ソルメドロールとプレドニンの換算:計算、力価、注射から内服への切り替え

ソルメドロールとプレドニンの換算

この記事でわかる!ソルメドロールとプレドニンの換算
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力価と計算方法

ソルメドロールとプレドニンの力価の違い(5:4の法則)と、具体的な換算計算例を解説します。

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注射↔内服の切り替え

ソルメドロール注射薬からプレドニン内服薬へ、またその逆の切り替え時の投与量調節のポイントと注意点を説明します。

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副作用と臨床での使い分け

鉱質コルチコイド作用の違いに着目し、それぞれの副作用プロファイルと臨床現場での適切な使い分け方を提案します。

ソルメドロールとプレドニンの力価の違いと基本的な換算計算

ステロイドの力価換算は、臨床現場において極めて重要です。特に、メチルプレドニゾロン(ソルメドロール®)とプレドニゾロン(プレドニン®)の換算は頻繁に行われます。これらの薬剤の抗炎症作用(糖質コルチコイド作用)の力価には違いがあり、これを理解せずに同量で切り替えてしまうと、治療効果が不足したり、逆に副作用が強く出現したりする可能性があります 。

一般的に、力価の比較はプレドニゾロンを基準に行われます。プレドニゾロンの力価を「1」とした場合、メチルプレドニゾロンの力価は「1.25」とされています。これを簡単な整数比で表すと、プレドニゾロン:メチルプレドニゾロン = 4:5 となります 。つまり、プレドニゾロン5mgとメチルプレドニゾロン4mgが、ほぼ同等の抗炎症作用を持つとされています 。

参考)http://hospital.tokuyamaishikai.com/wp-content/uploads/2017/04/f807f6eb5d059a15f4ece960e1b7a10e.pdf

具体的な計算例を見てみましょう。

  • プレドニン20mgをソルメドロールに換算する場合
    20mg (プレドニン) ÷ 5 × 4 = 16mg (ソルメドロール)
  • ソルメドロール40mgをプレドニンに換算する場合
    40mg (ソルメドロール) ÷ 4 × 5 = 50mg (プレドニン)

この基本的な換算式を覚えておくことで、迅速かつ正確な投与量設計が可能になります。

もう一つの重要な違いは、鉱質コルチコイド作用(Na貯留作用)です 。プレドニゾロンの鉱質コルチコイド作用が0.8であるのに対し、メチルプレドニゾロンは0.5とさらに低くなっています 。このため、浮腫や高血圧など、体液貯留が問題となる患者さんには、メチルプレドニゾロンの方が適している場合があります 。

参考)ステロイドの力価換算

ステロイド換算に便利な計算ツールを提供しているサイトもありますので、参考にしてください。

HOKUTO App – ステロイドの力価換算 | 計算

ソルメドロール注射薬とプレドニン内服薬の切り替え時の具体的な換算方法と注意点

注射薬であるソルメドロールと内服薬であるプレドニンの切り替えは、患者さんの状態や治療方針の変更に伴い頻繁に発生します。この切り替えにおいて、投与量をどう設定するかは重要なポイントです。

基本的な考え方:経口薬と注射薬のバイオアベイラビリティ

経口ステロイド剤は消化管からの吸収率が非常に高いため、理論上は注射薬から内服薬への切り替え(またはその逆)に際して、特別な用量調節は不要とされています 。つまり、前述の力価換算(プレドニン5mg ≒ ソルメドロール4mg)を適用すれば、基本的には問題ありません。例えば、ソルメドロール注射薬40mg/日で状態が安定している患者さんを内服に切り替える場合、プレドニン50mg/日に設定するのが標準的です 。

臨床現場での実際と注意点

理論上は同量換算で良いとされていますが、臨床現場では患者さんの状態に応じて微調整が行われることがあります。

  • 消化管吸収の問題:嘔吐や下痢、吸収不全症候群など、経口摂取した薬剤が十分に吸収されない可能性がある場合は、内服薬への切り替えを慎重に判断する必要があります。このようなケースでは、注射薬の継続が望ましい場合があります。
  • パルス療法からの移行:ステロイドパルス療法(ソルメドロール500mg~1000mg/日を3日間など)の終了後、後療法としてプレドニン内服に移行することがあります 。この場合の初期投与量は、原疾患の活動性や患者さんの状態によって大きく異なります。一般的にはプレドニン30mg~60mg程度から開始し、漸減していくことが多いです。
  • 患者のコンプライアンス:注射から内服への切り替えは、患者さんのQOL向上に繋がりますが、服薬を忘れずに継続できるか(コンプライアンス)を確認することも大切です。
  • 急な中止は厳禁:最も重要な注意点として、理由なくステロイド薬を急に中止してはいけません 。長期間ステロイドを投与されている患者さんの体内では、副腎からのステロイドホルモン産生が抑制されています(副腎不全)。急に薬剤を中断すると、倦怠感、吐き気、頭痛、血圧低下といった危険な離脱症状が出現する可能性があります 。

以下の資料は、注射薬と内服薬の換算について参考になります。

徳山医師会病院 – 医薬品情報・安全対策情報

ソルメドロールとプレドニンの副作用プロファイル比較と臨床での使い分け

ソルメドロール(メチルプレドニゾロン)とプレドニン(プレドニゾロン)は、力価だけでなく副作用のプロファイルにも違いがあり、これが臨床での使い分けの一因となっています。副作用を理解し、患者さんごとに最適な薬剤を選択することが求められます。

副作用の比較表

| 副作用の種類 | プレドニン (プレドニゾロン) | ソルメドロール (メチルプレドニゾロン) | 解説 |

| :— | :— | :— | :— |

| 鉱質コルチコイド作用 | 比較的あり (0.8) | 少ない (0.5) | 浮腫、高血圧、低カリウム血症のリスクはプレドニンの方が高い。心不全や腎不全の患者にはソルメドロールが望ましいことがある 。 |

| 精神症状 | あり | あり | 不眠、多幸感、うつ状態、せん妄などがどちらの薬剤でも起こりうる。特に高齢者や高用量投与時に注意が必要 。 |

| 消化性潰瘍 | あり | あり | 胃酸分泌を促進し、胃粘膜の防御機能を低下させるため、胃潰瘍や十二指腸潰瘍のリスクが増加する。H2ブロッカーやPPIの併用が考慮される 。 |

| 糖尿病 | あり | あり | 糖新生を促進し、インスリン抵抗性を増大させるため、血糖値が上昇する。糖尿病患者やその家族歴がある場合は特に注意が必要 。 |

| 感染症 | あり | あり | 免疫機能を抑制するため、日和見感染症を含む様々な感染症にかかりやすくなる(易感染性)。プレドニン換算20mg/日以上でリスクは2倍以上になるとされる 。 |

| 骨粗鬆症 | あり | あり | 長期投与により骨吸収を促進し、骨形成を抑制するため、骨密度が低下する。骨折のリスクが高まるため、定期的な骨密度測定や予防薬の投与が重要。 |

| 筋力低下(ミオパチー) | あり | 比較的起こりやすいとされる | 特に長時間作用型のステロイドで注意が必要だが、メチルプレドニゾロンでも報告がある 。 |

臨床での使い分けのポイント 💡

  • 循環器系への配慮が必要な場合:心不全、腎不全、高血圧などで体液貯留を避けたい場合は、鉱質コルチコイド作用の弱いソルメドロールが選択されやすいです 。
  • 長期的な内服治療の場合:プレドニンは最も汎用されている経口ステロイドであり、多くの疾患でエビデンスが蓄積されています 。投与量の調整が容易なため、外来での長期管理に適しています。
  • パルス療法などの大量療法:短期間に大量投与を行う場合は、注射薬であるソルメドロールが用いられます 。

人によってはプレドニンで効果が不十分でも、同力価のソルメドロールに変更すると効果が見られることがあるなど、個人差も考慮に入れる必要があります 。

【独自視点】ソルメドロールの腎機能・肝機能障害を持つ患者への投与量調整

ステロイド治療において、腎機能や肝機能が低下している患者への投与は、薬剤の代謝や排泄の遅延による副作用増強のリスクをはらんでおり、特に慎重な判断が求められます。ソルメドロール(メチルプレドニゾロン)も例外ではありません。

肝機能障害患者への投与

ソルメドロールは主に肝臓で代謝されます。そのため、重篤な肝機能障害のある患者では、メチルプレドニゾロンの血中濃度が上昇し、作用が遷延する可能性があります。

  • 脂肪肝:ステロイドの副作用として脂肪肝が報告されています 。既存の肝機能障害がある場合、これを増悪させるリスクを考慮する必要があります。
  • B型肝炎ウイルスの再活性化:ステロイド投与により免疫が抑制され、B型肝炎ウイルスキャリアの患者でウイルスが再活性化し、重篤な肝炎を引き起こすことがあります 。投与前には必ずB型肝炎ウイルスマーカーを確認し、リスクのある患者では予防的に抗ウイルス薬の投与を検討する必要があります。投与中・投与後も定期的な肝機能検査が不可欠です 。
  • 腫瘍崩壊症候群:リンパ系腫瘍を持つ患者に大量のステロイドを投与した場合、腫瘍細胞が急速に破壊されることで高尿酸血症、高カリウム血症、高リン酸血症などをきたす腫瘍崩壊症候群が報告されており、急性腎不全につながる可能性があります 。

肝機能障害があるからといって一律に禁忌ではありませんが、通常よりも少ない量から開始し、患者の状態や臨床検査値を注意深くモニタリングしながら漸増することが原則となります。

腎機能障害患者への投与

ソルメドロールは、腎臓移植における拒絶反応の抑制や、ネフローゼ症候群の治療にも用いられる薬剤です 。

  • 用量調節の必要性:ソルメドロールの代謝物は主に尿中に排泄されますが、腎機能障害がある患者に対して、添付文書上では明確な用量調節の基準は示されていません。しかし、副作用である浮腫や電解質異常(低カリウム血症など)が問題となりやすいため、特に注意が必要です 。
  • 急性脊髄損傷への応用:受傷後8時間以内の急性脊髄損傷患者に対し、神経機能障害の改善を目的として大量療法(メチルプレドニゾロンとして30mg/kg)が行われることがあります 。この治療法(NASCIS II)は議論のあるところですが、適応を慎重に判断した上で実施されます。

腎機能障害、肝機能障害を持つ患者へのソルメドロール投与は、原疾患や全身状態、副作用のリスクを総合的に評価し、個別に対応する必要があります。

参考情報として、医薬品の添付文書データベースで詳細な情報を確認することをお勧めします。

KEGG 医療用医薬品情報: ソル・メドロール

他のステロイド(デキサメタゾン・ヒドロコルチゾン)を含めた換算表一覧と臨床応用

ソルメドロールとプレドニン以外のステロイドも臨床では頻繁に使用されます。デキサメタゾン(デカドロン®)やヒドロコルチゾン(ソル・コーテフ®)など、代表的な薬剤との力価関係を把握しておくことは、適切な薬剤選択と治療のために不可欠です。

以下に、プレドニゾロン5mgを基準とした場合の各ステロイドの等価用量(同等の抗炎症作用を持つ量)、作用時間、鉱質コルチコイド作用の比較表を示します 。

参考)https://www.gifu-upharm.jp/di/dinews/oshirase2024_42.pdf

主要ステロイド換算表

| 一般名 | 代表的な商品名 | 等価用量 (mg) | 抗炎症作用 (力価比) | 鉱質作用 (力価比) | 生物学的半減期 (作用時間) |

| :— | :— | :— | :— | :— | :— |

| ヒドロコルチゾン | ソル・コーテフ | 20 | 1 | 1 | 短時間型 (8-12h) |

| プレドニゾロン | プレドニン | 5 | 4 | 0.8 | 中間型 (12-36h) |

| メチルプレドニゾロン | ソルメドロール | 4 | 5 | 0.5 | 中間型 (12-36h) |

| トリアムシノロン | レダコート | 4 | 5 | 0 | 中間型 (12-36h) |

| デキサメタゾン | デカドロン | 0.75 | 25 | 0 | 長時間型 (36-72h) |

| ベタメタゾン | リンデロン | 0.6 | 25-30 | 0 | 長時間型 (36-72h) |

各ステロイドの臨床応用のポイント

  • ヒドロコルチゾン (ソル・コーテフ®) 💧

    生理的なステロイドホルモンに最も近く、鉱質コルチコイド作用も有するため、急性副腎不全(アジソンクリーゼ)などの補充療法に第一選択として用いられます 。作用時間が短く、ショック時の初期治療にも使用されます。

  • デキサメタゾン (デカドロン®) / ベタメタゾン (リンデロン®)

    非常に強力な抗炎症作用を持ち、鉱質コルチコイド作用はほとんどありません。脳浮腫の軽減や、強力な免疫抑制が必要な場合、COVID-19による重症肺炎の治療(デキサメタゾン)、アレルギー疾患などに用いられます。作用時間が長いため、副腎機能の抑制が強く、隔日投与には向きません 。

  • トリアムシノロン (レダコート®) 💪

    鉱質コルチコイド作用がほぼ無いのが特徴です。食欲増進作用が少ないため、体重増加を避けたい患者に選択されることがありますが、筋力低下(ステロイドミオパチー)を起こしやすいという特徴もあります 。

これらのステロイドは、それぞれに特徴があります。治療対象の疾患、患者さんの背景(合併症、年齢など)、期待する作用と避けたい副作用を天秤にかけ、最適な薬剤を選択することが、ステロイド治療を成功に導く鍵となります。

以下の論文では、ステロイドの選び方や使い方について詳しく解説されています。

川合眞一. (2009). 2.ステロイド内服薬の選び方・使い方. 日本内科学会雑誌, 98(10), 2773-2779.