排卵誘発剤と副作用のリスク

排卵誘発剤の副作用

排卵誘発剤の主な副作用
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卵巣過剰刺激症候群(OHSS)

卵巣が腫大し腹水や胸水が貯留する症状で、重症化すると血栓症や腎不全のリスクがあります

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多胎妊娠

複数の卵子が排卵されることで双子や三つ子の妊娠率が上昇します

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軽度の副作用

頭痛、吐き気、腹部膨満感、体重増加、むくみなどが現れることがあります

排卵誘発剤による卵巣過剰刺激症候群(OHSS)

卵巣過剰刺激症候群(OHSS)は、排卵誘発剤によって卵巣が過剰に刺激された結果、卵巣が腫大し腹水や胸水が貯留する副作用です。注射薬の排卵誘発剤で卵巣を直接刺激した場合、刺激過剰になるとたくさんの卵胞が同時に発育し、卵巣が大きく腫れてしまいます。血管から水分が腹腔内に浸み出して腹水となり、腹膜を刺激するため腹痛や吐き気などの症状が出現します。

参考)排卵誘発剤の副作用は?太るとされる理由やだるさへの対処法も紹…


OHSSの発症機序として、ゴナドトロピン製剤などの投与により腫大した卵巣から過剰のエストロゲンが分泌され、その作用により卵巣の毛細血管の透過性が高まり、アルブミンとともに血液中の水分が腹腔内に漏出することが知られています。軽度の卵巣腫大そのものは臨床的に問題となりませんが、重症例では大量の腹水が貯留して血管内脱水が生じ、循環血漿量の減少により急性腎不全血栓症などの生命予後にかかわる重大な合併症に進展することがあります。

参考)https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r98520000013qef-att/2r98520000013r63.pdf


重症な副作用は排卵した後に起こり、排卵しなければ少しお腹がはっても重篤な合併症は起こりません。特に妊娠した場合、重篤なOHSSに至ると1週間から数週間にわたって症状が続くことがあり、外来通院もしくは入院管理で点滴をしながら脱水を緩和させる治療が必要となります。妊娠が成立しなかった場合は、月経がくると症状は急速に改善します。​

排卵誘発剤による多胎妊娠のリスク

排卵誘発剤を使用すると、一度に複数の卵子が排卵されるため、双子や三つ子といった多胎妊娠のリスクが高まります。自然妊娠での多胎妊娠率は約1%ですが、排卵誘発剤を使用するとその確率はかなり高くなります。内服の排卵誘発剤を使用した場合、多胎妊娠の確率は5%以内とされていますが、ゴナドトロピンという注射の排卵誘発薬を使った場合、多胎妊娠の確率は約15-20%まで上昇します。

参考)排卵誘発剤の種類(注射薬・内服薬)と副作用について


多胎妊娠となった場合、その後の妊娠管理には特に注意が必要となります。妊娠高血圧症候群切迫早産などお母さんへの負担が増える可能性や、赤ちゃんが早く生まれる(早産)確率が増加することがわかっており、それによって生まれた後の新生児の健康問題が起きる可能性も高くなります。治療法によっても多胎妊娠の確率には差がありますが、多胎妊娠の可能性があることを認識の上、事前に医師やパートナーと十分に相談することが重要です。

参考)排卵誘発について |当院の不妊治療- 操レディスホスピタル


排卵誘発剤の効果がありすぎて多くの卵胞が発育してしまい、多胎の確率が非常に高い場合は、医師の判断で排卵誘発を中止することもあります。

参考)排卵誘発剤 – 三軒茶屋ウィメンズクリニック

排卵誘発剤による体重増加とむくみ

排卵誘発剤の投与により体重増加やむくみを感じることがありますが、これは脂肪が直接増えるのではなく、ホルモンバランスの変化による影響です。排卵誘発剤はエストロゲンやプロゲステロンなどの女性ホルモンを含んでいるため、太りやすい要素があります。

参考)体外受精で注射をすると太るの?|六本木レディースクリニック


女性ホルモンの一種であるエストロゲンには細胞を増殖させる働きがあるので、排卵誘発などでエストロゲンが過剰になると、脂肪細胞も増えてしまう可能性があります。また、もう一つの女性ホルモンであるプロゲステロンの作用で、受精卵を着床しやすくするために子宮内に水を溜め込むという働きがあり、その結果、体がむくみやすくなったりすることで多少体重が増加するというケースがみられます。

参考)排卵誘発剤って太る?


ゴナドトロピンという注射を打つことによって、卵巣が腫れてしまうことがあり、卵巣が腫れると血液の濃度が高くなるため水分が外へ出てしまい、むくみを発症させます。このように副作用による腫れやむくみなどを発症することで体重が増加してしまい、太ったと感じてしまうことがあります。現時点では、排卵誘発剤の服用で太ってしまうという医学的な根拠はなく、急に脂肪が増えるなどの副作用は報告されていません。​

排卵誘発剤による頭痛や吐き気の症状

排卵誘発剤の使用により、頭痛や吐き気などの副作用が現れることがあります。不妊治療では治療の過程でさまざまな薬剤やホルモン剤を使用するため、吐き気や頭痛など副作用のリスクを伴います。使用される主な薬剤やホルモン剤には、排卵誘発剤・GnRHアゴニスト製剤・hCG製剤・エストラジオール製剤・黄体ホルモン剤などがあります。

参考)不妊治療で吐き気を覚えることはある?|六本木レディースクリニ…


内服薬による軽い副作用は、通常であれば内服中止で速やかに軽快します。しかし、不妊治療における副作用には吐き気や胃痛などがあり、もっとも重い副作用としては卵巣刺激症候群が挙げられます。卵巣刺激症候群は重症化を防ぐためにも早期発見がなによりも重要であり、ほんの少しの吐き気でも自己判断せずに、必ずクリニックを受診することが推奨されています。​
クロミッドなどの内服薬では、頭痛、かすみ目などの副作用が出ることがあり、子宮内膜が薄くなって着床しにくくなる可能性も報告されています。

参考)体外受精のながれ|リプロダクションセンター|不妊治療|体外受…

排卵誘発剤の副作用を予防する対策

排卵誘発剤による副作用を予防するためには、個人の状況に合わせた適切な投与量の調整と、十分な水分摂取が重要です。注射剤投与開始後は、毎日2リットル以上の水分を摂ることが推奨されています。OHSSのリスクを避けるためには、排卵誘発剤の使用量や治療の進行を医師と密に連携しながら管理することが重要です。

参考)コラム


治療中は、排卵誘発剤の使用量や種類を慎重にコントロールし、危険な兆候が見られる場合は途中でキャンセルすることもあります。多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)といわれる排卵障害のある人は、注射による排卵誘発を行うと卵胞が沢山出来て過剰刺激になりやすいため、十分慎重に行う必要があります。

参考)卵巣過剰刺激症候群(OHSS)


注意すべき症状として、強い下腹部痛、1日に体重が1kg以上増加または普段より2kg以上増加、腹囲が3cm以上増えた、尿の量が減った、下痢・嘔吐・発熱、息苦しさなどがあります。これらの症状が現れた場合は、我慢せず医師に相談してください。

参考)排卵誘発剤 – 婦人科 島根県の不妊治療 – 内田クリニック


OHSSは早期に発見して適切な対処を行うことで、症状を軽減させることができます。治療中も妊娠後も体調の変化に敏感に反応し、異常があればすぐに医師に相談することが大切です。もし発症した際は安静を心がけ、水分と塩分の摂取量に注意してください。​