コロナで解熱剤は飲まない方がいい?理由と免疫への影響や副作用

コロナで解熱剤を飲まない方がいい理由

この記事でわかること
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アセトアミノフェンの推奨理由

コロナ禍でなぜアセトアミノフェンが第一選択とされたのか、その作用機序と特徴を解説します。

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NSAIDsのリスクと影響

イブプロフェンなどのNSAIDsが流行初期に懸念された理由と、現在のエビデンスに基づく安全性、免疫への影響を考察します。

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発熱と免疫の関係

発熱がウイルスと戦うために不可欠な生体防御反応であるメカニズムを解き明かします。

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サイトカインストームとの関連

解熱剤が重症化の一因であるサイトカインストームに与える影響の可能性という、一歩踏み込んだ視点を提供します。

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子供や高齢者への注意点

特に配慮が必要な患者層(小児、高齢者、妊婦など)への解熱剤使用における具体的な注意点をまとめます。

コロナの発熱時にアセトアミノフェンが推奨される理由

 

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行初期から、発熱や疼痛に対しては「アセトアミノフェン」が第一選択薬として推奨されてきました 。その最大の理由は、他の多くの解熱鎮痛薬と作用機序が異なり、安全域が比較的広いと考えられているためです。

アセトアミノフェンの主な作用機序は、脳の体温調節中枢に働きかけて血管を広げ、体外へ熱を逃がすことで解熱効果を発揮するものです 。また、中枢神経に作用して痛みの閾値を上げることで鎮痛効果も示します 。

重要なのは、アセトアミノフェンが持つ「抗炎症作用」が非常に弱いという点です 。後述する非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)とは異なり、炎症を引き起こすプロスタグランジンの産生を末梢組織でほとんど抑制しません。このため、NSAIDsで懸念される胃腸障害などの副作用が起こりにくいとされています 。

また、インフルエンザの際には、一部のNSAIDsの使用とライ症候群やインフルエンザ脳症との関連が指摘されてきた経緯から、小児科領域では古くからアセトアミノフェンが安全な解熱剤として使用されてきました 。こうした背景から、未知のウイルスであった新型コロナウイルスに対しても、まずは安全性を最優先し、アセトアミノフェンが推奨されるに至ったのです。

ただし、アセトアミノフェンも決して万能薬ではありません。過量服薬は重篤な肝機能障害を引き起こすリスクがあります 。特に、市販の総合感冒薬にもアセトアミノフェンが含まれていることが多く、意図せず過量摂取(オーバーズ)に至るケースがあるため、患者への服薬指導では併用薬の確認が不可欠です 。

参考リンク:アセトアミノフェンの作用機序と注意点について、製薬会社のサイトで詳しく解説されています。
解熱剤としてのアセトアミノフェン | Tylenol Japan

コロナでイブプロフェンなどNSAIDsを避けるべき?副作用と免疫への影響

パンデミック初期の2020年3月、フランス保健大臣が「イブプロフェンなどの非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)が新型コロナウイルスの症状を悪化させる可能性がある」と発表したことで、世界的に大きな混乱が生じました 。この背景には、NSAIDsがウイルスの細胞侵入に関わる受容体(ACE2)の発現を増加させるのではないか、という仮説がありました 。

この発表を受け、WHO(世界保健機関)も一時的にイブプロフェンの使用を推奨しないとの見解を示しましたが、その後すぐに「使用を反対する科学的根拠はない」として見解を修正しています 。

実際に、その後に行われた複数の観察研究やメタアナリシスでは、NSAIDsの使用が新型コロナウイルスの感染リスクや重症化、死亡率を有意に増加させるという明確なエビデンスは示されませんでした 。2023年に発表されたナラティブレビューでも、パンデミック初期の混乱は科学的根拠に欠ける「インフォデミック」であったと結論付けられています 。

以下の表は、アセトアミノフェンと代表的なNSAIDsであるイブプロフェン、ロキソプロフェンの違いをまとめたものです。

成分名 分類 主な作用 特徴・注意点
アセトアミノフェン 非ピリン系解鎮痛薬 中枢性解熱・鎮痛 抗炎症作用は弱い 。過量摂取で肝障害のリスク 。小児や妊婦にも比較的安全に使用される 。
イブプロフェン 非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs) 末梢性鎮痛・抗炎症・解熱 解熱・鎮痛作用に加え、強い抗炎症作用を持つ。胃腸障害、腎障害などの副作用リスクがある 。
ロキソプロフェン 非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs) 末梢性鎮痛・抗炎症・解熱 プロドラッグであり、体内で活性型に変換されるため胃への負担が比較的少ないとされるが、副作用リスクは存在する 。

このように、現在ではNSAIDsの使用が一概に危険とは言えません。しかし、解熱剤を使わずに済むのであれば、あえてNSAIDsを選択する必要はない、というのが多くの専門家の見解です。その理由として、NSAIDsが持つ抗炎症作用が、ウイルスに対する正常な免疫応答を抑制してしまう可能性が理論上は否定できないからです 。また、胃腸障害や腎機能障害といったNSAIDs固有の副作用は、脱水になりがちな発熱時にはリスクが高まるため、注意が必要です。

論文引用:パンデミック初期のNSAIDsに関する混乱と、その後の研究結果についてまとめられています。
Ibuprofen, other NSAIDs and COVID-19: a narrative review

コロナの発熱は免疫システムの重要な防御反応!そのメカニズムとは

そもそも、なぜウイルスに感染すると熱が出るのでしょうか。それは、発熱がウイルスや細菌と戦うための、人体に備わった重要な「生体防御反応」だからです 。解熱剤で熱を下げることが、必ずしも体の治癒を助けるわけではない理由がここにあります。

発熱のメカニズムは以下の通りです。

  1. 🦠 ウイルス侵入: 体内にウイルスが侵入すると、マクロファージや白血球などの免疫細胞がこれを検知します。
  2. 📢 サイトカイン産生: 免疫細胞は「サイトカイン」と呼ばれる情報伝達物質を放出します 。これが「敵が来たぞ!」という警報の役割を果たします。
  3. 🧠 脳への指令: サイトカインの情報を受け取った脳の視床下部(体温調節中枢)は、体温のセットポイントを通常より高く設定し直します 。
  4. 🔥 体温上昇: 筋肉を震わせて熱を産生したり、皮膚の血管を収縮させて熱の放散を防いだりすることで、体温が上昇します。これが「悪寒」や「鳥肌」の状態です。

では、なぜ体はわざわざエネルギーを消費してまで体温を上げるのでしょうか?それには、免疫システムにとって有利な点がいくつもあるからです。

  • ウイルスの増殖抑制: 多くのウイルスは37℃前後で最も活発に増殖し、高温環境(約40℃)では増殖が抑制されるか、不活化します 。体温を上げることは、ウイルスの勢いを削ぐ直接的な効果があります。
  • 免疫細胞の活性化: 体温が上昇すると、ウイルスを攻撃するTリンパ球や、ウイルスに感染した細胞を破壊するナチュラルキラー(NK)細胞などの免疫細胞が活性化し、戦場である感染部位へ集まりやすくなります 。つまり、免疫軍団の能力と機動力を高める効果があるのです。
  • 抗体産生の促進: 発熱は、ウイルスの特徴を記憶し、将来の再感染を防ぐ「抗体」の産生を促進する可能性も示唆されています 。

このように、発熱は体がウイルスと効率よく戦うための合理的な戦略です。そのため、熱が出始めてすぐに解熱剤で熱を下げてしまうと、免疫システムの活動を妨げ、かえって回復を遅らせてしまう可能性があるのです 。もちろん、高熱が続いて体力消耗が激しい場合や、水分補給ができない、ぐったりしているなどの状態では、解熱剤を使用して体を休ませることも重要です。しかし、「熱=悪」と捉え、すぐに下げようとするのは得策ではないことを理解しておく必要があります。

コロナとサイトカインストームの関連性 解熱剤が引き金になる可能性は?

新型コロナウイルス感染症の重症化メカニズムとして注目されたのが「サイトカインストーム」です 。これは、免疫システムが暴走し、サイトカインが過剰に放出されることで、ウイルスだけでなく正常な自己の細胞まで攻撃してしまう現象です 。肺でサイトカインストームが起きると、重篤な肺炎や急性呼吸窮迫症候群(ARDS)を引き起こし、生命を脅かすことがあります。

では、解熱剤の使用がこのサイトカインストームに何らかの影響を与える可能性はあるのでしょうか?これは非常に複雑で、まだ完全には解明されていない領域ですが、理論上の可能性として議論されています。

特に、イブプロフェンなどのNSAIDsが持つ「抗炎症作用」が鍵となります。NSAIDsは、炎症や痛みの原因物質であるプロスタグランジンの生成を抑制します。プロスタグランジンは炎症反応に関わる一方で、免疫応答のバランスを調整する役割も担っています。この繊細な免疫バランスを、薬剤によって人為的に変化させることが、予期せぬ結果を招く可能性がゼロではないのです。

一部の専門家は、NSAIDsが特定の免疫経路を抑制することで、別の免疫経路が過剰に活性化され、結果としてサイトカインのバランスを崩す引き金になるのではないか、という仮説を立てています 。例えば、インフルエンザ脳症の発症機序の一つとして、サイトカインの過剰反応が考えられており、一部の解熱剤の使用との関連が議論されてきました 。

重要なのは、これはまだ確立されたエビデンスではなく、あくまで仮説レベルの議論であるという点です。前述の通り、臨床研究ではNSAIDsが新型コロナの重症化リスクを高めるという明確な証拠は見つかっていません 。

しかし、この「解熱剤が免疫応答の複雑なネットワークに介入する」という視点は、臨床家が安易な解熱剤の使用を避けるべきだという考えを補強する一つの根拠となり得ます。特に、基礎疾患を持つ患者や、症状が急速に進行している患者に対しては、解熱剤の使用が病態を覆い隠し(マスキングし)、重症化のサインを見逃す原因にもなりかねません。発熱は重要なバイタルサインであり、その推移を注意深く観察することが、サイトカインストームのような急激な悪化を早期に察知する上で極めて重要なのです。

参考リンク:厚生労働省の公式サイトでは、新型コロナウイルス感染症に関する最新の情報や相談窓口が提供されています。
新型コロナウイルス感染症について|厚生労働省

コロナ感染時の子供や高齢者への解熱剤使用で特に注意すべき点

新型コロナウイルス感染症に限らず、解熱剤の使用は、患者の年齢や背景によって特に慎重な判断が求められます。特に小児、高齢者、そして妊婦はハイリスク群と言えます。

👶 小児への使用

小児、特に乳幼児への解熱剤使用は最も注意が必要です。その最大の理由は「インフルエンザ脳症」との関連です。過去にインフルエンザに罹患した小児が、特定の解熱剤(ジクロフェナクナトリウムやメフェナム酸など)を使用した後に、急性の脳症を発症し重篤な後遺症や死亡に至るケースが報告されました。このため、現在ではインフルエンザの可能性がある小児へのこれらの薬剤の使用は原則禁忌とされています。

この歴史的経緯から、小児の発熱に対しては、原因が何であれ第一選択薬としてアセトアミノフェンが用いられます 。イブプロフェンも比較的安全に使用できるとされていますが、国や地域、医師の考え方によって判断は分かれます。ロキソプロフェンは、日本では小児への適応がありません。

保護者には、「熱が高くてかわいそう」という感情だけで判断せず、以下の点を観察するよう指導することが重要です。

  • 機嫌は良いか: 熱があっても比較的機嫌が良く、遊べているか。
  • 水分・食事は摂れているか: 経口摂取が十分にできているか。
  • 顔色や呼吸の状態: ぐったりしていないか、呼吸が苦しそうでないか。

これらの状態が良好であれば、必ずしも解熱剤を使う必要はありません 。「熱を下げること」が目的ではなく、「つらい症状を和らげて体を休ませること」が目的であることを強調する必要があります。

👴 高齢者への使用

高齢者は複数の基礎疾患を抱えていることが多く、薬物の副作用が出やすい集団です。特に以下の点に注意が必要です。

  • 腎機能への影響: NSAIDsは腎血流を低下させる作用があり、腎機能障害を引き起こすリスクがあります。高齢者はもともと腎機能が低下している場合が多いため、NSAIDsの使用は慎重に検討すべきです。脱水状態ではそのリスクがさらに高まります。
  • 消化管出血: NSAIDsによる胃腸障害、特に消化管出血は高齢者に多い副作用の一つです。
  • 心血管系への影響: 一部のNSAIDsは心筋梗塞脳卒中などの心血管イベントのリスクをわずかに上昇させる可能性が指摘されています。心疾患の既往がある患者では注意が必要です。

これらの理由から、高齢者の発熱に対してもアセトアミノフェンが比較的安全な選択肢とされますが、肝機能が低下している場合はアセトアミノフェンの代謝が遅れ、副作用のリスクが高まるため、やはり用量には注意が必要です 。

🤰 妊婦への使用

妊婦への薬剤投与は、胎児への影響を常に考慮しなければなりません。妊娠後期にNSAIDsを使用すると、胎児の動脈管を収縮させ、胎児循環に悪影響を及ぼす「胎児動脈管早期閉鎖」のリスクがあるため、原則として使用は禁忌です。妊娠中期までであれば比較的安全とされていますが、自己判断での使用は絶対に避けるべきです。

アセトアミノフェンは、多くの研究で妊娠中の使用と胎児の奇形リスクとの間に関連はないとされ、妊婦の発熱・疼痛に対して最も安全に使用できる薬剤の一つと考えられています 。ただし、長期的な使用の影響についてはまだ不明な点もあるため、必要最小限の使用にとどめるべきです。

いずれの対象者においても、市販薬を自己判断で使用する前に、かかりつけ医や薬剤師に相談することの重要性を繰り返し啓発することが、医療従事者の重要な役割と言えるでしょう 。


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