扁桃肥大の症状
扁桃肥大は、のどの奥にある口蓋扁桃やアデノイド(咽頭扁桃)が異常に大きくなった状態を指します。扁桃は口や鼻から侵入する細菌やウイルスをブロックする免疫組織で、特に4~8歳の子どもで働きが活発になり生理的に肥大します。その大きさは第1度(わずかに出ている)、第2度(中間)、第3度(左右が接するほど)の3段階に分類され、肥大の程度によって症状も異なります。
参考)扁桃肥大(症状・原因・治療など)|ドクターズ・ファイル
扁桃肥大による睡眠障害の症状
扁桃が肥大すると気道が狭くなり、睡眠中の呼吸に大きな影響を及ぼします。最も代表的な症状がいびきで、小児の睡眠時無呼吸症候群の80~90%が扁桃肥大によるものと報告されています。睡眠時無呼吸症候群では、睡眠中に何度も呼吸が止まる「無呼吸発作」が起こり、いびきが急に停止して数秒後に再開するパターンを繰り返します。これらの症状により睡眠の質が著しく低下し、日中の強い眠気や集中力の低下が生じる場合があります。子どもでは異常行動、感情の不安定、発育の遅れなども引き起こされることがあります。
小児の睡眠時無呼吸症候群と扁桃肥大の関係を詳しく解説した日本耳鼻咽喉科学会の論文
扁桃肥大による嚥下障害と食事の症状
第2度肥大や第3度肥大になると、肥大した扁桃が物理的に喉を塞ぐため、食べ物を飲み込むのが困難になります。この嚥下障害により、食事に長く時間がかかったり、食べることを嫌がったりする症状が現れます。特に子どもの場合、食事がスムーズに摂れないことで栄養摂取に支障をきたし、成長や発育に影響を与える可能性があります。また、のどがつまった感じという違和感を常に訴える子どももいます。
参考)「口蓋扁桃肥大、アデノイド肥大」 のどの病気 – 愛知県瀬戸…
扁桃肥大によるアデノイド症状と鼻づまり
アデノイド肥大は鼻の奥にある咽頭扁桃が大きくなった状態で、扁桃肥大と同時に起こることが多い病態です。アデノイドが肥大すると鼻の空気の通り道が狭くなり、鼻づまりや口呼吸が主な症状として現れます。さらに、鼻と耳をつなぐ耳管の通気性が悪化することで、滲出性中耳炎を繰り返す原因になります。アデノイドは4~6歳頃に最も大きくなり、口蓋扁桃より少し早い時期にピークを迎えます。声が鼻声っぽくなったり、集中力が落ちる、日中の眠気といった症状も報告されています。
参考)東京 新宿 扁桃肥大といびき 東京ロンフェルメ耳鼻いんこう科
扁桃肥大の診断と検査方法
扁桃肥大の診断は、まず視診によって口の中を直接観察し、扁桃の大きさを確認することから始まります。医師は扁桃の状態を見て、生理的肥大か病的肥大かを判断します。アデノイドは口を開けても見えない位置にあるため、鼻咽腔ファイバースコープ(内視鏡)を鼻から挿入して確認します。必要に応じてアデノイドレントゲンやエックス線検査も実施されます。扁桃炎が扁桃肥大に関わっていると疑われる場合は、原因となる細菌を特定するために細菌培養検査を行うこともあります。睡眠時無呼吸症候群が疑われる際は、睡眠ポリグラフやアプノモニターなどの睡眠検査が推奨されますが、施設によっては実施していない場合もあります。
国立病院機構大阪医療センターの扁桃肥大検査に関する詳しい解説ページ
扁桃肥大の治療と手術適応
軽度の扁桃肥大では特に治療は必要なく、自然に治るのを待つことが多いです。しかし、発熱、睡眠障害、いびき、睡眠時無呼吸症候群、嚥下障害などの症状を伴う場合は治療が必要になります。治療は保存的治療(薬物療法)と外科的治療(手術)に大きく分かれます。
参考)扁桃肥大とは?原因や症状、手術のメリット・デメリットを紹介
風邪や炎症により一時的に肥大している場合は、抗生剤や消炎剤を用いて症状を軽減していきます。薬物療法でも改善が認められず、日常生活に大きな支障をきたしている場合は、肥大した口蓋扁桃やアデノイドを摘出する手術が検討されます。
手術は「口蓋扁桃摘出術」と呼ばれ、全身麻酔で1時間~1時間半ほどかかり、入院期間は1週間~10日前後が一般的です。子どもの場合は口蓋扁桃とアデノイドを同時に摘出することも多く、滲出性中耳炎を合併している場合は鼓膜チューブ留置術も併施されます。手術時期は扁桃が最も大きくなる4~6歳が多い傾向にあり、症状が著しいときは2~3歳でも手術を行います。
参考)http://www5.famille.ne.jp/~ekimae/sub7-89-3.html
口蓋扁桃摘出術では開口器という器具を口にかけて扁桃を丸ごと摘出し、口の中から行うため顔や首に傷跡は残りません。手術後1ヶ月ほどで咽頭部の傷跡は粘膜に覆われます。合併症のない小児の改善率は66~80%と報告され、ほとんどの症例が治癒します。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/shonijibi/32/3/32_276/_pdf
扁桃摘出術の効果と改善率に関する医学論文(PDF)
手術は小さな子どもにとって負担が大きいため、主治医からメリット・デメリットについてよく説明を聞いた上で慎重に検討する必要があります。習慣性扁桃炎では年に3回以上の急性扁桃炎の反復を手術適応の目安としています。
扁桃肥大の予防と日常生活での注意点
小さな子どもに起こる生理的な扁桃肥大には特に予防法はありませんが、病的肥大の発症や悪化を防ぐことは可能です。風邪やインフルエンザなどの感染症、扁桃炎にならないようにすることが重要で、こまめな手洗いやうがいの習慣化が推奨されます。外出時のマスク着用も有効な予防策です。
バランスの良い食事や十分な睡眠など、生活を整えることも大切です。特にビタミンCを多く含む食品を積極的に摂取することで免疫力の向上が期待できます。免疫力が低い状態では細菌やウイルスに侵されやすく、扁桃が炎症を起こしやすくなります。
喉の乾燥を防ぐことも重要な予防策です。喉が乾くと粘膜も乾燥し、炎症が起きやすくなり扁桃肥大の原因となります。特に冬季は空気が乾燥するため、マスクの着用や加湿器の使用が推奨されます。部屋の湿度は40~70%に維持し、こまめな水分補給や蒸気吸入器の使用も効果的です。
手術を行った場合、術後7日前後の入院が必要となり、一時的に声変わりや味覚障害が起こることもあります。扁桃を何回も腫らしていると慢性扁桃肥大になり、大人になっても治らず風邪をひきやすい体質になる可能性があるため、子どものうちから適切な予防と管理が重要です。
参考)扁桃摘出と免疫