンロード…

計画書に記載すべき主な項目は以下の通りです。

  • 患者の氏名、生年月日、住所
  • 処方医の氏名、医療機関名
  • 解決すべき薬学的課題: 服薬管理能力の低下、副作用のリスク、多剤併用による相互作用など。
  • 実施すべき指導内容: カレンダーへのセット、副作用の確認方法、食事・排泄との関連性の確認など。
  • 訪問回数・訪問間隔: 週1回、隔週など。
  • 他職種との連携: ケアマネジャーや訪問看護師への情報提供内容。

実務上のポイントとして、この計画書は一度作って終わりではありません。「必要に応じ新たに得られた患者の情報を踏まえ計画の見直しを行う」ことも求められています。例えば、処方変更があった場合や、患者のADL(日常生活動作)が変化した場合には、計画書を更新し、その履歴を残しておく必要があります。

意外と知られていないテクニックとして、計画書の内容を薬歴(薬剤服用歴)のプロブレムリストやSOAPと連動させることが挙げられます。計画書で挙げた「解決すべき課題」が、日々の薬歴の「#(プロブレム)」と一致していれば、指導の一貫性が客観的に証明されやすくなります。

また、この計画書は薬剤服用歴等に添付するなどして保存する義務があります。電子薬歴を使用している場合は、システム上で計画書を作成・保存できる機能がついていることが多いですが、紙媒体で運用している場合は、紛失しないようファイリングを徹底しましょう。監査の際には、この計画書と実際の薬歴の記載内容(実施内容)に整合性があるかどうかが厳しくチェックされます。

参考)薬学管理料(在宅患者訪問薬剤管理指導料)

在宅薬剤管理指導料と単一建物診療患者のカウント方法

在宅薬剤管理指導料の点数は、患者が居住する建物に、その薬局が訪問している患者が何人いるか(単一建物診療患者数)によって大きく異なります。このカウント方法は非常に間違いやすく、過誤請求の原因となりやすいポイントです。

基本的な点数区分(2024年度改定ベース)は以下の通りです。

区分 単一建物診療患者数 算定点数
在宅薬剤管理指導料1 1人 650点
在宅薬剤管理指導料2 2人~9人 320点
在宅薬剤管理指導料3 10人以上 290点

ここでいう「単一建物診療患者」とは、「同一の建物に居住する患者のうち、当該保険薬局が訪問薬剤管理指導を行っている患者の人数」を指します。建物全体の入居者数ではなく、自薬局が訪問している人数である点に注意してください。

例えば、50人の入居者がいる有料老人ホームであっても、自薬局が訪問している患者が1人だけであれば、「1人」の区分(650点)で算定できます。逆に、夫婦2人が同じ一軒家に住んでおり、その両方に訪問指導を行う場合は、同一建物に2人の患者がいることになり、2人とも「2人~9人」の区分(320点×2人)となります。

間違いやすい「戸数」の例外規定についても押さえておきましょう。

以下の条件を満たす場合、例外的に人数にかかわらず「1人」の点数(650点)を算定できるケースがあります。

  • 戸数が20戸未満の集合住宅で、同一建物の患者が2人以下の場合。
    • 例:18戸のアパートで、自薬局の患者が2人いる場合 → 本来は「2人以上」区分だが、特例によりそれぞれ650点を算定可能。
  • 戸数の10%以下の場合。
    • 例:100戸のマンションで、自薬局の患者が8人いる場合 → 100戸の10%(10人)以下なので、8人全員が650点を算定可能。

    この特例を適用するためには、建物の総戸数を把握し、レセプトの摘要欄等に必要事項を記載する必要がある場合があります(自治体ルールによるため要確認)。

    また、同居する家族(夫婦など)に対して同時に指導を行った場合でも、それぞれの患者ごとに算定は可能ですが、指導内容が重複しないよう個別の管理記録が必要です。同一建物居住者のカウントは「処方箋受付回数」ではなく「訪問している実人数」で判断するため、月によって人数が変動する場合は、その都度適切な点数を選択しなければなりません。この確認を怠ると、意図せず高点数を算定してしまい、後で返還を求められる事態になりかねません。

    在宅薬剤管理指導料の2024年度改定と麻薬管理指導加算

    2024年度(令和6年度)の診療報酬改定では、在宅業務の質の向上と、医療用麻薬を用いた緩和ケアの推進が大きなテーマとなりました。特に「麻薬管理指導加算」に関しては、在宅医療における重要性が再評価されています。

    麻薬管理指導加算は、麻薬が処方されている患者に対して、定期的に訪問し、麻薬の保管管理状況の確認や、残薬の適切な処理方法の指導、疼痛コントロールの確認などを行った場合に算定できます。

    2024年度改定におけるポイントは以下の通りです。

    • 在宅患者訪問薬剤管理指導料に加算する場合: 100点(1回につき)
    • 在宅患者オンライン薬剤管理指導料に加算する場合: 22点(1回につき)

    特筆すべきは、オンライン服薬指導においても麻薬管理指導加算(22点)が算定可能である点です。ただし、麻薬の管理は対面での確認が原則であり、オンラインのみで完結させるには高いハードルがあります。対面訪問とオンラインを適切に組み合わせるハイブリッドな対応が現実的でしょう。

    算定要件として、以下の業務が必須となります。

    1. 麻薬の保管管理状況の確認: 患者や家族が麻薬を適切に保管しているか(鍵のかかる引き出し等)、紛失のリスクはないかを目視で確認します。
    2. 残薬の確認と処理: 服用中止や変更によって余った麻薬を、薬局に持ち帰って廃棄する手続き(麻薬廃棄届の提出など)を支援します。
    3. 疼痛緩和の状況確認: 痛みの程度(NRSやVASなどのスケールを使用すると良い)を確認し、処方医へフィードバックします。

    意外な落とし穴として、「麻薬が処方されているだけ」では算定できないという点があります。必ず「麻薬に係る指導」を行い、その内容を薬歴に詳細に記載しなければなりません。単に「痛みはどうですか?」「大丈夫です」といったやり取りだけでは不十分とみなされる可能性があります。

    具体的には、「レスキューの使用頻度と効果」「便秘や眠気などの副作用の有無」「貼り薬の貼付部位の皮膚トラブル」など、麻薬特有の管理項目を記録に残すことが重要です。

    また、「在宅患者医療用麻薬持続注射療法加算」(250点)との関係も重要です。PCAポンプなどを使用している患者に対して算定できるこの加算は、麻薬管理指導加算と併算定が可能かどうかが複雑ですが、原則として別の要件を満たせば併算定できる場合があります(詳細な告示を確認してください)。在宅での緩和ケアニーズは急増しており、これらの加算を適切に算定することは、薬局の経営面だけでなく、地域の在宅医療を支えるインフラとしての機能を維持するためにも不可欠です。

    【厚生労働省】令和6年度診療報酬改定について

    ※上記リンクは、改定の詳細な点数表や通知文書が掲載されている厚生労働省の公式ページです。正確な情報の一次ソースとして活用できます。

    在宅薬剤管理指導料算定時のトラブル回避と多職種連携

    最後に、検索上位の記事ではあまり触れられていない、しかし現場で非常に重要な「トラブル回避」と「多職種連携」の視点について解説します。在宅業務は薬局内だけで完結しないため、他職種とのコミュニケーションエラーがそのまま算定ミスや患者トラブルに直結します。

    トラブル回避の独自視点:日程調整と「調剤日」のズレ

    よくあるトラブルの一つに、「調剤日(処方箋受付日)」と「訪問日」が月をまたぐケースがあります。例えば、1月31日に処方箋を受け付け調剤し、2月1日に患者宅を訪問して指導を行った場合です。この場合、請求月はどちらになるのでしょうか?

    正解は、「指導を実施した月(2月)」に在宅薬剤管理指導料を請求します。しかし、レセプトの摘要欄には「調剤年月日(1月31日)」を記載しなければなりません。この記載を忘れると、審査側で「処方箋がないのに指導料を算定している」と判断され、返戻(請求却下)になるリスクがあります。月をまたぐ訪問は、レセプト請求時のチェックフローに必ず組み込んでおくべきです。

    多職種連携によるトラブル防止

    「ケアマネジャー(介護支援専門員)」との連携は、単なる情報共有以上の意味を持ちます。特に介護保険を利用している患者の場合、「居宅療養管理指導費」(介護保険)と「在宅薬剤管理指導料」(医療保険)の優先順位が問題になります。

    原則として、要介護認定を受けている患者には介護保険の「居宅療養管理指導費」が優先されます。しかし、末期の悪性腫瘍など特定の疾患がある場合や、急激な状態悪化時には医療保険の「在宅薬剤管理指導料」に切り替わるケースがあります。この切り替えのタイミングをケアマネジャーと共有していないと、ケアプラン(介護計画)と薬局の請求に不整合が生じ、給付管理票の返戻などの事務トラブルが発生します。

    連携のコツ

    • 担当者会議への参加: 可能な限りサービス担当者会議に参加し、顔の見える関係を作っておく。
    • 報告書の工夫: 医師への報告書(トレーシングレポート等)の写しを、許可を得てケアマネジャーや訪問看護師にも送付する。「薬局が何をしているか」を可視化することで、チーム医療における信頼感が劇的に向上します。
    • 緊急時の連絡手段: 電話だけでなく、MCS(メディカルケアステーション)などのICTツールを活用し、非同期でも連絡が取れる体制を整えておく。

    在宅業務は「行って終わり」ではありません。請求業務の正確性と、チーム医療としての連携の質が担保されて初めて、継続可能なサービスとなります。細かな算定ルールを守りつつ、現場での柔軟な対応力を磨くことが、選ばれる在宅対応薬局になるための鍵です。