網様体どこにあるか解説|脳幹と機能

網様体の位置と構造

この記事で分かること
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網様体の正確な位置

脳幹全体に広がる網様体の解剖学的な所在と構造の特徴

網様体の主な機能

覚醒、姿勢制御、生命維持など多岐にわたる役割

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網様体と日常生活の関連

睡眠・覚醒サイクルや筋緊張調整との深い関わり

網様体の脳幹における位置

網様体は脳幹の中心部、具体的には延髄から橋、中脳にかけて広範囲に分布する神経構造です。脳幹の背側部分に散在しており、その名称は網目状の神経線維が神経細胞体の間を結んでいる特徴的な形態に由来します。網様体は白質にも灰白質にも分類されない独特の構造を持ち、脳幹全体の長軸に沿って広がっています。

参考)網様体 – Wikipedia


この構造は単一の核ではなく、複数の神経核が集まった複合体です。橋網様体と延髄網様体の内側部から下行する線維は、それぞれ橋網様体脊髄路と延髄網様体脊髄路に分かれて脊髄に投射します。延髄から中脳まで連続的に存在するため、中枢神経系の様々な部位からの入力を受け、同時に多くの部位へ出力する戦略的な位置にあります。

参考)脳幹網様体とは|網様体の入出力と機能|imok Academ…


網様体の位置的特徴として、脳幹の中心軸に沿って3つの柱状の核群が配置されています。正中矢状面には縫線核群(無対)、被蓋の中央部には内側核群(有対)、外側部には外側核群(有対)が存在し、それぞれが異なる機能を担当しています。

参考)(四)脳幹の網様体

網様体の解剖学的構造と特徴

網様体の最も特徴的な点は、ニューロン、軸索、樹状突起が入り混じりながら非常に密に凝集している構造です。19世紀の解剖学者がこの複雑な形態を観察し、網目状の神経線維が結んでいることから「網様体」と名付けました。この構造は灰白質と白質の混成体であり、従来の分類には当てはまらない独特の組織学的特性を持っています。​
橋と延髄レベルの下位脳幹網様体領域では、出力領域と介在ニューロン領域が明確に区分されています。橋・延髄網様体の内側約2/3は出力領域であり、大型のニューロンが含まれています。これらの大型ニューロンからは、間脳や脊髄に直接投射する上行性・下行性の投射線維が起始し、大細胞領域と呼ばれています。​
対照的に、橋・延髄網様体の外側1/3にある介在ニューロン領域は小細胞領域と呼ばれ、より小さな神経細胞が密集しています。延髄吻側部の大細胞領域には特に大型のニューロンを含む部分があり、これは巨大細胞性網様核と呼ばれています。​

網様体への入力経路

網様体には中枢神経系の様々な部位から多様な感覚情報が入力されます。脊髄を通ってきた痛覚線維は網様体に重要な入力を提供し、視神経、内耳神経、三叉神経に由来する線維も視覚、聴覚、前庭覚(平衡感覚)、顔面の触覚の情報を伝達します。これらの感覚入力により、網様体は外部環境の変化を常に監視しています。

参考)脳幹と網様体


さらに高次の中枢からの入力も豊富で、大脳皮質、小脳、赤核、淡蒼球からの線維も網様体に入力します。体性感覚と内臓性感覚が上行すると脳幹網様体に連絡され、網様体はこれらの種々の情報を広く視床や大脳皮質全域に伝えます。この多様な入力により、網様体は感覚統合のハブとして機能することができます。​
網様体への入力の特徴は、多種多様な感覚モダリティが収束する点にあります。痛覚、視覚、聴覚、平衡感覚など異なる種類の感覚情報が同じ網様体ニューロンに入力されることで、環境の総合的な評価が可能になります。ただし、興味深いことに網様体活性化システム(RAS)は嗅覚刺激を処理することができず、これは睡眠中の安全対策として聴覚・視覚アラームの重要性を示しています。

参考)ビデオ: 機能的脳システム:網様体

網様体の機能と覚醒の調節

網様体の最も重要な機能の一つは、覚醒状態の維持と調節です。網様体活性化システム(RAS)は、網様体の中心にあるニューロンのネットワークで、脳幹のコアを通って延髄から中脳まで伸びる複雑な構造をしています。このシステムは睡眠と覚醒のサイクル、覚醒、注意、意識など様々な生理機能を調節します。

参考)脳幹網様体賦活系 – 脳科学辞典


網様体から出た線維は視床を通じて大脳皮質に投射し、脳が外部刺激に対して警戒し反応し続けることを保証します。大脳皮質を活動状態におくプロセスは「賦活」と呼ばれ、大脳皮質の活動状態は「覚醒」と呼ばれています。この上行性脳幹網様体賦活系により、意識レベルが維持されています。​
RASの活性化は覚醒状態を維持するために不可欠であり、不活性化は睡眠開始を促進します。RASの損傷は昏睡などの意識の深刻な変化を引き起こす可能性があります。また、心労やストレスなどにより大脳皮質が興奮状態だと、その情報が脳幹網様体賦活系に伝えられ、さらに大脳皮質を賦活するため、不眠の原因となることが知られています。​
現在では、網様体内部のニューロンだけでなく、中脳橋被蓋に細胞体を持ち軸索を網様体経由で前脳に送るモノアミンおよびアセチルコリン作動性ニューロン群、視床下部外側野から生じるヒスタミン、オレキシン、メラニン凝集ホルモンといった伝達物質を含むニューロン群など、複数のシステムが協調して覚醒状態を維持・調節していると考えられています。

参考)脳幹網様体賦活系 – 脳科学辞典

網様体による姿勢と運動の制御

網様体は姿勢制御と運動調節において中心的な役割を果たしています。網様体脊髄路は姿勢や歩行に関与する腹内側系の主要な運動性下行路であり、橋と延髄の網様体から起始して頸髄から仙髄の各分節に投射するため、全身の筋緊張や抗重力運動、運動時の体幹筋部の調整などに関与しています。

参考)脳卒中リハビリと姿勢制御➁~網様体脊髄路~【ボバースコンセプ…


網様体脊髄路には興奮系と抑制系の2つの役割があり、興奮系は姿勢筋(屈筋・伸筋)の筋緊張を高め、抑制系は姿勢筋の筋緊張を抑える機能を有します。内側網様体脊髄路は両側の頸髄から腰仙髄に投射し、主に頸部・体幹筋(脊柱起立筋)を支配します。外側網様体脊髄路は頸髄から腰仙髄に投射し、主に上下肢近位筋(伸筋・屈筋)を支配しています。

参考)セミナーに関するQ&A(3/13追記)|中上博之/理学療法士


これら2つの作用により屈筋と伸筋は共収縮することで関節の固定と荷重の支持に関与し、姿勢保持に重要な役割を果たします。網様体は脊髄や脳神経運動核から情報を受け、それに応じて筋緊張を調節し、特に身体の平衡や重力に対応して姿勢・体位を保つ反射と関係があります。​
網様体脊髄路の障害により、姿勢制御の異常が生じることが知られています。障害による特異的な症状として、随意運動時の拮抗筋の同時収縮が顕著になり、例えば肘を伸ばそうとすると屈筋が不適切に収縮し動きが制限されます。また、立位や歩行時の体幹の安定性が低下し、前屈姿勢や転倒リスクが増加することが報告されています。

参考)網様体脊髄路(reticulospinal tract)の障…

網様体の生命維持機能

網様体は呼吸および循環の中枢であり、生命維持に不可欠な機能を担っています。網様体から出る線維は、延髄の迷走神経核、疑核、孤束核(舌咽神経の核)などに向かい、これらの脳神経の調節を介して呼吸と循環の調節に関わっています。呼吸の調節中枢や咳、くしゃみ、嚥下、嘔吐などの反射中枢はこの網様核内に存在すると考えられています。​
網様体は心血管系の調節にも深く関与しており、血液循環、体温の調整、水分・ホルモンの調整などを管理しています。また、食欲・性欲等の欲望を管理・調整する機能も持っています。これらの自律神経調整作用により、網様体は身体の内部環境を一定に保つホメオスタシスの維持に貢献しています。​
さらに網様体には、身体の痛覚情報をブロックする機能も備わっています。網様体は感覚信号を受け、大脳皮質を賦活する一方で、痛みの伝達を調節することで、過度な痛覚情報が意識に上るのを防ぐ役割も果たしています。この下行性疼痛抑制系は、慢性疼痛の管理において重要な意味を持っています。​
網様体の縫線核は睡眠と覚醒のリズムの調節にも関与しており、睡眠を管理調整する機能を持っています。網様体の機能障害は意識障害を引き起こす可能性があり、網様体賦活系の損傷は昏睡などの重篤な意識レベルの低下につながることが知られています。

参考)昏睡および意識障害の概要 – 07. 神経疾患 – MSDマ…

参考リンク:脳幹網様体賦活系の詳細な神経機構と最新の研究知見について

脳科学辞典 – 脳幹網様体賦活系

参考リンク:網様体の入出力と機能に関する臨床的な解説

脳幹網様体とは|網様体の入出力と機能