ユリスとフェブリクの違い
ユリスとフェブリクの作用機序の基本的な違い
ユリス(一般名:ドチヌラド)とフェブリク(一般名:フェブキソスタット)は、高尿酸血症の治療に用いられる代表的な薬剤ですが、その効果発現のメカニズム、すなわち作用機序が根本的に異なります 。この違いを理解することは、患者さん一人ひとりの病態に合わせた適切な薬剤選択の第一歩となります 。
- フェブリク(尿酸生成抑制薬)
フェブリクは、体内で尿酸が作られる最終段階で働く「キサンチンオキシダーゼ(XO)」という酵素の働きを阻害します 。プリン体が分解されて尿酸に変わるプロセスをブロックすることで、血液中の尿酸の量を減らします。これは、蛇口から出る水の量を元から減らすイメージです。そのため、尿酸が過剰に作られてしまう「尿酸産生過剰型」の患者さんや、原因が特定できない場合に広く用いられます 。 - ユリス(尿酸排泄促進薬)
一方、ユリスは腎臓に作用する薬剤です 。腎臓の近位尿細管には、一度ろ過された尿から尿酸を血液中に再吸収する「尿酸トランスポーター1(URAT1)」という輸送体が存在します 。ユリスは、このURAT1の働きを選択的に阻害することで、尿酸の再吸収を抑え、尿中への尿酸排泄を促進します 。体内に溜まった尿酸を積極的に外に出すイメージです。そのため、尿からの尿酸排泄が低下している「尿酸排泄低下型」の患者さんに特に有効です 。
このように、フェブリクが尿酸の「産生」を抑えるのに対し、ユリスは「排泄」を促すという、全く異なるアプローチで血清尿酸値を低下させます。この作用機序の違いが、それぞれの薬剤の適応、副作用、そして使い分けのポイントに大きく関わってきます。
ユリスが腎機能低下患者へもたらす効果と注意点
腎機能が低下している患者さんへの高尿酸血症治療薬の選択は、薬剤の効果と安全性に大きく影響するため、特に慎重な判断が求められます 。ユリスとフェブリクでは、腎機能低下時の扱いに明確な違いがあります。
フェブリクは、軽度から中等度の腎機能障害(eGFR 30mL/min/1.73m²以上)を持つ患者さんでも、用量調整なしで通常通り使用できることが大きな特徴です 。これは、フェブリクが主に肝臓で代謝され、腎臓からの排泄の割合が比較的少ないためです。実際に、腎機能が低下した患者さんにおいて、フェブリクが腎機能の悪化を抑制し、むしろ改善させたという報告もあります 。
参考)高尿酸血症の治療薬の選び方|平塚市の一般内科・循環器内科・心…
一方、ユリスは腎臓の尿酸トランスポーター(URAT1)に作用して尿酸の排泄を促すため、その効果は腎機能に依存します 。そのため、腎機能が高度に低下している患者さん(eGFR 30mL/min/1.73m²未満)では、十分な効果が得られない可能性があります 。添付文書上、禁忌ではありませんが、慎重投与とされており、効果の減弱を念頭に置く必要があります。ただし、ユリスは腎臓の他のトランスポーター(OAT1, OAT3など)への影響が少なく、腎臓への負担が少ないという利点も指摘されています 。
腎機能に応じた使い分けの参考として、以下の資料が有用です。
CKD合併高尿酸血症に対する治療戦略 – 日本糖尿病協会
まとめると、以下のようになります。
| 薬剤 | 腎機能低下時(eGFR 30mL/min/1.73m²以上) | 高度腎機能障害時(eGFR 30mL/min/1.73m²未満) |
|---|---|---|
| フェブリク | ✅ 通常量で使用可能 | 情報が少なく、慎重投与が基本 |
| ユリス | ✅ 使用可能 | ⚠️ 効果が減弱する可能性があり、慎重投与 |
中等度までの腎機能低下であればフェブリクが第一選択となることが多いですが、ユリスも選択肢となり得ます 。個々の患者さんの腎機能の状態、尿酸値、合併症などを総合的に評価し、最適な薬剤を選択することが重要です 。
ユリスとフェブリクの副作用プロファイルと薬価の比較
薬剤を選択する上で、効果だけでなく副作用のリスクと経済的な負担(薬価)も重要な比較ポイントです。ユリスとフェブリクは、それぞれ特徴的な副作用プロファイルを持っています。
副作用の違い
どちらの薬剤も、血清尿酸値が急激に低下することで、関節に沈着していた尿酸結晶が剥がれ落ち、痛風発作(痛風関節炎)を誘発する可能性があります 。これは治療開始初期によく見られる現象で、予防のためにコルヒチンなどを併用することがあります 。
- ユリスの主な副作用:
ユリスは尿酸排泄促進薬であるため、尿中の尿酸濃度が高くなります。これにより、尿が酸性に傾いていると「尿路結石」を形成するリスクが高まります 。そのため、十分な水分摂取(1日2L以上が目安)と、尿をアルカリ化するための食事指導(野菜や海藻類を多く摂る)が非常に重要になります 。また、頻度は低いものの、肝機能障害(AST, ALTの上昇)も報告されています 。従来の尿酸排泄促進薬(ベンズブロマロン)で問題となった重篤な肝障害のリスクは低いとされています 。 - フェブリクの主な副作用:
フェブリクで比較的頻度が高い副作用は「肝機能障害」です 。定期的な血液検査によるモニタリングが重要です。また、関節痛がみられることもあります 。さらに、特に注目すべき点として、心血管疾患のリスクが高い患者において、主要な心血管イベントの発現率が他の薬剤(アロプリノール)と比較して高かったという海外の臨床試験(CARES試験)の報告があり、心血管系の既往歴を持つ患者への投与は慎重な判断が求められます。
薬価の比較
薬価は2025年現在の情報に基づくと以下のようになりますが、改定により変動する可能性があります。1日あたりの薬剤費は、投与量によって変わります。
| 薬剤 | 規格 | 薬価(1錠) | 1日の維持量(例) | 1日あたりの薬価(例) |
|---|---|---|---|---|
| ユリス | 0.5mg錠 | 約23.20円 | 2mg | 約86.80円 |
| 1mg錠 | 約39.90円 | |||
| 2mg錠 | 約73.00円 | |||
| フェブリク | 10mg錠 | 14.20円 | 40mg | 43.40円 |
| 20mg錠 | 25.70円 | |||
| 40mg錠 | 43.40円 |
※薬価はあくまで参考値です。実際の価格は医療機関や薬局にご確認ください。
力価の比較として、ユリス2mgとフェブリク40mgが同程度の効果を持つとされていますが、これは維持量での話であり、低用量ではフェブリクの方が効果が強い可能性も指摘されています 。
参考)https://www.phamnote.com/2021/06/blog-post.html
ユリスとフェブリクの禁忌と食事への影響の違い
薬剤の安全性と治療効果を最大限に引き出すためには、禁忌(使用してはいけない場合)と、食事など生活習慣における注意点を理解しておくことが不可欠です。
併用禁忌の違い
- フェブリクの併用禁忌:
フェブリクには明確な併用禁忌薬が存在します。免疫抑制剤である「メルカプトプリン(ロイケリン®)」や「アザチオプリン(イムラン®、アザニン®)」です。フェブリクはこれらの薬剤の代謝を著しく阻害し、血中濃度を上昇させることで、骨髄抑制などの重篤な副作用を引き起こす危険性があるため、絶対に併用してはなりません。 - ユリスの併用禁忌:
ユリスには、2025年現在、併用が禁忌とされている薬剤はありません。これは、他の薬剤との相互作用が比較的少ないことを示しており、多くの合併症を持つ患者さんや、多剤を併用している患者さんにとって使いやすい薬剤であると言えます。
食事への影響と生活指導のポイント
高尿酸血症の治療の基本は食事療法と生活習慣の改善ですが、使用する薬剤によって特に注意すべきポイントが異なります。
- フェブリク使用時の食事:
フェブリクは尿酸の産生そのものを抑えるため、食事指導としては一般的な高尿酸血症に対する注意点(プリン体の多い食品を避ける、アルコールを控えるなど)が中心となります。尿中の尿酸排泄量が増えるわけではないため、ユリスほど尿路結石のリスクを強調されることは少ないです。 - ユリス使用時の食事(独自視点):
ユリスの服薬指導で最も重要なのが「尿路結石の予防」です 。これは単に「水をたくさん飲みましょう」というだけでなく、なぜそれが必要なのか、作用機序と関連付けて説明することが患者の理解とアドヒアランス向上につながります。- ① 水分摂取の徹底: 尿量が増えることで、尿中の尿酸濃度が薄まり、結晶化しにくくなります。具体的な目標として「1日2リットル以上の水分を摂りましょう」と指導します。
- ② 尿のアルカリ化: 尿酸は酸性の尿に溶けにくい性質があります。そのため、尿をアルカリ性に傾けることが結石予防に非常に有効です。肉類など酸性食品に偏らず、アルカリ性食品である野菜、海藻類、きのこ類、いも類を積極的に食事に取り入れるよう具体的に指導します。これは、尿酸値を下げる食事療法というだけでなく、ユリスの副作用を予防するための積極的な食事管理という側面を持ちます。この「尿のpHを意識した食事指導」は、ユリスを処方する上で、フェブリクにはない独自の重要な指導ポイントとなります。
高尿酸血症治療における食事療法の詳細については、以下のガイドラインが参考になります。
高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン ダイジェスト版 – Mindsガイドラインライブラリ
ユリスの登場による治療選択肢の変化と今後の展望
2020年に登場したユリス(ドチヌラド)は、高尿酸血症の薬物治療における選択肢を大きく広げ、治療戦略に新たな可能性をもたらしました 。
従来の尿酸排泄促進薬の問題点を克服
ユリスが登場する以前の代表的な尿酸排泄促進薬には「ベンズブロマロン(ユリノーム®)」がありましたが、頻度は低いものの重篤な肝障害の副作用が問題視されていました。ユリスは、この肝障害のリスクを低減するように設計されており、より安全に尿酸排泄を促進できる薬剤として期待されています 。これにより、これまで副作用のリスクから尿酸排泄促進薬の使用をためらっていた症例にも、積極的に治療介入できるようになりました。
治療の層別化と併用療法の進展
高尿酸血症は、尿酸の「産生過剰型」「排泄低下型」「混合型」に分類されますが、ユリスの登場により、特に「排泄低下型」の患者さんに対する効果的かつ安全な治療選択肢が強化されました 。
さらに、単剤で効果が不十分な場合の「併用療法」にも変化が見られます。
- XOIで効果不十分な場合: フェブリクなどの尿酸生成抑制薬(XOI)を最大量使用しても目標値(血清尿酸値 6.0mg/dL以下)に到達しない場合、作用機序の異なるユリスを上乗せすることで、より強力な尿酸低下効果が期待できます 。
- 腎機能への配慮: 腎機能が比較的保たれている患者であれば、XOIとユリスの少量併用も有効な選択肢となります。これにより、各薬剤の副作用リスクを抑えつつ、相加的な効果を狙うことができます 。
今後の展望:個別化治療の深化
近年、高尿酸血症治療は、単に尿酸値を下げるだけでなく、腎保護効果や心血管イベント抑制といった、全身への影響も考慮した治療へとシフトしています 。フェブリクが腎保護効果を示唆するデータを持つ一方で、ユリスも選択的URAT1阻害による腎臓への負担軽減が期待されています。
今後は、患者一人ひとりの病態(産生過剰/排泄低下のタイプ分類)、腎機能、心血管リスク、併用薬などの背景を詳細に評価し、最適な薬剤を単独あるいは組み合わせて使用する「個別化医療」がさらに進むと考えられます。また、ユリスと他の尿酸生成抑制薬(トピロキソスタットなど)との配合剤の開発も進んでおり、アドヒアランス向上と治療効果の増強が期待されるなど、高尿酸血症治療は新たなステージに向かっています。

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