セクシュアリティとジェンダーの違い
セクシュアリティの定義と包括的な意味
セクシュアリティ(Sexuality)とは、人間の性のあり方全般を示す包括的な概念です。この言葉は、性的な感情や行動、性的指向、さらには心理や価値基準まで含む広範な意味を持っています。
医学的な観点から見ると、セクシュアリティは単一の要素ではなく、複数の要素が組み合わさって構成される多面的な概念といえます。世界保健機関(WHO)も、セクシュアリティを人間の健康と福祉に関わる重要な要素として位置づけており、医療従事者にとって理解すべき基本的な概念となっています。
参考)セクシャリティーとジェンダー – Tokyo Sexual …
具体的には、セクシュアリティには生物学的な身体的特徴だけでなく、自分自身の性をどう認識しているか、どの性別に恋愛感情や性的関心を持つか、そしてどのように性を表現するかという要素が含まれます。つまり、セクシュアリティは「出生時に割り当てられた性」と「社会的・文化的な性」の両方を包含する概念なのです。
ジェンダーの定義と社会的・文化的性
ジェンダー(Gender)とは、文化的・社会的に構築された性差の概念を指します。わかりやすく言えば、「男性らしさ」「女性らしさ」といった社会によって規定される性のあり方のことです。
参考)セクシュアリティとは?意味や診断項目、種類について。ジェンダ…
ジェンダーは生物学的な性別(Sex)とは明確に区別される概念であり、服装や職業、家庭内での役割分担、言動や行動など、「その性別らしいあり方」を示すものです。重要なのは、ジェンダーは生まれつきの身体的特徴ではなく、属する社会や文化、時代背景によって形成され、必ずしも同じではないという点です。
参考)ジェンダーとは・意味
医療現場においては、ジェンダーに関する理解が患者との信頼関係構築に不可欠です。なぜなら、ジェンダーアイデンティティ(性自認)は本人のアイデンティティそのものであり、他者が決めつけたりラベリングしたりするものではなく、人権として尊重されるべきものだからです。
参考)[保険診療のてびき]href=”http://www.hhk.jp/gakujyutsu-kenkyu/ika/240229-100000.php” target=”_blank”>http://www.hhk.jp/gakujyutsu-kenkyu/ika/240229-100000.phplt;br/href=”http://www.hhk.jp/gakujyutsu-kenkyu/ika/240229-100000.php” target=”_blank”>http://www.hhk.jp/gakujyutsu-kenkyu/ika/240229-100000.phpgt; 「医療者が知っておくべきLG…
セクシュアリティを構成する4つの要素と医学的理解
セクシュアリティは、医学的に4つの主要な要素(ファクター)によって構成されると考えられています。これらの要素を正確に理解することは、医療従事者にとって患者の健康問題を適切に把握する上で極めて重要です。
参考)【1分で読める】🏳️🌈セクシュアリティの定義と4つの要素 …
①生物学的な性(身体の性)
出生時に医学的判断により割り当てられた性で、外性器、内性器、染色体、ホルモンなどの身体的特徴によって決定されます。基本的に女性、男性、またはインターセックス(性分化疾患)に分類されますが、性別を構成する生物学的属性には個人差があります。
参考)https://www.city.matsumoto.nagano.jp/uploaded/attachment/9484.pdf
②性自認(心の性・ジェンダーアイデンティティ)
自分自身の性をどう認識しているかを表す心理的性のことです。「自分は男性だ」「自分は女性だ」といった性別の自己認識を指し、生物学的な性と一致する人(シスジェンダー)もいれば、一致しない人(トランスジェンダー)もいます。
参考)性自認とは?「男性/女性」だけじゃないってどういうこと?【「…
③性的指向(好きになる性)
恋愛感情や性的な関心がどの性別に向いているかを示すものです。異性愛、同性愛、両性愛などがあり、医学的には治療で変えることはできないと確立されています。なお、性的指向と恋愛指向は必ずしも一致するわけではなく、性的な魅力を感じる対象と恋愛感情を抱く対象が異なる場合もあります。
参考)https://iris-lgbt.com/blogs/romantic_orientation
④性表現(表現する性・ジェンダー表現)
服装、髪型、しぐさ、言葉遣いなど、自分の性をどのように表現するかを示す要素です。性自認と一致することが多いものの、必ずしも一致するとは限らず、習慣や文化、時代背景によって変化する可能性があります。
参考)https://www.city.kuki.lg.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/005/069/1005069_033.pdf
松本市の性の多様性に関する資料では、セクシュアリティの4つのファクターについて詳しい図解が掲載されています
セクシュアリティとジェンダーの違いが医療現場に与える影響
セクシュアリティとジェンダーの違いを理解することは、医療現場において単なる知識以上の実践的意義を持ちます。この理解が不足していると、患者の健康・社会的リスクを適切に把握できず、必要なサポートを提供できない可能性があるからです。
参考)健康と社会を考える/LGBT の人々における健康格差 プライ…
医療従事者がこれらの概念を学ぶべき第一の理由は、健康格差の把握です。LGBTQ(性的少数者)の方々は、社会的な偏見やスティグマにより、うつ病や不安症などの精神的健康問題のリスクが高いことが知られています。プライマリ・ケア医は、こうした健康格差に最初に接触する可能性が高い立場にあります。
参考)https://www.kamolhospital.com/ja/service/1115/mental-healthcare
第二の理由は、信頼関係の構築です。患者の性自認や性的指向を理解し尊重することは、医療者と患者の信頼関係を築く上で非常に重要な要素となります。実際、医療機関を受診する際に保険証を提示する段階から、性的少数者は困難に直面することがあり、受付スタッフから医師、看護師、薬剤師まで、多職種が協力して学ぶ必要があります。
参考)医療現場での「性」の境界線。”配慮”と”区別”は両立できるの…
アメリカ内科学会の提案では、すべての医療機関がジェンダーに関する非差別・反ハラスメントの方針を採用すること、患者がジェンダーにかかわりなく面会者や意思決定代行者を選択できる権利を保障すること、医学教育にLGBTQの健康問題に関するカリキュラムを導入することなどが推奨されています。
日本プライマリ・ケア連合学会の記事では、LGBTの健康格差とプライマリ・ケア医の役割について詳しく解説されています
医療現場では、プライバシーへの配慮、ジェンダーフリーへの対応、個人情報の保護、そして知識と理解ある医療従事者の育成といった取り組みが徐々に進められています。これらの取り組みは、すべての人が安心して医療にアクセスできる環境を整備するために不可欠です。
セクシュアリティとジェンダーの概念における誤解と正しい理解
セクシュアリティとジェンダーに関しては、一般的に多くの誤解が存在します。これらの誤解を解消し、正確な理解を持つことは、医療従事者だけでなく社会全体にとって重要です。
最も一般的な誤解の一つは、「セクシュアリティとジェンダーは同じものである」という認識です。実際には、ジェンダーは社会的・文化的な性の規範や性差を指す言葉であるのに対し、セクシュアリティは人間の性のあり方全般を包括的に示す概念であり、両者は厳密には異なるものです。
もう一つの重要な誤解は、「性的指向と恋愛指向は必ず一致する」という思い込みです。実際には、性的魅力を感じる対象と恋愛感情を抱く対象が異なる人も多く存在します。例えば、異性に対して恋愛的な魅力を感じるものの性的関心を持たない人(ヘテロロマンティック・ノンセクシュアル)や、恋愛感情を持つことはないが性的魅力を感じる人(アロマンティック・バイセクシュアルなど)もいます。
また、「男性」と「女性」という二元論的な枠組みだけで性を捉えることも誤解の一つです。既存の社会構造は、シスジェンダー・ヘテロセクシュアルを前提としたジェンダーの考え方の上に成り立っているため、それに当てはまらない性的マイノリティを周縁化し、負担を増大させていることに留意する必要があります。
医学的には、同性愛が病気であるという認識は否定されており、性的指向は治療で変えることはできないことが確立されています。こうした科学的事実に基づいた正確な理解を持つことが、偏見のない医療環境を整備するための第一歩となります。
セクシュアリティの4つの要素(生物学的な性、性自認、性的指向、性表現)は、いわゆる性的マイノリティだけでなく、すべての人が持っている属性です。この認識を持つことで、特定の人々を「特別視」するのではなく、すべての人の多様性を尊重する視点を養うことができます。