アロプリノールとフェブリクの違い
アロプリノールとフェブリクの作用機序の違い – プリン骨格の有無が鍵
アロプリノール(商品名:ザイロリックなど)とフェブキソスタット(商品名:フェブリク)は、どちらも体内で尿酸が作られるのを抑える「尿酸生成抑制薬」に分類されます 。具体的には、プリン体が分解されて尿酸に変わる最終段階で働く「キサンチンオキシダーゼ(XOD)」という酵素の働きを阻害する薬剤です 。しかし、その阻害メカニズムには明確な違いがあります 。
アロプリノールは、体内で尿酸に変わるヒポキサンチンと非常に似た化学構造(プリン骨格)を持っています 。そのため、本来ヒポキサンチンが結合すべきキサンチンオキシダーゼに、身代わりのように結合して酵素の働きを「競合的」に阻害します 。さらに、アロプリノール自身が代謝されてできるオキシプリノールという物質も、キサンチンオキシダーゼを阻害する作用を持ち、効果が持続します 。
参考)フェブリクの作用機序
一方、フェブキソスタットはプリン骨格を持たない「非プリン型」の阻害薬です 。キサンチンオキシダーゼの酵素活性中心にあるトンネル状の入口を塞ぐように強力に結合し、ヒポキサンチンやキサンチンが酵素にアクセスできなくすることで、その働きを「非競合的」に阻害します 。この構造的な違いから、フェブキソスタットはキサンチンオキシダーゼに対する選択性が高く、他のプリン・ピリミジン代謝酵素に影響を与えにくいとされ、理論上は薬物相互作用が少ないという特徴があります 。
参考)フェブキソスタット(フェブリク)とアロプリノール(ザイロリッ…
以下の表に作用機序の主な違いをまとめます。
| 項目 | アロプリノール(ザイロリック) | フェブキソスタット(フェブリク) |
|---|---|---|
| 分類 | プリン型キサンチンオキシダーゼ阻害薬 | 非プリン型キサンチンオキシダーゼ阻害薬 |
| 作用機序 | 競合的阻害 | 非競合的阻害 |
| 特徴 | 代謝物(オキシプリノール)も阻害活性を持つ | 酵素への選択性が高い |
アロプリノールの副作用と腎機能低下時の注意点 – フェブリクとの比較
医薬品を選択する上で、有効性だけでなく安全性、特に副作用と代謝・排泄経路の理解は不可欠です 。アロプリノールとフェブキソスタットは、この点においても重要な違いがあります 。
アロプリノールの最も注意すべき重篤な副作用は、中毒性表皮壊死融解症(TEN)やスティーヴンス・ジョンソン症候群(SJS)といった重症薬疹です 。発症頻度は稀ですが、生命を脅かす可能性があり、特にHLA-B*5801という遺伝子を持つ患者でリスクが高いことが知られています 。そのため、特にアジア人では投与初期に皮疹などの過敏症状に注意が必要です。
参考)尿酸値を下げる薬に副作用はある? ~7種類の薬の副作用をそれ…
また、アロプリノールとその活性代謝物オキシプリノールは、主に腎臓から排泄されます 。このため、腎機能が低下している患者(CKD患者)では薬剤が体内に蓄積しやすく、副作用のリスクが高まります 。したがって、腎機能の程度に応じて投与量を減量する必要があります 。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/107/5/107_848/_pdf
一方、フェブキソスタットは主に肝臓でグルクロン酸抱合を受けて代謝され、尿中と糞中にほぼ半々の割合で排泄されます 。このため、軽度から中等度の腎機能障害があっても、投与量の調節は原則として不要であり、腎機能が低下した患者にも使いやすいという大きなメリットがあります 。ただし、フェブキソスタットの副作用として肝機能障害や、頻度は低いものの甲状腺刺激ホルモン(TSH)の上昇が報告されており、定期的なモニタリングが推奨されます 。
参考)全日本民医連
参考情報:腎機能低下時のアロプリノールの投与量調節について
腎機能に応じた用量調節の必要性について、専門家向けに詳しく解説されています。
福岡県薬剤師会 腎機能「障害者」の高尿酸血症へのアロプリノール、フェブキソスタットの投与について
アロプリノールとフェブリクの効果と薬価の違い – どちらが優れている?
治療薬の選択において、尿酸値を目標値まで下げる「効果」と、治療を継続するための「薬価」は、患者の利益に直結する重要な要素です 。
効果の面では、複数の臨床試験において、フェブキソスタットがアロプリノールよりも強力な尿酸降下作用を示すことが報告されています 。例えば、日本国内の臨床試験では、フェブキソスタット40mg/日投与群は、アロプリノール300mg/日投与群と比較して、血清尿酸値を6.0mg/dL以下に達成した患者の割合が有意に高かったというデータがあります 。
参考)https://www.ach.or.jp/partnership/doc/xanthine-oxidase-inhibitors-formulary.pdf
- 血清尿酸値6.0mg/dL以下達成率(16週後)
- フェブキソスタット群:90.0%
- アロプリノール群:73.7%
このように、既存のアロプリノール治療で目標値に達しない場合や、より確実な尿酸コントロールが求められる場合に、フェブキソスタットへの変更が考慮されます 。
次に薬価ですが、かつては先発品しかないフェブリクは、ジェネリック医薬品が普及しているアロプリノールに比べて高価でした 。しかし、2022年6月にフェブキソスタットのジェネリック医薬品が登場したことにより、状況は変わりました 。現在では、維持量で比較した場合、フェブキソスタットのジェネリックがアロプリノールのジェネリックよりも薬価が安くなるケースも出てきています 。さらに、フェブキソスタットには口腔内崩壊錠(OD錠)もあり、嚥下機能が低下した患者にも配慮されています 。参考)https://www.shobara.jrc.or.jp/wpcms/wp-content/uploads/2025/04/5b85565ac1459cf7dc0fc8f7b05eeb68.pdf
アロプリノールとフェブリクの心血管イベントへの影響 – CARES試験の衝撃と最新知見
高尿酸血症・痛風患者は心血管疾患のリスクが高いことが知られており、尿酸降下薬が心血管イベントに与える影響は長年議論されてきました 。特に、フェブキソスタットの心血管安全性については、大きな注目を集めた経緯があります 。
そのきっかけとなったのが、2018年に発表された「CARES試験」です 。この試験は、心血管疾患の既往がある痛風患者を対象に、フェブキソスタットとアロプリノールの安全性を比較した大規模臨床試験でした。その結果、心筋梗塞や脳卒中などの複合心血管イベントの発生率に両群で差はなかったものの、副次評価項目であった「心血管死」および「全死亡」のリスクが、フェブキソスタット群でアロプリノール群よりも有意に高かったのです 。この結果は医療現場に衝撃を与え、一時期フェブキソスタットの処方を躊躇する動きもみられました。参考)痛風患者に対するフェブキソスタットとアロプリノールの心血管安…
論文はこちらで確認できます。
Cardiovascular Safety of Febuxostat or Allopurinol in Patients with Gout (NEJM)
しかし、この結果を覆す新たなエビデンスが2020年に報告されました。それが「FAST試験」です 。CARES試験と同様に心血管リスク因子を持つ痛風患者を対象にヨーロッパで行われたこの試験では、フェブキソスタットはアロプリノールに対し、複合心血管イベントの発生において「非劣性」であることが示されました 。つまり、心血管安全性において劣ってはいない、という結論です。さらに、CARES試験で問題となった心血管死や全死亡のリスク増加も認められませんでした 。参考)心血管リスク患者へのフェブキソスタット、アロプリノールに非劣…
なぜ異なる結果になったのか、人種差(CARES試験は北米中心、FAST試験は欧州中心)や対象患者の背景の違いなどが考察されていますが、FAST試験の結果は、フェブキソスタットの心血管安全性に対する懸念を大きく払拭するものとなりました 。現在では、心血管リスクを持つ患者に対しても、個々の病態に応じてフェブキソスタットを適切に選択することが可能であると考えられています 。参考)高尿酸血症の治療薬の選び方|平塚市の一般内科・循環器内科・心…
アロプリノールからフェブリクへ変更する理由と注意点
長年、高尿酸血症治療の第一選択薬として使われてきたアロプリノールですが、近年フェブキソスタットへ処方が変更されるケースが増えています 。その背景には、いくつかの明確な理由があります 。
主な変更理由は以下の通りです。- 尿酸値のコントロール不良:アロプリノールを適切な用量まで増量しても、目標の尿酸値(通常6.0mg/dL以下)を達成できない場合です。前述の通り、フェブキソスタットはより強力な尿酸降下作用が期待できるため、切り替えの有力な選択肢となります 。
- 腎機能の低下:加齢や併存疾患により腎機能が低下してきた場合、腎排泄性のアロプリノールでは副作用のリスクが高まるため、肝代謝・腎排泄のバランスが取れているフェブキソスタットへの変更が推奨されます 。
- 副作用の発現:アロプリノールによる皮疹やかゆみなどの過敏症状が出現した場合、重症化を避けるために中止し、作用機序の異なるフェブキソスタットへ変更します 。
- 服薬アドヒアランスの向上:アロプリノールは1日2~3回に分けて服用するのが基本ですが、フェブキソスタットは1日1回の服用で済むため、飲み忘れを防ぎ、治療継続率の向上が期待できます 。
一方で、変更する際には注意点もあります。アロプリノールからフェブキソスタットへ切り替える際、通常フェブキソスタットは10mg/日から開始しますが、尿酸値の急激な変動を避けるために、アロプリノールの用量や患者の状態を考慮して切り替え方法を検討する必要があります 。急激な尿酸値の低下は、かえって痛風発作(尿酸塩結晶が関節に沈着することによる急性関節炎)を誘発する可能性があるため、コルヒチンなどの予防薬を併用しながら慎重に移行することが重要です。

【第2類医薬品】アロパノールメディカル錠 36錠