乳幼児加算の算定要件
6歳未満の対象年齢と初診料・再診料の点数
医療事務の現場において、最も頻繁に算定される加算の一つが「乳幼児加算」です。この加算は、免疫力が低く重症化しやすい、あるいは診察に特段の配慮と時間を要する乳幼児の診療を評価するために設けられています。基本的な算定要件として、対象患者は「6歳未満」の乳幼児に限られます。ここで重要なのは「6歳未満」という定義の厳密な適用です。年齢計算に関する法律に基づき、6歳の誕生日の前日をもって「6歳」に達したとみなされるため、誕生日の前日からは算定ができなくなる点に注意が必要です。
具体的な点数について確認しましょう。初診料における乳幼児加算は75点、再診料においては38点が加算されます。これは通常の初診料(288点)や再診料(73点)に上乗せされる形となります。例えば、平日の診療時間内に5歳の子供が風邪で初めて受診した場合、初診料288点に乳幼児加算75点を加えた363点が基本の算定点数となります。この基本的な構造はシンプルですが、後述する時間外対応や小児科特例が絡むと計算式が変動するため、まずはこの基本ルールを確実に押さえておく必要があります。
また、3歳未満の乳幼児については、小児かかりつけ診療料などの別の管理料を算定するケースも多く、その場合は包括評価となるため、乳幼児加算が算定できないケースも出てきます。患者の年齢が「3歳未満」か「6歳未満」かによって、適用できる管理料や加算の優先順位が変わるため、受付時の保険証確認と生年月日のチェックは非常に重要です。
参考リンク:A000 初診料 – 診療報酬点数(乳幼児加算の基本規定)
参考リンク:厚生局(管轄エリアの施設基準届出状況)
時間外加算や休日加算・深夜加算との併算定のルール
乳幼児加算の算定で最も誤解が生じやすく、返戻の原因となりやすいのが、時間外加算、休日加算、深夜加算との併算定のルールです。原則として、これらの時間外等の加算を算定する場合、通常の「乳幼児加算(75点/38点)」は算定できません。その代わりとして、6歳未満の乳幼児専用に設定された、より高い点数の時間外加算等を算定することになります。
具体例を挙げて解説します。通常(6歳以上)の初診時の時間外加算は85点ですが、6歳未満の場合はこれが200点に跳ね上がります。この「200点」という点数の中に、乳幼児に対する手間賃(本来の乳幼児加算分)が含まれていると解釈します。したがって、「初診料+時間外加算(85点)+乳幼児加算(75点)」として合計するのではなく、「初診料+乳幼児の時間外加算(200点)」として算定するのが正解です。
同様に、休日加算についても、6歳以上であれば250点のところ、6歳未満では365点となります。
深夜加算に至っては、6歳以上480点に対し、6歳未満は695点という非常に高い点数が設定されています。このように、乳幼児の場合は「基本の加算+乳幼児加算」ではなく、「乳幼児専用の特例点数」に置き換わるという構造を理解していないと、過剰請求や過少請求につながります。レセコンが自動計算してくれる場合が多いですが、手書き修正や入力設定のミスで誤った算定をしてしまうケースが後を絶たないため、仕組みを理解しておくことが不可欠です。
| 区分 | 通常(6歳以上) | 6歳未満(特例点数) | 併算定の可否 |
|---|---|---|---|
| 時間外加算 | 85点 | 200点 | 乳幼児加算は算定不可 |
| 休日加算 | 250点 | 365点 | 乳幼児加算は算定不可 |
| 深夜加算 | 480点 | 695点 | 乳幼児加算は算定不可 |
参考リンク:電話や情報通信機器を用いた診療でも時間外加算や乳幼児加算等の算定可能(厚労省特例の解説)
小児科標榜医療機関における特例と夜間・早朝等加算の扱い
小児科を標榜している医療機関においては、さらに特殊な算定ルールが存在します。これが「小児科特例」と呼ばれるものです。通常、時間外加算は医療機関が定めた診療時間「外」に診療を行った場合に算定しますが、小児科を標榜している場合、診療時間「内」であっても、夜間などの特定の時間帯に6歳未満の患者を診療すると、特例として「夜間・早朝等加算」ではなく、より高い点数である「時間外加算(の特例点数)」を算定できるケースがあります。
一方で、混同しやすいのが「夜間・早朝等加算」です。これは、週30時間以上の診療を行っているなどの施設基準を満たした医療機関が、診療時間「内」であっても、平日18時以降や土曜の正午以降などに受付をした場合に算定できる50点の加算です。ここで重要なのが、夜間・早朝等加算は乳幼児加算と併算定が可能であるという点です。
先述の「時間外加算」等は乳幼児加算と併算定できず「置き換え」になりましたが、「夜間・早朝等加算」は「上乗せ」が可能です。つまり、平日の19時に診療時間内として診療を行っているクリニックに5歳の患者が来た場合、「初診料+乳幼児加算(75点)+夜間・早朝等加算(50点)」という算定式が成り立ちます。この「併算定できる加算」と「置き換わる加算」の区別は非常に複雑で、多くの医療事務員が頭を悩ませるポイントです。自院が小児科を標榜しているか、また届け出ている診療時間がどうなっているかによって適用ルールがガラリと変わるため、自院の施設基準を改めて確認することをお勧めします。
参考リンク:東京都医師会 小児科診療科別の基礎知識(加算の詳細解説)
2024年度改定の影響と3歳未満の小児かかりつけ診療料
2024年度改定(令和6年度診療報酬改定)においても、小児医療に関わる点数は重点的な見直しが行われました。乳幼児加算そのものの点数に大きな変更はありませんでしたが、周辺の加算や管理料の要件が厳格化、あるいは緩和されています。特に注目すべきは、医療DXの推進に伴う「医療DX推進体制整備加算」や「医療情報取得加算」との兼ね合いです。乳幼児の診療においては、マイナンバーカードによる保険証確認(マイナ保険証)が推奨されていますが、子供のマイナンバーカード取得率は成人ほど高くないため、現場での確認作業に手間取るケースが増えています。
また、乳幼児加算と密接に関係するのが「小児かかりつけ診療料」です。これは3歳未満の患者に対して、継続的な指導管理を行うことに同意を得た場合に算定できるもので、初診料や再診料、そして乳幼児加算などが包括された高い点数が設定されています。2024年度改定では、この小児かかりつけ診療料の算定要件において、発達障害の疑いがある患児への対応や、予防接種のスケジュール管理などがより重視されるようになりました。
算定上の注意点として、小児かかりつけ診療料を算定している患者に対しては、原則として乳幼児加算を別途算定することはできません(包括されるため)。しかし、時間外や休日に受診した場合は、小児かかりつけ診療料とは別に、時間外加算や休日加算(乳幼児特例の点数)を算定できる場合があります。このように「基本料は包括だが、時間外対応は出来高」というハイブリッドな算定パターンが存在するため、レセプト請求時にはエラーが出ないよう、システムの設定を細かく見直す必要があります。
参考リンク:令和6年度診療報酬改定の概要(厚生労働省公式サイト)
返戻を防ぐためのカルテ記載と請求時の注意点
最後に、乳幼児加算の算定において返戻を防ぐためのカルテ記載と請求時の注意点について解説します。通常の初・再診料における乳幼児加算(75点/38点)に関しては、年齢要件さえ満たしていれば特別なカルテ記載は求められません。しかし、ここまで解説してきた「時間外加算の特例」や、薬局における「乳幼児服薬指導加算」などは、カルテや薬歴への具体的な記載が必須要件となっています。
特に、深夜加算や休日加算を算定する場合、なぜその時間に受診する必要があったのか、緊急性を示す症状の記載(例:「高熱39.0度あり、水分摂取困難なため緊急受診」など)があると、審査側に対する説得力が増し、返戻のリスクを下げることができます。単に「風邪」とだけ書いて深夜加算を請求すると、都道府県によっては「診療時間内で対応できたのではないか」と査定されるリスクがあります。
また、医療事務として見落としがちなのが、自治体の医療費助成制度(マル乳・マル子など)との整合性です。多くの自治体で乳幼児の医療費は無料化されていますが、だからといって算定を疎かにしてはいけません。保険請求上の点数が正しくなければ、自治体への請求も認められないからです。特に、月をまたいで6歳になる場合や、保険証が切り替わるタイミングでのレセプト請求はミスが多発します。「来月誕生日を迎える患者リスト」を作成し、受付でアラートが出るようにシステム設定を行うなど、ヒューマンエラーを防ぐ仕組み作りが重要です。正しい知識と細心の注意が、医院の健全な経営を支えます。

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