ナルサスの換算とスイッチング
ナルサスの基本的なオピオイド換算比と計算方法
ナルサス(一般名:ヒドロモルフォン)は、中等度から高度のがん疼痛に用いられる強オピオイド鎮痛薬です 。他のオピオイドからの切り替え(オピオイドスイッチング)を行う際、正確な換算が極めて重要になります 。換算比はあくまで目安であり、個々の患者さんの状態に応じて投与量を調整する必要があります 。
基本的な換算比として、経口モルヒネ30mg、経口オキシコドン20mgが、ナルサス6mgに相当するとされています 。これはあくまで一般的な目安です 。以下に、代表的なオピオイドからのナルサスへの換算表を示します。
表:主要経口オピオイドからナルサスへの換算目安
| 先行オピオイド | 1日投与量 | ナルサス®︎錠の1日投与量 | 換算比(先行薬:ナルサス) |
|---|---|---|---|
| 経口モルヒネ製剤 | 30mg | 6mg | 5:1 |
| 経口オキシコドン製剤 | 20mg | 6mg | 10:3 |
| タペンタドール製剤 | 100mg | 6mg | 約16.7:1 |
フェンタニル貼付剤からの変更も頻繁に行われます 。例えば、フェントステープ1mg/日から切り替える場合、ナルサス6mg/日が目安となります 。これらの計算は、あくまで初期投与量を決めるためのものであり、切り替え後は患者さんの疼痛コントロール状況や副作用の発現を注意深く観察し、最適な用量へと調整(タイトレーション)していくプロセスが不可欠です 。高用量のオピオイドから切り替える際は、一度に全量を切り替えるのではなく、段階的に切り替える「部分的スイッチング」が推奨されることもあります 。
参考情報:オピオイド換算に関する基本的な考え方や各薬剤の換算表がまとまっています。
オピオイド鎮痛薬|一覧表&簡易換算表でわかりやすく解説 – 看護roo!
ナルサスとナルベイン(注射薬)間の換算における特有の注意点
ナルサス(経口ヒドロモルフォン)とナルベイン(ヒドロモルフォン注射薬)の間のスイッチングは、特に注意を要するポイントです ⚠️ 。なぜなら、経口から注射、注射から経口への換算比が同じではない「非対称」な関係にあるためです 。この点を理解しないまま換算を行うと、過量投与や過小投与のリスクが生じます 。
具体的な換算比は以下の通りです。
- ナルサス(経口) → ナルベイン(注射):ナルサスの1日量の「5分の1」がナルベインの1日量の目安です 。例えば、ナルサス12mg/日を服用している患者さんを注射に切り替える場合、ナルベインは2.4mg/日が初期投与量の目安となります 。
- ナルベイン(注射) → ナルサス(経口):ナルベインの1日量に対し、「2.5倍から4倍」を乗じた量がナルサスの1日量の目安となります 。報告によっては2〜3倍とするものもあります 。例えば、ナルベイン2.4mg/日から経口薬に戻す場合、ナルサスは6mg/日(2.5倍)から9.6mg/日(4倍)の範囲で検討します 。
このように換算比に幅があるのは、バイオアベイラビリティ(生物学的利用能)の個体差などが影響するためです。特に注射薬から経口薬へ変更する際は、より慎重な判断が求められます。過量投与を避けるため、低めの換算比(例:2.5倍)で開始し、レスキュー薬の使用状況を見ながら漸増していくのが安全なアプローチとされています 。この非対称な換算比は、ヒドロモルフォンの特徴として必ず覚えておくべき重要な知識です。
参考情報:各種オピオイドの換算比に加え、ナルサスとナルベインの切り替えについて注意喚起が記載されています。
オピオイド換算表 – 東北大学病院
ナルサスへ切り替える際の副作用と具体的なマネジメント方法
オピオイドスイッチングは、鎮痛効果の改善や副作用の軽減を目的として行われますが、切り替え自体が新たな副作用を引き起こす可能性もあります 。ナルサスも例外ではなく、主な副作用として傾眠、悪心・嘔吐、便秘などが報告されています 。これらの副作用は、モルヒネなど他の強オピオイドとおおむね同等とされています 。
副作用の具体的なマネジメント方法は以下の通りです。
- 傾眠 😴:ナルサスの開始後や増量後に強く現れることがありますが、多くは数日で軽快します 。しかし、強い眠気が持続する場合は、過量投与のサインである可能性も考えられるため、減量を検討する必要があります 。
- 悪心・嘔吐 🤢:使い始めの1〜2週間でみられることが多いですが、徐々におさまる傾向があります 。この期間は、予防的に制吐剤(吐き気止め)を併用することで、患者さんの苦痛を和らげることができます 。
- 便秘 🚽:オピオイド誘発性便秘(OIC)は、最も頻度が高く、耐性ができにくい副作用です 。そのため、ナルサスを開始する際には、予防的に緩下剤の併用を原則として検討する必要があります。
- 神経毒性(まれ):ごくまれに、ミオクローヌス(筋肉のぴくつき)などの神経興奮症状がみられることがあります 。これは特に腎機能が低下している患者さんで注意が必要です。
重要なのは、これらの症状が出現した際に、それがオピオイドの副作用なのか、あるいは原疾患の進行によるものなのかを慎重に見極めることです 。また、連用中に自己判断で急に中止すると、発汗や不安、不眠といった退薬症候が出現する可能性があるため、必ず医師の指示のもとで減量や中止を行うよう患者さんに指導することも大切です 。
学術論文:ヒドロモルフォンの薬理学的特性と臨床試験における副作用プロファイルについて詳述されています。
持続性がん疼痛治療剤 ヒドロモルフォン塩酸塩徐放錠 審査報告書
腎機能・肝機能低下患者におけるナルサス換算の個別化と調整
ナルサスの有効成分であるヒドロモルフォンは、主に肝臓でグルクロン酸抱合を受けて代謝され、腎臓から排泄されます 。そのため、腎機能や肝機能が低下している患者さんでは、通常よりも血中濃度が上昇し、副作用が強く出る可能性があるため、特に慎重な投与設計が求められます 。
【腎機能低下患者への対応】
ヒドロモルフォンは、モルヒネと比較して腎機能低下時にも比較的安全に使用できるとされています 。モルヒネの代謝物であるモルヒネ-6-グルクロニド(M6G)には鎮痛作用と同時に神経毒性があり、腎機能が低下すると体内に蓄積して傾眠、錯乱、ミオクローヌスなどを引き起こすリスクが高まります。一方、ヒドロモルフォンの主代謝物であるヒドロモルフォン-3-グルクロニド(H3G)は、鎮痛作用を持たず、神経毒性もモルヒネ代謝物より弱いと考えられています。
しかし、ヒドロモルフォン自体も腎排泄されるため、重度の腎機能障害のある患者さんでは、通常よりも低用量から開始し、副作用の発現に注意しながらゆっくりと増量していく必要があります 。特に、他のオピオイドからの換算時には、計算上の投与量よりも少ない量で開始することが安全です。
【肝機能低下患者への対応】
肝機能が低下している患者さんでも、ヒドロモルフォンの血中濃度が上昇する可能性があります 。そのため、腎機能低下時と同様に、低用量から開始し、慎重に用量調整を行うことが推奨されます 。
このように、腎機能や肝機能が低下している患者さんに対しては、画一的な換算比を適用するのではなく、患者さん一人ひとりの状態に合わせて投与量を個別化する視点が不可欠です。定期的なモニタリングと丁寧なアセスメントを通じて、鎮痛効果と副作用のバランスを最適化していくことが求められます。
参考情報:慶應義塾大学病院による解説で、腎機能・肝機能障害時のヒドロモルフォン使用に関する注意点が記載されています。
新しい鎮痛薬ヒドロモルフォンによるがん疼痛治療 | KOMPAS

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