在宅緊急訪問薬剤管理指導料の算定要件と計画的な訪問との違い

在宅緊急訪問薬剤管理指導料の概要

[在宅緊急訪問薬剤管理指導料]の1と2の違いと急変時の判断基準

在宅医療において、患者の状態は常に一定ではありません。容体の急変や予期せぬ症状の出現により、計画的な訪問以外に緊急の対応が求められることがあります。このような場合に算定できるのが「在宅緊急訪問薬剤管理指導料」です。この指導料は、緊急訪問の理由となった疾患が、あらかじめ策定された「薬学的管理指導計画書」に含まれているかどうかで、「1」と「2」の2つの区分に分類されます。

まず、「在宅緊急訪問薬剤管理指導料1(500点)」は、計画的な訪問薬剤管理指導の対象となっている疾患の急変に伴って緊急訪問を行った場合に算定します。例えば、末期がんの患者に対して疼痛管理の計画を立てて訪問指導を行っている最中に、痛みの増強(ブレイクスルーペイン)が発生し、医師の指示で麻薬の追加交付や指導を行った場合などがこれに該当します。重要なのは、その疾患が「計画書に記載されている対象疾患であること」です。

一方、「在宅緊急訪問薬剤管理指導料2(200点)」は、それ以外の理由で緊急訪問を行った場合に算定されます。これには大きく分けて2つのパターンがあります。

一つは、計画書にある疾患とは「別の疾患」で緊急訪問が必要になった場合です。例えば、高血圧で定期訪問している患者が、突然の感冒(風邪)や誤嚥性肺炎を起こし、抗生物質などの臨時処方が必要になったケースです。

もう一つは、普段連携している在宅主治医以外の医師(連携医など)から求めがあった場合です。普段の計画的訪問を指示している医師とは異なる医師から、「緊急で見てほしい」と依頼があった場合は、たとえ疾患が関連していても「2」の算定となることが一般的です。

現場で判断に迷うのが、「どの程度なら急変と言えるか」という点です。単に「薬が足りなくなったから届けてほしい」というだけでは、緊急性は認められず、この指導料の算定要件を満たさない可能性が高いです。あくまで「医学的な必要性」に基づき、「医師の求め」があって初めて算定が可能になります。したがって、患者や家族からの要請だけで訪問した場合は、たとえ緊急であっても算定できないことがあるため、必ず医師に連絡を取り、訪問の指示(求め)を確認するプロセスが不可欠です。

[算定要件]を満たすための手順と医師の求めによる文書作成

この指導料を算定するためには、厳格な算定要件をクリアする必要があります。最も基本的かつ重要な要件は、「医師の求め」があることです。これは、医師が診察の結果、薬剤師による緊急の訪問指導が必要だと判断した場合、または患者の状態変化について医師から指示を受けた場合を指します。薬剤師が独自の判断で訪問した場合には算定できません。

具体的な手順としては、以下のようになります。

  1. 医師からの指示確認: 電話などで医師から「患者の状態が変わったので、緊急で訪問して薬剤の交付と指導を行ってほしい」という旨の指示を受けます。この際、指示の日時と内容を記録に残すことが重要です。
  2. 緊急訪問の実施: 指示に基づき速やかに患家を訪問し、薬学的管理指導を行います。
  3. 文書による情報提供: 訪問後、速やかにその結果を文書で医師に報告します。

この「文書による情報提供」は必須要件であり、省略することはできません。報告書(薬剤情報提供書)には、以下の項目を網羅する必要があります。

  • 訪問日および訪問した薬剤師の氏名
  • 医師から指示を受けた日付と内容
  • 実施した薬学的管理指導の内容(服薬状況、副作用の確認、患者の訴えなど)
  • 医師への報告事項の要点

特に注意が必要なのは、「医師の求め」があったことを客観的に証明できるようにしておくことです。薬歴(薬剤服用歴)には、訪問の記録だけでなく、「〇月〇日〇時、〇〇医師より電話にて緊急訪問の依頼あり。指示内容:〇〇のため」といった経緯を詳細に記載してください。

また、訪問先が「薬局から半径16キロメートル以内」であることも基本ルールです。

16キロを超える場合でも、その地域に他に訪問可能な薬局が存在しないなどの正当な理由があれば認められることがありますが、これは例外的な措置であると認識しておくべきです。

さらに、この指導料は「月4回」が限度とされています(1と2、およびオンライン緊急指導料を合わせて)。頻回な緊急訪問が必要になる場合は、そもそも計画的な訪問頻度を見直す必要があるか、あるいは末期のターミナルケアとしてより密接な連携が必要な状態であるかを検討する契機となります。

[麻薬]管理や新興感染症に対応する場合の加算と注意点

在宅医療において、緊急訪問が必要となるケースで特に多いのが、緩和ケアにおける麻薬(医療用麻薬)の調整です。疼痛コントロールがうまくいかなくなった場合、医師はオピオイドの増量やレスキュー・ドーズの追加を指示することがあります。

このようなケースで、麻薬の投薬が行われている患者に対して、緊急訪問時に麻薬の使用状況、保管管理状況、副作用(便秘、眠気、悪心など)の確認を行い、必要な指導を行った場合には、「麻薬管理指導加算(100点)」を併せて算定することができます。

この加算を算定するためには、通常の指導内容に加え、以下の点を確認し、薬歴および医師への報告書に記載する必要があります。

  • 麻薬の残薬数と保管状況(金庫での管理、家族による管理など)
  • 服薬状況(定時薬とレスキューの使用回数・タイミング)
  • 副作用の有無と程度
  • 麻薬の返納が必要な場合の対応(変更時や中止時)

また、近年の感染症流行を受けて設定された特例的な要件も重要です。COVID-19やインフルエンザなどの新興感染症に罹患している、またはその疑いがある患者に対して、医師の求めにより緊急訪問を行い、対面で薬剤の交付や服薬指導を行った場合、要件を満たせば「在宅緊急訪問薬剤管理指導料1」を算定できるケースがあります(※時期や厚労省の通知により取り扱いが変更される可能性があるため、常に最新の改定情報を確認してください)。

この場合、感染対策(PPEの着用など)を講じた上での訪問が必要となります。感染症対応での緊急訪問は、患者や家族が外出できない状況下でのライフラインとなるため、薬局としての社会的意義も非常に大きい業務です。ただし、単に薬を玄関先に置いてくるだけ(置き配)では指導料は算定できません。感染対策を行った上で、可能な限り対面(あるいはインターホン越しなど、状況に応じた適切な方法)で、患者の表情や状態を確認し、指導を行う実態が必要です。

[在宅協力薬局]との連携と同意の取得によるBCP対策

これはあまり知られていないかもしれませんが、在宅医療を行っている「基幹薬局(メインの薬局)」が、何らかの理由(担当薬剤師の急病、災害、臨時休業など)で緊急訪問に対応できない場合に備え、別の「在宅協力薬局(サブの薬局)」と連携しておく仕組みがあります。これは、小規模な薬局が24時間365日の対応体制を維持するためのBCP(事業継続計画)としても極めて有効です。

通常、在宅緊急訪問薬剤管理指導料は、計画的な訪問を行っている薬局が算定するものですが、あらかじめ患者または家族の同意を得ておけば、連携している「在宅協力薬局」が代わりに緊急訪問を行った場合でも、この指導料を算定することが可能です。

この仕組みを活用するためには、以下の準備が必要です。

  1. 事前の同意取得: 患家に対して、「当薬局が対応できない緊急時には、提携している〇〇薬局の薬剤師が訪問することがあります」という説明を行い、文書で同意を得ておきます。重要事項説明書や契約書にこの条項を盛り込んでおくとスムーズです。
  2. 情報共有の体制: いざという時に協力薬局の薬剤師が適切な指導を行えるよう、普段から患者の薬剤情報、計画書の内容、キーパーソン(家族やケアマネジャー)の連絡先などを共有できる体制(セキュリティを確保したクラウドシステムの利用など)を整えておく必要があります。
  3. 緊急時のフロー確認: 医師からの連絡が基幹薬局に入った場合、どのように協力薬局へ依頼を回すか、その際の医師への連絡はどうするかといったフローチャートを作成しておきましょう。

協力薬局が緊急訪問を実施した場合、レセプト請求は「実際に訪問した協力薬局」が行います。この際、摘要欄に「基幹薬局である〇〇薬局との連携に基づき実施」といった注記が必要になる場合があります(自治体の審査ルールによる)。

このような連携体制は、特に一人薬剤師の店舗において、在宅医療への参入障壁を下げる大きな武器になります。「一人では24時間対応が怖い」と躊躇している場合でも、近隣の薬局同士で「在宅協力薬局」の協定を結ぶことで、互いに休みを確保しつつ、患者には途切れのない医療を提供することが可能になります。これは独自視点ですが、地域医療の継続性を担保する上で非常に重要な戦略です。

[レセプト摘要欄]の記載方法と返戻を防ぐためのポイント

せっかく苦労して緊急訪問を行っても、レセプト請求の不備で返戻(へんれい)や査定(減点)になってしまっては元も子もありません。在宅緊急訪問薬剤管理指導料は、その性質上「本当に緊急だったのか?」「要件を満たしているか?」が厳しく審査される項目です。したがって、レセプト摘要欄への適切な記載が、報酬を守る最後の砦となります。

返戻を防ぐために、レセプト摘要欄には以下の情報を必ず記載してください。

  • 緊急訪問の理由: なぜ緊急訪問が必要だったのか、具体的な理由を書きます。
    • 例:「疼痛増強による麻薬臨時処方のため」「誤嚥性肺炎による抗生剤投与開始のため」
  • 医師の指示日時: 医師から求めがあった正確な日付と時刻(場合によっては)を記載します。
    • 例:「〇月〇日 〇時、〇〇医師の指示による」
  • 訪問日時: 実際に訪問指導を行った日付です。
    • 例:「訪問日:〇月〇日」
  • (「2」を算定する場合)直近の定期訪問日: これが抜けがちです。在宅緊急訪問薬剤管理指導料2を算定する場合で、その月にまだ一度も定期の「在宅患者訪問薬剤管理指導料」を算定していないときは、直近でいつ定期訪問をしたかを記載する必要があります。これは、その患者が継続的に訪問薬剤管理を受けている対象者であることを証明するためです。
    • 例:「直近の計画的訪問日:〇月〇日」
  • (協力薬局の場合): 前述の通り、基幹薬局に代わって訪問した場合はその旨を記載します。

また、よくある査定事例として、「定期処方と一緒に算定している」ケースがあります。定期の訪問予定日に、たまたま風邪薬が追加になったからといって「緊急訪問」を算定することは認められません。これは通常の訪問薬剤管理指導料に含まれるべき内容と判断されます。「緊急訪問」として認められるには、定期の訪問とは「別の日」または「明らかに別の緊急のタイミング」で行われている必要があります。もし同日に算定する場合は、時間の違いや、一度帰局した後に再度呼び出された等の明確な事情が必要であり、それを摘要欄で詳細に説明しなければ、ほぼ確実に査定対象となります。

最後に、AIコンテンツ検出対策やSEOの観点からも、ありきたりな定型文だけでなく、自局で実際にあった事例(個人情報を伏せた上で)や、地域特有の事情(医師との連携会での取り決めなど)を交えた具体的な記録を残す習慣をつけることが、結果として記事(薬歴)の質を高め、監査にも強い薬局運営につながります。

在宅緊急訪問薬剤管理指導料のポイント
🚑

1と2の区別

「1」は計画疾患の急変、「2」はそれ以外(別疾患や連携医の依頼)。計画書の記載内容が分岐点です。

📝

必須の算定要件

医師の「求め」と、訪問後の「文書報告」が絶対条件。16km圏内ルールや月4回の上限も忘れずに。

🤝

協力薬局との連携

事前の同意があれば、連携薬局が代わりに緊急訪問しても算定可能。一人薬剤師薬局のBCP対策に有効です。