アルコール性肝障害と症状の関係

アルコール性肝障害の症状

この記事でわかること
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初期段階の特徴

脂肪肝の段階では自覚症状がほとんどなく、検査で初めて発見されることが多い

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進行時の症状

肝炎では倦怠感や黄疸、発熱などが出現し、肝硬変では腹水や意識障害など重篤な合併症が発生

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治療と予防

禁酒が最も重要で、早期であれば肝機能の回復が期待できる

アルコール性肝障害の初期症状と自覚症状

アルコール性肝障害の初期段階である脂肪肝では、ほとんど自覚症状がありません。この時期には肝臓に脂肪が蓄積している状態ですが、多くの場合は健康診断肝機能検査の異常値(AST、ALT、γ-GTP)を指摘されて初めて気づくことになります。わずかに倦怠感や食欲不振、右上腹部の重さを感じる程度で、日常生活に支障をきたすほどではないため見過ごされやすい特徴があります。

参考)アルコール性肝障害


初期症状は風邪に似ていることが多く、倦怠感、食欲不振、吐き気、微熱などが現れることがあります。お腹の張りや軽い黄疸(皮膚や白目が黄色くなる)、尿の色が濃くなるといった症状も見られますが、「少し疲れているだけ」「食べ過ぎたかな」などと自己判断してしまいがちです。これらの症状が続く場合は、医療機関を受診することが重要です。

参考)アルコール性肝炎の禁酒の期間は?


アルコール性肝障害の研究によると、患者の多くは早期段階で発見されることが少なく、他の肝疾患と比較して進行した状態で診断されることが多いという特徴があります。これは初期症状が軽微であることと、アルコールの摂取を継続してしまうことが主な原因です。

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC6682466/

アルコール性肝障害の進行による症状変化

アルコール性肝障害は、脂肪肝→アルコール性肝炎→肝硬変という段階を経て進行し、それぞれの段階で異なる症状が出現します。中等度のアルコール性肝炎まで進行すると、倦怠感、食欲不振、吐き気に加えて、黄疸(皮膚や白目が黄色くなる)、体重減少、皮膚のかゆみや乾燥、下肢のむくみなどが見られるようになります。

参考)アルコール性肝障害|病気症状ナビbyクラウドドクター


アルコール性肝炎では、発熱、腹痛、肝腫大(肝臓が腫れる)などの症状が特徴的です。肝臓の炎症により右上腹部に痛みを感じたり、微熱から発熱が続いたりします。また、ビリルビンの排出異常により尿の色が濃くなることもあります。通常は30代または40代で症状が現れ始め、その約10年後に重度の症状がみられるようになる傾向があります。

参考)アルコール性肝炎の初期症状|進行サインや放置するリスク【医師…


重症アルコール性肝炎では、飲酒を止めたにも関わらず肝臓の腫れが続き、腎不全、消化管出血、肝性脳症(意識障害)など重篤な合併症を合併することがあります。中等症では大半の患者が低栄養状態で、疲労、発熱、黄疸、右上腹部痛、圧痛を伴う肝腫大を呈し、ときに肝臓の血管雑音が聴取されることもあります。

参考)アルコール性肝疾患 – 02. 肝胆道疾患 – MSDマニュ…

アルコール性肝障害における肝硬変と合併症の症状

肝障害が進展して肝硬変になると、全身倦怠感、クモ状血管腫女性化乳房手掌紅斑、皮膚掻痒感、黄疸、腹水、浮腫、肝性脳症などの多彩な症状が認められます。末期のアルコール性肝硬変では、肝細胞が強く変形して縮んでしまい、正常な機能は大きく失われている状態です。

参考)アルコール性肝疾患とは?元に戻らない?薬に頼れない?治療方法…


重度の肝硬変や肝がんの段階では、腹部膨満(腹水の貯留)、出血しやすくなる傾向、歯ぐきや鼻からの出血、意識障害(肝性脳症)、昏睡、女性化乳房、手掌紅斑などの内分泌異常が出現します。栄養が不足して痩せていく一方で、腹水が貯まりお腹が大きく苦しくなり、吐血や昏睡の危険も高まります。約40%の入院患者では入院後すぐに病状が悪化し、軽度(黄疸の増強)から重度(腹水、門脈大循環性脳症、静脈瘤出血、低血糖を伴う肝不全、凝固障害)の病態を続発することがあります。​
肝硬変は禁酒しないと確実に死に至りますが、完全にお酒を断つことで延命をはかることができます。また、肝硬変によって肝臓の機能が著しく低下すると、肝臓がんになることもあるため、定期的な検査による早期発見が非常に重要です。

参考)飲酒と肝臓の病気の関係は?肝硬変・アルコール性肝疾患の症状・…

アルコール性肝障害の検査と診断方法

アルコール性肝障害の診断には、複数の検査が行われます。血液検査は肝臓の状態を把握する基本的な検査で、特にAST(GOT)やALT(GPT)などの肝酵素の数値を調べることで、炎症の有無を確認できます。日本人間ドック学会によると、ASTとALTはいずれも30 IU/L以下が正常値とされており、正常値を大きく上回る場合は急性肝炎や慢性肝炎、アルコール性肝炎、脂肪肝、肝臓がんなどの病気が疑われます。

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AST、ALTは同時に検査することが多く、両者の比も重要な診断指標となります。アルコール性肝炎や肝硬変、肝臓がんなどではAST>ALTとなることが多いのに対し、慢性肝炎や非アルコール性脂肪肝などではAST参考)お酒の飲み過ぎだけじゃない!?肝機能検査のAST、ALT、γ…


現在、アルコール性肝障害の診断基準としては、2011年アルコール医学生物学研究会(JASBRA)から提示された「JASBRAアルコール性肝障害診断基準(2011年版)」が用いられています。超音波検査やCTスキャン、MRIなどの画像検査も活用され、これらの検査では肝臓の形状や脂肪の蓄積、線維化の進行具合を視覚的に確認できます。肝生検は肝臓の一部を採取し組織を詳しく調べる検査で、炎症の進行度や線維化の程度を正確に把握できる有効な方法です。​
肝炎情報センターのアルコール性肝障害の診断基準に関する詳しい情報

アルコール性肝障害の治療における禁酒の重要性

アルコール性肝障害の治療において、禁酒することが最も重要です。どんな病気でも原因を取り除くのが治療の基本であり、アルコール性肝障害ではともかく禁酒することが第一の治療法となります。禁酒さえすれば血液中のASTやγ-GTPの値はどんどん下がってきますが、反対にお酒を飲み続けると治りが遅くなるだけでなく、慢性化し、やがて肝臓障害の進行した状態である肝硬変にまで進むこともあります。

参考)仙台産業医科診療所|アルコール性肝臓障害について


禁酒を続ける期間は、アルコール性肝障害の進行具合によって異なります。軽度のアルコール性肝障害(脂肪肝)の場合、禁酒期間は1〜2ヶ月程度で、この段階では禁酒を続けることで肝臓の機能が改善し、脂肪が減ることが多いとされています。中等度のアルコール性肝障害(アルコール性肝炎)が進行している場合、禁酒を続けることで肝臓の炎症が落ち着き、肝機能が改善しますが、この段階では数ヶ月から半年以上の禁酒が必要になることが多いです。

参考)アルコール性肝障害とは?症状・禁酒期間・治療方法を専門医が解…


肝臓障害と診断されたら、完全に治るまでは絶対禁酒が必要であり、治癒後も酒量は処理できる限界の3合以下を守ることが重要です。治ったからとまた昔どおりにお酒を飲み、肝臓障害を繰り返して慢性化する例も多いため、回復後もアルコールを再び摂取すると肝臓に負担をかけてしまうことを理解しておく必要があります。禁酒と合わせて、栄養バランスの見直しや生活習慣の改善も治療において重要な要素となります。​
アルコール性肝障害の症状、診断・治療方針についての医療情報

アルコール性肝障害の原因と予防のための飲酒量管理

アルコール性肝障害の主な原因は、長期間にわたって大量のアルコールを摂取することによって肝臓が損傷を受けることです。体内でアルコールを分解するとき、有毒物質である「アセトアルデヒド」も発生し、肝臓はこのアセトアルデヒドを無害な水や二酸化炭素に分解する役割を担います。大量の飲酒を続けていると、肝臓がアセトアルデヒドを分解しきれなくなり、アセトアルデヒドに攻撃された肝臓の細胞は変性や壊死を引き起こし、次第に肝臓の機能が低下していきます。

参考)アルコール性肝障害


アルコール性肝障害の危険度は、それまでに飲んだアルコールの総量に比例します。目安としては、毎日日本酒にして3合以上のアルコールを5年以上飲んでいる「常習飲酒家」は脂肪肝、肝線維症を発症するケースが多く、毎日日本酒にして5合以上のアルコールを10年以上飲んでいる「大酒家」は肝硬変の危険が高いとされています。1日に飲む量が少なくても、長年飲み続けていれば安心はできず、これまでに飲んだ総アルコール量(積算飲酒量)が500kgを超えると、肝硬変の危険が高まります。

参考)https://www.kenkou-club.or.jp/check_kaizen06.jsp


アルコールを分解する能力は遺伝的な要素にも左右されるため、たとえ飲酒量が少なく期間が短くてもアルコール性肝障害になることがあります。女性は男性に比べて短期間の飲酒でアルコール性肝障害が発症・悪化することが多く、これは女性の方がアルコールの代謝速度が遅く、エストロゲンなどのホルモンの影響を受けやすいからだと考えられています。また、栄養バランスの偏りや腸管から細菌成分を含めた炎症物質が吸収され肝臓に入ることも、アルコール性肝障害の発症に関与しています。

参考)アルコール性肝障害(症状・原因・治療など)|ドクターズ・ファ…

飲酒パターン 期間と量 発症リスク
常習飲酒家 日本酒3合以上/日×5年以上 脂肪肝・肝線維症
大酒家 日本酒5合以上/日×10年以上 肝硬変
積算飲酒量 総量500kg超 肝硬変リスク増大