慢性便秘症ガイドラインの診断基準と治療
慢性便秘症の診断基準とRome IV分類
日本消化管学会が発行した「便通異常症診療ガイドライン2023―慢性便秘症」では、Rome IV診断基準を基に慢性便秘症の診断が行われます。診断基準として、以下の6項目のうち2項目以上を満たすことが必要です。
参考)便通異常症診療ガイドライン2023—慢性便秘症 – Mind…
具体的な診断項目は、①排便の4分の1超の頻度で強くいきむ必要がある、②排便の4分の1超の頻度で兎糞状便または硬便である、③排便の4分の1超の頻度で残便感を感じる、④排便の4分の1超の頻度で直腸肛門の閉塞感や排便困難感がある、⑤排便の4分の1超の頻度で用手的な排便介助が必要である、⑥自発的な排便回数が週に3回未満である、となっています。
慢性の判断基準としては、6か月以上前から症状があり、最近3か月間は上記基準を満たしていることが必要ですが、日常診療においては患者を診察する医師の判断に委ねられています。毎日排便がなくても、週に3回は排便があり、すっきり普通の便が出ているのであれば定義上は便秘症ではないということになります。
参考)https://jpn-ga.jp/wp-content/uploads/2023/03/jga-benpihen-draft.pdf
慢性便秘症の分類と病態生理
慢性便秘症は症状の観点から「排便回数減少型」と「排便困難型」に分類されます。排便回数減少型はさらに大腸通過遅延型と大腸通過正常型に分けられ、大腸通過遅延型は大腸が糞便を輸送する能力が低下しているために排便回数や排便量が減少する便秘です。
参考)便秘|原因・症状・解消法・予防|大正健康ナビ|大正製薬
一方、排便困難型の便秘は、便が直腸まで下りてきているのに直腸や肛門でスムーズに排便できない状態で、便が硬いことで出なかったり残便感があったりする「硬便による排便困難」と、排便にかかわる筋肉の機能低下による「機能性便排出障害」の2タイプに分けられます。
病態生理的には、結腸知覚変化と結腸運動低下に代表される結腸機能障害が慢性便秘症の病態に関与しており、特に大腸通過遅延型の慢性便秘症患者では、結腸運動、高振幅大腸収縮波、起床後反応および食事誘発胃結腸反応が有意に低下していることが報告されています。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11825134/
慢性便秘症ガイドラインの薬物治療
「慢性便秘症診療ガイドライン2023」では、浸透圧性下剤、上皮機能変容薬、胆汁酸製剤を第一選択として推奨しています。具体的には、酸化マグネシウム(浸透圧性下剤)は高齢者にも安全で長期使用可能であり、ルビプロストン・リナクロチド(上皮機能変容薬)は自然な排便促進作用があります。
参考)【2025年版】便秘治療のすべて|日本消化器病学会ガイドライ…
上皮機能変容薬は小腸や腸粘膜上皮に作用し、腸管内の水分分泌を増加させて排便を促進する薬剤で、電解質異常をきたしにくく、併用禁忌薬もありません。ルビプロストンは腸の中の特定の通路を開いて水分を引き込み、リナクロチドも同様に腸の中の水分量を増やして便を柔らかくします。
参考)分泌型下剤の使い方と注意点—ルビプロストン,リナクロチド (…
一方で、刺激性下剤は「連用を避けるべき」と明記されており、どうしても排便が困難なときの「一時的な使用」にとどめることが望まれます。近年ではポリエチレングリコール(PEG)も浸透圧性下剤として使用頻度が増加しており、高マグネシウム血症のリスクが少ないため、特に高齢者や腎機能障害者に適しています。
参考)https://www.nankodo.co.jp/g/g9784524255757/
慢性便秘症改善のための生活習慣と食事療法
慢性便秘症の対策の第一段階は薬ではなく、適度な運動とバランスの取れた食事、規則正しい排便習慣です。食物繊維は水分を吸収して便を軟らかくしたり、便のかさを増やして腸を刺激し、ぜん動運動を活発にする働きがあります。摂取エネルギー100キロカロリーにつき1グラムを目安に、毎日の食事でたっぷり摂るように心がけることが推奨されています。
日本人の食物繊維摂取量の目標は男性20g、女性18gとされていますが、1960年頃より摂取量が低下して最近では15g程度まで減少しています。特に穀物由来の食物繊維摂取量が減っていることが日本人の食物繊維摂取量の低下につながっているようです。
参考)慢性便秘症
水分補給も重要で、水分が十分に摂れていないと便が硬くなり、便のかさが少なくなって腸内で移動しにくくなります。1日に1.5リットル以上を目安にたっぷり補給し、朝起きてすぐに水か牛乳をコップ1杯飲むと、腸が刺激されて動きがよくなり、便意が起こりやすくなります。
高齢者の慢性便秘症治療における注意点
高齢者は加齢による腸管機能の低下、活動量の減少、薬剤の影響などにより便秘になりやすく、特別な配慮が必要です。脱水症を起こしやすい高齢者にとって、水分補給は特に重要で、高齢者に必要な水分量の目安は食事と飲み物の合計で1日あたり約2L(食事から約1L、飲み物から約1L)が必要となります。
参考)高齢者の便秘の原因とは?便秘を放置する危険性や対策を紹介|ア…
高齢者の便秘対策として、食事の中で意識して食物繊維をとることが挙げられますが、すでに便秘の人が食物繊維をとりすぎると、かさを増した便が長時間腸内にとどまって硬くなり、かえって便秘がひどくなってしまうこともあるため、あくまで適量であることが大切です。
薬物治療においては、「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2025」の発刊を受けて、高齢者における排便管理の重要性が再認識されています。酸化マグネシウムは高齢者にも安全で長期使用可能とされていますが、腎機能障害者では高マグネシウム血症のリスクがあるため注意が必要です。
参考)「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2025」発刊を受けて
参考リンク。
日本消化管学会の慢性便秘症診療ガイドライン草稿では、診断基準や分類について詳しく解説されています。
日本消化器病学会が発行する最新ガイドラインの情報はこちらで確認できます。