エンジニアリングプラスチックの種類と用途

エンジニアリングプラスチックの種類と特性

エンジニアリングプラスチックの主要分類
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汎用エンジニアリングプラスチック

100℃以上の耐熱性を持ち、機械部品や自動車部品に使用される5大汎用エンプラが中心

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スーパーエンジニアリングプラスチック

150℃以上の高い耐熱性と優れた機械的強度を持ち、航空機や医療機器に採用される高機能樹脂

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金属代替材料としての役割

軽量で加工性に優れ、錆びず複雑形状も精度良く成形できるため、金属部品の置換を担う

エンジニアリングプラスチックの5大汎用種類

エンジニアリングプラスチックは明確な定義はありませんが、一般的に100℃以上の温度環境下でも機械的強度を維持できる耐熱性を持つプラスチックとされています。汎用的に使用されるエンジニアリングプラスチックとして、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリアミド、変性ポリフェニレンエーテル、ポリブチレンテレフタレートの5種類が有名で、これらの5大汎用エンジニアリングプラスチックは全体の約9割を占めると言われています。

参考)エンジニアリングプラスチック(エンプラ)とは|用途や種類、加…


これらのエンプラは1960年代の高度成長期、大量生産・大量消費に対応するため、金属と比較して軽く、安く、加工しやすい金属代替プラスチックとして開発されてきた背景があります。現在では家電製品の外装や内部の歯車・軸受などの機構部品、自動車部品、航空機部品、半導体電子部品、医療機器など幅広い分野で活用されています。​
エンジニアリングプラスチックは分子構造により、結晶性樹脂と非結晶性樹脂に分類されます。結晶性樹脂にはポリアセタール(POM)やポリエチレンテレフタレート(PET)などが該当し、非結晶性樹脂の代表例はポリカーボネート(PC)です。結晶性樹脂は強度と剛性に優れる一方、非結晶性樹脂は透明性が高いという特徴があります。

参考)https://jp.meviy.misumi-ec.com/info/ja/howto/29882/

エンジニアリングプラスチックのポリアセタール(POM)特性

ポリアセタール(POM)は、ポリオキシメチレンの略称で、ホモポリマーとコポリマーの2種類があります。1960年頃にアメリカのデュポン社により開発され、ポリプラスチックス社により販売され、登録商標であるジュラコンと呼称されることも多い樹脂です。​
POMは結晶化度が高いことから、強度・剛性等の機械特性に優れています。自己潤滑性が高く耐摩耗性は顕著で、軸受やギアなど摺動部への人気は高いです。結晶内では分子同士の相対位置が動きにくいため弾性回復率が高く、繰り返し疲労やクリープのような機構部品に要求される性能に優れます。

参考)POM(ポリアセタール)の試作を検討している方へ【POMの特…


またPOMは成形後の収縮率や寸法安定性が優れているため、射出成形に適した素材です。ガラス転移点は-50℃と大変低く、実用使用温度において非晶部分の分子鎖が運動しているゴム状態となることから、破断しにくく粘り強い特徴を持ちます。

参考)ポリアセタール樹脂(POM樹脂)とは


ただし、POMは酸には耐性がなく、アルカリにもあまり強くはありません。また分解は熱だけではなく光、特に紫外線によっても促進されるため、屋外で使用される用途には耐候処方が施されたグレードを選定する必要があります。​

エンジニアリングプラスチックのポリカーボネート(PC)用途

ポリカーボネート(PC)は、エンジニアリングプラスチックの中で唯一透明な素材です。その透明性を生かし、家電製品、光学部品、スマートフォンのカバーなどに使用されています。透明度の高さから「透明な金属」とも言われることがあり、車のヘッドランプ、航空機の窓、光ファイバー、信号灯などにも多用されています。

参考)エンジニアリングプラスチックとは|加工のポイントや種類と特徴…


ポリカーボネートは透明度が高く加工性に富み、寸法精度も高いため、カメラやメガネのレンズのような光学部品にも使われます。耐衝撃性が非常に高いことから、DVDや車のヘッドランプなど、光を通しつつ割れにくい素材として使用されます。

参考)https://jp.meviy.misumi-ec.com/info/ja/howto/35721/


光沢性が高く見た目が美しいので、スマートフォンのケースやボディのように、美観を求められる場面での使用も多いです。耐候性が高いことから、遮光板や看板などの屋外で使用する製品の材料にも適しており、高い耐衝撃性から防弾素材などの特殊用途で使用されるケースもあります。​
ただし、ポリカーボネートは薬品にはあまり強くないという弱点があります。また一般的に他の樹脂と比較して溶融粘度が高く流動性に劣るため、成形品の外観が問題になる場合もあります。

参考)Influence of Polycarbonate Oli…

エンジニアリングプラスチックのポリアミド(PA)機械部品への応用

ポリアミド(PA)は、アミド結合によりモノマーが多重結合したポリマー樹脂で、一般にはナイロンと総称されます。PA6とPA66が代表的で、開発されたデュポン社の標章であるナイロン-66に由来するとされています。​
ポリアミドは機械的強度が高く、耐摩耗性にも優れるため、歯車や軸受けなどの機械部品に使用されます。特にポリアミド66や6は融点が高く、耐薬品性と耐油性もあるため、自動車のエンジン周りの部品として多用されています。具体的にはシリンダヘッドカバー、インテークマニホールド、ラジエータータンク、トランスミッションマウント、エアバッグハウジングなどが挙げられます。

参考)PA(ポリアミド)の試作を検討している方へ【PAの特徴や試作…


産業機械分野では、優れた耐摩耗性と摺動性を活かして、歯車(ギア)、滑り軸受、スライド部品に使用されます。潤滑なしでも低摩擦で作動するため、定期メンテナンスが困難な環境にも向きます。

参考)https://jp.meviy.misumi-ec.com/info/ja/howto/marketplace/50471/


ただし、ポリアミドは吸湿性が高く、多湿の環境では寸法が変化してしまうという欠点があります。吸水性により寸法変化が生じるため、用途に応じてガラス繊維強化品が選ばれることも多いです。​

エンジニアリングプラスチックのポリブチレンテレフタレート(PBT)と変性ポリフェニレンエーテル(m-PPE)

ポリブチレンテレフタレート(PBT)は、ポリエステルの一種で、PETのエチレン基の代わりにブテンが結合した分子構造を持ちます。エステル結合と芳香環を持っており、電気特性、耐薬品性に優れています。機械特性として、強さ、靭性に優れ、ガラス繊維等のフィラー強化により、剛性・強度、荷重たわみ温度が向上します。

参考)ポリブチレンテレフタレート(PBT)とは


PBTは吸水率が小さく、寸法変化が少ないため、電気機器の部品や自動車の電装部品などに使用されます。PBTの価格は比較的安いため、コストパフォーマンスに優れたプラスチックであり、エンジニアリングプラスチックとしては比較的需要の高いものです。

参考)PBT(ポリブチレンテレフタレート)の試作を検討している方へ…


変性ポリフェニレンエーテル(m-PPE)は、ポリフェニレンエーテル(PPE)を主成分とした樹脂に属し、複数のポリマーを混合して特性を持たせるポリマーアロイの総称です。単体での使用は稀で、主に耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)など他の合成樹脂とアロイ化されるため、名称に「変性」を加え区別されています。

参考)変性ポリフェニレンエーテル – Wikipedia


m-PPEは耐熱性、耐無機薬品性、耐加水分解性、電気特性に優れ、汎用エンプラの中では最も軽い素材です。機械的強度に優れる一方で軽いのが特徴で、電気機器や自動車の部品などに使用されます。ただし溶剤などの薬品には弱いのがデメリットです。

参考)m-PPE変性ポリフェニレンエーテル樹脂|KDAのプラスチッ…

エンジニアリングプラスチックのスーパーエンプラ種類と特性

スーパーエンジニアリングプラスチック(スーパーエンプラ)は、エンジニアリングプラスチックよりもさらに高性能な樹脂の分類で、150℃以上の耐熱性を持ち、より高温下でも強い機械的特性が必要な場面で使用されます。1980年以降、より一層金属代替品としてのニーズが高まり、極めて機能性の高いスーパーエンジニアリングプラスチックの開発が進みました。

参考)スーパーエンジニアリングプラスチックとは?


代表的なスーパーエンプラとして、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などがあります。​
PPS樹脂は代表的なスーパーエンジニアリングプラスチックの一つで、剛性があり難燃性に優れているほか、耐薬品性、寸法安定性も高い素材です。一般的にはガラス繊維や炭素繊維などで強化されて使用され、耐熱性に優れ非常に高い機械的強度を持ちます。

参考)エンジニアリングプラスチック(エンプラ)とは?分類や用途、成…


PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)は、1978年頃開発された最高クラスの融点・耐高熱性を持つ高性能材料です。240℃以上の高温に耐える他、機械的強度も高く、耐衝撃性、耐薬品性などに優れます。高温の水蒸気下でも加水分解を起こさないのが特徴で、航空宇宙部品、医療機器、半導体製造装置などに使用されます。

参考)エンジニアリングプラスチック(エンプラ)とは?特性や種類・用…


PTFE樹脂(ポリテトラフルオロエチレン)は、分子中にフッ素を含有するフッ素樹脂の一つで、デュポン社の登録商標であるテフロンと呼ばれることもあります。第二次世界大戦中マンハッタン計画のウラン235濃縮工程で開発され、戦後工業化され、フライパンやアイロンの焦げ付き防止用コーティング剤や離型剤として日用品にも利用されています。​

エンジニアリングプラスチック成形加工と表面処理の特徴

エンジニアリングプラスチックは様々な加工に適していますが、射出成形が最も多く行われます。基本的な考えは汎用プラスチックと同様ですが、金型の摩耗速度や成形温度などには、汎用プラスチックよりも注意が必要です。​
切削加工もエンプラに対して行われるケースがあります。金型が用意できない状態での試作評価として切削によって形状を作る場合や、穴開け加工、歯車の歯切加工などの加工も多く行われています。​
電気機器の外装やボタンなどに使用されるエンプラも多く、加飾として塗装が施されるケースも多いです。エンプラは汎用プラスチックと同様に、軽く、射出成形などにより同じ形状を大量生産しやすい素材である一方、素材そのものの単価が鉄などに比べるとやや高価です。​
エンジニアリングプラスチックには多くの利点がありますが、同時に弱点もあります。金属に比べれば強度や耐熱性に劣り、紫外線や油脂、水による劣化が起こる場合があるため、種類によっては劣化や加水分解による寸法変化にも注意を払う必要があります。​
参考:産業技術総合研究所によるスーパーエンジニアリングプラスチックの解説では、サーキュラーエコノミーに貢献する高機能プラスチックのリサイクル技術について詳しく解説されています。

エンジニアリングプラスチックの医療分野への応用と今後の展望

エンジニアリングプラスチックは医療分野でも重要な役割を果たしています。医療機器の内視鏡や透析器の部品、中空糸膜、人工呼吸器、フェイスシールド、インプラントなど、多岐にわたる用途で採用されています。​
ポリスルホン(PSU)は、高い耐酸化性と熱安定性が特徴で、高温下での使用にも長期間耐えることができ、耐スチーム性や耐加水分解性も高いため、医療器具や調理器具に使われています。ポリエーテルイミド(PEI)は150℃まで弾性率が低下せず170℃位まで常用可能で、耐水や耐熱水性、難燃性質を持ち、仮に燃えても発煙が少なく有毒ガスも発しないので航空機でも多く使用されています。​
医療分野でエンプラが求められる理由として、滅菌処理に耐えられる耐熱性、生体適合性、耐薬品性などがあります。PEEKのような高性能スーパーエンプラは、手術用器具や人工関節など、高い信頼性が求められる用途で活躍しています。​
エンジニアリングプラスチックの今後の展開として、軽量であることから自動車などの移動体への応用など新しい材料として活用の幅が広がることが期待されています。複合する材料との組み合わせ次第で摺動性や耐摩耗性、強度をさらに高くするなど、さまざまな機能をもたせることが可能です。​
電気製品など発火のリスクが高い部品や、万一発火した際のリスクが高い航空機などの部品には最高ランクの難燃性が求められており、米国のUL規格で評価される難燃性の重要性が増しています。環境負荷低減の観点からも、金属部品の樹脂化によるCO2排出削減への貢献が期待されています。​
参考:福榮産業のエンジニアリングプラスチック解説では、エンプラの加工実績や用途について詳細な情報が提供されています。