サルコイドーシス診断基準と診断群の臨床判断
サルコイドーシスの診断基準における組織診断群の位置付け
サルコイドーシスの診断は大きく「組織診断群」と「臨床診断群」の2つのカテゴリーに分類されます。組織診断群は最も確実な診断経路であり、全身のいずれかの臓器で壊死を伴わない非乾酪性類上皮細胞肉芽腫が陽性であることが前提条件となります。この肉芽腫の確認は皮膚、肺、リンパ節、心臓、神経、眼など任意の臓器から得られた生検組織で行われます。重要な点は、単に肉芽腫を確認するだけでなく、既知の原因による肉芽腫(結核菌由来、真菌感染由来など)や局所的なサルコイド反応を確実に除外することが診断確定に不可欠であるということです。
組織診断群に分類されるためには、肉芽腫の確認に加えて、以下のいずれかの所見を満たす必要があります。第一に、他の臓器に同様の非乾酪性類上皮細胞肉芽腫が認められること、第二に、他の臓器でサルコイドーシスを強く示唆する臨床所見が存在すること、第三に表1に示す5項目の特徴的検査所見のうち2項目以上を認めることです。この多段階的な評価システムにより、診断の確実性が担保されています。
サルコイドーシス診断における臨床診断群の診断流程と評価項目
臨床診断群は組織学的確認が困難な症例で診断される分類です。この場合、類上皮細胞肉芽腫は証明されていませんが、呼吸器・眼・心臓の3臓器のうち2臓器以上においてサルコイドーシスを強く示唆する臨床所見が認められることが必須条件になります。同時に、特徴的検査所見の5項目中2項目以上が陽性であることも診断基準を満たすために必要です。
臨床診断群における呼吸器病変の判断では、両側肺門縦隔リンパ節腫脹(BHL)の有無が重要な指標となります。BHLが認められる場合はそれ単独で呼吸器病変を強く示唆する臨床所見と判断されます。BHLが明らかでない症例では、胸部CT/HRCT画像で気管支血管周囲、小葉間隔壁、胸膜、小葉中心部などのリンパ路に沿った多発粒状陰影が重要な画像診断基準となります。眼病変については、肉芽腫性前部ぶどう膜炎、隅角結節、塊状硝子体混濁、網膜血管周囲炎、脈絡膜肉芽腫など6項目の眼所見のうち2項目以上が認められることで眼病変を強く示唆する臨床所見と判定されます。
サルコイドーシス診断における心臓限局性症例と診断基準の応用
心臓限局性サルコイドーシスは従来の診断基準では対応困難な症例として注目されています。最近の診断基準の改定により、心臓に限定された病変であっても診断可能な枠組みが整備されました。心臓病変を強く示唆する臨床所見は主徴候と副徴候に分類されており、主徴候には高度房室ブロック、心室中隔基部の菲薄化、左室収縮不全、67Gaシンチまたは18F-FDG/PETでの心臓異常集積、ガドリニウム造影MRIでの心筋遅延造影所見が含まれます。
診断では主徴候5項目のうち2項目以上が陽性、または主徴候1項目と副徴候3項目中2項目以上が陽性の場合に心臓病変を強く示唆する臨床所見と判断されます。特に18F-FDG/PETは診断精度が高く、2016年版診断ガイドラインで主徴候に格上げされた経緯があります。心臓限局性症例では全身検査所見も重要で、これらを総合的に評価することで早期診断と予後改善が可能になります。
サルコイドーシス診断における特徴的検査所見の臨床的意義
診断基準に規定される5つの特徴的検査所見は、サルコイドーシスの活動性と多臓器病変の存在を示唆する重要な指標です。血清アンジオテンシン変換酵素(ACE)活性は肉芽腫を構成する類上皮細胞から産生される酵素であり、患者の約40~60%で上昇が認められます。しかし感度と特異度の制限があり、ACE値単独では診断できません。血清リゾチームはマクロファージ由来の酵素であり、ACEと同様にサルコイドーシスの活動性マーカーとして機能します。
血清可溶性インターロイキン-2受容体(sIL-2R)は活性化T細胞から産生されるサイトカイン受容体で、肉芽腫形成における免疫活性化を反映します。気管支肺胞洗浄検査でのCD4/CD8比は肺内のT細胞構成を評価する指標で、比率が3.5を超える上昇はサルコイドーシスに特徴的です。ただし全ての症例で上昇するわけではなく、むしろ正常値や低値を示す症例も存在することが知られています。67Gaシンチグラフィや18F-FDG/PETでの集積所見は肉芽腫の存在と活動性を画像化する手段として、特に多臓器病変の評価に有用です。
サルコイドーシス診断基準における除外診断と鑑別診断の実際
診断基準において除外診断は診断確定と同等の重要性を有しています。除外対象には原因既知の肉芽腫性疾患が含まれ、結核、非結核性抗酸菌症、真菌症などの感染性肉芽腫、悪性リンパ腫、その他のリンパ増殖性疾患が主要な鑑別対象です。ベーチェット病、多発血管炎性肉芽腫症(GPA)、IgG4関連疾患、アミロイドーシスなどの全身性疾患も鑑別が必要です。
臨床現場での鑑別には結核菌検査、真菌検査、異物の有無確認が基本的検査として行われます。PET画像での集積パターンの違い、臨床症状の進展過程、バイオマーカーの組み合わせなどが鑑別の手がかりになります。例えば結核由来の肉芽腫は乾酪性(壊死を伴う)であることが多く、サルコイドーシスの非乾酪性肉芽腫と組織学的に区別できます。ただし一部の症例では臨床診断が困難であり、診断に至らず「疑診」として長期経過観察が必要になる場合もあります。重篤な臓器病変(心臓、神経)が想定される疑診症例では治療的診断として先制的な治療が開始されることもあります。
参考資料。
日本サルコイドーシス/肉芽腫性疾患学会「サルコイドーシスの診断基準2015」
この文書は2015年の難病法施行に伴う改定版で、組織診断群と臨床診断群の詳細な診断基準が記載されており、実臨床での診断判定に必須です。
日本眼科学会「サルコイドーシスの診断基準と診断の手引き―2006」
眼病変を中心とした診断基準の詳細が記載され、特に肉芽腫性ぶどう膜炎の診断基準が眼科臨床で活用されています。
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