棘突起を押すと痛い原因
棘突起の場所と解剖学的特徴
棘突起は脊椎の後方に突き出した骨の部分で、背中を触ると感じる出っ張りです。第二頚椎から仙椎まで、ほぼすべての椎骨に棘突起が存在します。特に第7頚椎の棘突起は体表から最も隆起しており、触診の際のランドマークとして用いられます。棘突起は背骨を守る重要な構造で、靭帯や筋肉の付着部としても機能しています。
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この棘突起は通常、押しても痛みを感じることはありません。しかし、何らかの原因で炎症や損傷が生じると、圧痛が現れるようになります。棘突起の形状は椎骨の場所によって異なり、頚椎では比較的短く、胸椎では下方に傾斜し、腰椎では太く四角い形状をしています。
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棘突起を押すと痛い主な病気
棘突起を押して痛みを感じる場合、最も多い原因は棘上靭帯炎または項靭帯炎です。棘上靭帯は胸椎以下の棘突起をつなぐ靭帯で、項靭帯は頚椎の棘突起につく厚い靭帯です。これらの靭帯に繰り返しの摩擦や過度な負荷がかかると、炎症を起こして痛みが発生します。
もう一つの重要な疾患が棘突起間インピンジメント障害です。この障害は、体を後ろに反らせたときに隣り合う棘突起同士が接触または衝突し、その間の靭帯や組織が挟まれて炎症を起こすものです。特に腰椎で起こりやすく、体を伸展させる動作で痛みが増強します。
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また、棘突起間靱帯炎も痛みの原因となります。この疾患では慢性化すると異常な新生血管(モヤモヤ血管)が形成され、持続的な痛みを引き起こすことがあります。炎症が進行すると、棘突起周辺の筋肉にも緊張が波及し、血行不良や二次的な腰痛を引き起こす可能性があります。
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棘突起の痛みの症状と発症しやすい人
棘突起の痛みは、患部を直接押したときの圧痛が特徴です。棘上靭帯炎や項靭帯炎では、首や背中の繰り返し運動によって痛みが生じます。デスクワークで長時間同じ姿勢を続ける人や、前かがみの姿勢が多い職業の人に発症しやすい傾向があります。
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棘突起間インピンジメント障害の場合、体を後ろに反らせる動作で痛みが増強するのが特徴です。特にオーバーヘッドプレスなどのウエイトトレーニングや、体を反らせる動作を繰り返すスポーツ選手に多く見られます。痛みは局所的で、ピンポイントで棘突起部分に現れることが多いです。
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発症しやすい人の特徴として、以下が挙げられます:
- 長時間のデスクワークや前かがみ姿勢が多い職業の人
- 背中を反らせる動作が多いスポーツをする人
- 姿勢が悪く、肩や首に不自然な負担がかかっている人
- 体幹筋の筋力が低下している人
- 急激な動作や不適切なフォームでトレーニングをする人
棘突起の痛みに対する治療と対処法
棘突起の痛みに対する治療は、まず炎症を抑えることが優先されます。急性期には安静と冷却療法が効果的で、アイスパックなどで患部を冷やすことで炎症や腫れを抑えます。痛みがある程度落ち着いたら、温熱療法に切り替えて血行を促進し、組織の回復を促します。
手技療法では、棘突起周辺の筋肉の緊張をほぐすマッサージやストレッチが行われます。肩周りや背中の筋肉をほぐすことで、棘上靭帯への負担を軽減できます。また、超音波療法を用いて深層部の筋肉や靭帯にアプローチし、痛みや炎症を軽減する方法も効果的です。
慢性化した場合には、より専門的な治療が必要になることがあります。血管内治療(カテーテル治療)は、異常な新生血管を閉塞させて痛みを軽減する最新の治療法です。この治療は低侵襲で、治療後すぐに日常生活に戻れるというメリットがあります。
鍼治療も選択肢の一つです。棘突起周辺に鍼を打つことで、炎症の抑制と痛みの軽減効果が期待でき、治癒までの期間を短縮できます。治療の際は、損傷部位だけでなく周囲の筋肉の緊張も緩和することが重要です。
棘突起間靱帯炎の血管内治療について詳しい情報はこちら
棘突起の痛みを予防するリハビリと日常生活の工夫
棘突起の痛みを予防するには、正しい姿勢を維持することが最も重要です。姿勢が悪いと肩や首に不自然な負担がかかり、靭帯にストレスを与えてしまいます。デスクワークの際は、意識的に立ち上がったり姿勢を整えたりして、同じ姿勢が長時間続かないようにしましょう。
リハビリでは、体幹筋を強化して棘上靭帯への負荷を分散させることが中心となります。特に腹筋などのインナーマッスルの筋力低下は腰部への負荷増大の要因となるため、適切な筋力トレーニングが必要です。バランス訓練も効果的で、両膝立ちの姿勢を柔らかい床の上で30秒程度維持する運動が推奨されます。
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ストレッチも予防に重要な役割を果たします。お尻のストレッチでは、椅子に座った状態で伸ばしたい方の足首をもう片方の膝に乗せ、背筋をまっすぐに保ちながら体を前に倒します。この時、背筋を丸めると棘上靭帯に負荷がかかるため、骨盤から体を倒すことを意識してください。
日常生活での工夫として、以下の点に注意しましょう:
- デスクワークの合間にストレッチを取り入れる
- 適度な運動で肩まわりの筋肉を強化する
- 急激な体の動きや不適切なフォームでの運動を避ける
- 荷物を持ち上げる際は、背中を丸めずに膝を使う
- 睡眠時の枕の高さを適切に調整する