母指内転筋を押すと痛い症状と原因
母指内転筋の解剖学的位置と役割
母指内転筋は手のひら側にある筋肉で、親指と人差し指の間の水かき部分に位置しています。この筋肉は横頭と斜頭の2つの部分から構成され、横頭は第3中手骨の掌側面から、斜頭は有頭骨や第2・第3中手骨底から起始し、母指の基節骨底に停止します。母指内転筋の主な働きは、親指を人差し指側に近づける「内転」という動作で、物をつまむ際に欠かせない筋肉です。
参考)短母指外転筋付着部炎及び母指内転筋付着部炎(鋏を使うと親指の…
尺骨神経の深掌枝によって支配されているため、この神経に障害が起こると母指内転筋の機能が低下します。手の内在筋の中で最も強力な筋肉であり、握る動作やつまむ動作に不可欠な役割を担っています。
参考)母指内転筋|高津整体院
母指内転筋を押すと痛い主な原因
母指内転筋を押した際に痛みを感じる原因として、最も多いのが筋肉の使い過ぎによる炎症です。字を書く、鋏を使う、ドリルを操作するなど、つまむ動作を繰り返すことで筋肉疲労が蓄積し、筋肉が異常収縮を起こして炎症を生じます。特に理容師や美容師、現場作業者など手をよく使う職業の方に多く見られる症状です。
参考)母指内転筋炎症
もう一つの重要な原因がトリガーポイントの形成です。トリガーポイントとは筋肉内にできる過敏な圧痛点で、母指内転筋にトリガーポイントができると親指全体に痛みが放散します。ペンを持つ動作や長時間の細かい作業、雑草を抜くなどの繰り返し動作がトリガーポイントを引き起こす要因となります。さらに、尺骨神経の障害や局所の血流不全も痛みの原因となることがあります。
参考)久我の杜 平川接骨院 スタッフブログ – 伏見区 久我の杜 …
母指内転筋痛と鑑別すべき疾患
母指内転筋を押すと痛い症状は、他の疾患と間違えられることが多いため注意が必要です。最も混同されやすいのが母指CM関節症で、これは親指のつけ根と手首の間にある関節の変形性関節症です。母指CM関節症では関節自体に痛みや腫れが生じ、加齢や使い過ぎによって軟骨が摩耗することで発症します。
手根管症候群も鑑別が必要な疾患の一つで、正中神経が手根管で圧迫されることで親指から薬指にかけて痺れや痛みを生じます。進行すると母指球筋が萎縮し、物がつまみにくくなる症状が特徴的です。また、腱鞘炎やドゥケルバン病、頸部椎間板症候群、胸郭出口症候群なども母指内転筋のトリガーポイントと似た症状を呈するため、正確な診断が重要です。
参考)手根管症候群
母指内転筋炎症の特徴的な所見として、青×印で示される親指と人差し指の間の水かき部分に明確な圧痛が認められます。一方、短母指外転筋付着部炎では赤×印で示される異なる位置に痛みが現れるため、圧痛の位置が診断の手がかりになります。
母指内転筋痛の診断と検査法
母指内転筋の痛みを診断する際には、まず圧痛点の確認が重要です。親指と人差し指の間の水かき部分を押して痛みが再現されるかどうかをチェックします。また、尺骨神経麻痺の有無を確認するフローマン徴候(Froment サイン)というテストも有用です。これは両手の親指と人差し指で1枚の紙をつまんで引っ張り合い、母指内転筋の筋力低下があると親指が自然と曲がってしまう現象を確認するものです。
参考)母指内転筋の触診|加藤淳
つまむ動作で痛みが増強するか、親指を人差し指側に曲げていく動作で痛みが誘発されるかも重要な診断ポイントです。トリガーポイントが原因の場合、親指全体に痛みが放散し、握力低下や親指のぎこちない動き、微細な動きの困難さなどの症状が見られます。
参考)親指の痛み|母指内転筋症・CM関節炎と鍼灸治療【伊東市の鍼灸…
興味深いことに、母指内転筋のトリガーポイントは手だけでなく足にも存在します。足の母指内転筋に炎症が起きると、痛みだけでなく足裏のアーチが減少したり、開帳足になったりすることがあるという点は、あまり知られていない事実です。
参考)足指の解剖学入門⑨ 「母指内転筋」ーひろのば体操でストレッチ…
母指内転筋痛の治療とセルフケア
母指内転筋の痛みに対する治療では、まず炎症を広げないために親指の動きを制限することが基本となります。テーピングやサポーターを使用して親指を固定し、並行して電気療法(干渉波・低周波)や手技療法を行うことで回復を早めることができます。痛みを感じた際は早期に治療を行うことで、元の状態に戻りやすくなります。
セルフケアとして効果的なのが母指内転筋のストレッチとマッサージです。マッサージ方法としては、親指と人差し指の間の水かき部分を反対側の手の親指と人差し指で挟むようにつかみ、指先や指の腹を使って交互に指圧します。つまむ位置を少しずつずらして、母指球筋と母指内転筋全体をマッサージすることがポイントです。
参考)No.4 親指の疲労解消マッサージ&ストレッチ|メジカルビュ…
ストレッチでは、親指全体を覆うように反対側の手でしっかりとつかみ、親指をゆっくりと外転(人差し指から離す方向)させます。そのまま肘をゆっくり伸ばして手関節を背屈させると、母指内転筋だけでなく母指球筋もストレッチされます。このとき、ストレッチさせる手の力を十分に抜き、母指球筋が伸長されるのを意識すると効果的です。母指内転筋はがしマッサージを10秒間行うだけでも、筋肉がほぐれて腕が後ろに回りやすくなるという報告もあります。
参考)腕が後ろに回らない?10秒で解決する「母指内転筋はがし」マッ…
つまみ動作を繰り返す方向けの、母指内転筋と母指球筋の具体的なセルフケア手順が解説されています。
母指内転筋の痛みは放置すると慢性化する可能性があるため、早期の対処が重要です。日常生活では、つまむ動作を長時間続けないよう休憩を入れる、適切な道具を使用して手への負担を減らす、定期的にストレッチを行うなどの予防策も効果的です。症状が改善しない場合や悪化する場合は、専門医の診察を受けることをお勧めします。