タリージェとリリカの切り替えと用量
タリージェとリリカの効果・副作用の違いと基本的な作用機序
神経障害性疼痛の治療において、第一選択薬として頻用されるタリージェ(ミロガバリン)とリリカ(プレガバリン)。これらは兄弟のような薬剤と称されることもあり、どちらも電位依存性カルシウムチャネルのα2δサブユニットに結合することで、神経伝達物質の過剰な放出を抑制し、鎮痛効果を発揮します 。
では、両者の違いはどこにあるのでしょうか。最大の違いは、副作用のプロファイルにあります。タリージェは、リリカで問題となりやすかった「めまい」や「眠気」といった中枢神経系の副作用が軽減されるように設計された薬剤です 。実際に、臨床試験や市販後調査では、タリージェの方がこれらの副作用の発現頻度が低いと報告されています。これは、タリージェがα2δ-1サブユニットに対して、より長く安定して結合し続ける特性を持つため、血中濃度の変動が少なく、効果が持続しやすいことに関連していると考えられています 。
一方で、鎮痛効果に関しては、リリカの方が強いという臨床的な印象を持つ医療従事者も少なくありません 。リリカは1日25mgから最大600mgまでと用量調節の幅が広く、症状に応じて細かな調整が可能です 。対してタリージェは1日2.5mgから最大30mgの範囲で調整するため、重度の疼痛に対してはリリカが選択されるケースもあります 。
以下の表に、両剤の主な違いをまとめました。
| 項目 | タリージェ(ミロガバリン) | リリカ(プレガバリン) |
|---|---|---|
| 特徴 | リリカの改良版として開発。副作用(特にめまい・眠気)が少ない傾向 。 | 幅広い神経障害性疼痛に適応。用量調節の幅が広い 。 |
| 主な副作用 | 眠気、めまい、浮腫、体重増加 。リリカよりは軽度とされる 。 | 眠気、めまい、浮腫、体重増加。タリージェより発現頻度が高い傾向 。 |
| 1日最大用量 | 30mg | 600mg |
| 適応症 | 末梢性神経障害性疼痛 | 神経障害性疼痛、線維筋痛症に伴う疼痛 |
どちらの薬剤が適しているかは、患者個々の症状、背景、副作用の忍容性によって異なります。例えば、副作用に敏感な高齢者や、日中の眠気を避けたい患者にはタリージェが、一方で強い疼痛があり、副作用よりも効果を優先したい場合にはリリカが選択されるなど、使い分けが重要となります 。
タリージェへの切り替え・リリカからの切り替え時の用量換算の目安と具体的な方法
リリカからタリージェへ、あるいはその逆の切り替えを検討する際、多くの医療従事者が悩むのが「用量の換算」です。まず重要な点として、現時点では「確立された明確な切り替え方法は存在しない」ということを理解しておく必要があります 。添付文書にも、他剤からの切り替えに関する具体的な記載はなく、いずれの薬剤も新規に投与を開始する場合と同様に、初期用量から始めて徐々に増量していくのが原則です 。
しかし、臨床現場ではある程度の目安が求められます。複数の臨床試験や専門家の見解を総合すると、おおよその換算目安として以下の式が参考にされています。
- ✅ リリカ 150mg/日 ≒ タリージェ 10mg~15mg/日
- ✅ リリカ 300mg/日 ≒ タリージェ 20mg~30mg/日
例えば、リリカで効果が不十分、あるいは副作用が問題でタリージェへの切り替えを検討する場合、上記を目安としつつも、安全性を最優先し、タリージェの初期用量(通常1日10mg、1回5mgを1日2回)から開始し、1週間以上の間隔をあけて漸増していくのが最も安全な方法です 。急な切り替えは、効果の減弱や予期せぬ副作用を招くリスクがあります。
慢性痛患者を対象にプレガバリン(リリカ)からミロガバリン(タリージェ)への切り替えの有効性と安全性を検討した研究では、プレガバリンを1日150mg以下に減量した後、ミロガバリンを添付文書の用法・用量よりも少量から開始し、疼痛評価(NRS)の有意な改善と高い安全性が確認されました。このことからも、低用量からの緩やかな切り替えが推奨されます。
参考論文: 慢性痛患者におけるプレガバリンからミロガバリンへの変更による有効性と安全性の検討
逆に、タリージェからリリカへ切り替える場合は、タリージェで効果が不十分であった可能性が考えられます 。この場合も、リリカの初期用量から開始し、患者の状態を慎重に観察しながら増量していくことが重要です。効果が強い分、副作用も出やすくなる可能性があるため、患者への十分な説明とモニタリングが不可欠です 。
タリージェ投与における腎機能障害患者・高齢者への用量調節と注意点
タリージェを処方する上で、最も注意すべき点のひとつが「腎機能」です。タリージェは主に腎臓から排泄される薬剤であるため、腎機能が低下している患者では血中濃度が上昇し、副作用が強く現れる危険性が高まります 。そのため、投与前には必ず腎機能(クレアチニンクリアランス:Ccr)を確認し、その値に応じて厳密な用量調節を行う必要があります。
PMDA(医薬品医療機器総合機構)の適正使用ガイドでは、腎機能障害の程度に応じた具体的な投与方法が以下のように示されています。
【腎機能障害患者へのタリージェ投与量の目安】
| 腎機能障害の程度 (Ccr: mL/min) | 初期用量 | 維持・最高用量 | 投与回数 |
|---|---|---|---|
| 軽度 (60 ≦ Ccr < 90) | 1回5mg | 1回15mg | 1日2回 |
| 中等度 (30 ≦ Ccr < 60) | 1回2.5mg | 1回7.5mg | 1日2回 |
| 重度 (Ccr < 30) | 1回2.5mg | 1回7.5mg | 1日1回 |
| 血液透析患者 | 1回2.5mg | 1回7.5mg | 1日1回(透析後に投与) |
※上記はあくまで目安です。詳細は最新の添付文書をご確認ください。
特に高齢者においては、自覚症状がなくとも腎機能が低下している(加齢性腎機能低下)ケースが多いため、処方前にはCcrの算出を習慣づけることが極めて重要です 。高齢者では、より低用量から開始し、1週間以上の間隔をあけて慎重に増量するなど、通常よりも緩やかなタイトレーションが求められます。
腎機能に応じた用量調節は、タリージェの安全な使用における根幹をなす部分です。処方医はもちろん、薬剤師も処方監査の際に必ずチェックすべき必須項目と言えるでしょう。以下のリンクは、タリージェの適正使用に関する詳細な情報が記載されており、投与設計の際に非常に有用です。
参考リンク:腎機能障害患者への投与法など、タリージェの適正な使用法に関する詳細がまとめられています。
タリージェ錠 適正使用ガイド(PMDA)
タリージェ切り替えで注意すべき離脱症状と漸減方法、効果不十分な場合の次の一手
タリージェやリリカを中止または減量する際に、注意が必要なのが「離脱症状」です 。これらの薬剤を急に中断すると、めまい、ふらつき、頭痛、吐き気、不眠といった症状が現れることがあります。これは、薬剤によって抑制されていた神経伝達が急に元に戻ることで生じる反跳現象と考えられています。
臨床的な印象では、タリージェはリリカに比べて離脱症状が少ない傾向にあると言われています 。これはタリージェの半減期がリリカより長く、血中濃度がより安定しているためと考えられます。しかし、少ないとはいえリスクがゼロではないため、どちらの薬剤も中止する際は「緩やかな漸減(ぜんげん)」が鉄則です。
具体的な漸減方法として、確立されたものはありませんが、一般的には1週間以上の期間をかけて、少しずつ用量を減らしていくことが推奨されます 。例えば、以下のようなスケジュールが考えられます。
- 🗓️ 漸減の目安: 1週間ごとに、1日の投与量をタリージェであれば5mg~10mg、リリカであれば75mg程度ずつ減量していく 。
- 👤 個別対応: 高齢者や長期服用患者、高用量を服用している患者では、さらにゆっくりとしたペース(2週間~1ヶ月以上)で漸減することも考慮します。
では、適切にタリージェへ切り替えたにもかかわらず、鎮痛効果が不十分であった場合はどうすればよいでしょうか。その際の「次の一手」として、以下のような選択肢が考えられます。
- リリカへの再変更: 副作用が忍容可能であれば、より鎮痛効果が期待できる可能性があるリリカへ戻すことを検討します 。
- 他の作用機序の薬剤の併用・変更: 神経障害性疼痛の治療薬は他にもあります。SNRI(サインバルタなど)や三環系抗うつ薬、ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液(ノイロトロピン)など、異なる作用機序の薬剤への変更または併用を検討します 。
- 非薬物療法の強化: 薬物療法だけに頼らず、理学療法、運動療法、認知行動療法といった非薬物療法を積極的に導入・強化することも重要です。特に坐骨神経痛など、原因が特定できる場合は、その原因に対するアプローチが根本的な解決につながることもあります 。
効果が不十分だからといって安易に増量や薬剤変更を繰り返すのではなく、アセスメントを丁寧に行い、患者の全体像を捉えた上で、最適な治療戦略を立てることが求められます。
タリージェの薬価と患者指導のポイント、意外と知られていないコスト意識
治療薬を選択する上で、効果や安全性はもちろん重要ですが、医療経済的な視点、つまり「薬価」も無視できない要素です。特に長期にわたる慢性疼痛の治療では、患者の経済的負担も考慮する必要があります。
2025年現在の薬価を比較してみましょう。(※薬価は改定されるため、最新の情報をご確認ください)
| 薬剤 | 規格 | 薬価(先発品) | 後発品(ジェネリック) |
|---|---|---|---|
| タリージェ錠 | 2.5mg | 約50円 | なし |
| 5mg | 約90円 | ||
| 15mg | 約210円 | ||
| リリカカプセル | 25mg | 約40円 | あり(薬価は大幅に安い) |
| 75mg | 約80円 | ||
| 150mg | 約120円 |
前述の換算目安「リリカ150mg/日 ≒ タリージェ10mg~15mg/日」で比較すると、1日あたりの薬剤費は、タリージェの方が高くなる傾向にあります。さらに、リリカには安価な後発医薬品(ジェネリック)が存在するため、その価格差はさらに大きくなります。副作用のリスクが低く、患者のQOL向上が期待できるのであればタリージェは優れた選択肢ですが、コスト面も考慮した上で、患者への情報提供と薬剤選択を行うことが望ましいでしょう。
最後に、タリージェを処方する際の患者指導のポイントをまとめます。
- 眠気・めまいへの注意喚起 🚗: 服用初期や増量時に特に現れやすいことを伝え、自動車の運転など危険を伴う機械の操作は避けるよう具体的に指導します 。
- 自己判断での中断の禁止 🚫: 効果がないと感じても、急にやめると離脱症状がでる可能性があるため、必ず医師や薬剤師に相談するよう伝えます 。
- 体重増加・浮腫について ⚖️: これらの副作用が現れる可能性があることを事前に伝え、食生活の見直しや適度な運動を促すとともに、症状が気になる場合は相談するよう指導します。
- 効果発現のタイミング ⏳: 効果が出るまでには個人差があり、数週間かかる場合もあることを説明し、焦らず服用を継続するよう励ますことも大切です。
タリージェとリリカは、神経障害性疼痛治療における強力な武器です。両剤の特性を深く理解し、患者一人ひとりの状態に合わせてきめ細かく使い分けることが、治療効果を最大化し、患者の苦痛を和らげる鍵となります。

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