パイナップル喉イガイガの正体と対処方法
パイナップル喉イガイガはなぜ起こるのか
パイナップルを食べた際に喉がイガイガする症状は、実は多くの場合がアレルギー反応ではなく、パイナップルに含まれる「ブロメライン」という酵素によるものです。患者から「生のパイナップルを食べると口がイガイガしたり、口の周りが赤くなります」というご相談を頻繁に受けますが、これらの症状のほとんどが食物アレルギーとは異なる化学的刺激によるものです。
ブロメラインはタンパク質分解酵素で、肉や魚などのタンパク質を分解する働きをします。肉料理にパイナップルが添加されると肉が柔らかくなるのは、このブロメラインの作用による代表的な例です。口腔内の粘膜も同様にタンパク質で覆われており、ブロメラインが接触すると粘膜表面のタンパク質が分解され、下層の神経が露出してピリピリやイガイガという刺激感が生じます。
重要な点として、ブロメラインによる作用は個人差が非常に大きく、同じ量のパイナップルを食べても全く症状を感じない人もいれば、強いイガイガ感を感じる人もいます。この差は舌や喉の粘膜の敏感さと、唾液中に含まれるタンパク質の量に左右されます。また、酵素の分解作用は実際には限定的であり、口の中が溶けてしまうような危険な状況は起こりません。
パイナップル喉イガイガに含まれるブロメラインとプロテアーゼ
ブロメラインはプロテアーゼ(タンパク質分解酵素)の一種で、パイナップルに特に多く含まれる酵素です。同様のプロテアーゼはキウイフルーツ(アクティニディンという酵素)やパパイヤ(パパインという酵素)などにも含まれており、これらの南国系フルーツを食べても似たようなイガイガ感や刺激感を経験します。
実は、ほぼすべての果物にプロテアーゼが含まれていますが、含有量は様々です。ごく微量しか含んでいない果物も多く、通常は症状として現れません。南国系フルーツは相対的に高濃度のプロテアーゼを含有しているため、食べた時の刺激を感じやすいのが特徴です。
パイナップルを多量に食べ続けると、時間とともにブロメラインによる分解作用が蓄積されます。最初のうちはそこまで痛くないのは、舌の表面にまだタンパク質のバリアが存在しているからです。食べ続けるにしたがってこのバリアが徐々に分解され、むき出しになった神経が刺激されるため、痛みやイガイガ感が増していく現象が観察されます。
パイナップル喉イガイガと口腔アレルギー症候群の違い
「口腔アレルギー症候群(OAS)」は、特定の果物や野菜を食べた直後から15分以内、または1時間以内に、唇・舌・喉にかゆみ、ピリピリした刺激感、腫れなどが生じるアレルギー反応です。一方、ブロメラインによるイガイガ感は、アレルギー反応ではなく単なる化学的刺激です。
両者の重要な区別点として、口腔アレルギー症候群では唇や顔の腫れ、蕁麻疹、下痢、腹痛、さらには重症例ではアナフィラキシー(呼吸困難、血圧低下)などの全身症状が伴う場合があります。一方、ブロメラインによる刺激では、症状は原則として口腔内と喉に限定され、全身症状は現れません。これが最も簡便で有用な判別方法です。
パイナップルアレルギーの原因物質としては、ブロメラインのほか、プロフィリンというタンパク質が関与することもあります。プロフィリンアレルギーの場合、花粉症やラテックス(天然ゴム)アレルギーをお持ちの方が症状を起こしやすく、交差反応が見られることが知られています。
パイナップル喉イガイガの酸による相乗効果と予防方法
ブロメラインの刺激に加えて、パイナップルに含まれる「酸」も重要な要因です。パイナップルのpHは非常に低く(約3.0~3.9)、強い酸性環境が口腔内粘膜をさらに刺激します。ブロメラインがタンパク質を分解して粘膜を傷つけた上に、酸がその傷を刺激するという相乗効果が、強いイガイガやピリピリ感を生み出すわけです。
このメカニズムを理解することで、パイナップルのイガイガ感を軽減する方法が見えてきます。調理時に加熱することが最も有効です。ブロメラインは熱に弱く、加熱によって酵素活性が失われます。一方、酸は加熱によっては著しく変化しませんが、加熱により果汁の濃度が上がるため、むしろ対策としては生食の際に重要です。
予防方法としては、短時間での大量摂取を避けることが重要です。少量をゆっくり食べる、または加熱調理したパイナップル料理(パイナップルの缶詰は加熱処理により酵素が失活しているため問題ない)を選ぶことが効果的です。また、食後に水でうがいをしたり、牛乳を飲んだりすることで、残存する酵素と酸を洗い流すことができます。牛乳のタンパク質がブロメラインによって分解される際に、舌の粘膜への作用が緩和されるメカニズムも考えられます。
パイナップル喉イガイガで医学的診断が必要なケース
症状だけでブロメラインによる刺激と真の食物アレルギーを区別することは医学的に困難です。アレルギー専門医は、患者の症状、病歴、検査結果を総合的に評価して診断を下します。正式なアレルギー診断には、以下の検査方法があります。
「特異的IgE抗体検査」は血液検査で、パイナップルに含まれるアレルゲンに対する抗体を検出します。ただし、パイナップルアレルギーの場合、一部のアレルゲンが血液検査で検出されにくいことが知られており、検査で陰性でも真のアレルギーが存在する可能性があります。
「プリックテスト」(皮膚テスト)は、パイナップル果汁を皮膚に接触させて赤みが出るか確認する方法ですが、この検査はごく一部のアレルギー専門病院でのみ行われている特殊な検査です。「経口食物負荷試験」では実際に少量のパイナップルを食べさせて症状の出現を観察します。
診断が必要な兆候としては、口周囲の発赤や腫れが強い、症状が長時間続く、唇や顔全体の腫れがある、下痢や腹痛を伴う、呼吸困難やめまいなどの全身症状がある場合です。こうした症状が見られた場合は、自己判断で食べるのをやめるのではなく、医学的評価を受けることを強くお勧めします。これにより、真に制限が必要な食品と、工夫により食べられる食品を正確に判別することが可能になります。
参考資料:アレルギー症状と酵素作用の区別に関する医学知見
参考資料:パイナップル成分と酵素作用のメカニズム