分割調剤のやり方と医師の指示で処方箋を算定する期間と管理

分割調剤のやり方

記事の要約:分割調剤の実務ポイント
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3つの実施パターン

長期保存困難、後発医薬品のお試し、医師の指示による分割の3種類があり、それぞれ算定要件が異なります。

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点数算定の複雑さ

2回目以降の調剤基本料が「5点」になるケースと、単純に「分割」されるケースの違いを解説します。

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管理と連携の重要性

リフィル処方箋との違いや、次回調剤までの期間管理、医師への情報提供義務について深掘りします。

分割調剤のやり方における3つのパターンと医師の指示

 

薬局の実務において、分割調剤は単に「薬を分ける」という単純な作業ではありません。その背景には明確な法的根拠と、患者の安全を守るための医療的な意図が存在します。まず、分割調剤が認められる具体的な3つのパターンを正しく理解し、それぞれのケースでどのような「医師の指示」や「判断」が必要になるのかを整理しましょう。ここを混同すると、後の算定や指導内容に大きなズレが生じてしまいます。

  • 長期保存が困難な場合
    薬剤の性質上、湿気や光に弱く、一度に長期間の量を渡すと品質が劣化する恐れがあるケースです。また、一包化を行った際に安定性が保てない場合もここに含まれます。
  • 後発医薬品(ジェネリック)の試用
    患者がジェネリックへの変更に不安を感じている際、短期間(例えば1週間分)だけお試しで調剤し、問題なければ残りを調剤するケースです。
  • 医師の指示による場合
    医師が処方箋の「備考欄」等に分割指示を明記して発行するケースです。患者の服薬管理能力に不安がある場合や、副作用のモニタリングが必要な場合に行われます。

特に重要なのが、「医師の指示による分割調剤」です。これは他の2つ(薬局側の判断や患者の希望が起点となるもの)とは異なり、処方医が治療計画の一部として意図的に分割を指示するものです。この場合、処方箋には「分割回数」や「1回あたりの投与日数」が具体的に記載されている必要があります。例えば、90日分の処方を30日ずつ3回に分けて交付するよう指示がある場合などが該当します。

このパターンでは、薬局側には単に薬を渡すだけでなく、次回の交付までに患者の服薬状況や体調変化を確認し、その結果を処方医にフィードバック(情報提供)する義務が生じることがあります。これは、分割調剤があくまで「治療の継続性を担保しながら安全性を高める」ための手段だからです。医師の指示を見落とさず、確実に実行するためのフローを薬局内で確立しておく必要があります。

厚生労働省:平成30年度診療報酬改定について(分割調剤の要件詳細)

分割調剤のやり方で算定する点数と1回目・2回目の違い

分割調剤の業務で最も複雑かつミスが起きやすいのが、調剤報酬の点数算定です。どの理由で分割したかによって、算定できる点数の計算式が根本的に異なるため、レセコン入力時の設定ミスが返戻(へんれい)に直結します。ここでは、「医師の指示」による場合と、「それ以外(長期保存・ジェネリック試用)」の場合の決定的違いを表で比較しながら解説します。

項目 医師の指示による場合 長期保存困難・ジェネリック試用の場合
調剤基本料 所定点数を分割回数で割る
(例:基本料÷3)
1回目:所定点数を算定
2回目以降:5点(注9)
薬剤調製料
(旧・調剤料)
所定点数を分割回数で割る 1回目:全日数分を算定するか、日数按分
(※システムにより異なるが、総点数は変わらないよう調整される)
薬学管理料 分割回数ごとに算定可能
(※要件あり)
1回目:算定可能
2回目以降:算定不可の項目が多い

特筆すべきは、長期保存困難やジェネリック試用の場合の2回目以降の調剤基本料が「5点」に固定されるというルールです。これは「分割調剤特別調剤基本料」と呼ばれるもので、通常の基本料(42点など)は算定できません。一方で、医師の指示による分割の場合は、単純に「合計点数を回数で割る」という考え方が基本となります(1点未満の端数処理など細かいルールはありますが)。

意外と知られていないのが、「もし2回目を別の薬局で調剤したらどうなるか?」という点です。

原則として分割調剤は同一薬局で行うことが望ましいですが、患者の都合で2回目を別の薬局で受けることも物理的には可能です。この場合、2回目の薬局は「分割調剤の2回目」として5点を算定するのではなく、通常の独立した処方箋として扱い、通常の調剤基本料を算定できるという解釈が一般的です(ただし、情報の引き継ぎや処方箋の備考欄の確認など、極めて慎重な対応が求められます)。このように、算定ルールは「患者がどこでサービスを受けたか」によっても変化するため、受付時の確認フローが重要になります。

また、服薬管理指導料などの薬学管理料についても注意が必要です。医師の指示による分割の場合、2回目以降も服薬指導を行い、その内容を医師に報告することで所定の点数が算定できますが、単なる長期保存困難の分割では、2回目以降の指導料算定が制限されるケースがあります。自局のレセコンが自動計算してくれる場合でも、その根拠を理解していないと、疑義照会や患者説明で答えに詰まることになります。

日本薬剤師会:調剤報酬点数表に関する事項

分割調剤のやり方と処方箋の備考欄や期間の管理

分割調剤を実行する際、物理的な処方箋の取り扱いと「期間管理」は、患者のコンプライアンス維持に直結する実務の要です。分割調剤を行うと、オリジナルの処方箋は薬局で保管し、患者には次回用の証明書(引換証のようなもの)や、処方箋の写し、あるいは専用の様式を渡す運用が一般的です。

処方箋の備考欄への記載は、分割調剤の証拠を残すために不可欠です。特に「長期保存困難」の理由で分割した場合、以下の事項を処方箋(または調剤録)に明記する必要があります。

  • 分割の理由(例:PTPシートから取り出すと吸湿性が高く品質保持が困難なため)
  • 1回の投与日数
  • 次回の調剤予定日

期間の管理については、さらに注意が必要です。例えば、90日分の処方を30日ごとに3回に分ける場合、2回目の調剤はいつから可能なのか?という疑問が現場でよく上がります。基本的には、手持ちの薬がなくなる直前、あるいは当日が目安となりますが、早すぎる来局は「重複投薬」のリスクや、残薬発生の原因となります。

ここで重要なのが、「次回予定日を患者と明確に共有し、予約的な管理を行うこと」です。特に高齢者の場合、2回目の受取日を忘れてしまい、服薬中断(ドロップアウト)につながるケースが少なくありません。カレンダーへの書き込みをお願いしたり、薬袋に大きく次回日付を印字したりする工夫が求められます。

また、医師への情報提供についても、備考欄やトレーシングレポートを活用します。医師の指示による分割調剤で、もし患者が2回目の調剤に来なかった場合、それは重大な治療中断を意味します。この際、「来局されませんでした」という事実も含めて医師へ報告することが、薬剤師としての責任ある「管理」と言えます。単に薬を渡すスケジュール管理ではなく、治療継続の監視役としての視点を持つことが、分割調剤のやり方の質を高めます。

分割調剤のやり方とリフィル処方箋の明確な違い

近年導入された「リフィル処方箋」と「分割調剤」は、運用が似ているため現場でも患者からも混同されがちです。しかし、この2つは制度の目的医師の意図において決定的に異なります。ここを明確に患者に説明できないと、トラブルの原因となります。

比較項目 分割調剤(医師指示) リフィル処方箋
処方箋の枚数・形式 1回の処方量(総量)を分けて渡す指示。
処方箋は1枚で、発行時に総量が確定している。
同じ処方箋を「繰り返し」使用できる。
1回あたりの量 × 回数 = 総量となるイメージ。
医師の意図 「一度に渡すのは危険・不適切」
(管理能力不足、副作用監視など)
「症状が安定しているため診察不要」
(通院負担軽減、医療費適正化)
調剤日の柔軟性 治療計画に基づき、指定された期間厳守が基本。 次回調剤予定日の前後7日間など、ある程度の幅がある。

最大の違いは、「医学的な必要性」のベクトルです。

分割調剤は、いわば「監視付きの投薬」です。医師が「90日分出していいけれど、一度に渡すと全部飲んでしまったり、無くしてしまったりするかもしれないから、30日ごとに薬剤師の顔を見て渡してほしい」という、管理強化の側面が強い制度です。

一方、リフィル処方箋は「状態が安定しているから、医師の診察なしで薬局だけで完結してよい」という、規制緩和・効率化の側面が強い制度です。

したがって、患者から「リフィルにしてほしい」と言われても、分割調剤の指示が出ている場合は「先生はあなたの体調を定期的にチェックしながら薬を渡す必要があると判断されています」と説明する必要があります。逆に、分割調剤の指示がないのに薬局の判断で勝手に「リフィル扱い」にすることは法的にも不可能です。

独自視点として、「分割調剤は、将来的にリフィル処方へ移行するための『練習期間』として活用できる」という考え方があります。分割調剤期間中にしっかり服薬できている実績を薬局が作り、医師へ「コンプライアンス良好なのでリフィルでも対応可能です」と提案することで、患者の利便性を高めるプロアクティブな介入が可能になります。

分割調剤のやり方で長期保存が困難な理由と疑義照会

「長期保存が困難」という理由で分割調剤を行う際、その判断基準は意外と曖昧であり、現場の薬剤師の知識量が問われる場面です。単に「湿気に弱いから」という理由だけで安易に分割すると、監査時に指摘を受ける可能性があります。ここでは、より具体的な「困難な理由」と、それに対する疑義照会のテクニックを深掘りします。

まず、「一包化」との組み合わせが最も多いケースです。

例えば、吸湿性が極めて高い薬剤(一部の抗てんかん薬や、カリウム製剤など)を含んだ処方で、90日分の一包化指示が出たとします。この場合、90日分すべてを一包化してしまうと、後半の薬は吸湿により変色や変質を起こすリスクが高まります。

ここでプロの薬剤師が行うべきは、以下のような疑義照会です。

「〇〇という薬剤が含まれており、90日分の一包化では品質保持が保証できません。

30日ごとの分割調剤とし、都度一包化を作成して交付する形に変更してもよろしいでしょうか?

この提案は、患者の健康被害(変質した薬の服用)を防ぐ正当な理由に基づいています。

また、意外な「長期保存困難」の理由として、「患者の居住環境」「家庭の事情」が挙げられることがあります。

独居の認知症患者で、自宅に大量の薬があると古い薬と新しい薬が混ざってしまい、管理不能になる(=適切な状態で保存・管理できない)というケースです。これは物理的な化学変化としての保存困難ではありませんが、「患者の生活環境における保存管理が困難」という広義の解釈で、医師と相談の上で分割調剤を適用することがあります(※この場合は医師の指示による分割に切り替えるのが本筋ですが、現場判断として相談する価値はあります)。

さらに、AIコンテンツではあまり触れられないポイントとして、**「分割調剤における予製(よせい)のリスク」があります。

2回目の患者が来る前に、あらかじめ薬を用意(予製)しておくことは業務効率化になりますが、もし患者が来局しなかったり、入院して処方が変更になったりした場合、その予製した薬は廃棄ロスになります。特に長期保存困難な薬(湿気に弱い薬など)を予製する場合、PTPから出した状態で待機させては意味がありません。分割調剤の2回目こそ、「患者が来局してから調剤する(直前調剤)」**という原則を徹底するか、あるいは強力な乾燥剤を用いた保管ケースで管理するなど、高度な在庫管理テクニックが求められます。

厚生労働省:調剤報酬点数表の解釈(疑義解釈資料)

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