非結核性抗酸菌症ガイドラインとアジスロマイシンの治療

非結核性抗酸菌症ガイドラインとアジスロマイシン

この記事のポイント
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ガイドライン改訂による治療選択肢の拡大

2023年の改訂により、アジスロマイシンが治療の選択肢として正式に追加されました

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マクロライド系抗菌薬の重要性

アジスロマイシンとクラリスロマイシンは治療の中心的な薬剤として位置づけられています

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病型に応じた投与方法

結節・気管支拡張型と線維空洞型で投与量や併用薬が異なります

非結核性抗酸菌症ガイドラインにおけるアジスロマイシンの位置づけ

非結核性抗酸菌症の治療において、アジスロマイシンマクロライド系抗菌薬として重要な役割を担っています。2023年6月に日本結核・非結核性抗酸菌症学会が発表した「成人肺非結核性抗酸菌症化学療法に関する見解―2023年改訂―」では、クラリスロマイシン(CAM)とともにアジスロマイシン(AZM)が治療の中核を担う薬剤として明記されました。

参考)https://www.kekkaku.gr.jp/wp-content/uploads/2023/06/876fc7b7e79db16bd4f10d91fc884e3c.pdf


ガイドラインでは、マクロライド系抗菌薬(クラリスロマイシンまたはアジスロマイシン)、リファンピシン(RFP)、エタンブトール(EB)の3剤併用療法が基本とされています。特に、マクロライド系抗菌薬は治療の鍵を握る薬剤(key drug)として位置づけられており、十分な量を使用することが推奨されています。

参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/110/9/110_1815/_pdf


アジスロマイシンの大きな利点は、クラリスロマイシンと比較して薬物相互作用が少ないことです。リファンピシンを併用するとクラリスロマイシンの血中濃度が半分程度に低下するという報告がありますが、アジスロマイシンではこの影響が軽減されます。

参考)https://medicalnote.jp/diseases/%E9%9D%9E%E7%B5%90%E6%A0%B8%E6%80%A7%E6%8A%97%E9%85%B8%E8%8F%8C%E7%97%87/contents/160414-005-SX


日本結核・非結核性抗酸菌症学会による最新の化学療法ガイドライン(PDF)

※最新の治療方針や薬剤の詳細な使用方法が記載されています

非結核性抗酸菌症の病型と治療方針

非結核性抗酸菌症の治療は、病型によって大きく異なります。主な病型は「結節・気管支拡張型」と「線維空洞型」の2つです。

参考)川崎医科大学附属病院


結節・気管支拡張型は、中年以降の女性に多く見られ、基礎疾患のない非喫煙者に好発します。このタイプは排菌量が少なく、緩徐に進行する傾向があります。空洞のない結節・気管支拡張型に対しては、アジスロマイシン500mg(力価)を週3回、隔日で経口投与する間欠投与療法も選択可能です。

参考)339 アジスロマイシン水和物①(結核病2)|社会保険診療報…


線維空洞型は、喫煙者や基礎的な肺疾患を有する中高年男性に多く見られます。このタイプは排菌量が多く、急速に進行する傾向があるため、より強力な治療が必要となります。線維空洞型や空洞を伴う結節・気管支拡張型では、3剤の連日投与療法を基本とし、症例によってアミノグリコシド系薬の点滴や筋注を併用することが推奨されています。

参考)MAC症(MAC. Mycobacterium avium …

病型 好発患者 特徴 治療方針
結節・気管支拡張型 非喫煙の中高年女性 排菌量少、緩徐進行 週3回間欠投与も可能

参考)肺NTM症・肺MAC症の種類|肺NTM症・肺MAC症を学ぶ|…

線維空洞型 喫煙歴ある中高年男性 排菌量多、急速進行 連日投与+アミノグリコシド併用検討 ​

アジスロマイシンの用法用量と投与方法

アジスロマイシンの用法用量は、病型や症例の重症度によって異なります。基本的な投与方法として、成人にはアジスロマイシンとして250mg(力価)を1日1回経口投与します。​
空洞のない結節・気管支拡張型の場合には、週3回の間欠投与療法も選択できます。この場合、アジスロマイシンとして500mg(力価)を1週間に3回、原則として隔日で経口投与します。間欠投与療法は、我が国ではまだ一般的ではありませんが、国際的なガイドラインでも推奨されています。​
アジスロマイシンを使用する際の重要な注意点は、単剤での使用を避けることです。マクロライド単剤治療を行うと、マクロライド耐性菌が生まれる危険性が高まります。そのため、必ず他の抗菌薬(リファンピシンやエタンブトール)と併用する必要があります。

参考)お薬による治療|治療を知る|肺NTM症講座|インスメッド合同…


また、アジスロマイシンは原則としてクラリスロマイシンを検討した後に投与することが推奨されています。ただし、薬物相互作用の観点から、アジスロマイシンが第一選択となる場合もあります。​

難治性肺非結核性抗酸菌症における追加治療

多剤併用療法を6カ月以上実施しても細菌学的効果が不十分な難治性患者に対しては、追加治療が検討されます。アミノグリコシド系抗菌薬の注射薬(ストレプトマイシンやアミカシン)を併用することで、排菌陰性化や予後を改善することが複数の報告で示されています。

参考)https://www.kekkaku.gr.jp/wp-content/uploads/2023/07/ae0af27f8969559872d008e426a8b891.pdf


近年、難治性肺MAC症に対する新たな治療選択肢として、アミカシンリポソーム吸入用懸濁液(ALIS、商品名:アリケイス®)が承認されました。ALISは、肺非結核性抗酸菌症治療のために初めて開発された薬剤です。吸入による局所投与のため、点滴投与と比較して病変局所へ高濃度で到達可能であり、バイオフィルムを通過して細胞内へ到達できるとされています。

参考)難治性肺href=”https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsrcr/31/2/31_215/_html/-char/ja” target=”_blank”>https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsrcr/31/2/31_215/_html/-char/jalt;ihref=”https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsrcr/31/2/31_215/_html/-char/ja” target=”_blank”>https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsrcr/31/2/31_215/_html/-char/jagt;Mycobacterium aviumhref=”https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsrcr/31/2/31_215/_html/-char/ja” target=”_blank”>https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsrcr/31/2/31_215/_html/-char/jalt;/ihref=”https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsrcr/31/2/31_215/_html/-char/ja” target=”_blank”>https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsrcr/31/2/31_215/_html/-char/jagt;…


国際共同第3相試験(CONVERT試験)では、標準治療を6カ月以上継続しても培養陽性が続く難治性肺MAC症患者を対象に、ALIS 590mg/日の吸入投与とガイドラインベースの治療(GBT)を併用した群と、GBT単独群を比較しました。その結果、投与6カ月目までの喀痰培養陰性化率は、ALIS併用群で29.0%、GBT単独群で8.9%と、有意な差が認められました(オッズ比4.22、95%CI 2.08~8.57、P<0.001)。

参考)https://arikayce.jp/data/core-pamph_220617.pdf


マクロライド耐性の場合は、エタンブトール、リファンピシンまたはリファブチンにアミノグリコシドを併用する治療が推奨されます。この場合、マクロライドの抗菌作用は期待できませんが、免疫調整作用が期待されるため、症例に応じて継続の要否を判断します。​
アリケイス(ALIS)の臨床試験情報と効果(PDF)

※難治性肺MAC症に対する吸入治療の詳細なデータが掲載されています

非結核性抗酸菌症治療における副作用と注意点

非結核性抗酸菌症の治療薬には、様々な副作用が報告されています。アジスロマイシンを含むマクロライド系抗菌薬の主な副作用として、発疹、発熱、軟便、苦みなどが挙げられます。また、肝機能障害、腎機能障害、血小板減少、白血球減少などの重篤な副作用も報告されています。

参考)肺非結核性抗酸菌症


リファンピシンの主な副作用には、肝機能障害、赤色尿、消化器症状があります。エタンブトールでは、視神経炎(視力低下や色覚異常)が最も重要な副作用であり、定期的な視力検査が必要です。肺MAC症治療における副作用の出現率は約29.7%と報告されており、その内訳は視力障害、皮疹、発熱などが主なものです。

参考)https://www.kekkaku.gr.jp/pub/Vol.87(2012)/Vol87_No7/Vol87No7P487-490.pdf


治療期間は通常1年以上必要なことが多く、薬剤に対する副作用や効果が患者さんによって異なるため、治療期間も個々に調整されます。定期的な検査とモニタリングにより、副作用の早期発見と管理が行われます。

参考)肺MAC症は主にどのような薬で治療しますか?副作用はあります…


副作用が出現した場合、治療の中止や変更が必要になることがあります。実際の臨床では、標準3剤治療を開始しても、6カ月間継続できるのは59%、12カ月以上継続できるのは41%にとどまるという報告があります。副作用による治療中断は、マクロライド耐性菌を誘発する原因となるため、適切な対処が重要です。

参考)https://toneyama.hosp.go.jp/patient/department/pulmonary/images/kikanshi-kakutyosyo.pdf

非結核性抗酸菌症治療におけるマクロライド耐性の問題

マクロライド耐性菌の出現は、非結核性抗酸菌症治療における最も深刻な問題の一つです。マクロライド耐性化の主な原因は、クラリスロマイシンやアジスロマイシンの単剤治療やエタンブトールの中断です。ある調査では、標準治療中に26.6%が処方変更され、その63%がマクロライド耐性化をきたす処方への変更であったことが明らかになっています。

参考)https://cir.nii.ac.jp/crid/1390857512439740160


マクロライド耐性菌が生じた場合、治療選択肢は大幅に制限されます。マクロライド系薬剤の効果を高め、その耐性化を抑止する作用を持つエタンブトールは、非結核性抗酸菌症治療において代替薬がない重要な薬剤です。そのため、エタンブトールの適切な使用と継続が、マクロライド耐性化の予防に極めて重要です。

参考)日本結核・非結核性抗酸菌症学会、日本呼吸器学会、 日本感染症…


一方、軽症肺NTM症に対するマクロライド少量長期療法については、慎重な検討が必要です。研究によれば、気管支拡張症に対するマクロライド少量長期療法が、軽症肺NTM症患者においてクラリスロマイシンやアジスロマイシンに対する耐性を誘発しないことが示されています。しかし、肺MAC症患者に対してマクロライド少量長期療法を行うことは、MAC菌の耐性を引き起こす原因となるため、絶対に行ってはいけません。​

耐性化の原因 予防策 参考
マクロライド単剤治療 必ず他剤と併用する
エタンブトールの中断 適切な継続と管理

参考)日本結核・非結核性抗酸菌症学会、日本呼吸器学会、 日本感染症…

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