在宅管理指導料の基礎知識
在宅管理指導料の算定要件のポイント
在宅医療の現場において、在宅管理指導料(正式名称:在宅療養指導管理料)は、医療機関の収益を支える重要な柱の一つです。しかし、その算定要件は多岐にわたり、解釈を誤ると返戻や査定の対象となるリスクが高いため、正確な理解が不可欠です。
まず、基本的な算定の大前提として、この管理料は「医師が直接、患者またはその看護にあたる家族等に対して、療養上の必要な指導管理を行った場合」に、原則として月1回に限り算定できるものです。ここで重要なのは、「指導管理」の実態です。単に機器を貸与しているだけや、様子を伺うだけでは算定できません。具体的な医学的管理に基づいた指示、トラブル時の対処法の教育、そして病状のモニタリングが行われていることが必須条件となります。
具体的な種別ごとの要件を見ていきましょう。例えば、頻繁に算定される「C101 在宅自己注射指導管理料」の場合、対象となる薬剤が厚生労働大臣の定める注射薬に限定されています。さらに、導入初期には「導入初期加算」が算定できますが、これには3ヶ月以内という期間制限や、入院中または外来での十分な教育期間が必要という条件が付随します。また、「C103 在宅酸素療法指導管理料」では、チアノーゼ型先天性心疾患の患者とそれ以外の患者で点数が大きく異なるため、傷病名の記載漏れは致命的なミスにつながります。
さらに、見落としがちなのが「緊急時の体制整備」です。多くの在宅療養指導管理料の施設基準には、緊急時に患者からの連絡を受けられる体制や、必要に応じて往診できる体制(または連携医療機関との協力体制)が求められています。これは、単に算定要件を満たすだけでなく、患者の安全を守るための必須事項でもあります。2024年の診療報酬改定以降、こうした連携体制の重要性は増しており、地域医療連携の有無が、算定の可否に直結するケースも増えています。
最後に、指導の実施場所についても注意が必要です。原則は対面診療ですが、情報通信機器を用いた診療(オンライン診療)の場合でも算定可能な管理料が増えています。ただし、オンラインで算定する場合の点数は対面時とは異なる設定(C101の場合など)になっていることが多く、システム上でのマスタ設定ミスが頻発しています。自院の運用が最新の算定要件に適合しているか、定期的なチェックが欠かせません。
在宅管理指導料の併算定のルール
在宅医療を受ける患者は、往々にして複数の疾患や病態を抱えており、結果として複数の在宅療法を同時に行うケースが珍しくありません。この際に医療事務担当者を悩ませるのが、併算定の複雑なルールです。ここを正しく理解していないと、本来算定できるはずの収益を逃したり、逆に過剰請求となってしまったりします。
原則として、同一の患者に対して複数の在宅療養指導管理を行っている場合、「主たる指導管理の所定点数のみ」を算定します。これは「主たるもの」という表現が使われていますが、基本的には点数が高い方を一つ選んで算定するという意味です。例えば、在宅酸素療法(HOT)と在宅自己注射を同時に行っている患者の場合、それぞれの管理料を合算することはできず、点数の高い方(通常は在宅酸素療法指導管理料など)を一つだけ算定します。
しかし、ここで非常に重要な例外と注意点があります。それは、「在宅療養指導管理材料加算」は個別に算定できるという点です。管理料本体(指導料)は一つにまとめられますが、それに付随する材料費(カニューレ、注射針、輸液セットなど)の加算は、それぞれの療法について要件を満たしていれば、併せて算定することが可能です。
例えば、主たる管理料として「在宅中心静脈栄養法指導管理料」を算定し、従たる管理として「在宅酸素療法」を行っている場合、在宅酸素療法の「指導管理料」は算定できませんが、酸素濃縮装置加算や酸素ボンベ加算といった材料加算は別途算定可能です。この「指導料は一本化、材料加算は別建て」という構造を理解していないと、大幅な算定漏れを引き起こします。
また、**「同一月内における入院・退院」に関する併算定のルールも複雑です。通常、在宅療養指導管理料は月1回の算定ですが、入院中の患者が退院して在宅療養を開始した場合、退院に先立って行われる「退院前在宅療養指導管理料」と、退院後の「在宅療養指導管理料」の調整が必要になります。
さらに、「複数の医療機関」**が関与する場合のルールもあります。原則は一つの医療機関が管理を行いますが、退院月においては、入院元の病院が「退院前指導」を行い、在宅担当のクリニックが「在宅指導」を行うといったケースで、一定の条件下において双方が算定できる特例が存在します。これには詳細な情報の共有とレセプトへの注記が必要となるため、他院との連携担当者との密な確認作業が求められます。
このように、併算定の可否判断は、単に○×で判断できるものではなく、「指導料本体」と「加算」、「実施時期」、「関与する医療機関」の4つの軸で整理して考える必要があります。マトリクス表などを活用し、院内で統一した基準を持っておくことが、請求漏れを防ぐ鍵となります。
在宅管理指導料のカルテ記載とレセプト
診療報酬請求において、カルテ記載とレセプトの摘要欄記載は、算定の正当性を証明する唯一の証拠となります。特に在宅療養指導管理料は高点数であるため、厚生局の個別指導や保険者からの返戻においても重点的にチェックされる項目です。「やったから算定する」ではなく、「記録に残っているから算定できる」という意識改革が必要です。
まず、カルテ記載についてです。指導管理料を算定する日には、必ず「指導内容の要点」を記載する必要があります。「指導しました」「変わりなし」といった定型文のみの記載は、指導の実態がないとみなされ、返戻の対象となり得ます。
具体的には、以下のような項目を盛り込むことが推奨されます。
- 患者の遵守状況:自己注射の手技確認、酸素吸入時間の遵守状況、機器のトラブル有無など。
- 具体的な指導内容:手技の是正点、副作用のモニタリング結果、緊急時の対応指示など。
- 次回の計画:現在の設定(流量や単位数)の継続可否、変更の理由。
これらをSOAP形式の「P(Plan)」や「E(Education)」の項目に具体的に残すことが、算定の根拠となります。特に、数値(血糖値の推移、SpO2の変動など)を用いた客観的な評価が記載されていると、指導の必要性が第三者にも伝わりやすくなります。
次に、レセプトの摘要欄記載です。ここは、審査支払機関の担当者が最初に目を通す場所であり、記載不備は即座に返戻につながります。
必須となる記載事項は管理料ごとに細かく規定されていますが、共通して重要なのが「開始日」と「算定回数・指示回数」です。特に在宅自己注射指導管理料では、医師が指示した注射の回数によって点数が変動するため、27回以下なのか28回以上なのかを明確にする根拠(例:1日1回朝食後×30日分など)の記載が欠かせません。
また、2024年改定以降、特定の加算に関しては、さらなる詳細記載が求められるようになっています。例えば、在宅酸素療法の遠隔モニタリング加算を算定する場合は、遠隔モニタリングによって得られた情報に基づきどのような指導を行ったかの概要が必要になる場合があります。
加えて、複数の医療機関が関与する場合や、同月に入院期間が含まれる場合は、その旨を摘要欄に明記することで、審査側の疑問を先回りして解消することができます。「〇月〇日退院、以後当院にて管理」といった一文があるだけで、無用な問い合わせや返戻を未然に防ぐことができます。
カルテ記載とレセプト記載は連動している必要があります。レセプトに記載した病名や開始日がカルテと不整合を起こしていないか、請求前の点検業務(レセプトチェック)では、単なる病名漏れだけでなく、日付や数値の整合性確認に時間を割くべきです。
在宅管理指導料の2024年改定の変更点
2024年改定(令和6年度診療報酬改定)は、在宅医療においてDX(デジタルトランスフォーメーション)と医療連携の推進が色濃く反映された改定となりました。在宅療養指導管理料に関しても、いくつかの重要な変更点があり、これらに対応できていないと算定機会を損失する可能性があります。
最も大きなトピックの一つが、「情報通信機器を用いた指導」の評価の見直しと拡充です。これまで対面診療が原則とされていた指導管理において、オンライン診療を組み合わせた場合の評価体系が整理されました。特に、在宅酸素療法やCPAP(持続陽圧呼吸療法)治療において、遠隔モニタリングを活用した指導管理への評価が明確化されています。
具体的には、遠隔モニタリング加算の要件が見直され、機器から得られるデータを活用して診療を行うことへのインセンティブが強化されました。これは、医療従事者の負担軽減と、より緻密な患者管理の両立を目指すものであり、対応する機器の導入やシステム連携を進めている医療機関にとっては追い風となります。
また、「在宅自己注射指導管理料」に関しても、バイオシミラーの普及や新薬の登場に合わせた対象薬剤の追加・見直しが行われています。特に、GLP-1受容体作動薬などの糖尿病治療薬や、生物学的製剤の自己注射適応拡大に伴い、算定可能な患者層が広がっています。改定ごとに「別表」として告示される対象薬剤リストは必ず最新版を確認し、新たに自己注射を開始した薬剤が対象に含まれているかを見落とさないようにする必要があります。
さらに、「プログラム医療機器(SaMD)」の活用に関する評価も新設・拡充の動きがあります。例えば、禁煙治療や高血圧治療においてアプリを用いた指導管理が進んでいますが、在宅療養の分野でも同様に、治療用アプリを用いた管理に対する評価が議論されています。2024年改定ではその第一歩として、特定の指導管理においてアプリのログを活用した指導が評価される傾向にあります。
一方で、適正化の観点から、算定要件が厳格化された部分もあります。特に「訪問回数」や「居住場所」(同一建物居住者か否か)による点数設定の細分化は、在宅時医学総合管理料だけでなく、関連する指導管理料の解釈にも影響を与える場合があります。特に有料老人ホームやサ高住などの集合住宅に訪問している場合、効率的な訪問が可能であるとみなされ、一部の点数が包括されたり、減算されたりする規定には引き続き注意が必要です。
2024年改定への対応は、単に点数表を書き換えるだけでは不十分です。新しい要件を満たすための「院内ワークフローの再構築(いつ、誰が、どうやって遠隔データをチェックするか等)」と「患者への説明(オンライン指導への切り替え提案等)」がセットで必要となります。
在宅管理指導料と経営視点の収益最大化
最後に、少し視点を変えて、医療事務や経営的な側面から在宅管理指導料を見てみましょう。この独自視点は、検索上位の記事ではあまり深く語られていない部分ですが、クリニック経営においては極めて重要です。在宅療養指導管理料は、一度導入されると毎月継続的に算定できる「ストック型」の収益源であり、経営の安定化に大きく寄与します。
収益最大化(最適化)のためにまず注目すべきは、**「潜在的な算定漏れの掘り起こし」です。
例えば、在宅酸素療法を行っている患者に対して、呼吸同調式デマンドバルブを使用しているにも関わらず、その加算を取り忘れているケース。あるいは、自己注射を行っている患者で、血糖自己測定を行っているにも関わらず、その回数に応じた加算区分が誤って低く算定されているケース。これらは「やっているのに請求していない」という非常にもったいない状態です。
これを防ぐためには、医師、看護師、医療事務が連携し、「現在使用している医療材料リスト」と「算定している管理料・加算」**を突き合わせる棚卸し作業を定期的に行うことが有効です。特に、病状の変化に伴って測定回数が増えた場合などは、算定区分の変更漏れが起きやすいタイミングです。
次に、「特定保険医療材料」との兼ね合いです。在宅管理指導料に含まれる材料費と、別途請求できる特定保険医療材料の区分けは非常に複雑です。例えば、インスリン注入器の針などは、処方箋で出す場合と院内支給する場合で請求方法が異なります。院内支給の方がトータルの収益性が高くなるケースもあれば、在庫管理の手間を考えると院外処方の方が効率的なケースもあります。
経営視点では、「在庫リスク」と「管理の手間」を天秤にかけ、どちらの運用が自院にとって最適かをシミュレーションする必要があります。単に点数の高低だけでなく、スタッフの業務負荷(在庫発注、期限管理、滅菌管理など)もコストとして換算して判断することが、真の収益性向上につながります。
さらに、「地域連携による紹介増」という視点も重要です。高度な在宅療養指導(例えば、在宅中心静脈栄養法や在宅人工呼吸療法など)に対応できる体制を整え、それを地域の基幹病院やケアマネジャーにアピールすることは、新規の在宅患者紹介の呼び水となります。「あそこのクリニックはTPN(中心静脈栄養)の管理やポンプの指導も任せられる」という評判は、高点数の管理料を算定できる重症患者の紹介増に直結します。
つまり、在宅療養指導管理料の体制整備は、単なる既存患者へのサービス提供にとどまらず、集患戦略としての側面も持っているのです。
在宅管理指導料は、医療の質と経営の質がリンクするポイントです。適切な指導管理を行い、それを漏れなく請求し、その実績を地域に還元していく。このサイクルを回すことが、結果としてクリニックの収益と評価を高める最短ルートとなります。

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