ビタミンb1 不足 症状と脚気の対策

ビタミンB1不足と脚気

ビタミンB1不足による主要症状
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初期症状

食欲不振、全身倦怠感、易怒性

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進行時の神経症状

末梢神経障害、手足のしびれ、筋力低下

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心臓症状

動悸、息切れ、心不全、浮腫

ビタミンB1不足による初期症状の特徴

 

ビタミンB1不足の初期段階では、症状が非特異的であり、医療現場での見落としが起きやすい特徴があります。患者は食欲不振、全身の倦怠感、疲労感を訴えることが多く、これらの症状は他の多くの疾患と共通しており、適切な病歴聴取がなければビタミンB1欠乏症と気づかないことがあります。特に現代社会では、清涼飲料水やインスタント食品の多量摂取により糖質が増加し、その分解にビタミンB1が消費されるため、食事からの摂取量が不充分な場合は欠乏に至りやすくなります。

厚生労働省の栄養調査では、日本人の潜在的なビタミンB1不足者が増加傾向を示しており、特に若年層における無理なダイエットや不規則な食生活がリスク因子となっています。初期症状の段階で患者が医療機関を受診した際、医療従事者が病歴から栄養摂取状況を詳しく聴取し、ビタミンB1欠乏を念頭に置くことが重要です。易怒性や記憶力低下といった精神神経症状も初期段階で現れる場合があり、これらは心理的な問題と誤診される可能性があります。

ビタミンB1不足時の末梢神経障害と乾性脚気

ビタミンB1欠乏が進行すると、末梢神経の障害が顕著となり、乾性脚気として臨床的に認識される症状群が現れます。この段階では、対称性の末梢神経障害が特徴的であり、患者は下肢から上肢へと段階的に進行するしびれや知覚鈍麻を訴えます。医療現場では膝蓋腱反射検査が診断補助手段として使用され、反射の低下や消失が確認されることで臨床診断の根拠となります。

ビタミンB1が補酵素として機能するクエン酸回路が障害されると、ATP産生が低下し、高いエネルギー需要を持つ神経細胞が特に影響を受けます。末梢神経症状として、痛覚過敏、深部知覚の鈍麻、および対称性の運動神経障害が観察されます。さらに進行すると、患者は歩行困難や筋力低下を訴え、重症例では寝たきり状態に至ることもあります。医療従事者は、単純な疲労や加齢による症状として見過ごさず、系統的な神経学的検査を実施することが重要です。特に高齢患者やアルコール依存症患者、消化器手術の既往がある患者では、ビタミンB1欠乏のリスクが高いため注意が必要です。

ビタミンB1不足による心臓症状と湿性脚気

ビタミンB1欠乏の心臓系への影響は、高拍出性心不全として現れる湿性脚気の特徴です。この病態では、末梢血管抵抗の低下により静脈還流が増加し、心拍出量が代償的に増加することで相対的な心負荷が生じます。医療現場では、患者が動悸、息切れ、下肢浮腫を訴え、頻脈(心拍数が120回/分以上)が観察されることが多くあります。

ビタミンB1は心筋の酸化代謝に必須の補酵素であり、その欠乏により心筋のエネルギー産生が低下します。通常の左心室中心の収縮力低下ではなく、心拍出量の増加に伴う「高拍出性心不全」という独特な病態が形成されるため、臨床判断を困難にすることがあります。この場合、一般的な心不全治療ではなく、ビタミンB1の迅速な補充が治療の鍵となります。医療従事者は、若年層の急速な心不全症状発症や、通常の心臓疾患の検査結果が予想外に軽微である場合に、ビタミンB1欠乏を鑑別診断に含めることが重要です。特に急性期の症状進行が見られる場合は、脚気衝心(脚気による急性心不全)の可能性も考慮し、直ちにビタミンB1の点滴投与を検討する必要があります。

ビタミンB1不足と中枢神経症状:ウェルニッケ脳症とコルサコフ症候群

ビタミンB1欠乏の神経学的合併症として、ウェルニッケ脳症とコルサコフ症候群は医療現場で特に重要な診断対象です。ウェルニッケ脳症は急性の経過で発症し、眼球運動障害(外眼筋麻痺、複視、眼振)、意識障害、小脳性運動失調の古典的三徴を呈します。しかし、実臨床ではこれら三徴が揃わない不全型が多くみられるため、医療従事者の高い臨床判断力が必要となります。

コルサコフ症候群は慢性経過で発症し、記銘力障害(新しい情報を記憶する能力の低下)、失見当識、作話(記憶の空白を無意識に埋める現象)などの精神兆候が主体となります。これらの症状は単なる認知機能低下と誤診されやすく、神経心理検査によって初めて診断が確定することもあります。医療従事者は、特にアルコール依存症患者や栄養摂取不良患者における急速な意識障害や精神状態の変化を観察した際に、ビタミンB1欠乏による中枢神経症状の可能性を常に念頭に置く必要があります。これらの症状は、適切なビタミンB1補充により改善する可能性があり、早期認識と治療開始が患者の予後を大きく左右します。

ビタミンB1不足における吸収障害と現代社会のリスク要因

ビタミンB1欠乏症は、単なる食事摂取不足だけでなく、消化管からの吸収障害が重要な要因となります。ビタミンB1は十二指腸から空腸上部で吸収される水溶性ビタミンであり、胃切除術や十二指腸手術などの消化器系手術後の患者では、たとえ食事摂取量が正常であってもビタミンB1欠乏症を発症する可能性があります。血液透析中の患者も、透析による物質喪失で毎回のセッションでビタミンB1が喪失されるため、通常より高用量の補充が必要となります。

現代社会における新たなリスク因子として注目されるのが、清涼飲料水やインスタント食品の過剰摂取です。これらの高糖質食品の代謝にはビタミンB1が大量に消費されるため、糖質の摂取量が増加すれば、その分解に必要なビタミンB1の消費も増加します。医療従事者は患者の食生活の詳細を把握し、特に若年層や高齢者、アルコール依存症患者における食生活パターンの変化に注意を払う必要があります。また、アルコール摂取は直接的にビタミンB1の吸収を阻害し、同時にその分解を促進するため、アルコール依存症患者におけるビタミンB1欠乏のリスクは特に高くなります。医療現場では、こうした複合的なリスク因子を評価することが、潜在的なビタミンB1欠乏症の早期発見に不可欠です。

ビタミンB1不足の診断と治療戦略

ビタミンB1不足症の臨床診断方法と検査

医療現場でのビタミンB1欠乏症診断は、確立された単一の検査法が存在しないため、臨床症状と身体診察、および治療反応に基づいて下されることが多くあります。病歴聴取で栄養摂取状況、アルコール摂取、消化器系疾患の有無を詳しく確認し、身体診察では膝蓋腱反射検査、振動覚検査、位置覚検査などの神経学的検査が行われます。眼球運動障害やニスタグムスが認められれば、ウェルニッケ脳症の可能性を強く示唆します。

血液検査によるビタミンB1の直接測定は、技術的困難さと検査施設の限定から、日本国内の一般的な医療機関では実施困難な場合が多いです。代わりに、赤血球中トランスケトラーゼ活性の測定やピロリン酸チアミン測定などの間接的な指標が使用されることもあります。しかし、これらの検査も一般的な医療機関では実施困難であるため、臨床診断と治療的トライアルが実際の診療では重視されます。ビタミンB1補充を開始した後、数日から数週間で症状が改善されるかどうかが診断確認の重要な要素となります。

ビタミンB1不足に対する補充治療と投与方法

ビタミンB1欠乏症の治療は、主にビタミンB1の補充投与によって行われます。吸収障害が存在する場合、経口投与では効果が限定的であるため、肌注射や静脈内点滴による投与が推奨されます。急性症状を呈する場合や、ウェルニッケ脳症が疑われる場合には、即座に注射によるビタミンB1補充が実施される必要があります。典型的には、初期段階では1日あたり50~100mgのビタミンB1を注射投与し、症状改善の経過を観察しながら投与量や投与間隔を調整します。

末梢神経障害が存在する場合、ビタミンB1補充後も神経症状の改善には数週間から数ヶ月を要することがあります。医療従事者は患者にこの事実を説明し、適切な予後期待の設定が重要です。一方、心臓症状は比較的迅速に改善することが多いため、治療効果の判定は症状の種類によって異なることを理解する必要があります。アルコール依存症患者に対しては、ビタミンB1補充と並行して依存症治療を行うことが重要であり、単なるビタミン補充のみでは根本的な改善に至りません。長期的な栄養改善と、場合によっては栄養士による食生活指導が不可欠です。


参考資料。

ビタミンB1の働きと1日の摂取量 | 健康長寿ネット(ビタミンB1の生理的役割と推奨摂取量に関する信頼性の高い情報)
脚気(かっけ)の原因 症状・疾患ナビ | アリナミン(脚気の症状、原因、予防法、治療法についての実践的情報)
脚気(症状・原因・治療など)- ドクターズ・ファイル(医療従事者向けの詳細な臨床情報)

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