神経線維腫症1型の症状と診断基準について

神経線維腫症1型の症状

神経線維腫症1型の主な症状

カフェ・オ・レ斑

生まれた時から見られる淡い茶色の皮膚の色素斑で、最も早期に現れる典型的な症状

🔬

神経線維腫

思春期頃から全身に多発する良性腫瘍で、皮膚や末梢神経に発生

🧬

合併症

視神経膠腫、骨病変、学習障害など多臓器に及ぶ症状が出現

神経線維腫症1型の皮膚症状

神経線維腫症1型の最も代表的な症状は、カフェ・オ・レ斑と呼ばれる色素斑です。カフェ・オ・レ斑は生まれた時点から認められることが多く、色は淡いミルクコーヒー色から濃い褐色まで様々で、色素斑内に濃淡はみられません。形は長円形のものが多く、丸みを帯びた滑らかな輪郭を呈しており、思春期前では直径5mm以上、思春期以降では直径15mm以上のものが6つ以上あれば神経線維腫症1型を疑います。この斑点の数は2歳までに増えていき、それ以降はそれぞれの斑点が次第に大きくなり目立つようになります。​
わきの下や鼠径部には「そばかす」のような雀卵斑様色素斑が現れることも特徴的な症状です。これらの小斑点は神経線維腫症1型の診断基準の一つとなっています。皮膚の神経線維腫は思春期頃より全身に多発し、良性の腫瘍として皮膚や皮下組織にできますが、たくさんできる人もいれば少数の人もいて個人差が大きいです。​
神経線維腫には複数のタイプがあり、皮膚の神経線維腫の他に、皮下の末梢神経内の神経線維腫やびまん性の神経線維腫も見られることがあります。これらの腫瘍は外観に影響を与えるだけでなく、神経圧迫による痛みや機能障害を引き起こす可能性があります。成長に伴って数や大きさが変化し、特に思春期以降に顕著になることが多いとされています。

参考)神経線維腫症ではどのような症状がありますか? |神経線維腫症

神経線維腫症1型の眼症状と骨病変

神経線維腫症1型では、目に関連する症状も重要な診断基準となっています。虹彩Lisch結節(虹彩過誤腫)は2個以上認められることが診断基準の一つで、虹彩に良性の小さな過誤腫が形成されます。視神経膠腫も小児期にできることがあり、視力障害を引き起こす可能性があります。視神経や脳神経の神経膠腫は頻度は低いものの、重篤な病変としてみられることがあります。​
骨の異常も神経線維腫症1型の特徴的な症状として知られています。蝶形骨異形成や脛骨の偽関節形成などの特徴的骨病変が診断基準に含まれており、先天的に骨の一部が欠損していたり、背骨が曲がったりすることがあります。側弯症は比較的頻度の高い合併症として報告されており、骨の発育不全や異常が見られることがあり、特に長骨の湾曲や頭蓋骨の異常が発生します。

参考)神経線維腫症I型 – MGenReviews


血管病変も稀な合併症として知られており、血管の脆弱性に起因するとされる動脈破裂は致死率の高い合併症であり、迅速で的確な救命処置が求められます。骨病変や血管病変は生活の質に大きく影響を与える可能性があるため、定期的な検査と適切な管理が必要です。

参考)https://xmil.or.jp/wordpress/wp-content/uploads/2023/04/hjr_03_05.pdf

神経線維腫症1型の神経系症状

神経線維腫症1型の患者では、脳や神経系に関連する症状も多くみられます。学習障害は罹患者の少なくとも50%に認められる重要な症状で、注意欠如・多動性障害(ADHD)や言語発達の遅れも関連する症状として報告されています。集団生活や学習面で困り事を抱えることがあるため、小学校や中学校に入学する前のタイミングで検査を受けて、苦手分野などを把握しておくことが推奨されています。

参考)301 Moved Permanently


神経線維腫が内部の神経に発生した場合、神経圧迫による症状が現れることがあります。手足のしびれ、知覚低下、脱力などの症状が出現する可能性があり、特に脊髄神経鞘腫の症状としてこれらが見られます。蔓状神経線維腫は比較的頻度は低いものの、重篤な病変として知られています。

参考)悪性末梢神経鞘腫 MPNST malignant perip…


神経線維腫症1型では、腫瘍が悪性化するリスクも存在します。悪性末梢神経鞘腫瘍(MPNST)は末梢神経から発生する肉腫で、患者の2~4%に生じるとされています。MPNSTは軟部肉腫の約5-10%を占め、5年生存率は40-50%と予後が不良な悪性腫瘍です。特に蔓状神経線維腫が悪性化するケースが多く、急速に増大する腫瘤や痛みの増強がみられた場合は、悪性化を疑う必要があります。

参考)神経線維腫症Ⅰ型の原因や症状、難病指定と障害年金の申請方法

神経線維腫症1型の診断基準

神経線維腫症1型の診断は臨床的診断基準を用いて行われます。国際的な診断基準では、以下の症状のうち2つ以上見られた場合に診断されます。

参考)https://square.umin.ac.jp/nf1guideline/guideline.html

📋 診断基準項目

  • 6個以上のカフェ・オ・レ斑(思春期以前では最大径5mm以上、思春期以降では最大径15mm以上)​
  • 2個以上の神経線維腫、あるいはびまん性神経線維腫を1個以上​
  • わきの下や股にある「そばかす」のような小斑点​
  • 視神経膠腫​
  • 2個以上のLisch結節(虹彩過誤腫)​
  • 特徴的骨病変(蝶形骨異形成や脛骨の偽関節形成など)​
  • 一次近親者(両親、同胞、子)に上記の診断基準を満たすNF1を有する人がいる​

遺伝学的診断基準では、NF1遺伝子の病因となる変異が同定されれば神経線維腫症1型と診断されます。次世代シーケンサーを用いた変異の同定率は90%以上と報告されていますが、遺伝子検査で変異が同定されなくとも神経線経線維腫症1型を否定するわけではなく、臨床的診断基準を用いることに何ら影響を及ぼしません。確定診断のための遺伝学的検査は臨床的に必要とされることは少なく、診断基準を満たさないがNF1が疑われる患者に対して適応とされます。​

神経線維腫症1型の原因と遺伝

神経線維腫症1型はNF1遺伝子の変異が原因と考えられています。NF1遺伝子は17番染色体長腕(17q11.2)に位置し、その遺伝子産物はニューロフィブロミン(neurofibromin)と呼ばれ、Ras蛋白の機能を制御して細胞増殖や細胞死を抑制することにより、腫瘍の発生と増殖を抑制すると考えられています。ニューロフィブロミンの機能は大きく分けて2つあり、1つ目は皮膚の色素を作る細胞や神経、顔の骨など、体の様々な部位がきちんと作られるように細胞の変化を調整すること、2つ目は細胞の数が増えすぎないよう適切な量に調整することです。​
NF1遺伝子に変異を来たした神経線維腫症1型では、Rasの恒常的な活性化のため、Ras/MAPK経路の活性化とPI3K/AKT経路の活性化を生じ、神経線維腫をはじめとし、多種の病変を生じると推測されていますが、詳しい機構については不明な点も多いです。患者の約50%は家族性(常染色体優性遺伝)で、原因となる遺伝子異常としてNF1遺伝子が判明しており、残り50%の患者については両親に神経線維腫症1型がない孤発例ですが、やはりNF1遺伝子の異常があります。​
NF1では変異のホットスポットはなく、遺伝子の完全欠失など特別な場合を除いて遺伝子型と表現型に相関はみられず、同一家系内においてもその症状は大きく異なります。性差や人種差はないことが報告されており、世界中で同様の発症率が確認されています。近年の遺伝学的研究により、日本においても44名の患者のうち36名(81.8%)で病的変異が検出され、20.7%の変異が新規のものであったことが報告されています。

参考)https://www.nanbyou.or.jp/wp-content/uploads/kenkyuhan_pdf2014/gaiyo053.pdf


厚生労働省難病情報センター:神経線維腫症Ⅰ型(指定難病34)の詳細な診断基準と症状の解説
日本皮膚科学会:神経線維腫症1型の診断基準および治療ガイドライン(専門的な診断と治療方針)
厚生労働科学研究費補助金:神経線維腫症1型診療ガイドラインの詳細な遺伝学的診断と臨床的診断基準