アドエアとシムビコートの違い
アドエアとシムビコートの作用機序と成分の違い【効果発現時間】
アドエアとシムビコートは、どちらも喘息およびCOPD(慢性閉塞性肺疾患)治療の基本となる「吸入ステロイド薬(ICS)」と「長時間作用性β2刺激薬(LABA)」の配合剤です 。気道の炎症を抑えるICSと、気管支を拡張するLABAを同時に吸入することで、相乗効果を発揮し、強力な喘息コントロールを目指します 。
これらの薬剤の根本的な作用機序は似ていますが、配合されている成分が異なります。この成分の違いが、両者の臨床における使い方を大きく左右するのです 。
【アドエアとシムビコートの配合成分】
- アドエア
- ICS: フルチカゾンプロピオン酸エステル
- LABA: サルメテロールキシナホ酸塩
- シムビコート
最も重要な違いは、LABAの作用発現時間です。シムビコートに含まれるホルモテロールは、吸入後数分で効果が現れる即効性を持ちます 。一方、アドエアに含まれるサルメテロールは、効果発現まで少し時間がかかります 。この「即効性」の有無が、後述するSMART療法という画期的な治療法をシムビコートでのみ可能にしているのです 。
アドエアとシムビコートのデバイス(吸入器)と使い方・吸入回数の違い
吸入薬において、薬剤そのものの効果と同様に重要なのが、薬剤を肺に送達するための「デバイス(吸入器)」です。アドエアとシムビコートでは、提供されているデバイスの種類が異なります 。
【デバイスの種類】
- アドエア: ディスカス(DPI)、エアゾール(pMDI)の2種類から選択可能
- シムビコート: タービュヘイラー(DPI)の1種類のみ
DPI(ドライパウダー吸入器)とpMDI(加圧式定量噴霧吸入器)では、吸入方法が大きく異なります。患者さんの吸入力や手技の習熟度によって、適切なデバイスを選択することが治療効果を最大化する鍵となります 。
表:DPIとpMDIの比較 デバイスタイプ 代表例 吸入方法 長所 短所 DPI (ドライパウダー) アドエア・ディスカス
シムビコート・タービュヘイラー自分の力で「強く」「速く」吸い込む 噴霧剤(ガス)の匂いや刺激が少ない
同調が不要吸う力が弱いと十分な量を吸入できないことがある pMDI (エアゾール) アドエア・エアゾール 噴射のタイミングに合わせて「ゆっくり」「深く」吸い込む(同調が必要) 吸う力が弱くても薬剤が肺に届きやすい 噴射と吸入の同調が難しい場合がある(スペーサー使用で解決可) 吸う力が弱い小児や高齢者、あるいは喘息発作が重度で十分に息を吸えない患者さんにとっては、pMDIタイプのデバイスを持つアドエア・エアゾールが良い選択肢となることがあります 。吸入補助具であるスペーサーを用いれば、噴射と吸気のタイミングを合わせる「同調」の問題も解決できます 。
アドエアとシムビコートの適応疾患とSMART療法の可否
アドエアとシムビコートは、どちらも気管支喘息とCOPDの長期管理薬として承認されています。しかし、その使い方には決定的な違いがあります。それが「SMART(Symbicort Maintenance And Reliever Therapy)療法」の可否です 。
SMART療法とは、シムビコートを「定期吸入(コントローラー)」として毎日使用するのに加え、喘息発作が起きた際の「発作治療薬(リリーバー)」としても使用する治療法です 。これは、シムビコートに含まれるLABA「ホルモテロール」が即効性を持つために可能となる、シムビコート独自の用法です 。
【SMART療法のメリット】
- simplicity 1本の吸入器で普段の管理と発作時の対応ができるため、患者さんの混乱が少なく、アドヒアランス向上が期待できる 。
- 早期介入 発作時にLABAによる気管支拡張効果だけでなく、ICSによる抗炎症効果も得られるため、増悪への進展を効果的に抑制できる 。研究によれば、SABA(短時間作用性β2刺激薬)単独のリリーバー使用と比較して、重症増悪のリスクを低減させることが示されています。
- 自己管理の促進 患者自身が症状の変化に応じて吸入回数を調整することで、喘息コントロールへの意識が高まる 。
風邪をひいた、天候が悪いなど、喘息が悪化しやすい状況で一時的に吸入回数を増やすといった柔軟な対応が可能です 。ただし、1日の合計吸入回数には上限があるため(通常は合計8吸入まで)、患者への適切な指導が不可欠です 。一方、アドエアにはこのSMART療法は認められておらず、発作時には別途SABAなどのリリーバーが必要になります 。
SMART療法に関する詳細は、以下の専門情報サイトで確認できます。
萩野原メディカル・コミュニティ 大地: スマート療法とはアドエアとシムビコートの副作用と薬価の比較
どちらの薬剤もICSとLABAの配合剤であるため、副作用には共通点が多く見られます。最も頻度が高いのは、ICSによる局所的な副作用です 。
【主な副作用】
- 嗄声(させい): いわゆる「声がれ」。吸入ステロイドの粒子が声帯に付着し、炎症を起こすことが原因です。特にアドエアは粒子径が比較的大きいとされ、嗄声の頻度が高い傾向にあるという報告もあります 。
- 口腔カンジダ症: 口の中にカンジダ菌が異常増殖し、白い苔のようなものが出現します 。
これらの局所的副作用は、吸入後にしっかりと「うがい」をすることで、そのリスクを大幅に軽減できます。患者指導の際には、必ずうがいの重要性を伝えましょう。
また、LABAによる全身性の副作用として、動悸、手の震え(振戦)、筋痙攣などが報告されています 。
意外な違いとして、「味」に関する報告があります。シムビコートは苦味などをほとんど感じないため、薬剤の味が苦手な患者さんでも継続しやすいという利点があります 。
【薬価の比較(2025年11月時点・3割負担の例)】
薬価は薬剤選択における重要な要素の一つです。以下に代表的な規格の薬価を示します。ジェネリック医薬品も登場しており、患者さんの経済的負担を軽減する選択肢も増えています 。
薬剤 規格 1か月あたりの薬価(3割負担) アドエア 250ディスカス60吸入用 約1,087円 シムビコート タービュヘイラー60吸入 約2,860円 ブデホル(シムビコートGE) 吸入粉末剤60吸入 約1,365円~1,600円 ※上記薬価はあくまで目安です。正確な情報は最新の添付文書や薬価基準をご確認ください。
アドエア・シムビコートの副作用や薬価に関するより詳細な情報は、以下の医療機関サイトが参考になります。
東京呼吸器内科クリニック: 喘息やCOPD治療で使われる「シムビコート」の特徴や副作用、薬価について【独自視点】アドエアとシムビコートの患者背景に応じた使い分け
アドエアとシムビコート、どちらが優れているということではなく、それぞれの特徴を理解し、患者さん一人ひとりの背景に合わせてテーラーメイドで処方を選択することが理想的です。非専門医は説明のしやすさや処方のし慣れでデバイスを選びがちですが、一歩踏み込んだ選択が患者の予後を大きく改善する可能性があります 。
- 吸入力が弱い・手技に不安がある患者さん(小児・高齢者)
DPIの吸入に必要な「強く、速い」吸気が難しい場合、アドエアのpMDI(エアゾール)が非常に有用です 。特にスペーサーを併用することで、吸気との同調が不要になり、薬剤を効率的に肺の奥まで届けることができます。介助者による吸入補助が必要な場合も、pMDIは操作が比較的容易です 。
- アドヒアランスが懸念される・シンプルな治療を望む患者さん
複数の吸入器(長期管理薬と発作治療薬)を使い分けることに困難を感じる患者さんには、1剤で完結するシムビコートのSMART療法が最適です 。治療法がシンプルなほど、自己判断での中断や吸入忘れを防ぎやすくなります。
- ライフスタイルが不規則・増悪リスクが高い患者さん
仕事の都合で生活が不規則であったり、風邪や天候の変化で発作を起こしやすかったりする患者さんには、症状に応じて柔軟に投与量を調整できるSMART療法が有効です 。発作の兆候を感じた時にすぐ追加吸入することで、重症化を防ぐことができます。
- 吸入手技が自己流になっている患者さん
長期間同じ吸入薬を使用していても、手技が不適切で効果が十分に得られていないケースは少なくありません 。ある研究では、薬剤や用量を変更せず、吸入指導(例:「ホー」と息を吐き切ってから吸入する「ホー吸入」)を徹底しただけで、症状が劇的に改善した例も報告されています 。デバイスの選択だけでなく、定期的な手技の確認と再指導が極めて重要です。「吸入ステロイド薬の使い分け」新実 彰男(アレルギー, 2016)
結論として、アドエアとシムビコートは、どちらも優れた喘息・COPD治療薬ですが、その特性は異なります。デバイスの選択肢の広さとpMDIの存在が強みのアドエアか、SMART療法による柔軟でシンプルな治療体系が魅力のシムビコートか。患者さんの年齢、吸入力、認知機能、ライフスタイル、そしてアドヒアランスを総合的に評価し、最適な一剤を選択することが、医療従事者に求められる重要な役割と言えるでしょう。
吸入デバイスの選択に関する専門的な考察は、以下の文献で詳しく述べられています。
吸入薬の継続使用患者における吸入指導承諾の実態と吸入手技(日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌, 2025)
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