神経線維腫症と症状
神経線維腫症1型の主な症状
神経線維腫症1型(NF1)は、レックリングハウゼン病とも呼ばれ、全人口の約3,000人に1人の割合で発症する遺伝性疾患です。この疾患の最も特徴的な症状として、カフェ・オ・レ斑と呼ばれるミルクコーヒー色の色素沈着斑が挙げられ、患者の95%に出生時から認められます。カフェオレ斑は扁平で盛り上がりがなく、長円形で丸みを帯びた滑らかな輪郭を呈しており、思春期以前では直径5mm以上、思春期以降では15mm以上のものが6個以上ある場合に診断の重要な指標となります。
神経線維腫は思春期頃から全身に多発する皮膚の良性腫瘍で、患者の95%に見られます。これらの腫瘍は比較的柔らかい半球状の結節として触知され、数や大きさは個人差が大きく、数個のみの患者もいれば多数生じる患者もいます。皮下の末梢神経内に生じる結節性神経線維腫や、びまん性の叢状神経線維腫も約10-20%の患者に認められ、これらは神経の走行に沿って発生します。
参考)神経線維腫症Ⅰ型(指定難病34) href=”https://www.nanbyou.or.jp/entry/3992″ target=”_blank”>https://www.nanbyou.or.jp/entry/3992amp;#8211; 難病情報セ…
眼症状として、虹彩小結節(Lisch結節)が80%の患者に認められ、視神経膠腫が約1%の患者に小児期に発症します。その他、脇の下や鼠径部に生じる雀卵斑様色素斑が95%の患者に見られ、骨病変として脊椎の湾曲が10%、四肢骨の変形や骨折が3%、頭蓋骨・顔面骨の骨欠損が5%の患者に認められます。神経系の症状としては、30-60%の患者に何らかの知的障害やてんかんが合併することも報告されています。
神経線維腫症2型の特徴的症状
神経線維腫症2型(NF2)は、NF1と比較して発症頻度が低く、10-20代での発症が多い疾患です。NF2の最も代表的な症状は、両側の聴神経鞘腫(前庭神経鞘腫)であり、この腫瘍が聴神経を圧迫することで症状が現れます。最も多い症状は難聴で、その他にふらつき、めまい、耳鳴りなどの平衡機能障害が生じます。聴力レベルが70dB以上になると重症度判定の対象となり、100dB以上の高度難聴では重症度スコアがさらに高くなります。
参考)神経線維腫症Ⅱ型(指定難病34) href=”https://www.nanbyou.or.jp/entry/275″ target=”_blank”>https://www.nanbyou.or.jp/entry/275amp;#8211; 難病情報セ…
顔面神経症状として、一側または両側の顔面神経麻痺、顔面知覚低下が認められることがあります。脊髄神経鞘腫による症状も頻度が高く、手足のしびれ、知覚低下、脱力などの症状が現れます。軽度から高度まで段階的な脊髄症状が評価され、高度脊髄症状は重症度スコアで4点と高い配点になっています。
参考)https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/0000089916.pdf
中枢神経系の他の腫瘍として、髄膜腫や上衣腫なども生じることがあり、これらによって頭痛、小脳失調、痙攣、半身麻痺などの多彩な神経症状が引き起こされることがあります。視覚系の症状として複視、一側失明、両側失明が起こることがあり、特に両側失明は重症度スコアで4点と最高レベルの重症度とされています。嚥下障害や構音障害も2点の配点があり、日常生活に大きな影響を与える症状として評価されています。NF1と異なり、NF2では皮膚症状は軽微であることが特徴です。
参考)http://www.med.akita-u.ac.jp/~seiri1/Japanese/okamoto/med/NF.htm
神経線維腫症の診断基準と検査方法
神経線維腫症1型の診断は、国際的な診断基準に基づいて臨床的に行われます。以下の7項目のうち2項目以上を満たす場合にNF1と診断されます。
参考)https://www.saitama-pho.jp/documents/942/sinkeiseni1gata20181222.pdf
- 思春期以前では最大径5mm以上、思春期以降では最大径15mm以上のカフェ・オ・レ斑が6個以上
- 神経線維腫を2個以上、あるいはびまん性神経線維腫を1個以上
- 腋窩や鼠径部にある雀卵斑様の小斑点
- 視神経膠腫
- 2個以上のLisch結節(虹彩過誤腫)
- 特徴的骨病変(蝶形骨異形成や脛骨の偽関節形成など)
- 一次近親者(両親、同胞、子)に上記の診断基準を満たすNF1を有する人がいる
遺伝子検査は、NF1遺伝子(17番染色体)やNF2遺伝子(22番染色体)の変異を特定するために行われます。NF1型では17番染色体上のNF1遺伝子の変異により、腫瘍抑制蛋白であるニューロフィブロミンの機能が損なわれ、細胞増殖が促進されます。NF2型では22番染色体のNF2遺伝子変異により、腫瘍抑制蛋白Merlinの機能が失われます。約50%の患者は親から遺伝子変異を受け継ぎますが、残りの50%は新規の突然変異によって発症します。
画像検査として、MRI検査やCT検査が腫瘍の位置、大きさ、性状の評価に使用されます。特にNF1では、脳実質の過誤腫様病変が白質、基底核、視床、海馬などに認められることがあり、これらは3-20歳に好発し、10-12歳までに軽度拡大した後消失することがあります。眼科的検査では、細隙灯顕微鏡を用いた虹彩小結節の検出や、近年では近赤外反射検査による脈絡膜異常の検出が行われています。身体検査では皮膚の色素沈着や腫瘤の有無、分布、大きさなどが詳細に確認され、これらの所見を総合して診断が行われます。
参考)Q46:神経線維腫症I型はどのように診断されるのでしょうか?…
神経線維腫症の合併症とリスク
神経線維腫症1型患者では、悪性末梢神経鞘腫瘍(MPNST)が最も頻度の高い悪性腫瘍であり、患者の2-4%に発症します。一般集団でのMPNSTの発症率が0.001%であるのに対し、NF1患者では生涯リスクが約10%に達し、より若い年齢で発症し予後不良となる傾向があります。MPNSTの多くはすでに存在する叢状神経線維腫から発生し、悪性化の徴候として持続性の疼痛や腫瘍の急激な増大が認められます。
参考)GRJ 神経線維腫症1型
脳腫瘍の合併も重要で、視神経膠腫が小児期に1%の患者に発症します。その他、過誤腫や神経膠細胞腫などの脳実質腫瘍も合併することがあります。内分泌系腫瘍としては、褐色細胞腫、傍神経節腫、カルチノイド腫瘍などの神経内分泌腫瘍のリスクが上昇します。
NF1患者における他の悪性腫瘍のリスクも健常人の1.7倍と高く、乳癌の発症率は2.9%で悪性末梢神経鞘腫瘍、グリオーマに次いで3番目に多い悪性腫瘍です。特に50歳未満では健常人の約4倍の乳癌発症リスクがあり、平均発症年齢が46.61歳と若年です。消化器系では大腸癌、胃癌、膵癌、胆道癌、GISTなどの間質系腫瘍のリスクも上昇します。
骨格系の合併症として、脊椎の変形が学童期に10%の患者に認められ、四肢骨の変形や骨折が乳児期に3%、頭蓋骨・顔面骨の骨欠損が出生時に5%の患者に見られます。これらの骨病変は早期からの整形外科的な管理が必要となることがあります。NF2では、多発性の神経鞘腫や髄膜腫による神経圧迫症状が問題となり、早期の外科的介入が必要になる場合があります。
参考)https://www.dermatol.or.jp/dermatol/wp-content/uploads/xoops/files/NF1_GL.pdf
神経線維腫症の治療法と経過観察
神経線維腫症の治療は症状や腫瘍の状態に応じて個別化されます。根本的な治療法は現在のところ存在せず、症状管理と合併症予防が主な目的となります。外科的切除は、神経線維腫が各種症状を引き起こしている場合や急速に成長している場合に検討され、腫瘍を取り除くことで症状の改善や再発リスクの低減が期待できます。
参考)https://ikebukuro-hifu.com/glossary/4448/
NF2に伴う腫瘍に対しては、手術による摘出または定位放射線治療が行われます。MRIやCTで腫瘍の成長が明らかな時、または症状が出現した時に摘出術を行うのが一般的です。NF2では腫瘍が多発するため治療時期が遅れる傾向がありますが、治療時期を逸すると手術が困難になることも多く、適切なタイミングでの治療計画が重要です。ベバシズマブ治療により約半数の患者で腫瘍の縮小や聴力改善が得られることが報告されていますが、現在日本では保険適用外です。
参考)治療指針
薬物療法として、3歳以上18歳以下の小児で症状がある根治切除不能な叢状神経線維腫に対して、MEK阻害薬であるコセルゴカプセル®が日本で承認されています。症状による対症療法として、鎮痛剤や抗炎症薬などが使用されることもあります。小さな神経線維腫や症状のない場合は経過観察が行われ、医師は定期的な検査を通じて腫瘍の成長を監視し、症状の進行がないか確認します。
日常生活では、腫瘍の中に血管が豊富に存在している場合があり、外的刺激により出血が起こる可能性があるため、ぶつけないように注意が必要です。症状に影響する特定の食品やサプリメントの報告はありませんが、個々の症状は患者によって異なるため、詳しい注意事項は主治医に相談することが推奨されます。定期的な経過観察により、視神経膠腫、悪性末梢神経鞘腫瘍、乳癌などの合併症を早期発見することが重要で、疑いがある場合は速やかに専門医を受診することが勧められます。
参考)日常生活の悩みや疑問についてのQhref=”https://nf1.jp/living/nf1support/advices” target=”_blank”>https://nf1.jp/living/nf1support/advicesamp;A|神経線維腫症1型疾患情…
厚生労働省 難病情報センター「神経線維腫症Ⅰ型(指定難病34)」神経線維腫症Ⅰ型(指定難病34) href=”https://www.nanbyou.or.jp/entry/3992″>https://www.nanbyou.or.jp/entry/3992amp;#8211; 難病情報セ…には、詳細な診断基準、重症度分類、治療に関する情報が掲載されており、患者と家族にとって有用な情報源となっています。
神経線維腫症1型 情報サイト神経線維腫症1型(レックリングハウゼン病、NF1)とはどんな…では、症状、診断、治療、日常生活の工夫など、患者向けのわかりやすい情報が提供されています。
参考)神経線維腫症1型(レックリングハウゼン病、NF1)とはどんな…
日本小児神経学会「Q46:神経線維腫症I型はどのように診断されるのでしょうか?」Q46:神経線維腫症I型はどのように診断されるのでしょうか?…には、診断プロセスと症状の詳細な説明があり、保護者の理解を助ける情報が記載されています。