部屋が寒いと眠くなる理由
部屋が寒いと眠くなるのはなぜ?深部体温の低下が鍵
部屋が寒いと感じるときに眠気が訪れる主な理由の一つは、私たちの体の「深部体温」の変化にあります 。深部体温とは、脳や内臓など、体の中心部の温度のことです 。人間は、この深部体温が下がることで自然な眠気を感じ、質の高い睡眠に入ることができるようにプログラムされています 。
具体的には、体は眠りに入る準備として、手足などの末端の血管を広げて熱を放出し、深部体温を効率的に下げようとします 。赤ちゃんが眠くなると手足が温かくなるのは、まさにこの現象です 。
参考)温度、湿度と睡眠
しかし、部屋が寒すぎると、体は逆に体温を維持しようとして末端の血管を収縮させてしまいます 。これにより、熱の放出がうまくいかなくなり、寝つきが悪くなることがあります 。一方で、長時間寒い環境にいると、体は生命維持のためにエネルギー消費を抑えようと活動レベルを低下させます。この省エネモードへの移行が、結果として眠気につながることがあるのです 。
つまり、「寒いから眠くなる」という感覚は、体が体温を下げて休息モードに入ろうとする生理的な反応と、寒さから身を守るための防御反応が複雑に絡み合った結果と言えるでしょう。快適な睡眠のためには、室温が20~25℃の範囲にあるのが最も効率的であるという研究結果もあります 。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10529213/
以下の参考リンクでは、睡眠と体温調節のより詳細なメカニズムが解説されています。
温度、湿度と睡眠 | NCNP病院 国立精神・神経医療研究センター
部屋が寒いときの自律神経の乱れと眠気の意外な関係
寒い環境が眠気を引き起こすもう一つの重要な要因は、自律神経の働きにあります 。自律神経には、体を活動的にする「交感神経」と、リラックスさせる「副交感神経」の2種類があり、これらがバランスを取りながら体の機能を調節しています 。
通常、日中は交感神経が優位に働き、夜になると副交感神経が優位に切り替わることで、心身がリラックスし、自然な眠りへと誘われます 。しかし、急激な寒暖差にさらされると、この自律神経のバランスが乱れやすくなります 。
参考)急に寒くなって“寒暖差疲労”に注意 疲労感・だるさ・眠気 大…
寒い環境では、体は体温を維持するために交感神経を活発化させ、血管を収縮させて熱が逃げるのを防ぎます 。しかし、この状態が長く続くと、体はエネルギーを過剰に消費し、「寒暖差疲労」と呼ばれる状態に陥ることがあります 。この疲労感が、日中のだるさや強い眠気の原因となるのです。
参考)夏のだるさ・眠気・不調は「寒暖差疲労」かも?自律神経の乱れを…
また、暖房の効いた暖かい部屋から寒い廊下に出るなど、急な温度変化も自律神経に大きな負担をかけます。体は頻繁に体温調節を行おうとエネルギーを消耗し、結果として疲労が蓄積し、眠気を感じやすくなるのです 。
参考)お知らせ・ブログ|冷え込む季節、なぜ眠くなる?|ちくさ病院の…
このように、寒い環境は単に体を冷やすだけでなく、自律神経のバランスを乱すことで、間接的に強い眠気を引き起こす原因となっています。
部屋が寒いと感じる冬の眠気と日照時間の深いかかわり
冬になると特に眠気を感じやすいのは、寒さだけでなく「日照時間の短さ」も大きく関係しています 。太陽の光を浴びることは、私たちの体内時計をリセットし、心身の覚醒を促すために非常に重要です。
日光を浴びると、脳内では「セロトニン」という神経伝達物質が生成されます 。セロトニンは「幸せホルモン」とも呼ばれ、精神を安定させ、覚醒レベルを高める働きがあります 。しかし、日照時間が短くなる冬は、セロトニンの分泌量が減少しがちです 。
参考)季節対策:冬は眠くなりやすい?|就労移行支援事業所ディーキャ…
セロトニンが不足すると、脳の機能が低下し、日中に眠気を感じたり、気分が落ち込みやすくなったりします 。さらに、セロトニンは夜になると「メラトニン」という睡眠ホルモンの原料になります 。日中のセロトニン分泌が少ないと、夜のメラトニン分泌のタイミングが乱れ、体内時計が狂ってしまうことがあるのです 。この体内時計の乱れが、日中の予期せぬ眠気につながります。
このような状態が深刻化すると、「冬季うつ(季節性情動障害)」と呼ばれる状態になることもあります 。冬季うつは、秋から冬にかけて気分の落ち込みや過眠、過食などの症状が現れるのが特徴です 。もし、冬の間に特に強い眠気や気分の落ち込みが続く場合は、専門医に相談することをお勧めします。
参考)「寒いと眠くなる」原因・対処法はご存知ですか?医師が徹底解説…
日照時間とセロトニンの関係については、以下のリンクで詳しく解説されています。
季節対策:冬は眠くなりやすい? – 就労移行支援ディーキャリア
部屋が寒いと眠くなるのは病気のサイン?考えられる原因と対処法
多くの人にとって、寒い部屋での眠気は生理的な反応ですが、場合によっては何らかの病気が隠れているサインである可能性も考えられます。特に、異常な眠気が続く場合は注意が必要です。
考えられる病気の一つに「甲状腺機能低下症」があります 。甲状腺ホルモンは体の新陳代謝を活発にする働きがありますが、このホルモンの分泌が低下すると、代謝が悪くなり、体が熱を産生しにくくなります。その結果、強い冷えと共に、無気力感や強い眠気、だるさなどの症状が現れることがあります。
また、前述した「冬季うつ(季節性情動障害)」も過眠を主な症状とすることがあります 。これは単なる冬の眠気とは異なり、気分の落ち込みや意欲の低下を伴う病気です 。
その他にも、睡眠中に呼吸が止まる「睡眠時無呼吸症候群」や、日中に突然強い眠気に襲われる「ナルコレプシー」なども、日中の過度な眠気を引き起こす原因となります 。これらの病気は、睡眠の質を著しく低下させ、日中の活動に深刻な影響を及ぼします。
| 病名 | 主な症状 |
|---|---|
| 甲状腺機能低下症 | 強い冷え、むくみ、体重増加、無気力、強い眠気 |
| 冬季うつ(季節性情動障害) | 過眠、過食(特に炭水化物を好む)、気分の落ち込み、意欲低下 |
| 睡眠時無呼吸症候群 | いびき、睡眠中の無呼吸、日中の強い眠気、起床時の頭痛 |
| ナルコレプシー | 日中の突然で抵抗しがたい眠気、情動脱力発作(笑ったり驚いたりすると体の力が抜ける) |
もし、寒さ対策をしても改善しない異常な眠気が続く場合は、自己判断せずに医療機関を受診し、適切な診断を受けることが重要です。
部屋が寒い時の眠気は進化のなごり?褐色脂肪細胞の働きと省エネモード
寒い環境で眠くなる現象には、私たちの祖先から受け継がれた「生き残るための戦略」が関係しているかもしれません。その鍵を握るのが「褐色脂肪細胞」です 。
私たちの体には2種類の脂肪細胞があります。エネルギーを中性脂肪として蓄える「白色脂肪細胞」と、脂肪を燃焼させて熱を産生する「褐色脂肪細胞」です 。褐色脂肪細胞は、いわば体に備わった「天然のカイロ」のようなもので、特に新生児に多く存在し、寒冷環境で体温を維持する重要な役割を担っています 。
参考)(2020年5月発行)褐色脂肪組織機能と食品成分による機能制…
成人になると褐色脂肪細胞は減少しますが、首の周りや肩甲骨のあたりなどに存在し、寒冷刺激によって活性化されることが分かっています 。寒い環境にいると、褐色脂肪細胞が活性化して脂肪を燃やし、体温を上げようとします。
しかし、この熱産生には多くのエネルギーが必要です 。食料が乏しかった時代、無駄なエネルギー消費は生命の危機に直結しました。そのため、体はエネルギー消費を最小限に抑えるために、活動レベルを落とし、代謝を低下させる「省エネモード」に切り替える機能を発達させたと推測されます。この省エネモードへの移行が、眠気という形で現れるのではないか、という説です。
つまり、寒い部屋で眠くなるのは、「今は活動せず、エネルギーを温存して体温維持に集中せよ」という、体に刻まれた古代からの命令なのかもしれません。この視点から見ると、冬の眠気は単なる不快な症状ではなく、厳しい環境を生き抜くための巧妙な適応戦略の名残と捉えることもできます。
褐色脂肪細胞の機能については、以下の資料で詳しく解説されています。
(2020年5月発行)褐色脂肪組織機能と食品成分による機能制御

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