クロミプラミンの禁忌と副作用

クロミプラミンの禁忌

📋 クロミプラミンの主な禁忌事項
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絶対禁忌の疾患

閉塞隅角緑内障、心筋梗塞回復初期、尿閉、QT延長症候群の患者には投与禁止

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併用禁忌薬剤

MAO阻害剤との併用は重篤な副作用リスクがあり絶対禁止

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過敏症の既往

クロミプラミンや三環系抗うつ剤で過敏症の既往がある場合は使用不可

クロミプラミン投与が禁忌となる疾患

クロミプラミン塩酸塩(商品名:アナフラニール)は三環系抗うつ剤として広く使用されていますが、特定の疾患を持つ患者への投与は絶対に避けなければなりません。最も重要な禁忌疾患として、閉塞隅角緑内障が挙げられます。クロミプラミンの抗コリン作用により眼圧が上昇し、症状を悪化させる危険性があるためです。

参考)https://pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00001856.pdf


心筋梗塞の回復初期にある患者も投与禁忌の対象となります。この時期の患者にクロミプラミンを投与すると、循環器系への影響により症状を悪化させるおそれがあり、生命に関わる重大なリスクとなります。心筋梗塞の既往がある患者でも、回復初期を過ぎた段階であれば慎重投与として使用が検討される場合がありますが、医師による慎重な判断が必要です。

参考)サン調剤薬局・おひさま薬局


尿閉を伴う前立腺疾患などの患者にも投与してはいけません。クロミプラミンの抗コリン作用が排尿困難や尿閉の症状をさらに悪化させる可能性が高く、重篤な泌尿器系合併症を引き起こすリスクがあります。QT延長症候群のある患者も禁忌対象です。クロミプラミン投与により心室性不整脈を起こすおそれがあり、致死的な状態に至る危険性があります。

参考)https://www.info.pmda.go.jp/downfiles/ph/GUI/530258_1174002F1029_3_02G.pdf

MAO阻害剤との併用禁忌と理由

クロミプラミンとMAO阻害剤(モノアミン酸化酵素阻害剤)の併用は、最も重要な薬剤相互作用による禁忌の一つです。MAO阻害剤にはセレギリン塩酸塩(エフピー)、ラサギリンメシル酸塩(アジレクト)、サフィナミドメシル酸塩(エクフィナ)が含まれ、これらを投与中または投与中止後2週間以内の患者にはクロミプラミンを投与してはいけません。​
併用により発汗、不穏、全身痙攣、異常高熱、昏睡などの重篤な副作用があらわれることがあります。この相互作用のメカニズムとして、クロミプラミンは活性アミンのシナプス内への取り込みを阻害し受容体の感受性を増強する作用があり、MAO阻害剤と併用するとセロトニンやノルアドレナリンなどの神経伝達物質が過剰に蓄積されるためです。​
MAO阻害剤の投与を受けた患者にクロミプラミンを投与する場合には、少なくとも2週間の間隔をおく必要があります。逆にクロミプラミンからMAO阻害剤に切り替える場合には、2〜3日間の間隔をおくことが望ましいとされています。この休薬期間は体内から薬剤が十分に排泄されるために必要な時間です。​

クロミプラミン使用時の慎重投与対象

禁忌ではないものの、特定の患者群には慎重な投与が求められます。開放隅角緑内障の患者は絶対禁忌ではありませんが、抗コリン作用により眼圧が上昇し症状を悪化させる可能性があるため慎重投与となります。排尿困難や眼内圧亢進のある患者も同様に注意が必要です。

参考)https://www.carenet.com/drugs/materials/pdf/530258_1174002F1029_3_17.pdf


心不全、心筋梗塞(回復初期を除く)、狭心症、不整脈などの心疾患のある患者、または甲状腺機能亢進症の患者も慎重投与の対象です。クロミプラミンが循環器系に影響を及ぼす可能性があるためです。てんかんなど痙攣性疾患またはその既往歴のある患者では、痙攣を起こすリスクがあります。実際に米国の臨床試験では、クロミプラミンの用量とてんかん発作出現に明らかな相関関係が認められています。​
うつ病患者では躁転や自殺企図があらわれることがあり、特に注意深い観察が必要です。脳の器質障害や統合失調症の素因のある患者、衝動性が高い併存障害を有する患者では精神症状を増悪させる可能性があります。重篤な肝障害や腎障害のある患者では、代謝障害や排泄障害により副作用があらわれやすくなります。​

クロミプラミンの重大な副作用

クロミプラミン投与により、複数の重大な副作用が報告されています。悪性症候群(Syndrome malin)は最も注意すべき副作用の一つで、無動緘黙、強度の筋強剛、嚥下困難、頻脈、血圧変動、発汗、発熱などが現れます。白血球増加や血清CK上昇がみられることが多く、ミオグロビン尿を伴う腎機能低下も起こりえます。高熱が持続し意識障害呼吸困難、循環虚脱、脱水症状、急性腎障害へと移行し、死亡した例も報告されています。

参考)アナフラニール錠10mgの効能・副作用|ケアネット医療用医薬…


セロトニン症候群も重篤な副作用です。不安、焦燥、せん妄、興奮、発熱、発汗、頻脈、振戦、ミオクロヌス、反射亢進、下痢などを主症状とします。特にSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害剤)やSNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害剤)などセロトニン作動性の薬剤と併用した場合に発現リスクが高まります。​
QT延長、心室頻拍(Torsade de pointesを含む)、心室細動などの心血管系の重大な副作用も報告されています。定期的な心電図検査による観察が重要です。無顆粒球症汎血球減少などの血液障害、麻痺性イレウス間質性肺炎、好酸球性肺炎、抗利尿ホルモン不適合分泌症候群(SIADH)、肝機能障害、黄疸なども発現する可能性があります。​

クロミプラミン服用時の特殊な注意点

クロミプラミン服用中には、日常生活における複数の注意事項があります。眠気、めまい、ふらつき、視調節障害などを引き起こす可能性があるため、車の運転や危険な機械の操作は避けるべきです。これらの症状は集中力や判断力を低下させるため、特に服用開始時や用量変更時には注意が必要です。

参考)クロミプラミン(アナフラニール)の効果と副作用はやばい?徹底…


アルコールの摂取は中枢神経抑制作用があり、クロミプラミンの眠気や鎮静作用を増強させる可能性があるため控えることが推奨されます。グレープフルーツジュースは薬の代謝酵素の働きを阻害し血中濃度に影響を与える可能性があるため、服用中の摂取は避けるべきです。​
妊婦または妊娠している可能性のある女性には投与しないことが望ましいとされています。新生児に呼吸困難、嗜眠、チアノーゼ、興奮性、低血圧高血圧、痙攣、筋痙縮、振戦などの離脱症状を起こしたとの報告があります。海外の疫学調査では、妊娠初期に投与された患者群において胎児の心血管系異常のリスクが高かったという報告もあります。授乳中の使用も、母乳中に移行するため避けることが望ましいです。​
急激な減量や投与中止により、嘔気、頭痛、倦怠感、易刺激性、情動不安、睡眠障害、筋攣縮などの離脱症状があらわれることがあります。ナルコレプシーに伴う情動脱力発作の治療では反跳現象(症状の急激な悪化)も報告されているため、中止する際には時間をかけて徐々に減量する必要があります。​